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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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73.伯爵への報告

「やあ、また会えたね」

「よう、ベビン、元気にしてたか?」

「ああ、君たちがどんどん攻略してくれるから、最近は変化があって楽しいよ」

「そいつはよかった……ところで、見てもらいたいものがあるんだが」


 そう言いながら、俺は壊れた首飾りを取り出した。

 これは狼牙団のエルザが持っていたものだ。


「なんだい、それは?」

「実は最近、俺たちに決闘を申し込んだ奴がいてな、そのリーダーが持ってたものだ。そいつは追い詰められると、この首飾りを壊して魔族化した」

「ふむ、それが私となんの関係が?」

「その魔族は迷宮管理者の分身だと名乗った。そしてそれに憑依された奴は、西のジムサ迷宮から来たらしい」

「……そんな馬鹿な。いや、しかし…………なるほど、そういう手段に出る者もいるということか」

「何か心当たりがありそうだな?」

「いや、直接心当たりがあるわけではないよ。しかし、攻略の進まない迷宮の管理者が、冒険者に干渉する可能性はあると思ったのさ」

「やっぱりか。あの魔族もそんなようなことを言っていた。分身を封じ込めた道具を迷宮の中に置き、それを身に着けた者の後押しをしていた、と。しかしその女の身内を俺が殺したもんだから、それを逆恨みして突っかかってきやがった。下手すると死んでたかもしれない。そんなこと、お前はやってないよな?」


 今回の攻略には、こいつに文句を言ってやるという目的もあったのだ。

 管理者に干渉される可能性のある迷宮攻略なんて、危なくてやってられない。


「ふむ、そういうことか。それは災難だったね。誓って言うが、私はそんな小細工などしていない。管理者は冒険者に不干渉、というのが迷宮神ヌベルダス様のご意思だからね」

「そのわりには毎回、顔を出すじゃねーか」

「これはただのお喋りさ。この先の情報を与えるつもりも、手助けするつもりも一切ないよ」

「武器のことは教えてくれたぞ」

「それはすぐに分かることだからね。いずれにしろ、この件は上に報告しておくよ。どうなるかは分からないけれど」

「チッ、ちゃんと処分してくれよ。ところで、今回の武器はなんだ?」

「水の双剣だ。その名のとおり水を操る力を持つ魔剣だよ。詳しいことは水精霊ウンディーネに聞いてくれたまえ。とにかく、攻略成功おめでとう。また会えることを楽しみにしているよ」


