71.ライノの棺桶
久しぶりの6層探索で2角地竜に殺されかけたので、翌日早々に地上へ帰還した。
あの怪物を倒す方法を歩きながら考え続けたものの、一向に妙案は浮かばなかった。
ちょっとムシャクシャしたので、その晩は外へ飲みに出ることにした。
「う~ん、何かライノを倒す方法がないかな?」
「兄様、ごめんなさい。私の魔法が未熟だったから……」
「別にリューナが謝ることじゃないさ。本来、習得に何十年も掛かる竜人魔法なのに、リューナはよくやってくれてるよ」
「そのとおり。前人未到の6層ならこんなこともあるじゃろう。むしろ、今までが順調すぎただけじゃ」
チャッピーの指摘にレミリアが賛同する。
「たしかにそうですよね。サーベルタイガーやバーンナックルゴリラだって、最初は逃げたんだし……」
「そうそう、今回は予想を遥かに突き抜ける敵に対応できず、逃げ遅れただけ、とも言える」
「でも、チャッピーがいなかったら、死んでたかもしれないんですよ、ご主人様」
雰囲気を明るくしようとしたら、レミリアに怒られた。
まあ、彼女には心配を掛けたから仕方ない。
「ゴホン、ま、まあチャッピーの治癒魔法にはいつも助かってる。だからって、それを当てにして無茶をしないよう、気をつけるよ……それにしても、あのライノサウルスの突進は反則だったな。あんな分厚い石壁を、簡単に突き崩すなんて」
「俺もあいつが間近に迫った時は、生きた心地がしませんでしたよ。あれを受け止められる人間など、この世にはいないでしょう。たとえ10人で守っても、吹き飛ばされるか突き殺されてしまいそうです」
「カインにそこまで言わせるとは、相当なもんだな。でもカインが10人いればなんとかなりそう――いや、待てよ」
ふいにアイディアが浮かんだ。
「そうか、1人で駄目なら重ねればいいんだ」
「は? 我々全員が盾を持つとでも言うのですか? それでも到底、耐えられるとは思えませんが」
「違う。盾職3人の力を合わせるんだ。サンドラ、お前に与えた土の魔剣は、どれくらい使えるようになってる?」
「む、土の魔剣か? 多少は土魔法が使えるようになった、というところじゃな」
「そうか、なら可能性があるな。以前、この炎の短剣についてバルカンと話したことがあるんだけど、この短剣には精霊との親密度を上げる効果があるらしいんだ。もし土の魔剣にも同じ効果があるなら、サンドラは土精霊と契約できるようになっているかもしれない」
「仮にそうだとして、ライノサウルスとどんな関係があるのじゃ? 我が君」
サンドラに問われ、俺の思い付きを口にしながら組み立てていく。
「ノームと契約すれば、お前もかなり土魔法が使えるようになるだろ? それで石壁を作り出して、カインの盾と俺の障壁を組み合わせれば、ライノの突進にも耐える壁ができるんじゃないかな?」
「なるほど、重ねるとはそういう意味ですか。しかし、それならリューナの石壁でもいいのでは?」
「いや、リューナには他にやってもらうことがある。とりあえず明日試してみてから考えよう。まずはリューナは、サンドラにノームを紹介してやってくれ」
「はいです、兄様」
こうして希望が見えてきた俺たちは、適当に飲食を切り上げて帰宅した。
翌日、いつもの原っぱに来て実験を開始する。
「リューナ、ノームの紹介を頼む」
「はいです、兄様…………兄様の推測どおり、契約してもいいって言ってるのです。サンドラ姉様と感覚を共有します」
「うむ、頼むのじゃ」
しばらくすると、無事にサンドラとノームの契約が完了したようだ。
一見、簡単に契約できたように見えるが、これは精霊と交信する資質を持った者にしかできない。
