65.2軍の奮闘
新人のBチームがオークと戦ったら、ドワーフのガムが攻撃を食らって吹き飛ばされた。
俺はチャッピーに治療をお願いしつつ、残りのメンバーにオークを囲むよう指示した。
すぐにみんなでオークを囲んだものの、ガムのケガを見て腰が引けてしまっている。
本来ならこの人数で負けるはずがないのに、ほとんど有効打が出なくなった。
しかもチェインは土捕縛の使い過ぎで、魔法が使えなくなるという体たらくだ。
仕方ないので彼女を呼び寄せ、代わりにリューナを送り出した。
当然、リューナは簡単にオークを転ばせたものの、ジードたちがピリッとしないので1回で仕留めきれない。
さらに2回目の転倒でも決着が付かず、3回目でようやく仕留められた。
しかもBチームはずいぶんと疲弊している。
「カイン、シルヴァとリュートを連れて、Aチームにもう1戦やらせてきてくれ。俺はこいつらと話し合う」
「分かりました。シルヴァ、次のオークまで案内してくれ。リュートとAチームは付いてこい」
カインたちが去るのを見届けると、Bチームを集めて車座になった。
「シュウ、なんだ今の戦闘は? だらしないぞ」
「そんなこと言ったって、組んだばかりのチームなんだから、こういうことだってあるよ」
「ああ、そうだ。だけどなんだ、さっきのは。あそこまでグダグダになるなんて情けないぞ」
すると、ケガをしたガムが謝罪してきた。
「す、すいません、デイルさん。おらが不注意だったから……」
「ああ、これからは気をつけるんだぞ。だけどシュウ、ガムのケガはお前にも責任があるぞ」
「そんな、なんで俺の責任になるんだよ!」
「やっぱり分かってなかったか。Aチームはちゃんとケンツが気を配ってたから、みんな無事だったんだぞ。それをお前は1匹目を倒しただけで、一緒に浮かれやがって。あの瞬間にみんなの気が緩んだから、ガムが攻撃を食らったんだ」
「ウグッ、それはそうかもしれないけど……」
「別にお前だけを責めるつもりはない。だけどリーダーってのはどんな時にも冷静で、全体に目を配らなきゃいけないんだ。チェインさんの魔力切れだって、お前が注意してやれば避けられたはずだ」
「……すみません」
ようやく理解したシュウが、肩を落として謝った。
「もちろん他の奴らにだって責任がある。何が悪かったかよく考えて、2度とこんなことを繰り返さないようにしろ!」
「「「……はい」」」
その後、オークの素材を剥ぎ取ってからAチームを追った。
使役リンクでなんとなく分かる方向と、残されていた目印をたどってようやく追いついた。
Aチームは2回目の討伐にも成功したらしく、すでに素材を剥ぎ取っているところだった。
「カイン、こっちは何事も無かったか?」
「はい、デイル様。彼らも慣れてきたのか、先ほどより早く倒してましたよ」
「そうか。ちょっと早いけど、野営に入ろうか。もうBチームが駄目そうだ」
「了解しました」
剥ぎ取りが終わってから、近くの行き止まり部屋へ移動して野営の準備をした。
ちょっと夕飯には早かったので、チームごとに今日の反省会をさせる。
俺はBチームの話を黙って聞いていたが、みんな遠慮してあまり話が進んでいない。
それに比べてAチームは賑やかなもんだ。
とうとう我慢できずに口を出した。
「お前ら、明日はどうするんだ?」
「どうするって、帰るんだろ? ガムがケガしてるから休ませないと」
「ふざけてんのか、シュウ。わざわざ深部まで来てオーク2匹だけ狩って帰るとか」
「それじゃあ、俺たち9人でやれってのかよ?」
「それも手だな。場合によっては1軍から助っ人を出してもいいが」
「そうか、それなら俺たちも戦える」
あからさまに安堵するシュウに、チェインが異を唱えた。
「待っとくれ。安易に1軍に頼るのは良くないよ。あたしらの責任でケガ人を出したんだから、9人でやろうよ」
「でも、盾役がいないとオークを引き留められないし……」
「盾はキャラが使えるよ。元々10人で挑むのが過剰戦力だったんだから、9人でもやれるさ」
「いや、でも余裕のない戦いは避けた方が……」
そしたらケガ人のガムが参加を申し出た。
「それならおらも参加するだ。無理に攻撃しないで避けるだけなら、なんとかなるだ」
「ああ、それなら――」
「駄目だ。一見、治ってるように見えるけど、痛みは残ってる。痛みに気を取られてまた攻撃を食らいかねないから、今回はおとなしくしてろ。シュウ、俺は9人でやるのがいいと思う。その方が緊張感が持てるし、成功した時の喜びも大きいだろう。それにお前たちには、それだけの力があると思うからな」
「デイルさん…………分かった。俺たちだけでやるよ。あんたの期待に応えてみせる……よし、今から練習だ。カインさんも手伝ってくれよ」
その後、体の大きいカインとサンドラにオークの役をやってもらって、模擬戦が始まった。
にわかに部屋の中が騒がしくなる。
そんな中、チェインが手持ち無沙汰で話しかけてきた。
「やれやれ、やる気になったのはいいけど、あたしは魔力切れで何もできないよ」
「ああ、それなら俺が補給してやるよ。そっち向いてみな」
「魔力を補給って、そんなことできる――ハウッ!」
チェインさんの背中から心臓の近くに手を当て、魔力を注いだ。
時折、彼女が上げる声が艶めかしい。
