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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編
8/87

8.シルヴァ

 翌日は朝から緑小鬼ゴブリン狩りに出掛けた。

 あいつらは町の周辺の畑を荒らしているらしいので、門を出て適当にぶらついていると、すぐに3匹のゴブリンが現れた。


 奴らは俺より頭ひとつ低いくらいの背丈で、緑色の肌をした醜悪な魔物だ。

 粗末な腰布だけを身につけ、こん棒で武装している。

 1匹だけならそれほど強くもないが、集団で行動するのでそれなりに危険な存在ではある。


 今回のメンバーは俺とチャッピー、そしてキョロだけだ。

 それぞれの役割はチャッピーとキョロがゴブリンの足を止め、俺が弓か短剣で仕留めることになっている。

 俺たちを見つけたゴブリンズが、こん棒を振り回して迫ってきた。

 どうやら俺が1人なので、舐められてるようだ。


「キュピーッ!」


 真っ先に殴りかかってきたゴブリンにキョロが電撃を加える。

 すると奴の動きが止まったので、短剣で首をかっ切った。

 そいつは血を撒き散らしながら地に倒れ伏す。


 次に迫ってきた奴には、チャッピーが目眩めくらましを食らわせた。

 これはチャッピーお得意の魔法で、強烈な閃光を相手に放つ技だ。

 目が眩んだゴブリンの胸に短剣を突き入れると、こいつもあっけなく死んだ。


 あっという間に2匹を片付けると、3匹目は少し距離を置いてこちらの様子を窺っていた。

 ちょうどいいので、こいつには捕縛用の魔法を試すことにした。

 俺は地面に右手を当てて魔法を発動する。


土捕縛アースバインド!」


 ゴブリンの足元が少しへこんで、土や草が動いてそいつの足を絡めとった。

 これはチャッピーに教えてもらった土魔法で、足元の草や土を絡みつかせて相手の動きを阻害する技だ。

 大した威力ではないが、ゴブリンの足を止めるにはちょうどいい。


 俺は足を取られた奴の後ろに回り込み、短剣を首筋に押し当てた。

 その体勢でゴブリンに『接触コンタクト』してみたが、『結合リンケージ』は拒否された。

 そこで短剣を少し首に食い込ませてやると、渋々だが『結合リンケージ』が成立する。

 今までと同様に『契約コントラクト』までしなくても使役できるようだ。


 敵対する魔物の使役は初めてだったのだが、予想以上に上手くいったと思う。

 普通は戦闘中に『契約コントラクト』はできないから、捕縛してから契約まで持ってくのがとても面倒なのだ。

 俺は『結合リンケージ』までで使役できるし、短時間で仲間を片付けて力の差を思い知らせたのが良かったんだろう。


 倒したゴブリンからは討伐証明の右耳と魔石を回収し、その後は使役ゴブリンを加えて狩りを続けた。

 しばらく歩いていると、4匹の群れが森から現れた。


 今度はちょっと距離があるので、弓を使う。

 実は弓で試したい魔法もあるのだ。

 俺は矢をつがえながら、矢の先端に魔力を込めた。


風弓射ウインドショット!」


 掛け声と共に初心者用の弓とは思えない勢いで矢が飛び、ゴブリンを仕留めた。

 これは風魔法を応用して考え出した、弓矢の補助魔法だ。


 チャッピー曰く、俺たちの周りには空気という目に見えない物があって、それが風になっているんだそうな。

 空気って奴は見えなくても矢の進行を妨げるので、空気が薄ければより強く、より遠くへ矢が飛んでいく。

 この話をヒントに、矢を飛ばす方向の空気が薄くなるようにイメージしてみたんだが、それは想像以上に上手くいった。


 チャッピーですら驚くような魔法になったが、これも契約によって彼とイメージを共有できたが故だ。

 普通、どんなに知識を持っていたって、それを言葉だけで伝えるのには限界があるからな。

 それを詳細に共有できるってのは、思ってた以上に凄いことなんだろう。


 その後、俺たちに向かってきたゴブリンの内2匹を短剣の1撃で仕留め、最後の1匹をまた使役獣にした。

 たかがゴブリンといえど、前衛が2枚あると安心感が増す。

 その後もゴブリンを余裕で狩り続け、討伐数は軽く10匹を超えた。


 さらに奴らを探して森をぶらついていたら、ふいに白っぽい魔物に出くわした。

 そいつは恐暴狼ダイアーウルフみたいなんだけど、それにしては毛皮の色がおかしい。

 ダイアーウルフは黒に近い暗灰色なのに、目の前の奴は白に近い灰色だ。


「チャッピー、あれってダイアーウルフかな? 全然色が違うけど」

「たしかにダイアーウルフにしては色がおかしいのう。ひょっとして変異個体かもしれんぞ。もしそうなら、特殊な能力を持っている可能性もある」


 もし特殊能力持ちなら、ぜひ仲間にしたい。

 しかし白っぽい狼は恐れ気もなくこちらを窺うと、スッと森の中へ消えてしまった。


「逃げられたか。でも、本当にあれはなんだったんだろ? ダイアーウルフは群れで行動するはずだし、こんな人里近くにいるのもおかしいよね?」

「おぬしの言うとおりじゃ。やはり変異個体で、群れからはじき出されてきたのではないか?」


 なるほど、はぐれ狼ってことね。

 はたして、また奴に会うことはあるだろうか?

