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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編

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9.初挑戦

 新たな使役獣の”シルヴァ”を手に入れた俺は、彼と一緒に倒したマッドボアを即席のソリに乗せて町へ持ち帰った。


 肉屋にそれを持ち込むと、肉と毛皮を銀貨20枚で買い取ってくれた。

 さらに討伐証明の牙と魔石をギルドに提出すると、銀貨5枚になった。

 俺は独り占めできるからそれなりの稼ぎだが、噂に聞いていたほどでもない。

 小さめの個体だったからかもしれないが、ボア狩りは今回でやめにしておこう。


 ちなみに町に入る際、使役獣には目印を付けるよう衛兵からアドバイスされた。

 そりゃあ、狼の魔物が何も付けずに町を歩いてたら怖がられるわな。

 町中で捕まっても困るので、何か買おうと魔物屋へ行った。


「おっちゃん、この使役獣に目印付けたいんだけど、何かない?」

「ほう、変わった狼だな。この首輪なんかどうだ? サービスで持ち主名を刻んでやるよ」


 そう言って魔物屋は、黒革の首輪を出してきた。

 特に問題なかったのでそれを銀貨2枚で買い、その場でシルヴァに付けて宿へ戻る。


 せっかくなので、シルヴァを部屋に連れ込めないかと、宿に交渉してみた。

 ちゃんと身ぎれいにして、使役できるところを見せたら、許可が出た。

 もっとも、追加で銀貨1枚取られたけどね。


 それから夕飯を済ませて部屋へ戻り、キョロに魔力を注入してやった。

 すると、気持ち良さそうに魔力を受け入れるキョロを、シルヴァが羨ましそうに見ていた。


「シルヴァもやって欲しいのか? チャッピー、シルヴァにも魔力って必要なのかな?」

「そいつは魔力不足でまだ成長しきれておらんようじゃから、役に立つのではないか?」

「へー、エサだけじゃ足りないんだ?」

「うむ、シルヴァのように魔法を使う個体は、特に魔力が必要なんじゃ。おそらく充分な魔力を与えてやれば、もっと強くなるぞ」

「そうなんだ。よし、それじゃあシルヴァにも分けてやるぞ」


 それを聞いたシルヴァが、大喜びですり寄ってきた。

 クウーンクウーンと鳴きながら、魔力をねだる。

 そんな彼の胸辺りに手を当てて魔力を注入すると、嬉しそうに目を細めて尻尾を振り始めた。

 キョロとはまた違ったかわいさがあって、これまた癒される。





 翌日からはみんなで魔物を狩って、パーティの連携向上を図った。

 もっと戦力を高めて、早く迷宮に挑むためだ。


 実際、シルヴァの加入は想像以上の戦力アップになっていた。

 彼はゴブリンなら単体で倒せるくらい強いし、風魔法まで使えるのだ。

 その魔法とは風の塊を飛ばすもので、現時点で大した威力はない。

 しかし、少なくとも離れた敵の牽制には使えるので、もっと成長させればさらに役立つだろう。


 狩る対象もゴブリンばかりでは物足りないので、ダイアーウルフに挑戦した。

 同族殺しはシルヴァが嫌がるかとも思ったのだが、すでにダイアーウルフは同族ではないらしい。

 それで依頼を受けたのだが、この仕事でシルヴァの索敵能力の凄さが明らかになった。


 森の奥深くにいるダイアーウルフを見つけるのは相当に厄介なのだが、シルヴァはそれをいとも簡単に見つけてしまう。

 しかも群れの規模まで分かるので、大きな群れは避けることができる。

 おかげで比較的安全に、討伐数を稼ぐことができた。




 こうして1週間ほど、町の外でお金と実績ポイントを稼いだおかげで、ようやく冒険者ランクがEに上がった。

 冒険者ギルドに依頼完了を報告すると内容に応じたポイントがもらえ、その累計値でランクが判断される仕組みだ。

 ちなみにランクの目安はDで1人前、Bが1流、Sは人外って感じ。


 俺も徐々に1人前に近付いてるわけだが、油断していたらいつ死んでもおかしくない。

