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緑が生い茂った林を抜けると、焦茶の古い造りの年季の入った家が現れた。この家に、この島の住人の中で最も長く生き多くの経験を積んだ者が住んでいる。
玄関らしき入り口に立ち、彼は声を少し張ってその者のあだ名を呼んだ。
家の中の、少し奥から老人の声が聞こえる。
彼はもう一度呼び、家に上がってもいいか尋ねた。
ほーい。
奥から微かに老人の楽しそうな声が聞こえた。
彼は少女と目を合わせ、手招きをして少女と家の中へ入った。
家の奥では、老人が茶を淹れていた。長老だ。
彼が挨拶をすると、長老は湯を沸かしながら久しぶりじゃあないか、元気にしておったかと嬉しそうに言い、手を止めた。
長老は彼の目を見て、今日の用事は、と優しく尋ね、彼に湯呑みを渡した。少し熱く、懐かしい香りがした。
長老は居間にいる少女を見て、おや、と溢した。
見ない顔だ、どこから来たんだと暗に訊ねているようだった。
彼は長老に少女が彼の元へ来たときの一部始終を説明した。腐食した箱の中にいたこと、言葉による意思疎通ができないこと、少女の情報は何一つないが、身体の所々が異形であること。
長老は茶を一口含み、ふむ、と真剣な面持ちで一息ついた。
少女が頭を動かすと微かに覗く緑色の少し垂れた耳を、長老はじっと見つめた。
そしてもう一息つくと、お前さんには少し辛い話かもしれんが、と彼の目を見て話を始めた。
もう半世紀ほど前の話ではあるが、長老が王都からこの島へ移住する直前に流れた噂があった。
前の王が王座に着いた頃の話である。それは戦争をするかもしれないといった内容だった。その頃には既に星石兵器が開発されていたが、王政はそれとは別の新しい兵器の開発を仄めかしていた。
その発表は最後までされなかった。星石を使用しない、別の新しい動力源を抱えた兵器だとか、生物兵器だとか、散々説かれていたがその中でも生物兵器の噂がやけに事細かで信憑性があった。
今はもう伝説のようなものだが、竜を使う等といった内容もあった。長老は竜を一度しか見たことがなかったが、もしそれが真実であるなら、完全に姿を消してしまった理由になり得ただろう。
長老がぽつりぽつりと話した一言一句である。
彼には理解ができなかった。この少女となんの関係があるのかと訊ねると、長老はまた一息ついて答えた。
長老が見た竜の耳と酷似している。