64.新チーム始動
新しく偽竜のグレイとアイスを手に入れた俺は、すぐに迷宮都市に舞い戻った。
戻ってまずやったのは、2軍の再編だ。
Aチーム
ケンツ、ヒルダ、アレス、レーネ、ガル、ナムド、ダリル、メイサ、ケシャ、グレイ
Bチーム
シュウ、チェイン、ジード、ザムド、ガム、アイラ、キャラ、カレン、アニー、アイス
ちょうど10人ずつ2チームに分け、ケンツとシュウをそれぞれリーダーとした。
そして、ベテランのヒルダとチェインにはサポートをお願いしてある。
本来ならヒルダとチェインにリーダーを任せるところだが、俺はあえてケンツとシュウの育成を選んだ。
これには彼女たちも納得してくれている。
次にBチームの後衛として、チェインを鍛えた。
「本当にあたしが魔法を使えるようになるのかい? 昔、才能ないって言われたんだけどねえ」
「まず俺たちが妖精魔法を教えてから、精霊と契約すれば攻撃魔法も使えるようになるよ」
「精霊と契約って、それが簡単にできれば苦労はしないよ」
「エルフ系の種族は元々交信能力が高いから、精霊が認識できれば契約が可能なんだ。実際にレーネとセシルはこの手で魔法使いになってるから、チェインさんも大丈夫だよ」
「でも……」
「ゴチャゴチャ言ってないで、練習始めるぞ」
まずは魔力操作を教えるとやはり飲み込みが早く、結局1日でひととおりの妖精魔法が使えるようになった。
「よし、それじゃあリューナ、チェインさんに土精霊を紹介してやってくれ」
「はいです、兄様」
リューナが感覚を共有して精霊を紹介すると、チェインとノームの契約がつつがなく終了した。
「本当に契約できちまったよ……故郷の同胞が聞いたら、泣いて悔しがりそうだね」
「言ったとおりだったろ? 今日はもう帰るけど、明日から攻撃魔法を覚えてもらうから頼むぞ」
「もちろんだよ。何から何まで本当に世話になるね」
「しっかり働いてくれればそれでいいさ……ヒルダ、そっちの方はどうだ?」
カインたちと一緒に模擬戦をしていたヒルダが、こちらへ寄ってきたので声を掛ける。
「いやー、やっぱり”妖精の盾”は強いね。新人も力が強いから、鍛えればもっと強くなるよ」
そう言ってヒルダが気持ち良さそうに汗を拭う。
しまいには、鎧を脱いであられもない姿を晒す始末だ。
「おいおい、ヒルダ。もうちょっと人目を気にしろよ。ジードたちが困ってるじゃないか」
「い、いや、別に俺は……」
ようやく周りの目に気が付いたヒルダが、申し訳程度に体を隠す。
「アハハハハッ、ごめんごめん。みんな使役リンクでつながってるから、家族みたいにしか思えなくってさ。すげえ安心できるんだよ」
「ほんと、そうですよね。今まではちょっと気を許すと、すぐに手を出されそうで気が休まらなかったのに」
ヒルダの言葉に、若いメイサが同意していた。
”女神の盾”の連中は、今まで粗野な男性冒険者の中でいろいろ苦労してきたのだろう。
しかし俺たちは使役リンクでつながっていて親密度が高いから、そんな不安は無い。
たとえ邪なことを考えても、すぐにそれがなんとなく伝わってしまうので、悪さのしようがないってのもある。
「それは良かった。でも女性陣が増えて刺激が増えるから、ジードたちにも発散させてやらないといけないな。カイン、お願いできるか?」
「お任せください、デイル様。おい、お前ら、お許しが出たから、今晩は色街に連れてってやるぞ」
「うおお、マジっすかぁ。デイル様、あざーっす」
「「「あざーっす!」」」
「ああ。でもほどほどにしとけよ」
色街と聞いて野郎どもが色めき立っている。
俺はレミリアに許してもらえないので行ってないが、カインはそこの常連だ。
