63.2軍再編
2層で新人を鍛えていたら、他のパーティに襲われていた”女神の盾”を助けることになった。
しかも死にかけていたヒルダを救うため、彼女たちとも使役契約を結ぶはめになる。
おかげで新たな仲間が8人も増えてしまった。
彼女たちを保護した翌日、ヒルダも歩けるようになっていたので、さっさと地上に戻ってきた。
とりあえず俺の家に彼女たちを連れていき、今後のことについて話し合う。
ちなみに仲間に加わったのはこんなメンバーだ。
ヒルダ:人族。25歳。3層経験者
キャラ:人族。22歳。
カレン:人族。20歳
メイサ:人族。17歳
チェイン:ダークエルフ。52歳。3層経験者
リズ:猫人族。19歳
ケシャ:狐人。17歳
アニー:狼人。16歳
チェインさんの年が図抜けて高いのには驚いた。
彼女はダークエルフだから、見た目は20歳そこそこにしか見えないのだ。
「さて、今日からあんたらも俺の傘下に入るわけだが、まずは目的を話しておこう」
「目的って、何か特別なものがあるのかい?」
「ああ、ズバリ言うと、俺は魔大陸に行って奴隷狩りをやめさせたいと考えている」
「へー、奴隷狩りをやめさせるとは、また大きく出たねえ。個人でどうこうできるもんでもないだろうに」
「まあ、普通に考えればそうだろうな。だけど俺も今すぐにってわけじゃない。その前にしっかり鍛えて強くなってから、魔大陸に渡ろうと思ってる」
「強くなるって、どれぐらいさ?」
「そうだな、例えばここの迷宮を完全攻略するとか、かな」
それを聞いた新メンバーが呆れたような顔をする。
「完全攻略ったって、ここの迷宮は何層まであるかだって分からないんだよ。それこそ夢物語じゃないか」
「そうかもしれない。だから必ずしもそれにこだわるつもりはないんだ。いずれにしても魔大陸には渡るから、それまでにできるだけ強くなって、金を貯めようぐらいの考えだ」
「ああ、そういえばあんたらは商売も始めたって話だね」
「ああ、迷宮で採れた物を港湾都市セイスで売って、あちらで仕入れた海鮮物をこの町で売っている。俺はAランクになって通行税取られないから、けっこう儲かるぞ」
普通、都市に入る時は持ち物に応じて税金を掛けられるが、貴族待遇の俺はそれが免除されるのだ。
「なるほど。それであたしらをどう使おうってんだい?」
「ああ、基本的には迷宮に潜ってもらうんだが、戦闘が苦手な娘には外の仕事も用意する。ま、それでも多少は鍛えさせてもらうがな」
「そいつは助かるね。実はリズだけは、優しすぎてこの仕事に向いてないと思ってたんだよ」
「チェインさんっ!」
話に出たリズが恥ずかしいような、困ったような表情を浮かべる。
「ああ、あの料理の上手い娘か。リズが加わるんだったら、レストランでもやってみるか? ケレス」
「うーん、やれないことはないだろうけど、セイスとの交易はどうするのさ?」
「ああ、それなんだが、チェインたちを含めて2軍を2チームに再編して、交互にセイスに行くってのはどうかな?」
「ああ、それならあたいらは商売に専念できるね」
「だろ? それで店のコンセプトなんだけど、冒険者の応援を掲げたいんだ」
「冒険者の応援? なんであたいらが、そんなことしなきゃいけないのさ?」
「この町には今、急激に冒険者が増えてるだろ? そんな中で探索が上手くいかなくて、食いっぱぐれてる奴も多いと思うんだ。そんな奴らに格安で食わしてやれるメニューを考えたらどうかな? それとチェインたちは、女性冒険者の相談に乗ってやるとかさ」
「あたしらが相談に乗る? そりゃあ、冒険者が増えれば、その裏で泣かされる女が増えるのは想像が付くけど、そんなのいちいち相手にしてたらきりがないよ」
否定的な表情でチェインが反論する。
「ああ、なんでもかんでも相談に乗ってたら、きりがないだろう。だけど誰にも相談できずに悩んでる人とか、いると思うんだ。だから俺たちの店に来れば、誰か相談に乗ってくれるって噂を流しとけば、少しは役に立つだろ?」
