75.マジックオーガ
カインが新たなハンマーの使い方を習得したので、再び7層へ潜ってみた。
シルヴァの先導で探索していると、2匹の1角餓鬼が見つかった。
「2匹か。ちょっと多いけど、バーンナックルゴリラと同じように攻めればいけるだろう。ただし無理はしないようにな」
そう指示を出しながらオーガのいる部屋へ侵入した。
1匹はカイン、リュート、レミリア、サンドラが取り囲み、もう1匹はシルヴァ、ドラゴ、キョロが拘束する。
使役獣組はほとんど攻撃はせずに逃げ回り、俺とリューナ、バルカンは援護射撃に徹する予定だ。
なぜならオーガの防御力が強すぎて、魔力弾も火球も致命傷を与えられないからだ。
なので俺とリューナは、攻撃範囲を狭めた散弾をオーガの頭部に撃ちまくる。
ただし今までどおりの散弾では使いにくいので、少し工夫した。
今までは20歩ほど先で人がすっぽり収まるぐらいの範囲だったのを、5分の1くらいに狭めた感じだ。
これは散弾の密度と砲身の長さを変えて調整している。
オーガにダメージを与える力は無いが、敵の視界を奪ったり、目を庇うために片手を使わせることができる。
その間にカインたちがオーガの下半身、特に膝を狙って攻撃する。
とは言っても動き回るオーガに当てるのは容易でなく、しばらくもみ合ってるうちに、ようやくカインのハンマーが膝にヒットした。
スコーンという感じで軽く叩いたようにしか見えないのに、オーガの動きが一瞬止まった。
その隙に反対の足をリュートが塊剣で強打することで、オーガの動きが明らかに鈍った。
もちろんオーガも怒ってメイスを振り回しているが、ちょくちょく俺が目つぶしの散弾を撃つので、大した脅威になっていない。
やがてまたカインのハンマーが左膝にヒットすると、とうとうオーガの膝が落ちた。
もう思うように足が動かせないらしく、上半身だけでメイスを振り回している。
そんなオーガなど、もう怖くない。
低くなった頭部や首筋にカインたちの攻撃が集中し、やがてリュートにとどめを刺されて息絶えた。
もう1匹のオーガも同様に始末し、戦闘が終結する。
幸いなことに、ゴリラのように増援を呼ばれることもなかった。
「フウッ、カインとリュートは大活躍だったな」
「はい、デイル様のおかげです」
「ハハハッ、カインが頑張ったおかげだよ。それにしても、魔法が効かないから時間が掛かったな。俺たちももっと攻撃力を上げないといけない」
「どうやって攻撃力を上げるつもりじゃ?」
「うーん、まだ思いつかないけど、いろいろ工夫してみるよ。な、リューナ」
「はいです、兄様」
その後も序盤を探索していると、オーガに2回遭遇した。
それらを全て撃破すると、だいぶオーガの動きにも慣れてきた。
それに気を良くしてさらに奥へ進むと、今度は3匹のオーガに出くわした。
3匹のオーガなんてどうやって倒そうかと観察していたら、1匹だけ変なのがいることに気がついた。
そいつだけ体がひと回り小さく、持っている武器も違った。
その武器はメイスというよりも、杖のようだ。
「なあ、チャッピー、1匹だけ違うのがいるけど、なんだろ、あれ?」
「ふーむ、あのメイス、まるで魔術師の持つロッドのようじゃな。ひょっとして魔法を使うのではないか? さしずめ魔法餓鬼と言ったところか」
「そんな魔物って、いるのか?」
「儂も聞いたことがないが、用心するに越したことはないぞ」
「マジックオーガ、か。問題はどんな攻撃をしてくるかだけど……いっぺん当たってみるしかないな」
「そうじゃな、しかし最初はこちらから攻めるのではなく、向こうに手を出させた方がよいじゃろう」
「そうだな、最初は通路の近くに固まって、いつでも障壁を出せるようにして様子を見るか」
(ある程度、状況が判明すれば、我がマジックオーガの押さえに回ろう)
ここでシルヴァが押さえ役を申し出てくれた。
「うん、シルヴァは足も速いし、魔法が使えるから最適だろう。敵の攻撃が判明して、行けそうだったら頼むよ」
(了解した)
それから陣形を組んで部屋に侵入したのだが、オーガは構えるだけでこちらへ向かってこない。
ただしマジックオーガだけは右手のロッドを掲げ、何やらゴニョゴニョやっていた。
するとロッドの上に頭よりも大きな火の玉が発生し、右手の振り下ろしと同時にこちらに飛んできた。
俺が慌てて魔盾で障壁を張ると、火球が当たって周辺に炎が撒き散らされる。
これをまともに食らったら、けっこうヤバかったかもしれない。
その炎が消え去ると、今度はオーガが前進してきた。
「シルヴァ、マジックオーガを頼む。他のオーガは俺たちで片付けるぞ」
(心得た)
走り出したシルヴァはオーガを迂回して、左から後方へ回り込もうとしている。
残りのメンバーもそれぞれオーガに駆け寄り、1匹はカインたち4人が、もう1匹はキョロ、ドラゴ、バルカンで囲んだ。
カインの方はさっきと同じように膝狙いでジワジワと攻めている。
もちろんその間も、俺は散弾で嫌がらせだ。
