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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第7層編

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74.新たなる挑戦

 伯爵邸で昼食をごちそうになった翌日、俺たちは交易を兼ねてセイスに旅立った。

 セイスでは素材や肉を売ると同時に、リュートの鎧を調整してもらった。

 それとケレスとの約束を果たすため、美味いものを食い歩いたりもした。


 こうしてたっぷりと休養を取って戻った俺たちに、吉報がもたらされた。

 2軍メンバーが、とうとう2層を突破したのだ。


 彼らは2層深部をていねいに探索してオークを狩りまくり、そろそろ守護者に挑もうと考えていたそうだ。

 しかしその矢先に1軍が階層を更新してしまい、自分らも負けじと守護者に挑んだ。

 俺たちの苦労話を聞いて苦戦を覚悟していた彼らだったが、意外にすんなり倒せたらしい。

 1軍よりも前衛が多いうえに魔鉄武器で強化されてるんだから、それも不思議ではないだろう。


 これによって彼らは3層侵入資格を手に入れ、強化レベルも上がった。

 この時点で俺たちのレベルはこうなっている。


レベル10:俺、カイン、レミリア、サンドラ、リューナ、リュート

レベル5 :ヒルダ、チェイン、アレス、ジード、アイラ、ザムド、ナムド、ダリル、ケレス

レベル4 :シュウ、ケンツ、レーネ、ガル、ガム、メイサ、ケシャ、アニー、キャラ、カレン

レベル2 :セシル、ミント、リズ


 1軍は多くが1つしか上がらない中、リューナとリュートが俺たちに追いついた。

 2軍はほとんどが2つ上昇している中で、アレスやジードなど主力の6人が3つ上昇していた。

 これは彼らがとどめを刺すことが多く、その分だけ魔物の生命力を多く取り込んだからだろう。


 それから商売組のセシルとミントにも、2軍と一緒に1層を突破させ、レベル2に引き上げた。

 これはセイスとの交易で山賊と戦う可能性があるからで、彼女たちも多少は戦えるようになっている。


 もっとも、セイスに行く時はA、Bチームのどちらかが護衛に付くので、山賊程度に遅れを取ることはない。

 それどころか、何回か山賊を返り討ちにしていたら、パッタリと襲われなくなってしまった。

 裏の世界では、”フェアリー商会の馬車には近づくな”との評判が立ち、その信頼性の高さから小荷物の運搬を頼まれるようになったほどだ。

 これまた商売繁盛でけっこうなことである。




 セイスから戻ってきた翌日、初めて7層に足を踏み入れた。

 いつもならセイスに行く前に下見するとこだが、今回は商品を届ける日程上、後回しにした形だ。

 今までの経験上、前の層とはガラリと魔物の種類が変わるはずだったので、慎重に歩を進めた。


 やがてシルヴァの探知に引っかかった敵を確認すると、そこにはでかい人型の魔物がいた。

 その身長は俺の倍近くもあり、赤みを帯びた茶色の肌に真っ赤な髪、額に突き出た1本の角が特徴的だ。

 体型はオークほどデブではなく、がっしりとしていて腕が長い。

 体には腰みのだけを着けていて、手には突起付きの戦棍メイスを持っていた。


「あれは1角餓鬼オーガじゃな」

「ああ、あれがそうなんだ。魔境にいるんだっけ?」

「うむ、魔大陸にもおるがな。オークよりも力が強く、しかも知能が高いという厄介な魔物じゃ」

「マジで? そういえば武器も鉄製だし、なんか瞳に知性が感じられるかも」

「ちなみに人間の肉が大好きじゃから、捕まったら食われるぞ」

「そいつは絶対に願い下げだ。とりあえず1匹だけだから、ひと当てしてみようか。みんな無理はしないようにね」


 俺たちが部屋に侵入すると、オーガがこちらを向いてニタリと笑った。

 奴はそのまま動きもせず、俺たちが囲むのを黙って見ていた。

 そして包囲が完了すると、おもむろに正面のカインにメイスを叩きつけた。

 カインはとっさに盾で防いだが、半歩ほど押し戻された。


 さらに容赦なくメイスが叩きつけられ、カインが防戦一方になった。

 もちろん他のメンバーはカインを援護しようと攻撃するものの、全然歯が立たなかった。

 一見、柔らかそうに見えるその体表面に、刃が跳ね返されるのだ。

 俺とリューナが撃った魔力弾も同様で、辛うじてサンドラとレミリアの魔剣が傷を付けられるぐらいだった。


 しかしここで役立ったのが、リュートの塊剣かいけんだった。

 重量を自分の意志で自由に変えられる塊剣が、オーガの体に鋭く打ち込まれる。

 さすがのオーガもこれはこたえたらしく、やがてリュートとオーガの殴り合いが始まった。