 冒険者ってのはそんな職業だ。


 しかしコツを掴めばそれなりの収入も得られるわけで、このまま地味にやっていても生活には困らない。

 だが俺は迷宮に入ってもっと強くなるのが目的だから、迷宮の情報を集めてみた。

 とりあえず分かったのは、こんなところだ。


・ガルド迷宮の入り口は東門のすぐ外に位置し、国が管理している

・入場するには1人当たり銀貨1枚を払う

・地下に広がる複数の階層で構成され、現在の最深到達点は4層の序盤

・迷宮内は大小の部屋が通路でつながっていて、行き止まりもある

・各層で下に降りる階段の前には守護者部屋が存在し、守護者を倒すことで下層へ降りる資格を得る

・階段を降りた所に転移水晶が存在し、1層の入り口へ戻ることができる

・資格を得ていれば、1層入り口の水晶から各層の入り口まで転移可能

・1層には緑小鬼ゴブリン犬頭鬼コボルド粘解蟲スライム影狼シャドーウルフが出現し、守護者は大影狼ビッグシャドーとシャドーウルフ4匹

・2層には1層で出る魔物の他に緑頭鬼ホブゴブリン大豚鬼オーク麻痺蝙蝠パラライズバットが出現

・1層は探索され尽くしているが、2層以降は未探索部分も残っている

・迷宮内は天井がうっすらと光を放っており、灯りが無くても行動可能

・迷宮での収入源は魔物から取れる魔石や素材で、まれに鉱石や宝石が見つかり、迷宮内で拾った遺留品も自分の物になる



 おそらく俺達でも1層ぐらいなら探索は可能だと思う。

 しかし手に負えない数が出てくるかもしれないし、逃げ道も限られるので、当面は臆病なほど慎重に立ち回るつもりだ。


 まずは迷宮に潜るための準備をした。

 水は魔法で出せるので、2日分の食料と野営道具を揃える。


 それからシルヴァにも荷物を持ってもらうため、彼用のカバンを準備した。

 身体の左右に振り分ける形のサイドバッグで、身体の動きを阻害しない程度の大きさにしてある。

 背中に荷物も積めるようになってるので輸送能力は倍増だが、なんだかんだで銀貨20枚も取られてしまった。


 それから1層の地図も購入した。

 すでに探索され尽くしているので、銀貨5枚と比較的安い。

 ここまで準備を整えた俺は、早めに眠りに就いたのだった。





 翌朝、朝食を取ってから迷宮の入り口へ赴くと、早朝から賑わっていた。

 仲間を待つパーティや物売りに混じって、案内人や野良冒険者の姿が見える。

 案内人は迷宮の中を案内する職業であり、野良冒険者は一緒に潜ってくれるパーティを探している奴らだ。

 とりあえず地図があるから案内人は要らないし、野良冒険者は稼げそうなパーティを探してるので俺には関係ない。


 俺はキョロを左肩に乗せ、シルヴァを連れて入り口の列に並んだ。

 当然、チャッピーも近くにいるが、周りからは見えない。

 入り口には衛兵が立って入場料の徴収とギルドカードの確認をしており、すぐに俺の番が来た。


「入場料は1人100ゴルだ。ひょっとして1人で潜るのか?」


 銀貨1枚とギルドカードを渡しながら答える。


「ええ、使役獣が2匹いますから」

「2匹と言っても、片方はただのペットにしか見えんぞ……まあ、お前の自由だ。あまり無理はするなよ」

「ええ、慎重にやりますよ」


 俺はカードを受け取ると、迷宮への第1歩を踏み出した。

 さあ、迷宮探索だ。


 まず石造りの階段を降りると広い部屋に出た。

 周囲はむき出しの岩肌だが、聞いたとおり天井が光って薄明るいので、行動に困ることはなさそうだ。

 部屋の中央には腰の高さほどの石台があり、台上に水晶が埋まっている。

 これが噂の転移水晶だろうが、今は関係ないので素通りし、奥の通路へ進んだ。


 通路をしばらく進むと道が左右に分かれたので、地図を確認して左へ進む。

 右側の通路は下層への階段に通じる道で、人通りが多くてよく踏みならされている。

 そのため大通りと呼ばれているが、今回はあえて人気のない方を選んでみた。


 しばらく進むと、シルヴァが俺を見上げた。

 何か魔物が索敵に引っかかったのだろう。