今晩、童貞を卒業する奴が何人か出るのかもしれない。
「ヴモー」
そこにドラゴが、グレイとアイスを引き連れて戻ってきた。
ドラゴは後輩ができたことに張り切っており、率先して訓練をしている。
模擬戦にも加わったりして、いろいろ教えてるようだ。
「ドラゴもご苦労さん。リンゴ食うか?」
「ヴモー」
「「ブモー」」
リンゴを取りだしたら、ドラゴだけでなくグレイたちも駆け寄ってきた。
みんなにリンゴをあげると、シャクシャクと美味そうに食っている。
「グレイたちは使えそうかな? カイン」
「ええ、ドラゴほどではありませんが、意外に戦えますよ。ドラゴのように魔力防御を覚えたら、けっこう頼りになるかもしれません」
「そいつは良かった。ドラゴも頼むぞ」
「ヴモー」
そう言って撫でてやったら、嬉しそうに鼻を擦りつけてきた。
「フェイクドラゴンまで戦力にしようってんだから、つくづく常識外れだね、デイルさんは」
「まあ、普通のフェイクドラゴンは臆病だから、戦えるなんて思わないだろうな。でも彼らには強靭な四肢と角があるから、やれないことはないんだ」
フェイクドラゴンはその見た目や鱗がトカゲに似ているが、体の構造はけっこう違う。
トカゲは脚が体の横に出ているが、フェイクドラゴンは体の真下に伸びている。
だから重い体も支えやすいし、けっこう速く走れる。
それでいて鱗は硬いし、さらに魔力で強化できるとなれば、心強い前衛にもなり得るのだ。
それから2日も訓練をするとだいぶ形になってきたので、翌日から2層に潜った。
まず深部に向かう途中に出会ったゴブリンやコボルドは、グレイとアイスに蹂躙させた。
本来はおとなしい魔物のはずなのに、武器を持って襲いかかる敵には容赦しない。
バキバキと魔物を踏み潰しているうちに自信が付いたのか、さらに積極的に戦うようになってきた。
深部に到着してオークを探すと、すぐに2匹のオークが見つかった。
まずはそいつにAチームが挑戦する。
事前の作戦どおり、攻撃班と牽制班に分かれてオークを分断した。
攻撃班はアレス、ナムド、ダリル、ヒルダが、レーネの支援を受けてオークを倒す役割。
そして牽制班はケンツ、ガル、メイサ、ケシャ、グレイが、もう1匹のオークを足止めする。
実際にやらせてみると、初めてにしてはよくやっていた。
攻撃班は最初、オークの疲労を誘い、転倒させてからのサンドラ斬りを狙っていた。
ベテランのヒルダが指揮しているので、攻撃班の動きに安定感が感じられる。
やがて頃合いと見たレーネが土捕縛を発動し、オークの足を取った。
転倒したオークの首筋に、アレスたちの魔力斬が叩き込まれる。
それなりに刃が通るようになっているが、最も大きなダメージを与えたのはヒルダだった。
彼女は俺たちの指導を受けて間もないというのに、他の新人の誰よりも魔力斬を使いこなしている。
彼女の10年近い経験と、猛烈な訓練の成果だろうか。
いずれにしろヒルダの魔力斬に首を半ばまで断たれ、1匹目のオークが沈黙した。
その間に牽制班も頑張っていた。
防御の堅いガルとグレイが正面を引き受け、他がチクチクと攻撃してオークの疲労を誘っている。
敵に致命傷を与える必要がないと分かっているので、わりと気楽に立ち向かえているようだ。
1匹目が倒れると、2匹目も攻撃班に引き継がれた。
すでにオークが疲労しているので、すぐに土捕縛が極まる。
今回も最後に打ち込まれたヒルダの剣が決め手になった。
無事にオークを討ち取ったAチームに近寄りながら、話しかける。
「ご苦労さん。だいぶオークとも戦えるようになったな」
「ヒルダさんのおかげで、だいぶ楽に戦えるようになりましたよ。役割を分担したから、足止めもあんまり怖くなかったし」
