NiOさん(植物)
童話(震え声)
ぽかぽかぽか。
ここは春の雪野原。
雪と雪の合間に、少しずつ土の茶色が見えていますね。
よくよく近づいて見てみると……。
ぐぐぐっ。
ぴょこん!
あっ、NiOさん(植物)を見つけました!
ぐぐぐっ。
ぴょこん!
ぐぐぐっ。
ぴょこん!
野原はあっという間に辺り一面、NiOさん畑になっています。
NiOさんはニッケル科の一年草で、言葉を喋るのが特徴です。
『『『イチネンガ、ハジマルゾ~!』』』
生まれたばかりのNiOさん達は、嬉しそうに声を上げていますよ。
え?
いつも見ているNiOさんと違うよ、ですって?
それには理由があるんです。
この頃のNiOさんは、人間で言うと皆さんと同じくらい。
幼稚園生から小学生くらいなんです。
皆さんがNiOさんで思い浮かべる銀色の花をつけるのは、もう少し先なんですね。
『ガンバッテソダツゾ~!』
『マケルモンカ~!』
おやおや。
あちらこちらから、皆さんみたいに、元気で、頑張り屋さんな声が聞こえてきます。
この頃のNiOさんはまだ味が薄いのですが、茎がとても柔らかく、蒸した物をマヨネーズやバターで食べたりすると、ほくほく美味しいんですよ。
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かっかっかっ!
太陽の元気な季節になりました。
夏が来たのです。
ぐんぐん育ったNiOさんは、人間で言うと30から40歳台くらい。
皆さんのお父さんやお母さんくらいの、働き盛りを迎えています。
皆さんの良く知っている、金属の様な銀色の花を咲かせて虫達に声をかけています。
『ミツハココダヨ~!』
『ナイヒトアルヨ~!』
『アルヒトカウヨ~!』
NiOさん達の元気な声に、チョウやミツバチ達は大喜びです。
この時期のNiOさんは線維質で、天ぷらなんかにすると、ぽきぽきとした食感が楽しめるんですよ。
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ほふほふほふ。
太陽が遠い季節になりました。
秋の到来です。
お腹をぱんぱんに膨らませたNiOさんは、人間で言えば60から70歳台くらい。
だんだん円熟して、植物として完成に近づいていきます。
『コハルビヨリデスナア~』
『ココロガピョンピョンスルンジャア~』
今まで戦い続けてきたNiOさん達も、この季節になると楽しそうにお喋りをしています。
昔の歌人の皆さんも、この時期のNiOさんについてたくさんの句を詠んでいます。
徳銘奇坊が書いた『NiOさん集』と言う句集は、今も昔も変わらないNiOさんの姿にクスリとさせられます。
この時期のNiOさんはビタミンやミネラルが満点です。
お浸しやお吸い物にして、煮汁まで飲み干すと、強くて元気な子になれますよ。
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つうつうつう。
季節は冬です。
1年草であるNiOさんは、寿命を迎えようとしています。
「ジンセイイチネン~……」
「ゲテンノウチヲクラフレバ~……」
残っているNiOさんは、90歳以上のお爺さん、お婆さんです。
ぱちんっ!
あっ!
NiOさんのお腹が弾けました!
1つが弾けたのを合図にするかのように。
NiOさんが片っ端から弾けていきます。
弾けたNiOさんは、周囲に種をばらまいて、その一生を終えるのです。
雪が降る前に弾ける必要のあるNiOさんは、気温が0度を下回ると弾ける、と言われています。
植物なのに、賢いですね。
寒い地方では弾けた後の茎を取ってきてNiOさん茶を作ったりするそうです。
また、この時弾けた種を使って、高級なNiOさん油が出来るんですよ。
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ぽかぽかぽか。
春になる頃には、あんなにたくさんいたNiOさん達は、1輪も残っていません。
NiOさんは、死んでしまったのでしょうか?
ぐぐぐっ。
ぴょこん!
いえいえ、まさか!
今年もまた、元気に生えてきたNiOさん達は、声を揃えて言いました。
『『イチネンガ、ハジマルゾ~!』』
NiOさん。(ゲシュタルト崩壊)