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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第7層編

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83.伯爵との交渉

 俺たちは7層守護者に挑んだはずが、管理者のきまぐれで8層のドラゴンと戦わされた。

 絶対強者を相手に絶望的な戦いを繰り広げた俺たちは、1度はリューナを失うまでに追い込まれた。

 しかしバルカンとドラゴの進化によって盛り返し、なんとかドラゴンを倒すことができた。

 さらにリューナは蘇生するし、マジックアイテムを3つももらうなど、結果的には悪くない形に収まった。


 全員に9層侵入資格を取らせてから地上へ戻ると、またまた大騒ぎになった。

 ほんの7ヶ月前までは4層が最深到達階層だったのに、7層を攻略してきました、なんて言えば驚くだろう。

 ましてや戦った相手がドラゴンだったとくれば、正気を疑われても仕方ない。


 すぐに詰所に連れていかれ、いろいろと聞かれた。

 衛兵は当初、明らかに俺の話を疑っていたが、ギルドカードとドラゴンの鱗を見せたら黙っちまった。

 カードにはしっかりと9層侵入資格が刻まれてるし、ドラゴンの鱗なんておいそれと手に入らないからな。


 その後、7層の状況を大雑把に説明すると、渋々ながら俺たちを解放してくれた。

 7層が最後って話は最後まで疑っていたようだが、そう思うなら自分で確認してみればいい。

 俺たち以外にあそこへたどり着ける奴がいれば、の話だが。



 その後すぐにギルドへ赴き、アリスさんに話をした。


「アリスさん、ちょっといいですか?」

「あら、デイル君、久しぶりね。攻略は順調?」

「ええ、おかげさまで。さっき最下層を攻略してきたとこです」

「そう、大変ね……って、今、なんて言ったの?」

「7層を探索し尽くして守護者を倒したら、そこが最下層でした。つまり完全攻略ですね」


 周りに聞こえないように小声で言うと、アリスさんが凍りついた。

 彼女が復帰するのをしばらく待っていたら、やがて大きな声が響き渡る。


「か、完全攻略ぅーーーー?」


 せっかく小声で話してたのに、台無しだ。

 すぐに周囲が騒ぎ始めた。


 埒が明かないので、アワアワ言ってるアリスさんを揺さぶり、コルドバを呼んでもらうようお願いした。

 ようやく気を取り直した彼女が動き、俺たちはいつもの会議室で待っていた。

 しばらくすると、口論しながら2人が入ってきた。


「デイル。アリスが訳の分からんことを口走っているのだが、どうしたのだ? 完全だとか、最下層だとか、一体なんのことだ?」

「聞いたとおりですよ。俺たちは7層を探索し尽くし、守護者を倒してきました。8層はまだ造営中なので、現状では完全攻略になります」

「なんだと? 冗談は休み休み……いや、お前たちはすでに7層に潜っているし、嘘をつく必要もないのか。それならギルドカードを見せてくれ」


 カードを見せると、内容を見たコルドバが固まる。

 自分の目が信じられないといった感じで、何回も目をこすっている。


「デイル、儂の目がおかしいのかな? 9層へ侵入可と書いてあるんだが」

「それで合ってますよ。実は7層の守護者へ挑んだら、管理者が介入してきて8層の守護者と戦わされたんです。それを倒したから9層です」

「……しかし、8層は造営中なのだろう?」

「俺たちのために、無理矢理用意してくれたそうですよ。素材を剥ぎ取る前に消えちゃいましたけど」

「相手はなんだったんだ?」

「ドラゴンでした」

「……」


 あまりに衝撃的だったせいか、彼が口をパクパクさせている。

 しばらく待っていると、ようやく言葉が出てきた。


「ドラゴンって、亜竜のことか? ワイバーンみたいな」

「いや、少なくともワイバーンよりは上の奴ですよ。4本足で翼があるやつ。口から火を吐いてたから、ファイヤードラゴンっていうんですかね? あ、これは持ち帰った鱗です」