 リュートは重い攻撃をオーガに打ち込みつつ、敵の攻撃は避けるか塊剣で防ぐかしている。

 やがて動きの鈍ったオーガの足に、サンドラとレミリアが魔力斬を放つ。

 その攻撃でとうとう立っていられなくなったオーガを、リュートが打ち据える。

 最後にサンドラが魔剣で首をかっさばくと、とうとうオーガが息絶えた。


「みんなご苦労さん。特にリュートは大活躍だったな」

「いえ、ただ相性が良かっただけですよ」

「あんなでかい奴と殴り合うんだから、大したもんだよ。なあ、カイン?」

「……え? は、はい、そうですね」


 そう答えるカインが浮かない顔をしている。


「ははあ、自分だけオーガにダメージを与えられなかったのを、気にしてるんだな?」

「はあ、そのとおりです。さすがにあそこまで攻撃が通じないと、ちょっと情けなくなって」


 守りの要として活躍するカインだが、やはり攻撃も捨てきれないようだ。


「それだったら、戦槌バトルハンマーを使った方がいいんじゃないか?」

「ハンマーと言うと、例の威力増幅効果のあるアレですか?」

「そうそう。あれは打撃面から衝撃を出すから、内部にダメージを与えられるはずだ」

「えっ、そんなことできるんですか?」

「うーん、たぶんな。結局は、それをイメージして使えるかどうかだと思うけど」

「なるほど、試してみる価値はありますね……この後はどうします?」

「こいつを剥ぎ取ったら帰ろう。ハンマーの使い方を試してみようぜ」


 オーガから皮、角、魔石を剥ぎ取ると、すぐに地上へ戻った。

 その素材は魔石が銀貨30枚、角が銀貨50枚、さらに皮が金貨2枚で売れた。

 皮はオーク以上に強い防具になるらしく、いずれゴトリー武具店に持ち込んで鎧にしようと思ってる。



 その後、自宅の庭でハンマーの新しい使い方を研究した。


「これを叩くのですか? 壊してしまいそうですが……」


 水を入れた樽を前にして、カインが困惑している。


「そうだよ。樽を壊さずに中の水を動かすんだ。10個ほど買ってあるから、少々は壊してもいいぞ」

「はあ……それではとりあえず」


 そう言ってカインがハンマーを軽く振って、樽の腹に叩き付けた。

 しかし力が強すぎて樽が倒れ、水がこぼれてしまった。


「ありゃ、上手くいかないな。悪いけどサンドラとリュートで、倒れないように押さえてくれるか? リューナは水を頼む」


 リュートが起こした樽に、リューナが魔法で水を注ぐ。

 それをサンドラとリュートに支えてもらい、またカインに叩かせた。

 しかし今度は力が逃げなかったため、樽が壊れてしまう。

 壊れた樽を前に、カインが申し訳なさそうに言う。


「すみません、不器用で……」

「気にするなよ。まだイメージが掴めてないんだろ? ちょっと貸してみな」


 新しい樽を用意させながら、ハンマーを受け取った。

 カインなら片手で軽々と振り回すが、俺には重すぎるので両手で素振りをしてイメージを固める。


「いいか、別に強く叩く必要はないんだ。樽の向こうの水を揺らすイメージを持って……こんな感じで」


 新しい樽に柔らかくハンマーを叩きつけると、ブシャーッと水が噴き出した。

 その水が俺だけでなく、サンドラやリュートにも降り掛かる。


「ブハッ、ペッペッ。何をするのじゃ、我が君」

「あー、悪い悪い。ちょっとやり過ぎた。て言うか、やっぱこのハンマー凄いな」

「一体、何が起こったのですか? デイル様」


 カインが信じられないという顔で聞いてくる。


「今のがこのハンマーの真の力だよ。前々から思ってたんだけど、こいつは打撃面から衝撃波を出すんだ。ハンマーの重量にそれが上乗せされて、威力が上がってたんだな」

「衝撃波、ですか?」

「うん、こんな感じのね」


 そう言いながら、今度は樽にハンマーを押し付けたまま魔力を流すと、水面が波立った。


「なんと、ハンマーを動かす必要すらないのですね」

「そういうこと。これならオーガにもダメージを与えられると思わないか?」

「そう、ですね……例えばオーガの膝にハンマーを叩きつけてこの衝撃波を放てば、有効かもしれません」

「そうそう、どんなに外側が硬くても、内側はそれほどでもないだろう。そのイメージで練習してみなよ」


 それから夕飯まで、カインの練習は続いた。

 最初はハンマーを押しつけた状態から始め、それから叩きつける練習に移っていく。

 その過程でいくつも樽を壊し、サンドラとリュートがずぶ濡れになっていた。

 しかし、カインもなんとか感触を掴めたようだ。


 これで前衛4人がオーガに有効な武器を持ったはずなので、さっそく実物で試してみよう。

 覚悟しろよ、オーガ。

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