77.ミノタウロス
7層の攻略に乗り出した俺たちは、強力な防御力を誇るオーガに対抗するため、それぞれに新たな攻撃法を身に着けた。
カインは魔導ハンマーによる身体内部への攻撃力アップ。
俺とリューナは無属性魔法で強化した”強魔弾”。
そしてキョロとシルヴァは”雷雲”を習得し、それぞれオーガに一矢報いることが可能になった。
この戦闘力改善によってオーガを倒しやすくなり、序盤の探索は順調に進んだ。
時にはオーガ3匹、マジックオーガ1匹の集団と遭遇することもあったが、さして苦労することもなく殲滅できた。
たまに休息を挟みながら、正味10日で序盤の探索が終了した。
この間にたっぷりとオーガの皮を入手したので、俺とリュートの防具を新調することにした。
ゴトリー武具店にオーガ皮を持ち込んで、革鎧の作成を依頼したのだ。
親父さんもオーガ皮を扱うのは初めてらしく、完成に1ヶ月ほど掛かると言われたので、その間に7層中盤の攻略を進めることにした。
7層中盤で新たに遭遇したのは、牛頭人身の怪物だった。
そいつを見た途端、チャッピーが名前を教えてくれた。
「牛頭巨人じゃな」
「それ、なんか聞いたことあるかも。魔境にいるんだっけ?」
「いや、あれは迷宮にしかおらんらしいぞ。儂も見るのは初めてじゃ」
「ふーん、けっこう強いのか?」
「詳しくは知らんが、それこそ鉄のような体で攻撃が効かんらしいぞ」
「そいつは厄介だな。それに加えて、あの斧がまたいかにも危険そうだ」
1匹だけ部屋の中央に座り込んだその魔物は、オーガと同じくらいの体に牛の頭が付いており、湾曲した2本の角も生えている。
全身を包む筋肉は見事に引き締まっており、パワーと素早さを感じさせる。
それでいて赤銅色の肌は金属のような光沢を放ち、ちょっとやそっとでは歯が立ちそうにない。
さらにそいつが両刃の斧を装備しているんだから、厄介なんてものじゃないだろう。
とりあえず様子見でひと当てしてみたら、これがまたアホみたいに強かった。
まず体が尋常じゃないほど硬い。
剣で斬りつけると、カキンとかいって弾かれるんだぜ。
鉄をも断ち切るサンドラの剣ですら通用しないのだから、異常な防御力の高さだ。
さらにミノタウロスは動きが機敏だった。
なんだかんだいってオーガはパワー重視で鈍重だったが、ミノちゃんは違う。
俺たちの倍近い身長があるくせに、動きはカイン並みだ。
しかも斧を持ってるだけあって、武器の使い方も洗練されてるときた。
こんなのとどう戦えばいいのか、さっぱり分からない。
辛うじてキョロとシルヴァの”雷雲”で雷を落としたら動きが止まったので、その隙に逃げ出した。
奴が追ってこない所まで逃げて、ようやく一息をつく。
「ハアッ、ハアッ……とんでもない化け物だな、あの牛野郎」
「まったくです。硬いだけでなく、斧を巧みに使いこなすので、ハンマーを叩き込む隙もありませんでした」
「あいつ、俺の強魔弾も打ち落としたんだぜ。いくらなんでも強すぎだろう、あれ」
「妾の魔力斬でも表面しか斬れないとは、非常識にもほどがあるのじゃ」
そうやってみんなで愚痴をこぼしていたら、バルカンがためらいがちに口を挟んできた。
「主よ。あの魔物は火を嫌がっていたように見えなかったか?」
「え? そんなことあったか?」
「うむ、我の火球が奴の脚に当たった時、動きを止めてこちらを睨んだような気がした」
「そりゃ、攻撃した奴はみんな睨まれてるだろう」
「いや、その後の火球は全て斧で防がれた。ただの偶然とは思えない」
「うーん、チャッピーはどう思う?」
「ふーむ……他に有効な攻撃手段が見当たらないのなら、少しでも可能性のあることを試すべきではないか?」
「試すったって、どうやって?」
ここでキョロが提案してくる。
(とりあえず”雷雲”は効いてたんだから、それで動きを止めて火球を連発してみたらどう?)
