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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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68.魔族の介入

 狼牙団との決闘中、俺の背中に氷のような何かが突き刺さり、体が動かなくなった。

 まるで体の中に氷の塊が入り込み、体力を奪っていったかのようだ。

 思わずそこに崩れ落ちた俺をリューナやケレスが囲み、再び障壁が展開される。


「兄様、大丈夫?」

「グハッ、グゥーーーッ」


 意識が遠のきかけたところに、ふいに背中から温かいものが流れ込んできた。

 この感じは、しばしばお世話になっているチャッピーの治癒魔法だ。


「ゲホッゲホッゲホッ……ハア、ハア、ハア。チャッピー、ありがとう。助かったよ」

「うむ、儂の魔法が効いたようで何よりじゃ」

「フウッ……そういえば他のみんなは?」


 振り返ると、カインたちが苦しい戦いを続けていた。

 カインとサンドラは2人掛かりで攻め立てられ、レミリアも細い男の猛攻を受けている。

 リュートも狂ったような敵の攻撃に苦労していた。

 4人ともあちこちにケガをしていて、今にも倒れそうだ。


 その一方でシルヴァだけは獅子人の男を相手に、比較的余裕のある戦いをしていた。

 敵が力任せに斧を振り回すだけだから、それを避けて前足の爪で引っ掻く攻撃を繰り返している。


 さらにキョロはエルザと向かい合い、足止めをしてくれていた。

 エルザが黒い霞みたいなものをしばしば放つが、キョロはそれを避けながら雷撃を放っている。


「さっき俺が食らったのは、あの黒いのか?」

「そうじゃ、おそらく闇属性の魔法じゃろう」

「闇属性だって? 一体なんだってんだ……それよりも、一旦仲間を回収して態勢を立て直そう。今からカインのいる辺りまで移動して、障壁を張る。シルヴァにはキョロとレミリアを回収して、合流してもらおう。全員集まったら、しばらくはケレスに耐えてもらうからな……よし、行くぞ!」


 俺はその指示を念話でも飛ばしながら、駆けだした。

 同時に障壁が解除され、他のメンバーも俺の後に続く。

 カインたちにあと数歩まで迫ったところで、俺とリューナが石弾を連射した。


 石弾で致命傷を与えるのは難しくても、敵の体勢を崩すことには成功した。

 その隙にカイン、サンドラ、リュートが敵を押しのけ、こちらへ逃げてくる。

 彼らが合流した時点で一旦障壁を張り、チャッピーが治療に取りかかる。


 さらにシルヴァが神速の移動でキョロを口にくわえ、続いてレミリアの横をすり抜けた。

 その瞬間にレミリアがシルヴァの首にすがり付き、敵の攻撃から抜け出す。

 そのままシルヴァも障壁の隙間から内部に滑り込み、全員の合流が完了した。


 その途端、辛うじてシルヴァにしがみついていたレミリアが転げ落ちる。

 所々から血を流し、苦しそうに肩で息をしていた。


「チャッピー、レミリアの治療を先にしてもらえるか?」

「了解じゃ」


 すぐにチャッピーがレミリアの傷に手をかざすと、周辺が淡い光に包まれて修復が始まる。

 ようやく一息つけると思ったら、敵が障壁の周りに集まって攻撃を始めた。

 ガツン、ガツンと武器が障壁に叩き付けられ、さらにエルザの黒い何かも飛んでくる。


「ケレス、しばらく耐えられるか?」

「ウウッ、そんなに長くもたないよぅ」


 彼女は苦しそうな顔をしているが、まだしばらくは大丈夫そうだ。


「カインたちはどうだ?」

「ハアッ、ハアッ、まだ、やれます。しかし、もう少し、あのままだったら、やられていたかも、しれませんね」


 そう言うカイン、サンドラ、リュートも傷だらけだった。

 鉄並みと言われるほどの鬼人族の防御力も、あれだけの攻撃に耐えられるはずがない。

 3人とも激しく肩で息をしており、喋るのも辛そうだ。


「さて、ひと息ついたのはいいが、外の敵をどうするか、だな。チャッピーはあれが何か分かるか?」

「……おそらくエルザは、魔族に憑依されておるのじゃろう。闇魔法を使うのがその証拠じゃ。そして1度死んだ仲間を、アンデッドに変えて戦わせておる」

「なんだって、ここで魔族が出てくんだよ?」

「あやつ、先ほど何かを砕いておったじゃろう。時折、魔族はあのようなモノに、分身を封じることがあるらしいんじゃ。狼牙団を調べにいって感じた異様な気配も、それで説明がつく」


