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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第7層編

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79.探索完了

 ギルマスからサイクロプス討伐のヒントをもらったので、さっそく野外で練習してみた。


「よーし、それじゃあ、リューナはあっちの岩に水塊をぶつけてくれ。そしてレミリアはそれを凍らせる練習な」

「はいです、兄様」

「はい、ご主人様」


 まずリューナが竜人魔法で巨大な水塊を作り出し、それを近くの大岩にぶつけた。

 そしてびしょ濡れになった岩にレミリアが歩み寄り、水の双剣を押し当てた。

 水魔法で凍らせる狙いだったのだが、ちょっと霜が付いたぐらいでほとんど変化はない。


「申し訳ありません、ご主人様。私にはこれが精一杯です」

「まあ、初めてだから仕方ないよ。でも思ったよりも上手くいかないなぁ」


 レミリアには6層で手に入れた水の双剣を与え、すでに水精霊ウンディーネとの契約も済ませてある。

 なので氷ぐらいは簡単に作れると思ったのだが、想像以上に上手くいかなかった。

 どうやら獣人というのはあまり魔法に向いていない種族らしく、小さな氷ぐらいしか作れなかったのだ。


 それなら先にリューナに水を出してもらい、それを凍らせればいいと考えたのだが、それでもこの状況だ。

 俺の役に立てないと知ったレミリアが、ひどく申し訳なさそうに落ち込んでいる。


「うーん、それなら俺がウンディーネと契約して、水魔法を使った方がいいのかな。どう思う? リューナ」


 そう言うと、リューナが周りの精霊と相談をしていた。


「残念ながら兄様は火精霊サラマンダーとの結び付きが強すぎて、他との契約は難しいみたいなのです。だけど兄様なら、他の契約者に力を貸すことも可能みたいですよ」

「俺が力を貸すって、どうするんだ?」

「んー…………レミリア姉様の魔剣に手を添えて、魔力を流しながら魔法の使い方を教えてあげるといいみたいです」

「ふーん、とりあえずやってみるか」


 俺はレミリアを岩に向かい合わせ、後ろから手を添えて双剣を岩にあてがった。

 水の双剣に触れると、たしかに精霊の気配が伝わってくる。

 どうやらレミリアと一緒なら、ウンディーネとも交信できるようだ。


「なるほど、彼女がレミリアと契約したウンディーネか。それで少し魔力を分けながら、岩が凍るイメージを彼女に送る、と」


 すると魔剣を中心に急激に水が凍り始め、瞬く間に大岩が氷に包まれた。


「ふあぁ、私だけだと全然言うこと聞いてくれなかったのに、いきなりこんな……」

「アハハッ、これが前衛と後衛の違いってやつかな。だけどレミリアがもっとウンディーネと仲良くなって、精密に魔法のイメージを描ければ、これくらい1人でできるようになるはずだぞ」