「そりゃあ、あたしらは女性冒険者の地位向上を目指してるから渡りに船だけど、いいのかい? そんなことしてる暇があるなら、迷宮に潜った方がいいと思うんだけど」
そんな問いに、俺は笑いながら答える。
「今後、俺の部下と組んで探索をすれば、あんたらもすぐに上位の冒険者になるだろう。そうなれば余裕もできるし、向こうも頼ってくるんじゃないかな」
「ずいぶんな自信だねぇ。何を根拠にそんなことが言えるのさ?」
「細かいことはおいおい教えていくけど、使役スキルとか魔法とか、いろいろあるのさ」
「……なるほど、あたしらが生きてること自体、奇跡みたいなもんなんだからね。十分に可能性はあるか……」
チェインがようやく納得したところで、ヒルダが聞いてきた。
「ひとついいかな、デイルさん。さっき、あんたらは魔大陸に渡るとか言ってたけど、全員付いてくことになるのかい?」
「……ん? ああ、ヒルダはこの国の生まれだから抵抗あるのか。もちろん行きたくないならそう言ってくれ。強制するつもりはない」
「そうか、安心したよ。こんなこと言うと恩知らずだと思われそうだけど、見知らぬ土地でやってく自信はないんだ」
「気にするな。その分、俺たちがいなくなるまでに、しっかり働いてくれればいい」
「もちろんだ。あんたは2度も命を救ってくれた大恩人だ。それにさっきの冒険者支援ってのも大賛成だから、精一杯働かせてもらうよ」
1度死にかけたせいなのか、それとも俺の使役術を受け入れたせいか、ヒルダが妙に素直になっていた。
ちょっと調子が狂うが、頑張ってくれるならいいだろう。
そう考えていたら、チェインがふざけるように話しかけてきた。
「あたしはずっとデイルさんに付いてくからね。できれば、あんたの女にして欲しいぐらいさ」
「……えっと、俺にはすでに2人いて、リューナも加わる予定なんだけどな」
「別にあたしは何番目でも構わないから、考えておいておくれよ」
「4番目ならいいのです」
リューナが4番目ならいいと勝手に許可を出しやがった。
それは俺が判断することだからな。
しかしこのチェインさん、普段は色気の無いふりをしているが、よく見ると妖艶な美女なのだ。
なんでも、以前はダークエルフの旦那さんと一緒に冒険者をしていたが、数年前に先立たれたらしい。
その後は成り行きで冒険者を続けていたが、男の目を避けるためにわざと地味に見える化粧をしてるんだと。
だから化粧を取って後ろにまとめてる髪をほどくと、すっげえ色っぽいんだぜ。
しかも胸がサンドラ並みにでかいなんて、そりゃ隠すしかないわな。
いずれ甘えさせてもらったり、するのかな?
その後もいろいろ話し合ってから、彼女たちは家に帰っていった。
当面、住む所は今までどおりにしておいて、状況に応じて引っ越しを考えている。
翌日、俺は新人の面倒をカインに任せ、草原都市ナジブに旅立った。
同行してるのはチャッピー、レミリア、シルヴァ、ドラゴだけで、その目的は新しい偽竜探しだった。
「フェイクドラゴンを戦闘に使うなんて、本当に上手くいくのでしょうか? ご主人様」
「ああ、たぶん大丈夫だよ。ドラゴの強さは知ってるだろ?」
「でも……」
すでに何度目かになるやり取りが、また始まった。
事の発端は、昨日の夕食時に俺が言いだしたことだ。
「チャッピー、新しいフェイクドラゴンが欲しいんだけど、どこにいるんだっけ?」
「ん? フェイクドラゴンか……たしか、以前行った草原都市ナジブの南方に広がる草原に、多く住んでいるのではなかったか?」
「ああ、あのギガントバイソンを狩ったとこ? ああいう所にいるのね」
「うむ。それで、フェイクドラゴンをどうするのじゃ?」
「2軍に組み込んで、迷宮攻略に使おうと思ってね」
「なんじゃと? いくら人手が足りんとはいえ、力不足ではないか?」
「そんなことないって。最近、ドラゴは戦ってるだろ?」
実は最近のドラゴはけっこう戦っていて、徐々に強くなってる。