 チャッピーには狼牙団を調べてもらったものの、エルザに近寄ろうとするとすぐに察知され、思うように近づけなかったらしい。

 その異様な力に加え、扱いにくい荒くれどもを完璧に統御している辺り、何か特別な方法を使っていると睨んでいた。


「すると、魔族の分身を封じた何かをエルザが手に入れて、その影響力を使って野郎どもを束ねていた。そして仲間がやられた時点で分身を解放し、そいつに憑依されたってのか?」

「おそらくそんなところじゃろう。徐々に持ち主の心を操り、最後に体を乗っ取るのが常套手段らしいぞ」


 そんな話をしているうちにチャッピーが次々に治癒魔法を掛けていき、全員の治療が終わった。


「フウッ、我ながら呆れるほどの治りっぷりじゃわい。すまんが、魔力を分けてくれるか」

「ああ……それで、あれが魔族の分身だとして、倒す方法はあるのか?」


 チャッピーに魔力を注ぎながら聞くと、ニヤリと笑いながら答えた。


「儂じゃよ。儂の治癒魔法は、闇属性とは対極にある聖属性と呼べるものでな、これを奴に掛けてやれば効くはずじゃ。おそらく頭が一番効果的じゃろう」

「さすがチャッピー、男前だな。ひょっとして、外で暴れてる化け物にも効くか?」

「たぶん効くじゃろう。試しにやってみるか?」

「よし、やってみよう……障壁を解除すると同時に、みんなは全力で周りの奴らを押さえ込んでくれ。その間にチャッピーの魔法と、炎の短剣でとどめを刺していく。キョロはまたエルザを足止めして、ケレスはリューナを守ってやってくれ。それぐらいはまだできるだろ?」

「ウウッ、リューナだけならなんとかなると思うよう。クーーッ」


 いよいよ障壁を維持できなくなってきたケレスが、弱々しく答える。

 他のみんなも立ち上がって、武器や盾を構えて敵の攻撃に備えた。


「よしっ、障壁解除!」


 合図と同時に障壁が消え去り、化け物どもがなだれ込んできた。

 俺は目標に定めていた人族の男とすれ違いざま、そいつの脇腹に短剣を突っ込んで炎を開放した。

 腹部を一瞬で炭にされた体が、姿勢を維持できずに倒れ込む。

 上半身だけまだ動いていたので、延髄に短剣を突き込んで焼くと、そいつは2度目の死を迎えた。


 顔を上げると、カインと対峙していた獅子人の頭に、チャッピーが治癒魔法を叩き込んでいた。

 頭がうっすら光ったと思ったら、そいつが糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 どうやら治癒魔法も効くみたいだな。


 こうして数的にも優位に立った俺たちが、蹂躙を開始する。

 前衛陣が相手をしている敵に俺とチャッピーが忍び寄り、短剣で延髄を焼くか治癒魔法を掛けてやると、生きる死体リビングデッドがバタバタと倒れていった。

 最後の化け物を倒した俺たちは、エルザの正面に集合する。


「おい、エルザ。仲間はみんな始末したぞ。それとも、もうエルザじゃないのか?」

「クックックッ……そうだ、すでにこの女は私の支配下にある。それにしても、ずいぶんと邪魔をしてくれるじゃないか」


 その声はたしかにエルザのものだが、雰囲気がガラリと変わっていた。


「それはこっちのセリフだ。なんで、こんなことをする?」

「最初は迷宮の攻略が遅々として進まなかったので、ちょっと手助けをしただけだよ。私の分身が込められた首飾りを冒険者に見つけさせ、それを身に着けた者の背中を押していた。しかしこの女、弟が死んでから復讐心が暴走してしまってね。私もそういう感情は嫌いじゃないので、こうやってお手伝いをしているわけさ。しかし、妖精まで味方に付けているとは予想外だったな」