 もしまた会えたら、今度は仲間にできないか試してみよう。


 その後はゴブリンも見つからなかったので、町へ戻ることにした。

 ちなみに今日、使役したゴブリンズはその場で始末して魔石と耳を剥ぎ取った。

 最初は逃がすつもりだったのに、『結合リンケージ』を解除した途端に攻めかかってきたんだよね。

 使役した対象を殺すのは忍びないので、今後はやり方を考えよう。



 ちなみにゴブリンの魔石は討伐料込みで銀貨1枚なので、今日の収入は銀貨15枚だ。

 1日で宿代を5泊分も稼いだと考えると、なかなかのものだ。

 まあ、これもチャッピーとキョロのおかげなんだけどね。


 それとギルドカードで強化レベルを確認してみたが、全く変わってなかった。

 やはり迷宮の外では簡単にレベルは上がらないようなので、早く迷宮に入りたいものだ。

 そのためにもっと戦闘経験を積んで、仲間も増やしたい。



 最近は、寝る前にキョロに魔力を与えるのが日課になっている。

 気持ち良さそうに目を閉じ、耳や鼻をピクピク動かす姿が凄くかわいくて、心が癒される。

 まだ産まれて5日目だけど、着実に体も大きくなっているしな。

 この先が楽しみだ。





 それからしばらくは、ゴブリンを狩ってお金を稼ぐ日々が続いた。

 最近は慣れてきて毎日20匹以上狩っているので、平均的に銀貨20枚くらい稼いでいる。

 そんな生活を続けていたある日、ギルドの掲示板を確認したら狂暴猪マッドボアの討伐依頼が出ていた。

 名前のように狂暴な魔物なので普段はD指定なのだが、少し小さいせいかE指定であり、俺でも受けられる。


 ボアは肉がけっこう高く売れるので、いい稼ぎになるって話だ。

 ちょっと迷ったが、風弓射ウインドショットで仕留められると考え、依頼を受けて町の外へ向かった。

 そしてマッドボアが潜んでいると思われる森へ分け入る。


「チャッピー、こういう獲物を探す魔法って無いのかな?」

「そんな都合のいい魔法は無い、と言いたいところじゃが、手はあるぞ。儂には魔物の放つ魔力が見えるから、それらしい魔力が見えたら教えてやるのじゃ」

「さすがチャッピー、頼りになるね」


 森の中を歩きながら、所々でチャッピーに魔力を確認してもらっていると、やがてそれらしい魔力が見つかった。

 足音を忍ばせてそちらへ歩み寄ると、マッドボアが餌を漁っているのが見えてきた。

 ターゲット発見だ。


 しかし噂には聞いていたが、けっこうでかい。

 明らかに俺の倍は体重があるだろう。

 これで普通より小さいってんだから恐ろしい。


 そう思いながらも、そっと弓を構えた。


風弓射ウインドショット


 矢は狙いどおりに飛び、マッドボアの頭に突き刺さる。

 しかし、やはりと言うべきか1発では仕留められず、ボアは俺のいる方向とは逆に走り出してしまった。

 俺は逃がしてならじと、ボアを追う。


 しかし追い始めてすぐ、何かがボアの側面から襲い掛かるのが目に入った。

 しかもそいつは、この間見かけた白狼だった。

 たまたまあいつも、同じボアを狙っていたらしい。


 しかし、白狼の体格はボアの半分以下で、普通に考えれば無謀な狩りにしか見えない。

 白狼がボアの首に食いついて押し倒そうとするものの、全く勝負になっていなかった。

 それどころかボアは白狼をぶら下げたまま暴れ回り、周囲の地面や木やらにぶつけて回っている。


