70.ライノサウルス
2軍メンバーが独力で探索できるようになったので、俺たち1軍も攻略を再開することにした。
ちなみに今の俺たちの肉体強化スキルのレベルは、こんな感じだ。
レベル9:俺、カイン、レミリア、サンドラ
レベル8:リューナ、リュート
レベル5:ケレス
レベル3:ヒルダ、チェイン
レベル2:アレス、ジード、アイラ、シュウ、ケンツ、レーネ、ザムド、ナムド、ダリル、ガル、ガム、メイサ、ケシャ、アニー、キャラ、カレン、リズ
レベル1:セシル、ミント
1軍でケレスが特に低いのは全く攻撃をしないからだが、それでも2軍に比べれば能力は高い。
強化スキルってのは筋力や耐久力が高まるだけかと思っていたのだが、実際はほぼ全ての能力が向上する。
つまり視力、聴力などの感覚を始め、敏捷性や魔力なんかも向上しているのだ。
この能力の向上を意識し、そこに魔物との戦闘経験を積み重ねて戦い方を変えると、冒険者はどんどん強くなる。
逆に言うと、そうでもしなければ迷宮は攻略できない。
今まで何度も倒せるはずがないと思う魔物と向き合ってきたが、その都度なんとかなってきた。
それは地道に魔物を狩り続け、強敵を倒すために知恵を絞ってきた結果だろうと思う。
だから今後も2軍にはバンバン魔物を狩って、レベルを上げさせる予定だ。
もう少し2軍が強くなったら、セシルとミントにもレベルを上げさせる。
それは彼女たちの自衛のためであり、俺たちの戦力を少しでも増やすことにもつながるからだ。
ちなみにレベルアップには、肉体成長の促進効果もあるようだ。
おそらく身体能力を向上させるには、その器を大きくした方が都合がいいからなんだろう。
2軍の連中もレベル2になっただけで、体がひと回り大きくなっている。
当然、俺も度重なるレベルアップで背が伸びているが、最近は頭打ちだ。
人間の成長なんて20歳ぐらいで止まるんだから、それも当然だ。
おかげで体はそれなりに大きくなったものの、童顔なせいか未だにガキ扱いされるのには閉口している。
それから俺たちの中で最も姿が変わったのは、リュートとリューナだ。
会った時は俺のお腹ぐらいまでだった身長が、今はリュートが拳ひとつ、リューナは拳ふたつ低いくらいにまでなっている。
2人ともまだ幼さは残るものの、リュートは精悍な美男子になり、リューナはそれなりに色気のある美少女になった。
こうなるともうリューナを子供扱いするわけにはいかず、この間とうとう彼女とも結ばれた。
かくして俺はすでに3人の嫁持ちなのだが、最近はチェインさんにも迫られて困っている。
3人愛するだけでも手一杯なのに、4人目とか大丈夫か?
2軍の成長を見届けてから2日後、俺たちは久しぶりに6層へ潜った。
商売組のケレスは連れてきていないので、ドラゴを攻略メンバーとして採用している。
ケレスに預けていた魔盾イージスは俺が持ち、後衛の守りを兼ねる形だ。
この魔盾、実際に使ってみるとけっこう難しく、改めてケレスのありがたみを感じていたりする。
泣き虫の駄魔族な彼女だが、意外に凄い奴だったんだな。
それはさておき、6層序盤の攻略は順調だった。
序盤では短剣猪、赤血豹、黒影豹に加え、剣牙虎が出てくる。
しかも出てくる数が多いからそれなりに厄介だ。
しかし爆拳猩猩4匹と、爆炎猩猩に比べればかわいいものだ。
ちょくちょく2軍の育成もしつつ、正味5日ほどで序盤の探索が終わった。
続いて中盤を探索すると、今度はバーンナックルゴリラが出てきた。
この暴れ猿が最大で8匹も出てきたのには参ったが、”ゴリラのおひたし”で水浸しにして殲滅してやった。
結局、中盤の探索には正味7日掛かった。
そしていよいよ6層深部の探索だ。
新たな魔物の登場を予想して進んでいると、フェイクドラゴンに似た巨大な魔物を発見する。
硬そうな皮に包まれた4本足の魔物で、鼻先にでかい角がひとつ、さらに目の後ろにも少し短い角が生えていた。
全長は俺の身長の倍以上、体高もカインを上回るほどの巨体で、その口には鋭い牙が並んでいて実に凶暴そうだ。
「2角地竜とは厄介じゃのう」
「チャッピー、知ってるのか、あれ?」
「うむ、儂も見るのは初めてじゃが、魔境にいると聞く魔物じゃ。頑強な装甲に、鋭い角と突進力を備えた強敵じゃぞ」
「今までの敵ではソードビートルに近いけど、体重が倍以上はありそうだな。あれをカインが押し止めて、リューナが転ばせるってのはどうだ?」
「無理です!」
カインが一瞬の躊躇もなく答え、ぶんぶんと首を横に振る。
さすがのカインも命の危険を感じたようだ。
仕方ないので、しばらくみんなで作戦を練った。