 上位のドラゴンなんてめったに現れないので、鱗を見せてもほとんどの人には分からないだろう。

 しかし頑丈な4肢と翼を持ち、ブレスを吐くようなのが亜竜であるはずがない。


「お前ら、10人で挑んだんだよな?」

「ええ、使役獣も含めて10人ですね」

「なんで生きてるんだ? たしか100年くらい前に、丸ごと滅ぼされた都市があったよな」

「まあ、サイクロプスとか倒してるうちに、強くなったんですかね。ご存じのように、いろいろ隠し玉もありますし」


 コルドバは俺たちと狼牙団との決闘を見ているので、少しは秘密を知っている。

 さらに見たこともない鱗を前にして、ようやく信じる気になったようだ。

 そのままソファーに沈み込み、ゆっくりと息を吐き出した。


「フーーーーーーッ…………そうか、ガルド迷宮がとうとう攻略されたのか……しかしお前らが突出し過ぎていて、実感が湧かんな」

「そうかもしれませんね。従来の武術や魔法体系にこだわっている限りは、4層辺りが限界でしょう」

「お前たちはそれを乗り越えたということか……これから一体、どうするんだ? できれば後継の育成に力を貸して欲しいのだが」

「申し訳ありませんが、じきに魔大陸へ渡るつもりです。やりたいことがあるので」

「何をするんだ?」

「それは内緒です」

「……ふむ、それは残念だ。しかし、伯爵への報告には付き合ってもらうぞ。明後日でどうだ?」

「けっこうですよ。仲間を1人、連れていっていいですかね?」

「たぶんいいだろう。それも含めて後で連絡する。まあ、なんだ……よくやったな」


 コルドバが右手を差し出してきたので、握手をしてその場は別れた。



 ようやく自宅に帰り着くと、新人も含めて総出でお出迎えしてくれた。

 もちろんそのまま宴会に突入だ。

 レストラン”妖精の盾”に繰り出して、夜中まで飲み明かした。

 無事に帰ってこれて、本当によかった。





 それから2日後の昼前、俺はコルドバと一緒に伯爵を訪問した。

 同行者としてヒルダを連れている。


 いつもの食堂に案内されると、伯爵と夫人が待っていた。

 夫人はにこやかに迎えてくれたが、伯爵はあまり浮かない顔だ。


「おお、ガルドの英雄よ。とうとうやってのけたそうだな」

「ありがとうございます、伯爵。おかげさまで完全攻略が成りました」

「うむ、すばらしい働きだ。ところで、そちらのお嬢さんは?」

「彼女はヒルダと言いまして、今後、”妖精の盾”を任せる人物です」

「は、初めまして、ガルド伯爵閣下。ひ、ヒルダと申します」

「うっ……そ、そうか。まあ、その話は後にして、まずは7層の話を聞かせてくれい」


 それから昼食をご馳走になりながら、7層の話をした。

 オーガ、ミノタウロス、サイクロプスをいかに倒し、守護者に挑んだらどうなったか、そしてどうやってドラゴンを倒したかを、話せる範囲で喋り続けた。

 最後に俺のギルドカードと、ドラゴンの鱗を伯爵の前に置く。


「ふむ、たしかに9層と書いてあるな。そしてこれがドラゴンの鱗か。よく分からんが、非常に硬そうだ」

「ええ、本当なら他の素材も取れたのに、8層が造営中だからって、すぐに消されちゃったんですよ。ひどい話でしょ?」

「オホホホホッ、だけどそのおかげで、全員生きて帰れたのでしょう?」


 今回は特別ルールでリューナが蘇生したことも話していたので、それを夫人に指摘された。


「まあ、それもそうなんですけどね。でもリューナが死んだ時はそれを知らなくて、メチャクチャ落ち込んだんです」

「フハハッ、それでもドラゴンを倒してのける辺り、ちゃっかりしておるではないか」


 伯爵の言い方がおかしくて、みんなが笑いだした。

 そうしてひとしきり笑うと、ふっと伯爵がまじめな顔に戻った。


「それで、デイル。この町を出るというのは本当か?」