一方の使役獣組はキョロの雷撃とバルカンの火球、そしてドラゴの威嚇で敵を翻弄していた。
正面でドラゴが角を振り回し、横や後ろから雷撃と火球が飛んでくるのでオーガが攻めあぐねている。
こっちもリューナが散弾で嫌がらせをしてるので、なかなか集中できないってのもある。
そしてシルヴァはと言えば、遠距離から風の刃をマジックオーガに放ち、たまに近づいてはひっかくという攻撃を続けていた。
マジックオーガは詠唱もできず、いいように翻弄されている。
やがてカインの一撃で膝が折れたオーガに攻撃が集中し、最後はリュートに首筋を斬られて息絶えた。
もう1匹のオーガも至近距離から放たれたバルカンの火球に腹部を抉られたうえ、キョロの雷撃を角に食らって崩れ落ちた。
最後に残ったマジックオーガも、あっさりとサンドラに首を斬られて戦闘が終結した。
「フヒーッ、3匹でもなんとかやれたなあ」
「ええ、シルヴァやバルカンが頑張ってくれました」
「そうだな、キョロとドラゴも良くやってくれた」
(ウフフーッ、僕もとどめを刺したんだよ~)
「そういえば、最後にやったのって、角に雷落としたんだよな?」
(そうだよーっ、撫でて撫でてー)
キョロがじゃれついてきたので、抱き上げて撫でてやる。
「ああ、本当に良くやってくれた。シルヴァも助かったよ」
(なんの、主の役に立つことこそ我が喜び。これキョロ、あまり主をわずらわすでない)
そう言いながらも羨ましそうにしてたので、顎の下を撫でてやったら喜んでいた。
別にこれくらい遠慮しなくていいのに、シルヴァは恥ずかしがり屋さんなのだ。
「バルカンの火球も、至近距離なら通じるみたいだな」
「うむ、やはり近いほど威力が強いのと、連発した玉を同じ所へ当てやすい。今後は積極的に前で戦おうと思う」
「あー、なるほど。それは俺も見習おうかな」
「なんじゃ、デイルも前衛と一緒に戦うのか?」
「うーん、前衛より少し下がった中衛って感じかな。俺だけならオーガの攻撃も避けられると思うし」
「私はどうするの? 兄様」
「リューナは今までどおり後衛かな。でもあまり離れると守れないから、少し前に出よう。それと、魔法を強化しないとな」
「はい、私も頑張るのです」
その後、剥ぎ取りをしてから、マジックオーガのロッドを確認してみた。
そいつは俺の腕ぐらいの長さの木の棒で、先端に赤い宝玉が付いていた。
どうやらこの宝玉に火属性が宿っているらしいのだが、それ以上は分からない。
マジックオーガのように火球が出せないか試してみたが、魔力を流すだけでは駄目だった。
やはり呪文か何かが必要みたいなので、諦めて売ることにした。
結局、それは魔術師ギルドに売れたのだが、やはり使い方は分からなかった。
しかしなんらかの魔力が感じられるものであり、研究用として金貨5枚で引き取ってくれた。
ちなみにマジックオーガの魔石は銀貨40枚と、普通のオーガより10枚も高かった。
やはり魔法職だけあって、魔力が高いのだろう。
マジックオーガに遭遇した翌日は、外で訓練をした。
オーガに通じなかった俺たちの魔法攻撃を見直すためだ。
「それで、デイル。どうやって魔法の攻撃力を上げるつもりじゃ?」
「うーん、まだやってみないと分からないんだけど、無属性魔法が使えないかと思ってる」
「おぬし、すでに無属性魔法を使っておるじゃろうが?」
「うん、擬似的な砲身として使ってるけど、今度は直接撃つ方にも使えないかと思ってね」
「そんなことができるのか?」
「だって、すでにバルカンはやってるだろ?」
するとバルカンにみんなの注目が集まった。
ちなみにここに集まっているのはチャッピー、リューナ、バルカン、キョロだけで、その他はそれぞれ訓練をしている。
「我の場合は、口の中に魔法を撃ち出す器官があるのだ。しかし主にそれは無いであろう?」
「ふーん、魔法を撃ち出す器官なんかあるのか。でも無属性魔法はこんな風に手からも出せるんだから、必ずしも必要ってわけじゃないだろう?」
俺は手のひらに石を載せ、それを無属性魔法で浮かべてみた。
「しかし、このような芸当は難しいであろう?」
今度はバルカンが小さな火球をチュドンと撃ち出してみせた。
火球は少し離れた岩に当たり、穴を開ける。
「それって火球を押すような感覚か?」
「いいや、どちらかと言うと、魔力を圧縮して一気に解き放つような感覚だ。あのバーンナックルゴリラの拳のイメージに近いであろう」
「ああ、あんな感じなのか」
俺はそれからしばらく、バルカンの言葉を参考に試行錯誤を重ねてみた。
両手を使い、無属性魔法をあーだこーだとこね回してみる。
魔力を押し潰したり、捻ったりしながらそれを解放しようと試みたが、あいにくと爆発のようにはならない。
気がついてみると、もう夕暮れが迫っていた。
「駄目だ、チャッピー。なんかいい手はないかな?」
「あいにくと儂もネタ切れじゃ。しばらく苦労するんじゃな」
結局、その日はなんの成果も無く帰宅することになった。
まあ、そんな簡単にはできないか。
焦らずにやるしかないな。