 俺は弓に矢をつがえ、いつでも撃てるようにしながら進んだ。

 すると、先の部屋の中にゴブリンらしき影が3体見えてきた。

 すかさず弓を引き絞り、風弓射ウインドショットを放って1匹を倒す。


 その攻撃に気付いた残りの2匹がこちらへ向かってくる。

 その1匹をシルヴァが駆け寄って押し倒し、俺も背負いカバンを地面に落とし、もう1匹と向かい合った。

 ゴブリンが間近に迫った瞬間、左手に乗せているキョロに電撃の指示を出す。


「キュピーッ!」


 バチッという電撃で動きが止まったゴブリンの心臓に短剣を突き立てると、あっけなく息絶えた。

 シルヴァの方もすぐに静かになる。


「ふう、迷宮のゴブリンも、外の奴と変わらないみたいだね」

「うむ、特に変わった様子もないから、問題なくやれるじゃろう」

「キュー」

「ウォン」


 俺はゴブリンの魔石を心臓の近くからほじくり出し、腰に付けた革袋に入れる。

 シルヴァも自分が倒したゴブリンから、魔石を取ってきてくれた。


 カバンを背負い直して再び歩き出すと、しばらくは何事もなく小部屋を幾つか通過した。

 やがてシルヴァが顔を上げ、また何かの発見を告げる。

 再び弓を構えながら進むと、部屋の入り口が見えてきた。


 その入口からそっと覗いてみると、大きめの部屋の中に5匹の粘解蟲スライムがいた。

 そいつらは時々青い光を放ち、プルプルと蠢いている。


「スライムか。ちょっと数が多いな」


 どうしようかと迷って横のシルヴァを見たら、彼の目はすでにスライムに釘付けだった。

 次の瞬間、止める間もなくスライムに向かって飛び出してしまう。

 彼は手近なスライムに飛びつき、前足で押さえつけた。


「ウォンッ!」


 吠えながらスライムに噛みついたと思ったら、あっという間に核を食いちぎった。

 核を取られたスライムがグズグズと崩れていく上で、シルヴァがうまそうに核を噛み砕いている。


 ちょっと待て。

 俺は昔、スライムにひどく手間取った覚えがあるんだけど、迷宮のスライムって弱いんだろうか?


「ほほう、シルヴァは手慣れておるのう。おそらく咆えながら風魔法を当て、噛みつきにも魔力を込めとるんじゃろう。物理攻撃に強いスライムも、魔法を使うと案外もろいもんじゃ」

「そういうことか……それなら、俺たちはシルヴァが孤立しないようにサポートしよう」


 俺はカバンを降ろし、キョロを左手に乗せて、右手には短剣を持った。

 シルヴァの側面に迫るスライムに近寄り、キョロに電撃を撃たせる。


 やはり魔法には弱いらしく、電撃でスライムの動きが止まった。

 ここで俺はちょっと思い付いたことがあり、短剣を鞘に収めてから右拳に魔力を集めた。

 そして目の前のスライムの核に向け、右拳を振り下ろす。


 ボコンッという音を立ててスライムに拳がめり込み、いとも簡単に核が破壊できた。

 なるほど、魔力に弱いってのは本当だ。


 そんなことをしているうちに、残りのスライムは全てシルヴァに駆逐され、静かになった部屋にボリボリと核を噛み砕く音が響いていた。


「なあ、チャッピー。シルヴァは今までもああやって、魔力不足を補ってきたんじゃないのかな?」

「妙に手慣れておるのを見ると、その可能性は高いのう。野生のスライムハンターといったところか」

「それなら、これからはスライムはシルヴァにお任せでいいな」


 スライムの魔石を回収してから部屋の中を調べると、壁際に何かが散乱していた。

 近寄ってみると、それは小剣や盾、短剣などだった。


 どうやらここまで来て、スライムのエサになった冒険者がいたらしい。

 おそらく魔力による攻撃手段を持たず、力尽きたのだろう。

 遺体はスライムに食いつくされて、欠片も残っていない。


 順調に探索をしてきたのに、冒険者の末路を見せられたようで、一気に暗い気分になった。

 しかしこれもまた、冒険者の一面として受け入れるしかないか。

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