7.妖精魔法
翌朝は快適な目覚めを迎え、まず朝食を取った。
メニューはベーコンエッグに果物とパンで、味は可も無く不可も無く。
しかし、普段の自炊よりはよっぽどましなのが悲しいところだ。
これからはもっと美味いもの、食えるようになるだろうか。
て言うか、食えるようにしなきゃな。
それから部屋に戻って昨日の反省会をした。
「チャッピー……俺、昨日つくづく自分が弱いと感じたよ」
「そんなことはないじゃろう。立派に盗賊に立ち向かったではないか」
「結果的にはそうなんだけど。俺、最初に斬りかかられた時にすくんじゃってさ、一瞬、死を覚悟したんだ。そしたらキョロが盗賊の動きを止めてくれて、その隙に倒したんだよ。俺だけだったら大ケガか、下手したら死んでたと思う」
「たしかにキョロが電撃で盗賊の動きを止めておったな。まだ産まれたばかりなのに大したものじゃ」
「あれ、電撃って言うのか? なんかバチバチ鳴ってたけど」
「うむ、雷を小さくしたものとでも思えばよい。人間や魔物でも、めったに使える者のおらん高等魔法じゃ」
「そっか、キョロ。本当にありがとうな」
「キュー」
そっと撫でてやると、気持ちよさそうに頭を擦り寄せてくるのがまたかわいい。
それにしても、生後3日で高等魔法を使うなんて本当に凄いな。
絶対に大事にしよう。
それに比べて俺のしょぼさと来たら。
剣で斬りかかられたぐらいで足がすくむだなんて、実に情けない。
初めて人を殺したのもショックだったけど、この厳しい世界では仕方ないことだと割り切れる。
それよりも、もっと冷静に戦うための度胸と戦闘技能を、俺は身に着けなければならない。
「まあ、いずれにしろもっと戦力を増やさないと。方法としては俺自身を鍛えるのと、新しい仲間を増やすってことかな」
「なんじゃ、また卵でも買うか?」
「いや、次は前衛が欲しいから、町の外で依頼をこなしながら探すよ。魔物を狩って戦闘にも慣れたいし」
「おぬしの短剣とキョロだけでやるのか? 儂はあまり役に立たんぞ」
「そうなんだよ。短剣だけじゃ不安なんだけど俺、剣とか槍ってあまりうまく使えないんだよね」
以前、冒険者ギルドで少し習ってみたけど、あまり俺には向いてないと思った。
「なら弓矢はどうじゃ? おぬしにはエルフの血が入っていて、適正があるかもしれんぞ」
「え、何言ってんの、チャッピー? 俺の耳は尖ってないよ」
「実は人間との間にできた子は、耳が尖っていない場合もあるんじゃ。そしておぬしからは、何やらエルフと似たような雰囲気が感じられる」
衝撃の発言。
俺には、エルフの血が流れているかもしれないだって?
チャッピーの最初の相棒はエルフだったというから、その感覚には信ぴょう性がある。
となると、俺がエルフみたいに顔立ちが整っていると言われたのも、あながち的外れでもなかったってことか。
「そんなことって、あるんだ? ただの人間だとばかり思ってたのに……俺から感じる強い魔力ってのも、それと関係あるのかな?」
「その可能性は高いのう。魔力操作を1日で覚えたことからしても、エルフの才能を受け継いでいる可能性はあるじゃろう」
「マジかよ……それなら魔法も期待できそうだな。それよりもまずは、弓を試すためにギルドへ行くか」
当面の方針が決まったので、この町の冒険者ギルドへ赴いた。
ギルドには冒険者の戦闘能力向上を支援するための訓練場があるからだ。
まず受付けへ行って、訓練ができるか聞いてみる。
「すみません。昨日、この町に来たばかりなんですが、訓練場を使うにはどうしたらいいですか? 弓を練習したいんですけど」
「はい、こちらでギルドカードを確認してから担当者を紹介します。空いていればすぐできますよ」
「はい、これでお願いします」
俺はギルドカードを差し出す。
このカードは冒険者ギルドの登録時に作成するもので、名前や冒険者ランク、肉体強化レベル、保有する使役獣などが表示される。
さらに魔物の討伐や殺人行為も記録され、内容をギルドの魔道具で確認できるという不思議アイテムだ。
これも冒険と迷宮の神ヌベルダスの恩恵らしい。
「はい、けっこうですよ。弓の教官はゲドさんです」
受け付けてくれたのはアリスさんと言って、サラサラの茶色の髪で緑の瞳が綺麗な女性だった。
今後はこの人と仲良くなれるといいな。
俺は礼を言って訓練場へ向かい、ゲドさんを探して弓の稽古をつけてもらった。
今までは近接戦ばかり考えていたので、弓を扱うのは初めてだ。
ひと通り基礎を教えてもらって練習していると、たしかにしっくりくる。
ゲドさんにも誉められたので、もっと練習して弓を主武器にしようと思う。
しばらく練習をした後、ギルドを出て近くの武具屋へ向かった。
店には店長らしきドワーフのおっさんがいた。