「そうじゃな。それだけでどうにかなるとも思えんが、何が起きているかは分かるじゃろう」
「よし、まずは奴の弱点を探ってみるか」
キョロの提案を受け、再びミノタウロスと対峙することになった。
さっき戦った部屋に再びなだれ込むと、すぐに奴が斧を振りかざして向かってきた。
俺たちは適当に分散し、奴の攻撃を避けることに専念する。
やがて敵の攻撃の合間のわずかな隙に、”雷雲”から雷撃が迸った。
雷撃が角に命中すると、奴の動きが一瞬止まる。
そこへバルカンが火球を2連射すると、ミノタウロスの右膝辺りに命中した。
すると奴はギロリとバルカンを睨み、彼に攻撃を放とうとする。
しかし真っ赤に焼けた右膝が思うように動かず、ミノタウロスはバランスを崩した。
さすがに転びはしなかったものの、奴の動きが明らかに鈍る。
「バルカン、手当たり次第に火球を当ててみろ。周りはそれをサポートだ」
俺の指示で、仲間が一斉にミノタウロスを攻撃した。
バルカンはその合間を縫って、次々と火球を当てていく。
やはりミノタウロスは火球が苦手らしく、それを避けようとするあまり、さらに動きがおかしくなっていた。
やがて火球に炙られて真っ赤になった脇腹に、俺の強魔弾が命中した。
それまでは表面で弾かれてばかりだったのに、そのままブスリと突き刺さる。
「グエーーーッ」
初めてミノタウロスにまともなダメージが入り、奴が苦鳴を上げる。
それに気を良くした俺たちは、さらに攻勢を強めた。
バルカンの火球がどんどん命中し、ミノタウロスの体のあちこちが赤熱していく。
俺はふと思いついて、強魔弾を赤熱する右肩に放ってみた。
それはミノタウロスに落とされることもなく右肩に突き刺さり、再び奴の苦鳴が響く。
どうやら高熱で炙られると、鋼の肌も柔らかくなるらしい。
「赤熱してるところは柔らかいぞ。ガンガン狙っていけ!」
それを聞いた前衛が、赤熱部を狙い始めた。
レミリアの双剣が、カインのハンマーが、サンドラの魔剣が、そしてリュートの塊剣が、次々と赤熱部に叩きつけられる。
それまでかすり傷しか付けられなかったのが嘘のように、敵の体に傷が増えていった。
やがて赤くなった左足をリュートの塊剣に叩き折られ、ミノタウロスが地響きを立てて崩れ落ちる。
その後、もがいているところを、サンドラの魔力斬で首を斬られて動かなくなった。
長時間の戦闘による疲れから、みんながその場にへたり込んでしまう。
「フウッ、ようやく終わったなあ」
「はい、実に、タフな奴でした」
「なんとか倒せたけど、バルカンがいなかったら詰んでましたよね? おかしくないですか、あれ?」
リュートが恨みがましい口調で愚痴をこぼす。
たしかにミノタウロスの異常な強さは、反則な気がしないでもない。
「たしかに異常な強さだったな。それでも、どんな魔物にも何かしら弱点はあって、そこを突けば勝てるようにはなってるんだろう」
「まるで何かの訓練みたいです」
「訓練、ね。実際そうかもしれないな。こうやって迷宮を攻略してると、誰かにしごかれてるような気がするから」
「フヒヒッ、迷宮神ヌベルダスが作った訓練場か? 中らずと雖も遠からず、かもしれんな」
「チャッピーは何か知ってるのか?」
「いいや。ただ、段階的に魔物が強くなる迷宮の構造からして、そこに挑む者を鍛える施設だろう、とは昔からよく言われることじゃ。一方で、冒険者による攻略を観戦する娯楽施設ではないか、とも言われておる」
「ふーん、どっちもありそうだよな。ベビンみたいな管理者がいるのも、それっぽい」
そんな話をしながらしばし休息を取った後、ミノタウロスの素材を剥ぎ取った。
魔石や角、皮などを剥ぎ取ったうえ、奴が使っていた大斧も回収した。
まだ少し早かったが、みんな疲れていたので今日は地上へ戻ることにした。
1刻ほどで地上に帰還し、まず魔石を売ると銀貨40枚になった。
これはマジックオーガと同じでけっこうな額だ。
素材は角と皮で金貨1枚にしかならなかったが、斧が金貨5枚にもなった。
なんとあの斧、全て魔鉄製だったらしい。
大き過ぎて人間には使えないが、鋳つぶして材料にするそうだ。
もしこれを大量供給できたら、魔鉄武器の相場が下がるかもしれない。
その後も慎重に7層中盤を探索しながら、ミノタウロスとの戦闘を繰り返した。
”雷雲”で動きを止めてから火球を叩き込み、そこに攻撃を入れていく戦法を確立すると、わりと安全に狩れるようになった。
おかげで中盤の探索は順調だ。
それでも奥に行くと、ミノタウロスがいっぺんに2、3匹出てくる場合があり、逃げ出すこともあった。
しかし地道に戦闘を繰り返すうちに敵の動きにも慣れ、さらにリューナとリュート以外は強化レベルが1つ上がって、2匹までなら倒せるようになる。
さらに戦闘を繰り返すとリューナとリュートのレベルも上がり、とうとう3匹同時に相手できるようになった。
こうして正味で20日ほどの探索を繰り返すと、ようやく深部の入り口に到達した。