「お前、ひょっとして迷宮の管理者か?」

「おお、君はそれを知っているのかい? さすがはガルドのトップ冒険者だ……よろしい、君の実力をこの私に見せてくれたまえ」


 その言葉と同時に、黒い霞が俺たちに降り注いだ。

 しかし、少し休んで回復したケレスが張った障壁で弾き返した。

 するとエルザを乗っ取った魔人が、大仰に嘆いてみせる。


「おお、なんとも無粋な障壁じゃないか。しかし、そこに閉じこもっているだけでは何もできないぞ」

「チッ、たしかにそのとおりだ……なあ、チャッピー、お前の治癒魔法で俺を包み込めないかな?」

「ん? おそらくおぬしならばできると思うが、何をする気じゃ?」

「それは走りながら教えるよ。ケレス、一瞬だけ障壁を解除しろ」

「エーッ、大丈夫?」

「やれっ!」


 すぐに障壁が解除されると、チャッピーを左手に抱えて飛び出した。


(チャッピー、全身に治癒魔法を頼む)


 念話でお願いすると、すぐさま俺の体が治癒魔法の光に包まれた。


(こら、説明もせんと、飛びだすな。それで何をやる気じゃ?)

(このままエルザの懐に飛び込んで、チャッピーを奴の頭に叩き込む。同時に炎の短剣で息の根も止めてやるぜ)

(なるほど、上手くいけば倒せそうじゃの)


 俺に向かってバンバン霞が飛んでくるが、思ったとおり全く効かない。

 それに気づいたエルザが、剣を抜いて斬りかかってきた。

 俺はそれをギリギリで回避し、奴の顔に向けてチャッピーを投げつけた。

 

「グワアッ」


 剣で叩き落とそうとする動きをチャッピーが巧みに回避し、エルザの顔に取りついた。

 治癒魔法を発動したままのチャッピーにしがみつかれ、エルザが苦しそうな声を上げる。

 その隙に俺は懐に入り込み、心臓に短剣を突き込んで魔力を解放した。


「ギャーーーーッ!」


 ほほ一瞬で心臓を焼き尽くされたエルザが断末魔の叫びを上げ、そのまま後に倒れた。


「フーーッ、全く無茶するわい」


 チャッピーがエルザから離れ、目の高さまで飛び上がる。


「悪い悪い。だけどこいつ、本当に死んだ?」

「大丈夫じゃ。儂の治癒魔法を食らったうえに、心臓を壊されてポックリじゃ。魔族の分身も消え失せたわい」

「そうか、そいつはよかった。おーい、終わったぞ」


 そう言って仲間に手を振ると、みんなが一斉に駆け寄ってきた。


「ご主人様、大丈夫ですか?」

「「デイル様」」

「我が君」

「兄様」

「大丈夫だって、チャッピーに守ってもらったから。敵は完全に倒したから、決闘も終了だ」

「もう、本当に心配したんですよ。何も言わずに飛びだしてしまって……」


 そう言いながらしがみ付いてきたレミリアの頭を撫でてやる。


「心配させて悪かったな。だけど言えば止められるから、仕方なかったんだ」

「それにしたって……」

「結果的に倒せたんだから、良しとしますか。たしかに我々の全身を治癒魔法で覆うことは、不可能ですからね」


 そう、どうやらチャッピーの治癒魔法は、俺と仲間では効き方が違うのだ。

 俺だけは全身に治癒魔法が適用されるのに対し、仲間は部分的にしか治療されない。

 つまりさっきの治癒魔法の全身鎧は、俺にしか使えないと判断してての独断行だ。


 決闘を見届けていたコルドバと、もう1人のギルド員が寄ってきた。


「どうやら終わったようだな」

「ええ、死ぬかと思いましたよ」

「逆にずいぶんと盛大に殺したな。ここまでやると、お前の名前に傷が付くかもしれんぞ」

「敵は魔族、それも迷宮の管理者に操られていたんですよ。らなきゃ、こっちがやられてました」

「魔族だと? 道理で異常な戦いだったはずだ……それにしてもお前のパーティ、とんでもないな」

「これは他言無用ですよ。あなたたちのことは信用してますが、万一漏れたら容赦はしません。たしか、契約を交わしたうえでそれを破れば、殺されても文句が言えないはずでしたよね?」

「あ、ああ、もちろんだ。お前らを敵に回そうとは思わんよ」


 こうして、思わぬ魔族の介入という異常事態を、なんとか乗り越えた。

 あまり後味のよくない終わり方だったが、まずは生き残ったことを喜ぶとしよう。

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