「おっちゃん、俺まだ初心者なんだけど、弓と防具を見繕ってもらえないかな?」
「あん? 弓の他には何を使うんだ?」
「今のところは短剣ぐらいだね。基本、斥候スタイルなもんで」
「スカウトか。なら動きを邪魔しない物がいいな」
そう言って初心者用の弓に革の胸当て、腰当て、籠手と帽子を揃えてくれた。
それと鉄の鏃が付いた矢を20本で、しめて金貨1枚なり。
「弓は物足りなくなったらまた買いにきな。まずはそれで経験を積むといい」
「分かったよ、おっちゃん。ありがとう」
装備が揃ったので、町の外へ行って弓と魔法の練習をしよう。
ついでにギルドで簡単な依頼を受けていくか。
すぐにギルドへ戻って、薬草採取の依頼を取ってきた。
それから町を出て近くの薬草の群生地まで歩き、依頼分の薬草を集める。
王都にいる時もたまにやってたから、特に難しくもない。
やがて薬草が集まったので、魔法の練習をすることにした。
人目につかない所を探し、腰を落ち着ける。
「それではチャッピー先生、魔法の講義をお願いしま~す」
「うむ、よかろう。まず儂が扱えるのは火、水、風、土の4種類じゃ。威力は弱いが、4種全て使える者はめったにおらんのじゃぞ」
「そういえば、普通使えるのは1種類だけで、3種類も使えれば大魔術師だって聞いたことがあるな」
「そのとおり。じゃからひとつひとつ試しながら、適正を確認するがよい。まずは火じゃな」
それからチャッピーが右手のひらを上にして唱える。
「火よ」
すると彼の手の上に火が灯った。
手のひらから少しはなれた所に炎が浮いていて、不思議な光景だ。
「魔力を油のような燃料に変換し、それを燃やすイメージじゃな。ほれ、やってみい」
チャッピーに促され、俺も試してみる。
まず魔力を手のひらに集めると、それを油に換えるイメージを思い浮かべる。
そして着火。
「火よ」
正直、油に換わったのかどうかよく分からなかったが、火は灯った。
「ハハハッ、成功しちゃったよ……」
「うむ、使えんことはないようじゃな。それでは他もやってみるか」
その後、水、風、土と試してみると、全て上手くいった。
特に風と土のように身の回りに素材がある場合は、それに魔力を通して操作するというイメージがしやすい。
水や火にしても、目には見えないが素材は身の回りにあり、それを魔力で補って創り出しているんだそうな。
その身の回りの素材をもっと感じ取れれば、より大きな魔法が使えるようになるとのこと。
とりあえずはイメージしやすい風と土を伸ばして、火と水はおいおいやっていくことにしよう。
「でも俺が4属性全て使えるのって、凄いことなんだよね?」
「うむ、さすがエルフの血筋、と言いたいところじゃが、半分以上は儂の教え方のおかげじゃ。そもそも人間の使う一般的な魔法は、先人が発明した魔法を呪文で定式化しているに過ぎんのじゃ。しかし儂の場合は世界の理を体で感じつつ、ある程度、原理を理解して魔法を使っておる。じゃから複雑な呪文は要らんし、イメージ次第ではより強く複雑なことも実現可能じゃ。ま、儂のは妖精魔法と呼んだ方がいいかもしれんな。そしてそれをおぬしが使えるのは、使役契約による絆があるからじゃ」
そういえば、普通の魔法は長ったらしい呪文を使うって聞くな。
簡単にできたから、チャッピーのやり方が普通だと思ってた。
そしてそれを俺が使えるのは、使役スキルでコミュニケーションできているから。
言われてみれば、細かく説明されてもないのに、イメージが浮かんできたからな。
それって想像以上に凄いことだよな?
「って言うことは、あまり人前では使わない方がいいのかな?」
「そうじゃな。あまり目立つと魔術師ギルドに目をつけられるかもしれんな。バレた場合に備えて、精霊の助けを借りてるとか言い訳を考えておいた方がよいぞ」
「分かった。人前では、なるべく見せないようにしとこう。バレた場合の言い訳も考えとかないとな。なんにしても、チャッピーに教えてもらえてよかった。本当にありがとうな」
「これぐらい、お安い御用じゃ」
こうして俺は、初歩とはいえ魔法を覚えた。
今後はその腕を磨き、しっかりとものにしたいもんだな。
その後も魔法の練習を続け、夕暮れ前には町へ戻った。
宿に帰る前に、使役獣にできるような魔物がいないか、ギルドの依頼掲示板を覗いてみた。
今、討伐依頼が出てるのは、緑小鬼、恐暴狼、狂暴猪、犬頭鬼しかない。
ちなみに冒険者にはGからSまでのランクがあって、それに応じた依頼しか受けられない。
俺のランクはまだFなので、1個上のEランク指定までだ。
この中では、ゴブリンとダイアーウルフの依頼がそれになる。
とりあえず明日はゴブリンを狩ることにしよう。
数の多いゴブリン討伐は常時依頼で、事前に受け付ける必要もなくて楽だからね。