そして思いついたのがライノの突進を誘い、リューナの竜人魔法で石壁を作って足止めする方法だ。
動きが止まったところを総攻撃すればなんとかなるだろうと考え、まずは試すことにした。
しかし俺たちの考えは、あまりにも甘過ぎた。
部屋に侵入すると、ライノサウルスがおもむろに立ち上がったので、まずリューナが分厚い石壁を作成した。
そしてカインがその前に陣取って挑発すると、ライノが突進してきた。
凄い勢いで突っ込んできたライノをカインが寸前で回避すると、角が石壁に突き刺さった。
それを見て意外に簡単に引っかかったと思ったら、ライノは石壁を突き崩してそのまま突っ込んできた。
腕の長さほどの厚みを持つ石の壁を、砂か何かのように崩すなんて、とんでもない奴だ。
うかつにも石壁の少し後ろにいた俺とリューナに、ライノの角が迫る。
とっさにリューナを片手に抱いて逃げたものの、ライノはそれを嘲笑うかのように首を振り、その角で俺をはね飛ばした。
「グアッ!」
「キャッ!」
10歩ほどの距離を跳ね飛ばされた俺は、受け身も取れずに地面に落ち、転げ回った。
リューナだけはケガさせまいと庇ったものの、彼女は気を失っている。
とりあえず体を起こそうとした俺の背中に、激痛が走った。
痛みをこらえて手を当てると血が出ていた。
どうやらライノの角で傷付けられたようだ。
周囲を見回すと、ライノが立ち止まって向きを変え、こちらに突進を始めようとしているのが見えた。
今の体では到底逃げられない。
せめてリューナだけでも逃がそうと考えた矢先、何かがライノに突っ込んだ。
「ヴモーッ!」
「グガッ!」
それはドラゴだった。
彼はライノの数分の1しかない体で横から突撃し、右前足にケガを負わせてみせた。
当然、激怒したライノが頭を振り、ドラゴを突き飛ばす。
ドラゴはザックリと右半身を傷付けられ、血を流しているにも関わらず、すぐに立ち上がってライノを威嚇する。
何倍も大きな敵に対し1歩も退かない構えで、ライノと睨み合っている。
「デイル様!」
「ご主人様っ!」
その隙にカインとレミリアが駆け寄ってきた。
「わりい、不覚を取った。走れないから担いでくれ。レミリアはリューナを頼む」
「はいっ!」
カインに運ばれながら、俺は全員に撤退の指示を出した。
ドラゴが時間を稼いでいる間に、全員が元来た通路に避難する。
残るはドラゴをどう逃がすかだが……
「バルカン、今から俺が撃ち出す水弾を火球で撃ち抜いてくれ。霧を作り出して、ドラゴを逃がす」
「了解した」
俺はチャッピーに大きめの水塊を作ってもらい、それを緩やかに撃ち出した。
ライノの方向にフラフラと飛んでいく水塊に、バルカンの火球が何発も撃ち出される。
その1発が水塊に当たると、水蒸気が爆発的に発生して辺りが霧に包まれた。
(今だ、ドラゴ。こっちへ走ってこい。こっちだ、こっちだ……)
必死に念話を送ると、すぐにドスドスという足音が聞こえてきた。
やがて霧の中からドラゴが現れ、俺達のいる通路に駆け込んだ。
血だらけのドラゴの姿を認めて安心した俺は、そのまま意識を失った。
頭を撫でられている感覚に目を覚ますと、レミリアの膝枕の膝枕で横になっていたことに気づく。
それに気づいた彼女が、優し気に俺の顔を覗き込んできた。
「お目覚めですか? ご主人様」
「ああ、みんなは無事か?」
「はい、みんな無事ですよ。ご主人様とドラゴのケガも、チャッピーが治してくれました」
「リューナは?」
「さっき目を覚ましましたばかりです」
そんなやり取りをしていると、仲間が集まってきた。
「兄様、ごめんなさい、私のために」
リューナが泣きながらすがり付いてくる。
「ああ、大丈夫だから泣くな。リューナはケガないか?」
「うん、私は全然平気なの、グスッ」
「それは何よりだ」
髪を撫でてやると彼女も落ち着いてきた。
「ヴモー」
そこへドラゴが寄ってきて、俺に鼻面を擦りつける。
「ドラゴ、今日はありがとうな。お前のおかげでみんな助かった」
「ヴモヴモ」
俺に礼を言われたのが嬉しかったのか、妙に機嫌が良さそうだ。
「それにしても、久しぶりに迷宮で死にかけたな」
「まったくじゃ。少し気が抜けておったのではないか?」
「耳が痛いよ、チャッピー。あの石壁を簡単にぶち抜くなんて、想像もできなかった」
「そうじゃな。たしかにあの魔物の強さは想像を超えておる」
「そうだな。でもなんとかしてみせるさ。明日は地上に戻って対策を練ろう」
とは言うものの、今のところ方策は無い。
しかし諦めずに仲間と力を合わせれば、なんとかなるだろう。