「はい、魔大陸でやりたいことがあるんです」

「考え直してはもらえぬか? 1パーティでサイクロプス、いやドラゴンを倒すほどの人間がいれば、この国も非常に心強い。この町の冒険者もそれを望むだろう」

「申し訳ありませんが、以前から決めていたことなんです。この町の冒険者支援は、ここにいるヒルダに引き継ぎます」

「いや、しかしデイルとは比べ物にならんだろう?」

「彼女はすでに、レベル7の4層探索者ですよ」


 2軍は少し前に3層を突破し、すでに4層探索に取りかかっていた。


「なるほど、たしかにお前たちを除けば、トップレベルの冒険者だな。しかしデイル、なぜ魔大陸なのだ? この国にも他の迷宮はあるし、今後はSランク冒険者として悠々自適の生活を送れるのだぞ」

「Sランクですか。たしかに悠々自適でしょうね。だけど俺が迷宮に挑んだのは、まず強くなるため。そして次の目標に進むための、資金稼ぎだったんです。仮にガルド迷宮に8層があったとしても、そろそろ次に進もうかと考えていました」

「だからその目標はなんだというのだ。この国でもやれることが――」


 なおも言い募ろうとする伯爵を、夫人が手で制した。

 そして伯爵の手を握りながら言い諭す。


「あなた。今まで弱者を助けてきたデイルさんが、魔大陸でやることがあると言うのです。それが私利私欲であるはずがありません。行かせてあげられませんか?」

「むうっ……しかし、これほどの逸材を国外に出すというのは、政治的にも問題が多いのだ」


 伯爵が苦々しい表情で言葉を絞り出す。

 たしかにドラゴンを倒すような人材の流出を見逃せば、伯爵が責められるかもしれない。

 しかしそれは、俺が夢を諦める理由にはならない。

 そこで俺は、あらかじめ考えてあった交換条件を提示した。


「やはり伯爵にも立場がありますよね。それでは、こうしてはどうでしょう? 数年前に破棄された植民地を再建するための調査を、私が請け負う、というのは」

「なんだと? カガチをお前が再建すると言うのか?」

「私が再建するのではありません。周辺の状況を調査して、再建の方策を提案する、ということです」


 現状、魔大陸では、隣国のアッカド帝国しか植民地を持っていない。

 他の数ヶ国も過去に植民地を築いていたのだが、魔大陸は魔物の強さと密度が半端じゃないため、その圧力に負けて破棄されたのだ。


「馬鹿な。我が国の精鋭軍が逃げ帰ってきたのだぞ。そんな提案を受けるわけが……いや、ドラゴンスレイヤーがやると言えば、国も考えるのか?」


 伯爵が先ほどとは打って変わって、考えるそぶりになった。

 しばらくブツブツ言っていたかと思ったら、真剣な顔でこちらに向き直った。


「もし、国がその申し出を受けるとしたら、お前は何を望む?」

「そうですね、魔大陸への移動手段の提供、旧植民地設備の使用許可、それと定期的な補給といくばくかの報酬ってとこでしょうか」

「ふむ、それぐらいなら可能だろう。しかしお前がそれを言い出した理由を、なんと説明する?」

「仲間の里帰りのついでに金儲けをしたいのと、あとは足の確保ですね」

「フハハハッ、なるほど。お前にとってはその程度のことか」

「そうです。かわいいもんでしょ?」

「そうだな、そういうことにしておくか。この件については王宮に問い合わせるので、少し時間をくれ」

「わかりました。2ヶ月くらいで動けるといいですね」

「約束はできんが努力する」


 こうして伯爵との会談は終わった。

 おとなしく魔大陸に行かせてもらえると、嬉しいんだがな。

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新作始めました。

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