今までにこの資質を持つ者は、俺とリューナの他にエルフ系のレーネ、セシル、チェインだったのが、土の魔剣に慣れ親しんだサンドラもそれに加わった形だ。
「よし、サンドラ、土の柱を出してみろ」
「うむ。出でよ、土の柱!」
サンドラが土の魔剣を地面に突き刺して念じると、脚の太さぐらいの柱が地面から突き出した。
「おお、今までとは比べ物にならないほど簡単にできるのじゃ。精霊の力とはなんと凄いものよ」
「よし、それじゃあカインと組んで頑丈な障壁を作る研究をしてくれ。ある程度、形になったら俺も参加するから」
「了解じゃ」
その後、各人はそれぞれの訓練に取り組み始めた。
俺はケガをしたばかりだから、もっぱら魔法の練習だ。
ちなみに2軍はチームごとに2層を探索している。
彼らは深部でオークを倒し続けているので、いずれ宝石部屋のオーク5匹を制し、守護者にも挑戦するだろう。
対ライノ用に開発した複合障壁は、2日間の試行錯誤によってまずまずの成果を得た。
まずカインが大盾を地面に突き刺して耐衝撃姿勢を取ると、その盾の周りに石壁をサンドラが構築。
さらに俺がライノの角が当たる部分に強化障壁を形成すると、とんでもない強度の壁になった。
試しに3層でソードビートルの突進を受け止めてみたら、ビクともしなかった。
今までカイン1人で受け止めていたのだから当然とも言えるが、これならばライノサウルスにも対抗できるだろう。
そしていよいよライノサウルスに再挑戦する日がきた。
6層深部でライノを探し当て、突撃準備を整える。
「それじゃあ、今から入るから作戦どおりにな。たとえ駄目でも次があるから、無理はしないように」
「「はいっ」」
メンバーの返事を受けて、ライノ部屋に侵入する。
そして適当な所で陣形を組むと、ライノがおもむろに立ち上がって突進の姿勢を見せた。
まるで俺たちなんか、敵じゃないと言っているようだ。
そんな奴に吠え面をかかせてやろうと、防御姿勢に入ったカインを中心に土壁と魔法障壁を構築する。
やがて走り出したライノが、全てを吹き飛ばすような勢いで突っ込んできた。
盛大な破壊音と共に俺の障壁とサンドラの石壁がぶち抜かれ、最後にその角をカインの大盾が受け止めた。
「リューナ、やれ」
「はいです、兄様……”ライノの棺桶”なのですっ!」
次の瞬間、ライノの足元が大きく窪み、左右に土塊がせり出した。
そしてライノが脱出する暇もなく、土塊が奴を包み込む。
あっという間にライノは、頭だけ出した生き埋め状態になった。
まさに棺桶だ。
さらに動けずにいるライノの頭に俺が駆け寄り、その片目に炎の短剣を突き刺した。
そこに魔力を注ぎ込むと刀身から炎が噴き出し、ライノの頭蓋の中を焼き焦がす。
凄まじい絶叫を放って暴れようとしていたが、奴はそのまま脳みそを焼かれ続け、とうとう動かなくなった。
仲間たちから歓声が上がる。
実はライノを倒すにはただ突進を受け止めるだけでなく、いかにダメージを与えるかが大きな課題だった。
ソードビートルと同じように土柱で突き上げて転倒させることも考えたが、ビートルと違ってライノはすぐ起き上がるだろう。
そうすると地道に攻撃してダメージを重ねるしかないのだが、ライノの装甲はビートル並みに硬くて、かなり手こずるのは間違いない。
それならそのまま拘束して炎の短剣を突き刺して焼けばいい、という考えに至った。
問題はどうやって拘束するかなのだが、ここでリューナの竜人魔法に目を付けた。
通常、竜人魔法では精霊におおざっぱな指示しかできないのだが、ライノを拘束しろという指示は有効だった。
