もちよこ 1話
5話完結のラブコメ小説です。オノショーワールドご覧あれ!
今日の私は機嫌がいい。
なぜなら放課後に部活動が待っているのだから。
終わりのチャイムと同時に教室を飛び出した。
目的地は調理室。
毎週火曜日に集まり、ああだこうだと言いながら1つの料理について研究をする。
それが私の入部した調理研究部だ。
調理室にはまだ誰もいない。
私が一番乗りのようだ。
冬休み明け最初の部活動ということもあり、私は料理台の周りでそわそわしていた。
そこへ、
「あけおめ。ことよろ!」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね、千代ちゃん」
2人の先輩が入ってきた。
腰まである明るい茶色の髪の毛をなびかせて。
小さな鼻と口が彼女の可愛らしさを引き立たせている。
ただ細い目が終始周りをにらんでいるように見えるせいで周りからは怖がられている明美先輩。
その隣には、短く揃えられた黒髪が歩くたびにふわりと舞う妖精さんのようでなおかつ大和撫子を想像させるような気品も持ち合わせる生徒会長の夢乃先輩。
「あ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
たった数週間会えなかっただけなのに、つい嬉しくなって思わずペコリ。
「ちょ、チヨ。そんなに礼儀正しくされると調子狂っちゃうって」
「千代ちゃん、頭上げて、ね」
「ああ、はい!久々に2人に会えて嬉しくなってそれで…」
それからは3人で冬休み中の出来事を話し合って盛り上がっていた。
そんなガールズトークが盛り上がっている最中に、
「掃除で遅れました。みなさん、あけましておめでとうございます」
堂々と笑顔でいつもの卓司がやってきた。
彼は部活唯一の男子部員だ。
誰にでも優しく、のほほんとしていて何を考えているか分からない男だ。
「おう、あけおめ」
「あけましておめでとう。卓司くん」
「おめー」
これで部員が全員揃った。
2年の女子2人と1年は男女共に1人ずつの4人。
「みんな、集まったことだし、今月作るものを決めるぞー」
部長の明美先輩の一声で全員は今月作りたいものをとりあえず出していった。
出てくる案の大体はお正月料理。
ただお雑煮は地域ごとによって数えきれないほどの種類がある。
なら、地元のお雑煮だけを作ればいいと思うけど、夢乃先輩がやるなら全国を網羅したいと主張するので却下。
おせち料理に関してはオーソドックスなものだけを作ろうとしても部費が足りず、1品に絞ろうとしたら全員作りたいものが分かれて収集がつかなくなり却下。
行き詰まってきた頃、
「なら、餅つきにしますか?」
卓司がポロッと言った。
餅はたしかに予算内には入る。
しかし、餅にもたくさんの料理が存在する。
白いお餅やピンク色のお餅にあんこを詰めて葉っぱで巻けば、柏餅や桜餅。
あんこで包めば、おはぎ。
これこそ、全部やると言い出したらキリがない。
「いいですね。町内会が先週餅つきをしていたので、頼めば道具はなんとかなりますし」
「楽しそうだな、餅つき。私はやったことないんだ」
意外にも先輩方は乗り気だ。
私も見たことはあるけど実際についたことはない。
卓司はたまに突拍子もないことを言うが、その言葉によって物事が上手くいくこともある。
不思議な男だ。
「じゃあ、ついた餅は何にして食べますか?」
「もちろん、磯辺餅だ」
「もちろん、きな粉です」
先輩たちはお互いに驚き、そのまま見つめ合っている。
なぜそんなに驚くのか、私には分からなかった。
「ユメノ、主食にきな粉をかけるとか何考えているの!」
「お餅はスイーツです。たとえ明美だとしてもここは譲れません」
「僕は食べれれば何でもいいですけどね」
「私は両方好きなので磯辺ときな粉の両方を用意するのはどうですか?」
「認めない。餅は主食だ。それ以外は邪道だ」
「私もです。お餅は甘い物と合うと思うの。海苔に醤油かけるなんてご飯の上でやればいいじゃない」
先輩方と一緒に活動してきてまだ1年も経っていないがこんなに怒っている2人を見たのは初めてだ。
私からすれば、餅は主食にもなるしデザートにもなる万能食材という扱いなんだけど。
そして話は二転三転し、今月はそれぞれが思う餅を作り、餅が主食かスイーツか白黒はっきりつけることとなった。
私としては、餅つきがなくなってちょっとがっかりしている。ただそんなことを言える状況ではない。
「じゃ、2週間後の部活で」
「ええ」
先輩方の笑顔が怖い。
こんなにギスギスした調理室は初めてだ。
それにひきかえ卓司は、
「それじゃあ、楽しみにしてますねー」
周りがどんな状況でも平常運転だ。
ホントに卓司は少しくらい場の雰囲気を察するセンサーを取り付けたほうがいいとは思うけど、これはこれで卓司のアイデンティティなのかなと思ってしまう私がいる。
読んでいただきありがとうございました。週一更新です。ではまた来週!