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少女がここへ来てから、まだ二度しか夜が訪れていない。時の流れが早いのか遅いのか、最早時が経過しているかさえも、彼には判らなかった。
ようやく、もう日が再び昇った。少し重くなった身体を起こし、庭へ向かい大きく伸びをした。
ぱたぱた、と足音を立てて少女が出てきたと思うと、素足のまま庭に降り立ち見様見真似で少年を再現した。まるで自分のことを親だと思いこんでいるようで、擽ったかった。
老婆は彼らよりも先に起きていたようだ。気付けば香ばしく軽い香りが庭まで届いていた。おはよう、と笑顔で挨拶する老婆は、焼きたてのそれを皿に盛り少年少女の前に置いた。
まるで孫が増えたみたいだ、と嬉しそうに呟いた。
老婆は自身の皿を起き、座って
お食べ、と微笑んだ。
彼はいただきます、とわざとはっきりと言い、食事を始めた。少女は発声はできずとも彼の真似を始めた。
見た目は彼より少し上に見えて、行動がいつも相手をしている子供たちより下な、物心すらついていないからか、行動を見せるには少し難しかった。
少女は焼き上げられたそれを手に取り、彼の真似をしてそれの角を口に入れた。さくり、と音を立てて噛み切り離し、ゆっくりと咀嚼する。本当に咀嚼できているかは定かではないが。
さく、さく、と繰り返される音に合わせて、徐々に少女の目が輝き始めた。かっと目を輝かせ、頬は綻び、さぞ幸せそうに食事をするのだった。
老婆もつられて頬を綻ばせた。