以前、”天空の剣”と戦った時に魔法使いを跳ね飛ばしたのがきっかけで、何かに目覚めたらしい。
さすがに大物との戦闘には参加しないものの、移動中に雑魚を見つけた時などは、率先して突撃している。
もちろん10人ルールに引っかからないように注意しているが、意外に役に立っているというのが実感だ。
その強靭な四肢と鼻先の角で蹂躙するので、ソルジャーアントなんかは対処が楽になっている。
彼の体は拾った時よりひと回り大きくなり、角も3倍以上に伸びた。
しかも、体表を魔力で強化できるらしく、雑魚の攻撃などものともしない。
ケレスが抜けた穴を、2軍メンバーで埋めるつもりだったが、状況によってはドラゴでいいんじゃないかと思ってる。
というわけでナジブまで来たのだが、ほとんどのメンバーには、フェイクドラゴンなんか使えないんじゃないかと言われている。
俺の考えに賛同してるのはリュートぐらいのものだ。
あいつはドラゴと仲が良くて、いろいろと世話をしているからな。
「まあ、フェイクドラゴンは荷運びにも使えるから、試してみようぜ。まずは奴らを探さなきゃ。シルヴァは群れから離れてる奴を探してくれるか?」
(了解した、主よ。しかし群れのリーダーを使役した方が良いのではないか?)
「そんなことしたら、残された群れが可哀想だろ。それにはぐれ者は、シルヴァみたいに特殊な個体かもしれないしな」
(なるほど、さすがは主。慈悲深いな)
その後、シルヴァの探知能力で何匹かのはぐれドラゴンを見つけたのだが、俺は使役術を使わなかった。
「さっきの個体は何が悪かったのですか? ご主人様」
「うーん、あまり強くなりそうになかったから、かな」
「そんなことが分かるんですか?」
「なんとなくだけどね。人間になんか従ってたまるか、って感じの気概みたいなのがないと、駄目な感じがする」
そんなことを話していたら、また新たなフェイクドラゴンが見えてきた。
それは2匹一緒に行動しているようで、俺たちが近寄っても逃げなかった。
そいつらは体格は普通だったものの、色合いが少し変わっていた。
どちらもベースは茶色系なのだが、片方は灰色っぽくて、もう片方は青みがかかっている。
この体色のせいで仲間外れにされてるのかもしれない。
さらに近寄ると、さすがに警戒して角を掲げて威嚇してきた。
ドラゴほどではないが立派な角だ。
慌てずに2匹のフェイクドラゴンを観察すると、奴らは警戒しつつも敵意は見せていない。
実を言えば、俺はすでにこいつらを気に入っていた。
群れてもいないのに堂々と俺に向き合い、草を食ってる。
さすがに手を触れようとすると逃げるので、少し時間を掛けることにした。
「昼飯にしようか、レミリア」
「はい、ご主人様」
適当な所に座って昼飯を食い始めたが、2匹のドラゴンは無視して食事を続けていた。
「ヴモー」
「ああ、リンゴが欲しいのか?」
ドラゴはたまに果物を欲しがるので、持ってきたリンゴを食わしてやった。
すると、シャクシャクと美味そうにドラゴが食べるのを見て、2匹のドラゴンが興味を示した。
しばらく横目で見ていたが、やがて我慢できなくなったのかこっちに寄ってくる。
作戦成功だ。
こんなこともあろうかと、多めに持ってきたリンゴを差し出してみる。
灰色っぽい奴がフンフンと臭いをかいだ後、パクリと食らいついた。
それを見た青っぽい奴もねだってきたので、やはり食わしてやると美味そうに咀嚼する。
やがて10個もあったリンゴが無くなると、もっと無いのかと奴らが俺を嗅ぎ回る。
そろそろいいだろうと思って使役術を行使すると、2匹ともあっさり成功した。
「よし、2匹とも契約が成立したぞ」
「さすがですね、ご主人様。名前はどうするのですか?」
「そうだな…………灰色がグレイで、青い方はアイスにしよう」
「「ブモー」」
名付けたのが分かったのか、嬉しそうに鼻を擦りつけてくる。
たぶん気に入ってくれたんだろう。
さて、これで手札は揃ったから、帰って新人を鍛えるとしよう。
新チームが上手くいくといいんだが。