 そう言ったら、ウンディーネから抗議するような思念が伝わってきた。


「ん? ウンディーネが何か言ってるな……なになに、俺の方が流し込む魔力量が多いから、大規模魔法を使うには俺がサポートした方がいいって?」

「はい、私だけでは限界が低いみたいですね」


 そんなことを話していたら、チャッピーが呆れたようにぼやく。


「相変わらず非常識なことをやっておるのう。他人が契約した精霊に干渉して大規模魔法を使うとか、あり得んぞぅ」

「アハ、アハハハ……まあこれも、使役リンクの恩恵ってことじゃない?」

「……まあ、デイルの非常識は今に始まったことではないか。それで火魔法の方はどうするんじゃ?」

「ああ、バルカンに火球を撃ってもらおうと思ってたけど、こっちも俺がサポートした方がよさそうだな。なんてったって、バルカンと俺は直接契約してるんだし」


 そう言ってバルカンを見ると、彼が頷きながら答える。


「うむ、主と炎の短剣の支援があれば、より大規模な火炎魔法を使えるだろう。1度試してもらえるか?」

「よし、やってみよう。えーと、短剣の刃をお前に触れさせればいいのかな?」

「それでよい。魔力を送りながら指示を出してくれ」

「了解。今からでかいのを撃つから、みんなは岩から離れて」


 俺は短剣を抜き出してバルカンの背に当て、魔力を送りながら岩を包み込むような火炎魔法をイメージした。

 次の瞬間、バルカンの前面に巨大な火球が発生したかと思ったら、それが一瞬で岩まで飛んで周囲を火の海にした。


「あわわわっ、まずい。リューナ、消してくれ」

「ははは、はいです、兄様」


 すぐに水塊が発生して、火事を消し止めた。

 まだブスブス言ってるが、延焼の恐れはないだろう。


「ウヒャー、焦った焦った。想像以上の威力だったな」

「うむ、さすがに主の支援を受けただけのことはある。我も調子に乗り過ぎたので、今後は自重しよう」

「そうだな。まあ、サイクロプスに遠慮する必要はないだろうけど」


 その後も交互にレミリアとバルカンを支援しながら練習していると、だいぶモノになってきた。

 さすがに魔力もきつくなってきたので、その日は早めに帰って翌日に備えた。





 翌朝早々に7層に潜ると、一気に深部を目指した。

 深部にたどり着いて探索を始めると、すぐにサイクロプスが見つかる。


「よし、まずはリューナがあいつに水をぶっかけて、レミリアと俺で凍らせるぞ。それからすぐにバルカンと合流して”火炎嵐”ファイヤーストームをぶっ放すから、リューナがもう1度水をぶっかけて冷やす。ここまでやってから、前衛が攻撃して様子を見よう。まだ硬いようだったら、もう1度それを繰り返す」

