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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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67.決闘

 狼牙団に決闘を申し込まれてから3日目の朝、俺たちはギルドの訓練場へ赴いた。

 その場にはすでに奴らと、ギルドの立会人が2人いた。

 立会人の1人はギルドマスターのコルドバであり、非常に苦々しい顔をしていた。


「よく逃げずに来たね。それじゃあ、契約を済ませちまおうか」


 余裕の表情でエルザが契約を促すと、立会人が羊皮紙を取り出し、秘密保持契約の魔法を行使した。

 これはこの決闘で得た情報を、他者に漏らさないように強制する魔法だ。

 破る方法が無いでもないらしいが、少なくとも立ち合い人には有効なはずなので、わざわざ金を払ってお願いした。


 俺たちは今からそれなりの戦力をさらけ出して戦わねばならないから、これは絶対に必要な処置だ。

 そして敵である狼牙団のメンバーは、皆殺しにする。

 向こうもそのつもりだろうから、容赦はしない。


 契約が終わり、決闘の注意事項が説明される。

 それも終わって開始の声が上がると、いよいよ決闘が始まった。


 対峙する狼牙団がそれぞれ武器を構える。

 奴らの構成はエルザを含む人族が5人、獅子人族が2人、虎人族が1人に狼人族が2人だ。

 全て戦士系と思われ、それぞれ剣や斧、戦棍メイスで武装し、半分は盾も持っている。

 さすがA、Bランク冒険者で構成されるだけあって、良い武器を使っているようだ。


 それに対して俺もキョロ、シルヴァ、バルカンを戦闘形態にさせると、驚きの声が上がった。


「ハハハッ、ただのペットじゃないだろうとは思ってたが、凄いもんだね。だけどあたしらも負けないよ」

「ハッ、俺たちに挑んだこと、後悔させてやるぜ」


 その言葉と同時に激突が始まった。

 エルザを除く9人の狼牙団が、俺たちに襲い掛かる。

 カインとサンドラに2人ずつ、レミリアとリュート、シルヴァに1人ずつ、そして狼人2人がこちらへ向かってきた。

 そんな中、キョロが奴らの足元を走り回りながら、雷撃をばら撒いていく。


「グアッ」


 雷撃を食らった奴がうめき声を上げ、動きが止まったところにカインたちが斬りかかる。

 しかし敵もさるもの、すぐに体勢を立て直して攻撃を防いでみせた。


 俺もこちらに来た狼人2人に風弓射ウインドショットを2連射したが、どちらも打ち落とされてしまう。

 しかしそれは想定済みだ。

 わずかに遅れて放たれたリューナの石弾とバルカンの火球が、奴らに命中した。


 石弾は鎧に弾かれたが、バルカンの火球が1人の鎧を焼き、拳大の穴をこしらえた。

 再び風弓射ウインドショットを2連射すると、火球を食らった奴の喉元をえぐり、絶命させた。


 さらに残った狼人にも風弓射ウインドショット、石弾、火球が降り注ぐ。

 そいつは2回ほど攻撃をしのいでいたが、やがて火球2連弾が腹に食い込むと、その場に崩れ落ちた。


 ここで前衛に目をやると、思った以上に苦戦していた。

 狼牙団の野郎どもは、筋肉ダルマの巨漢揃いだ。

 だから強いのは分かるのだが、武器を振り回す勢いが尋常じゃなかった。


 うちのメンバーは細身ばかりだが、狼人のレミリア、鬼人のカイン、サンドラ、竜人のリュートは見た目よりずっと力持ちだ。

 そんな彼らが防戦一方になってしまうほどの勢いで、敵が武器を振るう。

 まるで何かにかれているかのようだ。


 特に2人ずつ引き受けてるカインとサンドラが苦戦していた。

 暴風狼テンペストウルフ変化へんげしたシルヴァも、狂ったように戦斧を振り回す獅子人を攻めあぐねていた。

 さらに雷撃で敵を混乱させていたキョロは、エルザの弓矢攻撃で足止めされている。


 そこでカインと戦ってる虎人に風弓射ウインドショットを放ったが、やはり落とされた。

 こいつら、俺の矢をいとも簡単に落とすんだけど、どうなってるのかね。


 しかし続いて飛来した石弾と火球は避けられなかった。

 石弾は鎧の表面で弾かれたが、火球2連弾がそいつの腹に穴を開け、動きが止まった。

 すかさず風弓射ウインドショットで鎧の無い喉元に矢を撃ち込むと、そいつはぶっ倒れた。


「デイル様、ありがとうございます」


 俺たちの援護で減った敵に、カインが猛然とメイスを振るう。

 敵もメイスと盾を持つ人族だったので、似たような殴り合いになった。


 そちらはカインに任せ、今度はサンドラの相手の獅子人に矢を放つ。

 やはり矢は届かなかったうえ、石弾と火球までもが打ち落とされた。

 しかし剣で払われた火球が火の雨となって飛び散り、獅子人の体を焼く。


「グワーッ!」


 全身火だるまになった獅子人に風弓射ウインドショットを2連射すると、今度は仕留めることができた。


「助かったのじゃ、我が君」


 こちらも2人相手でストレスが溜まっていたサンドラが、残った人族に反撃する。

 相手もなかなかの剣士だったが、サンドラの方が強そうだったので後は任せた。


 次はレミリアの相手の剣士だ。

 人族の剣士は連中の中では細身だったが、素早いレミリアの動きに対応していた。