「こ、こんなことって、普通あるのかい? ンンッ!」
「普通の人間にもできんことではないが、デイルの補給効率の良さは異常じゃぞ。たぶん使役リンクのせいじゃろう」
「ああ、チャッピー、ちょうどよかった。チェインさんの魔力経路、整えてやってくれる?」
「うむ、そのつもりで来た」
そう言いながら、チャッピーがチェインの前に回って手を当てる。
彼お得意の魔力経路調整だ。
これをやると、魔力操作の能力が高くなって、魔法や魔力斬の威力が高まったりする。
そういえば、”女神の盾”の連中にはまだやってないので、後でひととおりやっておこう。
しばらく魔力を補給してチェインさんを解放すると、彼女も模擬戦に混じっていった。
普通に土捕縛が使えるようになっている。
治療の効果があったのか、多少反応が良くなっているように見えないでもない。
その後、夕食を挟んでからも彼らの練習は続いた。
どうやらみんなやる気になってくれたみたいだから、明日は期待できそうだ。
翌日も朝からオークを探し歩き、発見するとすぐに戦闘に突入した。
3匹いたのでまたリュートに間引いてもらい、Bチームが挑み掛かる。
攻撃班と牽制班に分かれ、それぞれオークを囲む。
ちょっと気負っているようだが、昨日よりは落ち着いているように見えた。
特にチェインさんは別人のように落ち着いていて、魔法を無駄撃ちしていない。
やがて攻撃班に翻弄されたオークが大きく振りかぶると、彼女の魔法が発動した。
「土捕縛!」
掛け声と共にオークの足元が大きく陥没し、さらに土で絡め取る。
これで大きく姿勢を崩したオークが、地響きを立てて転倒した。
そこでジードたちが渾身の一撃を首筋にお見舞いする。
都合4回の斬撃を受けたオークの首が、大きく裂けて血が流れ始めた。
しかし彼らの未熟な魔力斬では倒しきれず、オークが再び立ち上がる。
ジードたちもそれを受けて仕切り直すが、集中力は切れてないようだ。
再び始まったオークとのダンスにもめげず、チェインさんの魔法が発動する。
転倒したオークに放ったジードの魔力斬が、とうとう首を半ばまで断ち切り、決着がついた。
当然、大きな歓声が上がったにも関わらず、さすがに今回はシュウは油断しなかった。
それまでもシュウたちは、4人だけでよくオークを押さえていた。
今回は攻撃をすっぱりと諦め、オークを牽制することに集中した結果だ。
やがてそこに攻撃班が加わり、最後のダンスが始まった。
ジードたちの攻撃を受けて激昂したオークが、大きく振りかぶった。
すかさずチェインが土捕縛を発動すると、足を捕られたオークが転倒する。
またまたジードたちの魔力斬が4連発したのだが、今回はそれで終わらなかった。
血を流し始めたオークの首筋に、シュウ、カレン、キャラが刃を叩き込んだ。
最後のキャラの剣が見事に延髄を断ち切り、オークが息絶える。
その途端、Bチームメンバーの歓声が爆発した。
俺の横で戦闘を見守っていたガムも彼らに駆け寄り、一緒に喜びを分かち合っていた。
彼らに近寄りながら、声を掛ける。
「今回は上手くやったな。Aチームにだってひけを取らなかったぞ」
「デイルさん……俺たちだけでもやれたよ。あんたの言うとおりだった。やって良かったよ、フグッ」
「ああ、がんばったな、シュウ。これからも頼むぞ」
涙ぐんでいるシュウの肩を叩き、労をねぎらってやる。
その後、剥ぎ取りをしているうちにまたAチームを狩りに送り出し、交互に戦闘を繰り返した。
結局、その日は両チーム共に3回のオーク戦を終えて野営をした。
これだけオークを倒すとさすがに荷物がいっぱいになったので、翌日は早々に帰還した。
そしてオーク24匹分の素材を売却すると、金貨29枚近くの収入になった。
当然、その日は自宅で焼肉パーティだ。
俺はオーク肉を食いながら、チェイン、ヒルダと話をした。
「どうだい、チームの状況は?」
「ああ、Aチームはどんどん強くなってるよ。ようやく1回転ばせただけで倒せるようになってきた」
「Bチームはもうちょっとだね。だけどシュウに責任感が出てきたから、まとまりが良くなってるよ」
「そいつはよかった。そろそろ3匹の群れでもいけるかな?」
「うーん、それは難しいんじゃないかな。たぶん魔鉄の武器を持てばやれるだろうけど」
「そうだね、ちょっとまだ攻撃力に不安があるかねえ」
2人とも、まだオーク3匹を相手するのには慎重だった。
「そうか、じゃあもう1回ぐらい潜って軍資金を稼いだら、セイスに行こうか」
「ああ、セイスならいい武器が手に入りそうだね」
「実は、すでに行きつけの武具屋に手紙で注文を出してあるんだ。ヒルダたちにも買ってやるぞ」
「うひょうっ、さっすがトップ冒険者。よっ、太っ腹。俺もとうとう魔鉄武器を持てるのかぁ」
「あたしは後衛だから無理かねえ」
「大丈夫、チェインさんにはいい弓と、新しいローブを買ってやるよ。ニードルスパイダーの糸で作った新作だ」
「あんた……本当に金持ってるんだねえ。まあ、5層を突破したんだから当たり前か……」
彼女たちが呆れたような顔で俺を見る。
2軍メンバーにはもっともっと強くなってもらうつもりなので、これぐらいの出費、どうってことない。
新人だけでどこまで行けるのか、これから楽しみだ。