 そう言いながら消える直前、奴がニヤリと笑ったような気がした。

 気のせいかもしれないが、何か嫌な予感がする。

 しかしだからといって何ができるわけでもない。

 今後もせいぜい用心しながら、迷宮を攻略するしかないか。


 気を取り直して水晶に触れると、また魔法武器を手に入れた。

 それはベビンが言ったとおり、水属性を持つ双剣だった。

 前腕ほどの長さで反りのある片刃の刀身は、青みの掛かった白銀色に輝き、何者をも切り裂く力に溢れているようだ。


 当然、これはレミリアに持たせることにした。

 いずれ彼女にもウンディーネと契約させて、水魔法を使えるようになってもらおう。


 その後、仲間たちにも7層侵入資格を取らせると、7層に下りて地上へ帰還した。

 またまた衛兵から聞き取りを受け、その足でギルドへ赴く。

 いつもどおり階層更新の報告を済ませ、素材を売却すると金貨13枚ほどになった。


 その晩はレストラン”妖精の盾”で祝勝会だ。

 2軍の連中も引き連れて盛大に飲み食いし、新たな階層更新を祝った。

 一般客には少し迷惑だったかもしれないが、めったに無いことなので許してもらおう。


 ちなみに、その後カインたちは色町へ消えていった。

 俺もたまには行ってみたいのだが、レミリアとリューナが絶対に許してくれない。

 サンドラはそういうの、あまり気にしないんだけどな。

 かくして俺は俺で、彼女たちを相手に夜を楽しんだ。





 翌日は仲間を引き連れ、昼前に伯爵の館を訪問した。

 以前約束したとおり、仲間と一緒に昼食をご馳走になるためだ。

 さすがにドラゴはお留守番だったが、シルヴァ、キョロ、バルカンも連れてきている。


 さすがにビキニアーマーでは伯爵の目の毒だと思ったので、レミリアとサンドラには普通の服を着せている。

 レミリアは青で、サンドラは赤のワンピースだ。

 白いワンピースを来たリューナと並ぶと、とても華やかに見える。


 仲間を引き連れて館に入ると、元気の良さそうな女性に出迎えられた。


「まあまあ、ようこそ我が館へ。わたくしはガルド伯爵夫人テーシアです」


 気さくに話しかけてくる夫人は、黒髪黒目で恰幅かっぷくのいい女性だった。

 いかにも肝っ玉かーちゃんという感じの女性で、伯爵が尻に敷かれている理由が分かる気がする。

 すぐに食堂へ案内されると、伯爵とコルドバが待っていた。


「おう、来たな、ガルド迷宮の英雄よ」

「お久しぶりです、伯爵。本日は仲間も一緒にお招きいただき感謝します」

「フハハハッ、堅苦しいことは抜きだ。おお、噂通りに美しいご婦人方だな」


 そう言って歩み寄った伯爵がレミリアの手を取ると、夫人の視線が突き刺さる。


「ウッ、ま、まあ立ち話もなんだ。また食べながら話を聞かせてくれ」


 促されるままに着席し、食事が始まる。


「今日は奥方様がご同席とは珍しいですね」

「あら、わたくしも以前からあなたたちには注目していたのですよ。今日はお仲間もいらっしゃると聞いたので、同席をお願いしました。ご迷惑だったかしら?」

「とんでもない。奥方様がおられた方が、嫁たちも気が楽でしょう」

「嫁たち、ということは3人ともあなたの奥さんなのですか?」

「はい、こちらから順にレミリア、サンドラ、リューナと申します」

「「「はじめまして」」」


 そう紹介すると、伯爵が反応した。


「デイル、お前の女は2人ではなかったのか?」

「しばらく前まではそうだったんですが、リューナが成長したので3人になりました」

「なん、だとっ。貴様、極上の美女3人を独り占めにしているのか? 許せんっ、許せんぞ、コルドバ!」

「だから言ったじゃないですか。うらやましくなって後悔するって……」


 テーブルを叩いて悔しがる伯爵を、コルドバがなだめている。

 すると夫人がためらいがちに聞いてきた。


「あの、デイルさん。こんなことを聞くのは失礼だと思うのだけど、なぜお嫁さんなのに奴隷のままなのですか?」

「はあ、俺はいつ解放してもいいのですが、彼女たちがそれを拒んでおりまして」

「それはまたなぜ?」


 夫人の問いにレミリアが答えた。


「私たちは今しばらくご主人様の所有物でありたいのです。そうすることで絶対的な忠誠心を形にしたい、といったところでしょうか。いずれどこかで、区切りを付けようとは思っています」

「しかし、奴隷だとあなたたちが低く見られたり、それを伴侶にするデイルさんの評判にも傷が付きませんか?」

「少なくともこのガルドにいる限りは、気になりませんね。冒険者の価値とは強さと仕事をこなす能力であり、この町でトップとなった我々を非難する者など、事情を知らない新参者だけですから」