リーダーのケンツが嬉しそうに答える。
「そんなことないさ。組んでからまだ数日のチームが、こんなに連携できるのが驚きなのさ。まるで10年来の仲間みたいだよ」
功労者のヒルダが、やはり嬉しそうに話す。
しかしその横では、アレスたちが少し悔しそうな顔をしていた。
「どうした、アレス。いまだにオークの防御を破れないのがそんなに悔しいか?」
「……そのとおりっす。やっぱり俺は才能ないんすかね?」
「そんなことないさ。今日のヒルダの攻撃だって、お前たちがダメージを蓄積したおかげだぞ。なあ、サンドラ」
「我が君の言うとおりじゃ。着実にお前たちも成長しているのだから、そう腐るな」
「ほ、本当っすか?」
「ああ、それなりにオークを傷付けられるようになったら、魔鉄製の武器を買ってやる。そうなったらオークなんか敵じゃなくなるからな。もっと上を目指せよ」
「うおー、ようやく魔鉄武器をもらえるんすね? よし、お前ら頑張ろうぜっ」
アレスやナムドたち前衛が、がぜんやる気になっていた。
するとケンツから質問が出る。
「兄貴、牽制班は何を目標にすればいいですかね?」
「お前たちは敵の攻撃を食らわずに、急所に武器を当てられるようになってくれ。そうすれば魔鉄製の武器も支給しよう。それから弓の腕前を上げるのと、ケンツやシュウ、ケシャは探知能力も磨くようにな」
「うわー、やることいっぱいだぁ」
「そうだ。たとえ硬い敵にダメージを与えられなくても、できることはいくらでもある。チーム全体で敵に立ち向かうんだ」
「「「はいっ!」」」
Aチームに気合いが入ったところで素材を剥ぎ取り、次はBチームの敵を探した。
しばらく探すと3匹のオークが見つかったので、1匹を間引くことにした。
「リュート、1匹だけ倒して戻ってきてもらえるか?」
「はい、デイル様」
そう言うや否や、リュートが1人で飛び出していって手近なオークに斬りかかった。
巨大な塊剣が片手剣のようにひらひらと舞い踊り、オークに叩きつけられる。
実はあれ、当たる瞬間に重みを増しているので、攻撃力が物凄いことになっている。
魔力斬を使わなくともオークの防御を打ち破り、10回足らずの攻撃でオークが血の海に沈んだ。
残りの2匹があっけにとられているうちにリュートが引き上げ、入れ替わりにBチームがオークと対峙する。
こちらの攻撃班はジード、ザムド、アイラ、アニーをチェインさんがサポートし、牽制にはシュウ、ガム、キャラ、カレン、アイスが当たる。
1匹を牽制班が引き付けている間に、ジードたちがもう1匹を囲んで攻撃し始めた。
こっちは獅子人のジードの強さが頭ひとつ抜けているものの、チェインがまだ魔法に不慣れなのが悩みのタネだ。
黙って見てたら、チェインが土捕縛を乱発し始めた。
まだオークが疲れてないので転ばせるには至らないが、オークの注意を逸らす役には立っているようだ。
そこにジードたちがガンガン攻撃を仕掛けていたら、とうとうオークが土捕縛に捕まって転倒した。
ここぞとばかりに首筋に剣を叩き込むと、オークの首から血が流れ出す。
まだ致命傷ではないので立ち上がられたが、奴はもう瀕死に近い。
案の定、再びオークを転倒させると、ようやくジードの一撃で決着が付いた。
しかし、直後に攻撃班から上がった歓声で、チーム全体の気分が一瞬だけ緩んだ。
その隙に振るわれたオークのこん棒が、ドワーフのガムを引っかけた。
ガムは辛うじて盾で防いだものの、ボロ屑のようにふっ飛ばされる。
「チャッピー、ガムの治療を頼む。シュウ、ジード、惚けてないでオークを囲め!」
やはりいいことばかりは続かないな。




