表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/87

65.2軍の奮闘

 新人のBチームがオークと戦ったら、ドワーフのガムが攻撃を食らって吹き飛ばされた。

 俺はチャッピーに治療をお願いしつつ、残りのメンバーにオークを囲むよう指示した。


 すぐにみんなでオークを囲んだものの、ガムのケガを見て腰が引けてしまっている。

 本来ならこの人数で負けるはずがないのに、ほとんど有効打が出なくなった。

 しかもチェインは土捕縛アースバインドの使い過ぎで、魔法が使えなくなるというていたらくだ。


 仕方ないので彼女を呼び寄せ、代わりにリューナを送り出した。

 当然、リューナは簡単にオークを転ばせたものの、ジードたちがピリッとしないので1回で仕留めきれない。

 さらに2回目の転倒でも決着が付かず、3回目でようやく仕留められた。

 しかもBチームはずいぶんと疲弊している。


「カイン、シルヴァとリュートを連れて、Aチームにもう1戦やらせてきてくれ。俺はこいつらと話し合う」

「分かりました。シルヴァ、次のオークまで案内してくれ。リュートとAチームは付いてこい」


 カインたちが去るのを見届けると、Bチームを集めて車座になった。


「シュウ、なんだ今の戦闘は? だらしないぞ」

「そんなこと言ったって、組んだばかりのチームなんだから、こういうことだってあるよ」

「ああ、そうだ。だけどなんだ、さっきのは。あそこまでグダグダになるなんて情けないぞ」


 すると、ケガをしたガムが謝罪してきた。


「す、すいません、デイルさん。おらが不注意だったから……」

「ああ、これからは気をつけるんだぞ。だけどシュウ、ガムのケガはお前にも責任があるぞ」

「そんな、なんで俺の責任になるんだよ!」

「やっぱり分かってなかったか。Aチームはちゃんとケンツが気を配ってたから、みんな無事だったんだぞ。それをお前は1匹目を倒しただけで、一緒に浮かれやがって。あの瞬間にみんなの気が緩んだから、ガムが攻撃を食らったんだ」

「ウグッ、それはそうかもしれないけど……」

「別にお前だけを責めるつもりはない。だけどリーダーってのはどんな時にも冷静で、全体に目を配らなきゃいけないんだ。チェインさんの魔力切れだって、お前が注意してやれば避けられたはずだ」

「……すみません」


 ようやく理解したシュウが、肩を落として謝った。


「もちろん他の奴らにだって責任がある。何が悪かったかよく考えて、2度とこんなことを繰り返さないようにしろ!」

「「「……はい」」」


 その後、オークの素材を剥ぎ取ってからAチームを追った。

 使役リンクでなんとなく分かる方向と、残されていた目印をたどってようやく追いついた。

 Aチームは2回目の討伐にも成功したらしく、すでに素材を剥ぎ取っているところだった。


「カイン、こっちは何事も無かったか?」

「はい、デイル様。彼らも慣れてきたのか、先ほどより早く倒してましたよ」

「そうか。ちょっと早いけど、野営に入ろうか。もうBチームが駄目そうだ」

「了解しました」


 剥ぎ取りが終わってから、近くの行き止まり部屋へ移動して野営の準備をした。

 ちょっと夕飯には早かったので、チームごとに今日の反省会をさせる。

 俺はBチームの話を黙って聞いていたが、みんな遠慮してあまり話が進んでいない。

 それに比べてAチームは賑やかなもんだ。


 とうとう我慢できずに口を出した。


「お前ら、明日はどうするんだ?」

「どうするって、帰るんだろ? ガムがケガしてるから休ませないと」

「ふざけてんのか、シュウ。わざわざ深部まで来てオーク2匹だけ狩って帰るとか」

「それじゃあ、俺たち9人でやれってのかよ?」

「それも手だな。場合によっては1軍から助っ人を出してもいいが」

「そうか、それなら俺たちも戦える」


 あからさまに安堵するシュウに、チェインが異を唱えた。


「待っとくれ。安易に1軍に頼るのは良くないよ。あたしらの責任でケガ人を出したんだから、9人でやろうよ」

「でも、盾役がいないとオークを引き留められないし……」

「盾はキャラが使えるよ。元々10人で挑むのが過剰戦力だったんだから、9人でもやれるさ」

「いや、でも余裕のない戦いは避けた方が……」


 そしたらケガ人のガムが参加を申し出た。


「それならおらも参加するだ。無理に攻撃しないで避けるだけなら、なんとかなるだ」

「ああ、それなら――」

「駄目だ。一見、治ってるように見えるけど、痛みは残ってる。痛みに気を取られてまた攻撃を食らいかねないから、今回はおとなしくしてろ。シュウ、俺は9人でやるのがいいと思う。その方が緊張感が持てるし、成功した時の喜びも大きいだろう。それにお前たちには、それだけの力があると思うからな」