 そう言いきると、夫人がようやく納得したように言う。


「なるほど、お嬢さんたちの様子からしても、あなた方が深い信頼関係で結ばれているのがよく分かります。無粋なことを言って申し訳ありませんでした」

「いえいえ、ご理解いただけたのであればけっこうです」

「いずれにしろ、トップ冒険者であるあなたたちを我々も応援していますから、何かあれば頼ってくださいね。ねえ、あなた?」

「ぐぬぬっ、許せん、羨ましい、儂も女欲し――グホッ」


 おかしなことを口走っている伯爵に、夫人のリバーブローが炸裂した。

 奥さん強いっす。


「オホホホッ、ごめんなさいね、うちの馬鹿がおかしなことを。それよりも迷宮のお話を聞かせてくださいな」


 その後、夫人に促されるまま、6層の様子を語った。

 なんでも、夫人も昔は伯爵と迷宮に潜った経験があるそうで、俺たちの話を面白そうに聞いていた。


「ライノサウルスの噂は私も聞いたことがありますが、とても恐ろしい魔物のようですね。ライノとファイヤーゴリラを2匹ずつ倒すなど、私には想像もつきません」

「はい、今回ばかりはどうやって倒そうかと悩みましたが、優秀な仲間のおかげで攻略することができました」

「そうですか。見た目はそんなにお強そうには見えないのに、いろいろと秘密がありそうですね。ウフフッ」

「まあ、こんな職業ですから、秘密の1つや2つはありますよ」


 2つどころじゃないけどな、と思っていたら伯爵が話に割り込んできた。


「そういえば、狼牙団とかいう奴らと決闘をしたそうではないか。なぜそのようなことをした?」

「ああ、守秘義務があるからギルマスからも聞いてないんですね。俺も多くは語れませんが、弟を殺されたエルザって奴がそれを逆恨みして、決闘を挑んできたんですよ。あいつら少し狂ってて、もし断ったら仲間を害されそうだったんで、決闘を受けて殲滅した、というのが大まかな事情です」

「法的に問題は無いのだろうな? コルドバ」


 伯爵の問いにコルドバがうなずく。

 決闘時に秘密保持契約を交わしたので、俺も彼も細かい事情は喋れないのだ。


「ふむ、ならばまあよいか。しかしトップ冒険者として感心できるようなことではないな。以後、このようなことは慎むのだぞ」

「それは肝に銘じておきましょう」


 今後も降りかかる火の粉を払うのを、ためらうつもりはないけどね。

 そんなことを考えていたら夫人が話しかけてきた。


「トップ冒険者といえば、デイルさんはレストランを始めたそうですね。しかも若い冒険者向けに安い食事を提供したり、女性冒険者の相談に乗ったりもしているそうではありませんか」

「うむ、それは儂も聞いておる。続々と集まる冒険者の問題を、緩和する役に立っているらしいではないか。この町の領主として礼を言うぞ」

「そう言っていただけて光栄です」


 伯爵の言うように、レストラン”妖精の盾”はこの町の低位冒険者の受け皿的な場所になっていた。

 食事が安めでお酒は高めの価格設定、かつ相談窓口有りなので、駆け出しや女性の冒険者が集まりやすい。

 もちろんどこにでも困ったちゃんはいるものだが、この町最強の冒険者がバックにいることが知れ渡り、それも減少傾向にある。


「そういえばお前たち、”女神の盾”を吸収合併したんだったな」

「ん? なんだ、それは?」


 コルドバの話に伯爵が反応した。


「前回の報告でデイルが話していた、女性だけのパーティですよ」

「ええ、2層で彼女らが他のパーティに襲われてたのを助けましてね、その後、じゃあ一緒にやるかって話になったんです」

「まあ、やはりそんなことがあるのですね? しかし相手はどうしたのですか?」

「もちろん返り討ちにして、全員始末しました。ちゃんとギルドにも報告してあります」


 夫人に聞かれたので素直に答えたら、伯爵とコルドバが頭を抱えていた。


「またそうやって敵を増やすようなことを。もう少し穏便にできんのか?」

「あの手の輩は狂犬みたいなもんですからね。俺たちは悪党に容赦しないってことを示した方が、悲劇は減りますよ」

「多少は問題があるのかもしれませんが、それが弱い者の救いになっているのでしょう? 私たちは彼らを支えなければなりませんよ、あなた」

「ええい、分かっておるわ。これでも今までいろいろと便宜を図ってきたのだぞ……そういえば例のベッケン子爵な、とうとう取り潰しになったぞ。調べたらいろいろボロが出てきて、子爵もその息子も逮捕されたから2度と悪さはできんだろう」

「それはよかった。お手間をお掛けして申し訳ありません」

「まったくだ。もっと感謝してもいいぞ……とは言え、今回もよくやった。今後の攻略も期待しておるぞ」

「はい、完全攻略を目指して頑張ります」


 こうして伯爵への報告もつつがなく終わった。

 またしばらく休んだら迷宮へ潜ろう。

 はたして7層にはどんな魔物がいるのだろうか。

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