 高いところから振り下ろされる剣の攻撃に、レミリアが苦戦している。


 そいつに俺の矢とリューナ、バルカンの魔法が降り注いだが、全て無力化された。

 矢と石弾は打ち落としながら、バルカンの火球は上手く身を躱していた。

 さっきの獅子人が焼けたのを見て即座に対応するとは、勘のいい奴だ。


 そこで俺は一計を案じ、レミリア、リューナ、バルカンに念話で指示をした。

 まずリューナとバルカンが魔法を放つ。

 これを無力化した剣士にレミリアが攻撃を仕掛け、俺と剣士の間に割り込んだ。


 ここで俺は風弓射ウインドショットをレミリアの背中に向けて放ち、当たる寸前に彼女がそれを躱す。

 さすがにいきなり死角から現れた矢には反応できず、剣士の胸に矢が突き立った。

 これぞ、俺の使役リンクとレミリアの俊敏性あってこその神業だ。


「グアッ」


 そこへレミリアが矢を躱した勢いで、体を回転させながら双剣を叩き込む。

 右腕を斬られた剣士が辛うじてまだ戦っているものの、じきに勝負は着くだろう。


 シルヴァに目をやると、彼もいまだに戦斧を振り回す獅子人にてこずっていた。

 他の奴らもそうだが、あれだけ派手に動き回っていて、いまだに息切れもしていない奴らは異常だ。

 これはいよいよ、何かありそうだ。


 とりあえず俺の風弓射ウインドショットと、リューナたちの魔法攻撃を獅子人に叩き込んだ。

 そしたらこいつは、でかい戦斧の刃で攻撃を全て防ぎきってみせた。

 しかしそのわずかな隙にシルヴァが風の刃を放ち、獅子人に複数の傷を負わせる。

 ここで俺が放った矢の片方が獅子人の胸に命中し、動きが止まったところをシルヴァがとどめを刺した。


(かたじけない、主よ)

「シルヴァこそ、よくやった」


 この頃になるとリュートは自力で敵を倒し、他の3人の方も片が付きつつあった。

 カインは敵の頭にメイスを叩き込み、サンドラは盾ごと敵を切り裂いた。

 そしてレミリアもようやく敵の懐に入り、その喉首に双剣を叩き込む。


 残るはエルザ1人のみ――そう思った瞬間、奴の方から禍々しいものが吹き付けてきた。


「アハハハハッ、やるねえ。圧倒的じゃないか? ここまで差があるとは、あたしも思ってなかったよ、アハハハハッ」

「……やけに余裕そうじゃねえか? 言っとくが、命乞いは聞かないぞ」

「当たり前じゃないか。あたしには切り札があるのさぁ……」


 そう言いながらエルザが胸元から何かを取り出し、自分の手のひらに叩きつけた。

 パキャッという音と共に砕けた何かから黒いかすみが流れ出し、エルザの口の中へ入っていく。


「アハハハハッ、こいつは凄い。これが魔族の力かあ。アハハハハハ~~~~ッ」


 狂ったように笑い出したエルザの肌が青黒く変わり、その瞳が真っ赤な血の色に染まった。

 そして次の瞬間、彼女の口から黒い霞が吐き出され、倒したばかりの狼牙団の遺体に吸い込まれていく。


「みんな、注意しろっ! 何かあるぞ」


 エルザを囲もうとしていた前衛に声を掛けた瞬間、死んだはずの遺体がビクンと動き出した。

 それはまるで操り人形のようにギクシャクと立ち上がり、エルザと同じような真っ赤な目を俺たちに向けてくる。


「グガーーッ」


 とても人間とは思えないような雄たけびを上げ、奴らが襲いかかってきた。

 さっきまで圧倒的に優勢だったはずの俺たちが、一気に混乱に陥る。

 カイン、サンドラ、レミリア、リュート、そしてシルヴァに7体の化け物が迫る。


 奴らは生前の技のかけらも無く、ただ力いっぱいに武器を振るっていた。

 唸りを上げて迫る武器をカインとサンドラが盾で受け止めると、彼らの体が吹き飛ばされる。

 とんでもない力だ。


 レミリアにも細身の男が斬りかかっているが、こちらはむしろ技が無い分、脅威は少ない感じだ。

 実際に数合斬り合ったところでレミリアが男の横腹を切り裂いたが、そいつは何もなかったかのように動き続ける。

 それに動揺して動きの止まったレミリアに、男が剣を振るう。

 辛うじて避けた彼女だが、左腕を斬られて血を流していた。


 一方、俺の方へも2人の狼人が迫っていた。

 そいつらは俺が放った矢を食らっても平気で向かってくる。

 俺はすかさず弓を捨て、炎の短剣を抜きながら周りに指示を出した。


「リューナ、バルカン、左の奴に全力攻撃。ケレスはここを守れ」


 そう言いながら右の狼人に向かって走り出し、斬り結ぶふりをしながら右に飛んだ。

 狼人とすれ違いざまに脇腹に短剣を突き差し、魔力を解放する。

 その瞬間、短剣から迸った炎が、狼人の腹部を一瞬で焼き尽くした。

 ごっそりと腹部の肉と骨を失ったそいつは、体の上下が別々になって崩れ落ちる。


 リューナたちの方を見ると、ケレスが張った障壁に狼人がガンガンと剣を振るっている。

 そいつの胸には石弾が突き刺さり、腹には大きな穴が開いているというのに、だ。

 俺はそいつの背後に駆け寄ると、首筋に短剣を突き差してまた魔力を解放した。

 首周りが炭化したそいつの首が胴体から転げ落ちると、体も崩れ落ちた。


「兄様、危ないっ!」


 その瞬間、俺の背中に氷のような何かが突き刺さった。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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