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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第7層編

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閑話2.我らがデイルさん

 デイルたち1軍が7層攻略に取り組んでいる間に、2軍がとうとう3層を突破した。

 盛大に3層突破を祝った翌日は、2軍の休息日だ。

 1軍は今日も7層に潜ったので、デイルたちはいない。

 ちなみにレストランは休みだったので、商売組もここに集まっていた。



「今頃、デイルさんたちは7層で戦ってるんだろうな」

「ああ、中盤でミノタウロスを相手にしてるって話だな」


 飲み物を片手に、狐人のシュウとケンツが喋っている。

 そこに狼人のアレスも加わってきた。


「ミノタウロスってメチャクチャ強いんだろ? よくやるよな、あの人たちも」

「そりゃあ、この町最強の冒険者だからな」

「それにしたって飛び抜け過ぎだと思わないか? 他のパーティは4層が精々だってえのに」


 そんな話をしてたら、ダークエルフのチェインが絡んできた。


「なんだい、デイルさんがどうしたって?」

「ああ、チェインさん。デイルさんたちは飛び抜けてるなって話をしてたんですよ」


 ケンツがそう答えると、さらにヒルダまで混じってきた。


「そりゃそうさ。あの人たちに鍛えられた俺たちでさえ、4層探索者になれちまうんだから」

「まあ、そうですね。数ヶ月前まで全くの素人だった俺たちが、1流冒険者になってるんだから。ほんと、とんでもない話です」

「そうだね。いろんな意味で規格外だ。昔からあんなだったのかい? デイルさんは」


 デイルの後輩だったケンツに、チェインが話を振る。


「うーん、そうですね。昔から兄貴は正義感が強くて、それでいて抜け目がなかったかなあ」

「どんな風に抜け目がないのさ?」

「あの人、6歳ぐらいの頃から外で稼いでたんですよ。町中駆けずり回って、露店を出してる人たちの手伝いをしたりして」

「6歳から? ずいぶんませてたんだねえ」

「そりゃあもう。俺たちが鼻水垂らしてる時期に、もう立派に大人と交渉してましたから。おまけに10歳で使役スキルを覚えてからは、失せ物探しとか、ネズミ退治なんかも請け負ってました」

「その稼ぎはなんに使ってたんだい?」

「全部、孤児院の食費ですよ。もちろん俺たちも手伝ってたんだけど、兄貴がいた頃はわりといいもん食えたんすよ。な、レーネ」


 ケンツが孤児院仲間のレーネに話を振る。

 いつの間にか仲間が集まって、ケンツの話を聞いていたからだ。


「そうね。兄さんがいなくなって食事の質や量が落ちたもんだから、小さい子が悲しんでたわ。周囲のいじめっ子にも、ちょっかい出されるようになったし」

「デイルさんはガキ大将だったのかい?」

「そういうんじゃないんですよ。兄貴は弱い者いじめが大嫌いだから、そういう話を聞くと仕返しに行くんです。使役スキルを覚えてからは、けっこうエグイこともやってましたよ。犬や猫をけしかけるとか」

「ハハハッ、デイルさんらしいねえ」


 チェインが呆れ半分で呟くと、その場が笑いに包まれた。


 やがてシュウも思い出を語り始めた。


「俺も初めて会った時は驚いたよ。”妖精の盾”のリーダーがいきなり来て、俺たちを雇ってやるから忠誠を誓えとか言うんだ。話が美味すぎていろいろと勘繰ったね」

「そうね、そのまま奴隷にでもされるかと思ったけど、結局はレミリア姉さんを信用することにしたのよね。だって姉さん、凄く綺麗になって幸せそうだったから」

「そりゃあ、ガルドで最も美しい女冒険者だからね」


 セシルの言葉にチェインが相槌を打つと、セシルは首を振った。


「それだけじゃないんです。姉さんが親に先立たれて奴隷落ちする前って、私より小さかったんですよ。それこそ今のミントぐらいしかなくて」

「え、だってレミリアさんはデイルさんと同い年だろ? そんなに小さいはずないじゃないか」

「なんでも、魔力不足で成長が遅れてたらしいんです。それをデイルさんが拾って、ちゃんとした食事と魔力を分けてくれたんだって。それで2週間くらいで一気に成長したって聞いてます」

「ふう~ん、そんなことがあったのかい。たしかにデイルさんの魔力注入は特別だからねえ。あたしはゾクゾクしちゃうんだ、あれをやられると」


 そう言いながらチェインが自分の体を抱き締めるのを見て、周りが苦笑した。

 チェインがデイルに惚れているのは周知の事実だが、いまだに彼女の想いは叶っていないからだ。


「そういえば、俺も最初に会った時は成長が遅れてるから、このままじゃ伸びないって言われてムカついたんすよね。けど後で、それを治すために買い取ったと聞いた時は、穴があったら入りたい気分だったすよ」