「デイルさん…………分かった。俺たちだけでやるよ。あんたの期待に応えてみせる……よし、今から練習だ。カインさんも手伝ってくれよ」


 その後、体の大きいカインとサンドラにオークの役をやってもらって、模擬戦が始まった。

 にわかに部屋の中が騒がしくなる。

 そんな中、チェインが手持ち無沙汰で話しかけてきた。


「やれやれ、やる気になったのはいいけど、あたしは魔力切れで何もできないよ」

「ああ、それなら俺が補給してやるよ。そっち向いてみな」

「魔力を補給って、そんなことできる――ハウッ!」


 チェインさんの背中から心臓の近くに手を当て、魔力を注いだ。

 時折、彼女が上げる声がなまめかしい。


「こ、こんなことって、普通あるのかい? ンンッ!」

「普通の人間にもできんことではないが、デイルの補給効率の良さは異常じゃぞ。たぶん使役リンクのせいじゃろう」

「ああ、チャッピー、ちょうどよかった。チェインさんの魔力経路、整えてやってくれる?」

「うむ、そのつもりで来た」


 そう言いながら、チャッピーがチェインの前に回って手を当てる。

 彼お得意の魔力経路調整だ。

 これをやると、魔力操作の能力が高くなって、魔法や魔力斬の威力が高まったりする。

 そういえば、”女神の盾”の連中にはまだやってないので、後でひととおりやっておこう。


 しばらく魔力を補給してチェインさんを解放すると、彼女も模擬戦に混じっていった。

 普通に土捕縛アースバインドが使えるようになっている。

 治療の効果があったのか、多少反応が良くなっているように見えないでもない。


 その後、夕食を挟んでからも彼らの練習は続いた。

 どうやらみんなやる気になってくれたみたいだから、明日は期待できそうだ。





 翌日も朝からオークを探し歩き、発見するとすぐに戦闘に突入した。

 3匹いたのでまたリュートに間引いてもらい、Bチームが挑み掛かる。

 攻撃班と牽制班に分かれ、それぞれオークを囲む。


 ちょっと気負っているようだが、昨日よりは落ち着いているように見えた。

 特にチェインさんは別人のように落ち着いていて、魔法を無駄撃ちしていない。

 やがて攻撃班に翻弄されたオークが大きく振りかぶると、彼女の魔法が発動した。


土捕縛アースバインド!」


 掛け声と共にオークの足元が大きく陥没し、さらに土で絡め取る。

 これで大きく姿勢を崩したオークが、地響きを立てて転倒した。

 そこでジードたちが渾身の一撃を首筋にお見舞いする。


 都合4回の斬撃を受けたオークの首が、大きく裂けて血が流れ始めた。

 しかし彼らの未熟な魔力斬では倒しきれず、オークが再び立ち上がる。

 ジードたちもそれを受けて仕切り直すが、集中力は切れてないようだ。


 再び始まったオークとのダンスにもめげず、チェインさんの魔法が発動する。

 転倒したオークに放ったジードの魔力斬が、とうとう首を半ばまで断ち切り、決着がついた。

 当然、大きな歓声が上がったにも関わらず、さすがに今回はシュウは油断しなかった。


 それまでもシュウたちは、4人だけでよくオークを押さえていた。

 今回は攻撃をすっぱりと諦め、オークを牽制することに集中した結果だ。

 やがてそこに攻撃班が加わり、最後のダンスが始まった。


 ジードたちの攻撃を受けて激昂したオークが、大きく振りかぶった。

 すかさずチェインが土捕縛アースバインドを発動すると、足を捕られたオークが転倒する。

 またまたジードたちの魔力斬が4連発したのだが、今回はそれで終わらなかった。


 血を流し始めたオークの首筋に、シュウ、カレン、キャラが刃を叩き込んだ。

 最後のキャラの剣が見事に延髄を断ち切り、オークが息絶える。


 その途端、Bチームメンバーの歓声が爆発した。

 俺の横で戦闘を見守っていたガムも彼らに駆け寄り、一緒に喜びを分かち合っていた。

 彼らに近寄りながら、声を掛ける。


「今回は上手くやったな。Aチームにだってひけを取らなかったぞ」

「デイルさん……俺たちだけでもやれたよ。あんたの言うとおりだった。やって良かったよ、フグッ」

「ああ、がんばったな、シュウ。これからも頼むぞ」


 涙ぐんでいるシュウの肩を叩き、労をねぎらってやる。

 その後、剥ぎ取りをしているうちにまたAチームを狩りに送り出し、交互に戦闘を繰り返した。

 結局、その日は両チーム共に3回のオーク戦を終えて野営をした。





 これだけオークを倒すとさすがに荷物がいっぱいになったので、翌日は早々に帰還した。

 そしてオーク24匹分の素材を売却すると、金貨29枚近くの収入になった。


 当然、その日は自宅で焼肉パーティだ。

 俺はオーク肉を食いながら、チェイン、ヒルダと話をした。


「どうだい、チームの状況は?」

「ああ、Aチームはどんどん強くなってるよ。ようやく1回転ばせただけで倒せるようになってきた」

「Bチームはもうちょっとだね。だけどシュウに責任感が出てきたから、まとまりが良くなってるよ」

「そいつはよかった。そろそろ3匹の群れでもいけるかな?」

「うーん、それは難しいんじゃないかな。たぶん魔鉄の武器を持てばやれるだろうけど」

「そうだね、ちょっとまだ攻撃力に不安があるかねえ」


 2人とも、まだオーク3匹を相手するのには慎重だった。


「そうか、じゃあもう1回ぐらい潜って軍資金を稼いだら、セイスに行こうか」

「ああ、セイスならいい武器が手に入りそうだね」

「実は、すでに行きつけの武具屋に手紙で注文を出してあるんだ。ヒルダたちにも買ってやるぞ」

「うひょうっ、さっすがトップ冒険者。よっ、太っ腹。俺もとうとう魔鉄武器を持てるのかぁ」

「あたしは後衛だから無理かねえ」

「大丈夫、チェインさんにはいい弓と、新しいローブを買ってやるよ。ニードルスパイダーの糸で作った新作だ」

「あんた……本当に金持ってるんだねえ。まあ、5層を突破したんだから当たり前か……」


 彼女たちが呆れたような顔で俺を見る。

 2軍メンバーにはもっともっと強くなってもらうつもりなので、これぐらいの出費、どうってことない。

 新人だけでどこまで行けるのか、これから楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