 しばらく見ていても埒が明きそうになかったので、俺はキョロを左手に乗せてボアに近づいた。

 そしてボアの頭が近づいた瞬間を見計らい、キョロに電撃を指示する。


「キュピーッ!」


 バチバチッという電撃のショックで硬直したボアに近寄り、右手で短剣を首筋に突き込んだ。

 なおも暴れようとするボアの頭を残った左腕で抱え込み、短剣をさらに深く突き込む。

 俺の目の前には、やはり首に食らい付いている白狼の頭があり、しばしそいつと睨み合いながらボアを押さえ込む形になった。


 ボアはその後もブヒブヒ言いながらジタバタしていたが、徐々に抵抗が弱まり、とうとう動かなくなった。

 しかし俺は汗びっしょりで、全力でボアを押さえ込んでいた手足が硬直してうまく動けない。

 当然ながら、白狼とはまだ睨み合ったままだ。


 しかし、やがて白狼は低く唸りながら、俺から距離を取り始めた。

 おそらく争っている間にあちこちを痛めたらしく、少し離れてうずくまると痛めた部分を舐め始める。

 当然、警戒は緩めずに俺の方をにらんだままだ。


 俺はひょっとして、と思いながら『接触コンタクト』を試みたが、やはり拒否された。


「チャッピー、あの狼のケガって治せないかな?」

「ふむ、やってみよう」


 そう言ってチャッピーは白狼の所へ飛ぶと、血を流している左足に両手を当てた。

 その体がポウッと光ると、狼の足も光に包まれる。

 その治療で痛みがやわらいだせいか、徐々に白狼の表情も穏やかになる。


 そこで俺はゆっくりと白狼に近寄り、額に右手を当てて再び『接触コンタクト』を試みた。

 白狼はしばらく躊躇ためらっていたようだが、やがて『結合リンケージ』と『契約コントラクト』が完了した。

 今日からこいつは、俺の眷属だ。


 契約してみると、この狼はやはりダイアーウルフの変異種だった。

 しかも風魔法を使える個体で、種族的には風魔狼ウインドウルフという魔物になるらしい。


 元々、群れにいたのが追い出され、町の近くまで来ていたようだ。

 よく見るとダイアーウルフにしては体が小さいし、肉付きも良くない。

 こいつもけっこう苦労してきたんだろうな。


 ちなみに俺の眷属になった途端、白狼の傷はみるみるうちに全快してしまった。

 これにはチャッピーも驚き、呆れていた。

 やはり俺の使役スキルはおかしいらしい。

 しかし、たとえ謎が多くても、分からないなりに役立てていけばいいと思う。


 倒したばかりのマッドボアはその場で解体し、内蔵を白狼に与えたら、ガツガツとそれをむさぼり食っていた。

 よほど腹が減っていたらしい。

 それ故の無謀な狩りだったのだろうが、おかげで俺たちは出会うことができた。


 内臓以外のボアの肉と毛皮は売れるので、木の枝を組み合わせてソリを作り、丸ごと持ち帰る。

 帰り道の途中、チャッピーが聞いてきた。


「そういえば、こやつの名前はどうするんじゃ?」

「うーん、安直だけど、”シルヴァ”でどうかな。見ようによっては銀色に見えるだろ?」

「シルヴァか。まあ悪くはないの」

「キュー」

「ウオン」


 こうして俺は、3番目の仲間を手に入れた。

 そろそろ迷宮へのチャレンジも、視野に入ってきたな。

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