だから俺たちが足止めしてしばらく耐えさえすれば、竜人魔法でライノを拘束できる。
さらに都合の良いことに、ライノの角がサンドラの石壁に刺さっていて奴は頭を動かせない。
あとは炎の短剣を目に突き刺して焼くだけの、簡単なお仕事ですって寸法だ。
その後、ライノの素材を地上に持ち帰ると大騒ぎになった。
まず魔石が銀貨50枚で引き取られ、さらに2本の角が合わせて金貨4枚になった。
角はけっこうな魔力を帯びており、強力な武器になりそうだって話だ。
それと鱗付きの革を持って帰ったが、これはイマイチ不評だった。
一応、使い方を研究するために金貨1枚で買い取ってくれたが、現状はちょっと使いにくそうだと言われている。
ちなみに肉も食ってみたが、オークほど美味くなかったので、売るのは諦めた。
こうしてなんとかライノサウルスの攻略に目処を付けた俺たちは、その後も6層深部の探索を進めた。
休息を挟みながら3泊4日の探索を3回繰り返し、とうとう宝石部屋へたどり着くと、そこには2匹のライノが待ち受けていた。
「さて、ライノ2匹なんて、どうやって倒そうかね?」
「はっきり言って、あそこに飛び込むのは自殺行為にしか思えませんね」
カインとそんな話をしていたら、シルヴァたちが頼もしいことを言い出した。
(1匹は我ら使役獣に任されよ、主。もう1匹を主が倒すまで、我らで足止めしてみせよう)
「大丈夫か? シルヴァ……いや、疑うのはお前たちに対して失礼だな。分かった。なるべく早く倒すから、それまで耐えてくれ」
(心得た)
(ウフフフッ、任せてよ、ご主人~)
「やってみせよう」
「ヴモー」
その後、手順を打ち合わせて宝石部屋へ侵入すると、2匹のライノがおもむろに立ち上がった。
まずシルヴァが奴らに駆け寄り、片方のライノを挑発して誘い出した。
そこに他の使役獣も加わり、シルヴァの風刃、キョロの雷撃、バルカンの火球、ドラゴの一撃離脱でライノを攻撃する。
それを横目に俺たちは、もう1匹を挑発して突進を誘った。
突進の兆候を捕らえると同時にカインが盾を地面に突き刺し、そこに石壁と魔法障壁を重ね合わせる。
その罠に突っ込んできたライノをリューナが棺桶で拘束し、俺が炎の短剣を突き込むと、あっさり勝敗は決した。
シルヴァたちの方に目をやると、無事に戦い続けている。
「シルヴァ、こっちは片付いたから、そいつを連れてきてくれ」
(了解した、主)
ライノがこちらへ寄ってくるのを確認すると、再びカインを中心に障壁を構築した。
そこへ突っ込んできた奴を拘束し、炎の短剣で脳みそを焼くことで、あっさりと決着がついた。
「フウッ、思ったよりも簡単だったな」
「はい、シルヴァたちのおかげですね」
(フハハハッ、たしかに我らも貢献はしたが、主たちの連携あってのものよ。特に炎の短剣は反則級であるな)
「そうか? リューナが拘束してくれなきゃ、大して使えないと思うけどな」
「ばっかもん。いくら拘束したからと言って、これだけ強力な魔物を瞬殺するなどあり得んのじゃぞ。おそらく、おぬしのアホみたいに豊富な魔力と、バルカンの力が合わさっておるのじゃろうが、かなりおかしいぞ、その短剣」
「そんなもんかねえ」
あまり実感が湧かずに頭を掻いていると、嫁たちに囲まれた。
「結局、ご主人様が凄いってことです」
「そうじゃそうじゃ、我が君こそ最強じゃ」
「反則級の力を持ってもうぬぼれないのが、兄様のいいところなのです」
「ハハハッ、そんなもんかな」
そう言うと、周りのみんなも笑い出した。
これで俺たちは、とうとう6層を探索し尽くしたことになる
あとは守護者を倒し、またまた階層更新といきたいものだ。