「「了解です」」


 手順を確認してから部屋に侵入し、サイクロプスに向かって駆けだした。


 まずはリューナの水塊がサイクロプスに命中すると、奴が水浸しになった。

 そこにレミリアが駆け寄り、地面にこぼれた水に双剣を突き刺す。

 少し遅れて追いついた俺がレミリアの体に触れながら魔力を流すと、周辺の水が即座に凍りついた。

 名付けて瞬間冷凍魔法”凍結”フリーズ


 その氷はサイクロプスまで及び、その表面を一気に氷で覆う。

 当然、そんな薄氷で奴を拘束できはしないが、とにもかくにも体を冷やすことには成功した。

 さらに俺を追ってきたバルカンに炎の短剣を当てると、今度は広域火炎魔法”火炎嵐”ファイヤーストームをぶっぱなした。


 超高熱の地獄の業火がサイクロプスを包み込み、炎に炙られた肌が赤熱する。

 やがて炎が治まったところでリューナに合図を送ると、またもや水塊がサイクロプスに降り注いだ。


 その攻撃自体は大したダメージにならないが、サイクロプスの外観に変化が出ていた。

 青白いサイクロプスの肌に無数の亀裂が入り、全身に広がっていったのだ。

 おそらく奴の強固な防御を弱めることができたのだろう。


 それを見た前衛が勢いづき、サイクロプスに襲いかかった。

 まず一番近くにいたレミリアがサイクロプスの左足に斬りかかると、バラバラと表面が剥がれ落ちた。

 さらに続けてその部分に斬りつけると、初めてサイクロプスの体に傷らしい傷を付けることに成功した。


 続くリュートが右足に塊剣を叩きつけると、その周辺の皮が大きく剥がれ落ち、その下の皮膚をえぐった。

 それでもオーガ並みの防御力は残っているのか、致命傷には程遠い状況だ。


 しかし今ならサイクロプスに傷を付けられることが分かり、みんなが攻撃を加えていく。

 サンドラの魔剣が肌を切り裂き、カインのハンマーがその膝を狙って振られる。

 さらにキョロとシルヴァの”雷雲”サンダークラウドから雷撃が放たれ、俺とリューナも強魔弾を撃ちまくった。


 さすがに図体がでかいだけあってオーガよりはタフだったが、やがて奴も膝を壊されて立っていられなくなった。

 しばらくはこん棒と衝撃波で抵抗していたが、俺たちの総攻撃を受けてとうとう息絶える。

 災害指定級の魔物を討ち取った瞬間だ。


「やったのです、兄様」

「ああ、やったぞ。リューナもよく頑張った」


 いつものようにリューナと抱き合って喜んでいたら、他の仲間も集まってきた。


「お疲れ様です。氷と火炎の大規模魔法を使いこなすとは、さすがはデイル様ですね」

「そんなことないさ。お前たちがいてこその芸当だ。みんなには本当に感謝してる」

「それは私たちも同じですよ、ご主人様」


 サンドラとレミリアも寄ってきたので、抱擁を交わす。


 その後、ひと休みしてからサイクロプスの素材を剥ぎ取った。

 まず頭を持ち帰るので、リュートの塊剣で首をぶった切った。

 それから魔石と、使えそうな部分の皮だけを剥ぎ取る。

 激戦だったから体中傷だらけで、あまり多くは採れなかったのが今後の課題だ。


 剥ぎ取りが終わるとまだ少し早かったが、そのまま地上へ戻ることにした。


 2刻ちょっとで地上に戻ると、案の定大騒ぎになった。

 そりゃあ、ドラゴの背中にサイクロプスの頭を載せて出てくれば、目立つわな。

 まず迷宮前の買取り所でサイクロプスの魔石を出すと、銀貨60枚の最高記録を打ち立てた。


 それからギルドに向かう途中も、注目を浴びっ放しだった。

 ギルドに着いてサイクロプスの頭と皮を出すと、またまた大騒ぎ。

 すぐにギルマスのコルドバが駆け付けてきた。


「デイル、本当にサイクロプスを倒したのか?」

「ええ、この間教えてもらった情報でバッチリでした」

「いくら情報を教えたとはいえ、かなりの魔法使いを集めんと倒せないはずなんだがな……まあ、お前のところはいろいろとおかしいからな」

「失敬な。これでも苦労したんですよ、いろいろと練習したりして」

「だから、普通は苦労とか練習で済む話ではないと言うのに……まあいい、このサイクロプスの頭は少し小ぶりだが、それでも高く売れるぞ。おそらく金貨50枚は下らんだろう」

「え~っ、そんなに高いんですか? これ。一体なんに使うんです?」


 などと話していたら、ローブ姿の男たちが3人、ギルドに駆け込んできた。

 そしてサイクロプスの頭を見つけるなり、それに駆け寄って大声で宣言する。


「このサイクロプスの頭、儂が買った~!」


 かなり年配の、おそらく魔術師であろう男が血走った眼で辺りをめつけている。


「さっそく嗅ぎつけてきたか、アレシウス」

「当たり前じゃ。これは最上級の魔術触媒なのだぞ。一体これをどこで手に入れた? サイクロプス発生の報告は聞いておらんぞ」

「ああ、それはこのデイルが迷宮で狩ってきたものだ。すでにうちに持ち込まれたものだが、どうせこれからも入るだろうから、今回は譲ってやってもいいぞ」

「なんだとっ! 小僧、詳しい話を聞かせろっ!」


 まるで噛み付きそうな勢いでその爺さんに迫られて困ったが、コルドバが仲介に入り、別の部屋で話をした。

 聞けばこのおっさん、魔術師ギルドのギルマスだそうで、サイクロプスの頭が町中を運ばれているという話を聞き、追いかけてきたらしい。

 サイクロプスの目玉ってのは膨大な魔力を内包しているため、これを触媒にすると一般の魔術師にも大規模魔法が使えるんだとか。

 それこそサイクロプスを倒すための、大規模冷却魔法とか火炎魔法とかだな。


 これが有れば大規模魔法が使いやすくなり、災害指定級の魔物発生にも対応できる。

 つまり都市の安全保障にも関わるので魔術師ギルドだけでなく、都市の為政者なんかにとっても垂涎の的らしい。

 サイクロプスなんて10年に1度、魔境から出てくるかどうかって魔物だから超希少品なのだ。


 結局、この頭は魔術師ギルドが引き取り、その魔力量を測定した結果から金貨57枚という値が付いた。

 俺にとっても驚きのお値段だ。




 これならその後の探索でまた大儲けかと思ったのだが、それほど甘くなかった。

 7層深部に出てきたサイクロプスの数は、それほど多くなかったからだ。

 大抵はオーガかミノタウロスの群れで、ごくたまにサイクロプスが出てくる感じ。


 結局、宝石部屋に出てきたのも含めて、俺たちが狩ったのは7匹に過ぎなかった。

 それでも凄い儲けだったけどね


 そして俺たちはとうとう、7層では守護者を残すのみとなった。

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