 狼人のアレスが初対面の思い出を語ると、獅子人のジードと鬼人のアイラも同調する。


「それは俺も一緒だった。いかに値切るためとはいえ、目の前で貶されたからな。それが後で魔力不足を解消して、冒険者にしてやると言われた日には、絶対に頭おかしいと思ったよ」

「そうそう、おまけに強くなったら奴隷狩りをやめさせるのを手伝えとか、夢みたいな話までするし。でもデイル様なら本当にやっちゃいそうだね」


 それを聞いていた獅子人のダリルが、年長組に食って掛かる。


「デイル様ならやれるに決まってんだ! そして俺も奴隷狩りをボッコボコにしてやるんだ」

「「そうだそうだ!」」


 虎人のザムドとナムドもすかさず同調した。

 デイルに拾われた時に衰弱がひどかった彼らは、そこから救ってくれたデイルへの忠誠心が特に厚い。

 それはもう信仰に近いほどで、デイルの夢を叶えるためには命さえ懸けるつもりでいた。

 そのため、彼らは年長組に劣らない強さを手に入れつつある。


「でもあの人、本当に奴隷狩りをどうこうできるとか思ってんのかな? 俺もそれを聞かされた時は、頭おかしいと思ったよ」


 皮肉屋のシュウが、改めてデイルの目標に疑問を投げかけると、ヒルダも同意した。


「たしかにね。魔大陸での奴隷狩りは、アッカド帝国が積極的にやってるんだろ? 末端は民間人だとしても、最終的には国を相手にするかもしれない。この国に残る俺たちに偉そうなことは言えないけど、ちょっと心配になるね」


 同様にこの国に残る予定のキャラ、カレン、メイサも頷いている。


 そんな、湿っぽくなりそうな雰囲気を笑い飛ばしたのは、チェインだった。


「アハハッ、今からそんなこと考えてどうするのさ? デイルさんだって、難しいのは承知してるよ。そのうえで手駒を集めて、自身も強くなろうとしてるんだ。すでに7層でオーガやミノタウロスを狩ってるんだから、どこまで強くなるか分かりゃしない」


 すると、この中では最もデイルを良く知るケンツが語り始めた。


「そうそう、兄貴ってつい2年前まで、ゴブリンにも手こずってたんだぜ。それが今やミノタウロスだ。兄貴は交渉事も上手いから、なんとかしちゃうと思うよ」

「そうだね、レミリアさんやカインさん、サンドラさんやリュートさん、リューナさんも凄く強いし」

「キョロとシルヴァなんて上位精霊クラスだし、バルカンは火精霊サラマンダーの化身なんでしょ? おまけに私みたいな素人を精霊術師にできるんだから、底が知れないよね」


 デイルに会ってから精霊術師となったレーネとセシルも同調する。

 さらには、黙って聞いていたケレスが、とんでもないことを言い出した。


「それだけじゃないよ、みんな。ご主人の恐ろしいところは、常に魅了魔法を使ってるような体質にあるんだ。それは常に味方は多く、敵は少なくなるってこと。あたいは案外早く、魔大陸から奴隷狩りが無くなるんじゃないかと思ってる」


 それを聞いたシュウが呟く。


「なんだよ、それ。道理でよくモテるはずだ。おまけに最強の冒険者だなんてずるいよ」

「でもそれはデイルさんが努力した結果だろ? しかも見返りを求めずに人助けもしてるんだから、好かれるのも当たり前だよ」

「それは、たしかにそうだけど……」


 デイルに嫉妬するシュウをチェインがたしなめると、シュウも渋々それを認める。

 さらにチェインが言った。


「でもさ、どんなにデイルさんが凄かろうが、1人だけで目的を達成することはできないんだよ。それを補佐するためにあたしらは雇われてるんだし、あの人の夢はあたしらにも利益をもたらす。みんなが奴隷狩りに脅えなくてもすむ世界なんて、素晴らしいじゃないか。そのためにはデイルさんを精一杯サポートしてさ、故郷の同胞も巻き込んじまうのさ。できるできないの話じゃない。やるんだよ」


 チェインがそこまで言い切ると、全員が彼女を見つめていた。


「なんだい、そんなに見つめられると照れくさいね」

「いえ、チェインさんの言うとおりです。兄貴に頼るだけじゃなくて、俺たちが支えればそれだけ助かるはずですよね。シュウ、できないできないって言ってるだけじゃだめなんだ。俺たちも全力を尽くそう。まずはもっと強くなろうぜ」

「なんだよ、俺が悪いのかよ……だけど、俺たちの故郷を奴隷狩りから守るってのはありだ。ここはひとつ、我らがデイルさんの企みに乗ってやるか」

「そうそう、我らがデイルさんに乾杯だ」


 こうしてデイルの知らないところで、彼の部下が団結を強めていた。


 これより少し先、デイルが迷宮を完全攻略し、彼らが想像以上にしごかれることになるのはまた別の話。

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