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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第6層編

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61.オークの壁

 セイスで商売をしてガルドへ戻ってくると、新人たちが少し進歩していた。

 まずレーネの散弾魔法がようやく形になり、苦手なパラライズバットを撃退できるようになった。

 さらにシュウとケンツも探知能力を高め、不意の奇襲を食らわなくなったそうだ。

 留守を任せていたカインと相談し、いよいよ新人を2層深部へ進ませることにした。





 1、2軍混成の2パーティで2層へ潜ると、シルヴァの能力に任せて一気に深部へ移動した。

 やがて見つかった3匹のオークを実験台にする。


 まず俺、レミリア、サンドラ、バルカンのサポートで、アレス、アイラ、レーネ、ガル、ナムド、ダリルがオークに挑む。

 俺とバルカンがレーネを守り、レミリアとサンドラが1匹ずつオークを押さえてる間に、新人が残る1匹を倒す手はずだ。


 新人は果敢にオークに向かっていったが、その想像以上の硬さに驚いていた。

 彼らも魔力斬を使えるようになってはいるものの、まだまだ未熟でダメージを与えるには程遠い感じだ。

 それはレーネの魔力弾も同様で、簡単にオークの体に弾かれている。

 まだ先端に込める魔力が弱いのと、弾の速度も足りていないのだろう。


 とりあえず俺がお手本で1発ぶち込んでやったら、オークがいい感じに弱ったので、新人が総攻撃を仕掛けた。

 本気でやればオークも余裕で瞬殺できるんだが、訓練のために手加減したのが功を奏した。

 かなり弱ったオークを相手に、新人の剣がようやく通じるようになった。

 さらにレーネにも落ち着いて魔力弾を撃たせたら、ちゃんとダメージが入っている。


 それからしばらく踏ん張っていたオークだが、最後にアレスの魔力斬で力尽きた。

 しかし、この段階ですでに新人たちは疲労困憊ひろうこんぱい

 しばらくはまともに動けそうにないので、残りは俺たちが片付けることにした。


「サンドラ、そっちのオークを転がすから、サンドラ斬りな」

「了解じゃ、我が君」

「レーネ、よく見ておけよ。これが土捕縛アースバインドからのサンドラ斬りだ」


 地面に手を当てて念じると、サンドラが対峙するオークの足元が沈み、足が土に巻き込まれる。

 バランスを崩して倒れたオークの首筋にサンドラが剣を叩き込むと、あっけなく首が飛んだ。


「レミリア、そっちも片付けていいぞ。新人はよく見て参考にしろ」


 オークの始末を許可すると、今度はレミリアが本気を出した。

 新人に手本を示すよう言ってあるので、比較的狙いやすい急所を的確に攻撃していく。

 本来なら瞬殺も容易たやすいところを、わざわざ時間を掛けて倒してみせる。

 それでも、百を数えるくらいには終わっちゃったけどね。


 あまりの力量差に唖然とする新人を叱咤しったし、オークを解体させる。

 それを待ってる間に残りの新人と話をした。


「お前ら、今の見てどう思った?」

「どうもこうも、今の俺たちじゃ、全く歯が立ちそうにないじゃないすか」

「まともな冒険者がオークを避ける理由がよく分かりましたよ、ハハハッ」


 ケンツとシュウが情けない感想を述べる。

 お前らもこれから戦うんだけどな。


 解体を終えてから再びオークを探し、今度はカイン、リュート、リューナ、シルヴァ、キョロのサポートでシュウ、ジード、ザムド、ガム、ケンツに戦わせる。

 前回同様、カインとリュートが1匹ずつ押さえてる間に、新人が1匹を囲んだ。

 最初に新人にオークの硬さを体験させてから、リューナが魔力弾を撃ったら、当たり所が悪くて即死してしまった。


 仕方ないので、今度はカインが押さえていたオークにキョロが雷撃を放つ。

 それでいい具合に弱ったオークを新人が囲み、それぞれに魔力斬で仕留めようとしていた。

 しかし慣れない彼らでは、なかなか有効なダメージが与えられない。

 だいぶ待たされた挙句にようやくジードの一撃が致命傷となり、やがてオークが息絶えた。


 ようやく2匹目を倒したので、最後はリュートにお手本を示してもらう。

 彼もレミリア同様に的確にオークの急所を攻めたが、塊剣かいけんの豪快な破壊力をも見せつけた。

 アレスとほぼ同じ体格を持つリュートの戦い方は、新人たちの良い参考になるだろう。

 まあ、彼は見た目以上に強いんだけどね。


 オークを解体した後、少し早いが野営をすることにした。

 適当な行き止まり部屋を確保してから、野営の準備をする。

 それから採れたてのオーク肉を食べながら、反省会をした。


「アレス、オークの感想はどうだ?」

「ハグッハグッ、うめえ、この肉うめえ……あ、すんません。オークがメチャクチャ硬くて、驚いたっす」

「そうだろ? あれには最初、誰でも驚くんだ」

「でも、魔力斬を習ってるから、もう少しなんとかなると思ってたんすけどね」

「最初は妾もそんなものだったぞ。威力を高めるには集中しなければいかんからのう」

「サンドラさんでもですか?」

「そうだ、俺たちの中で最も魔力斬に長けたサンドラですら、最初はそれなりに苦戦していた。まあ、もっと経験を積んで、レベルが上がれば一瞬でできるようになるさ」


 ここでシュウが口を挟んできた。


「ということは、他の魔物を地道に狩ってレベルを上げるしかないんですよね。それとも、1軍のサポートで2層を攻略させてもらえたりするんですか?」

「いや、2層でそれをやるつもりはない。もちろん、最低限のサポートはするが、お前たちの知恵と工夫で倒せるようになって欲しいんだ」

「そんなの、無理ですよ……俺たちはデイルさんほど強くないんだ……」

「おいおい、最初から考えることを放棄してどうすんだよ。2層攻略時の俺たちに比べたら、お前らの方がよっぽど能力高いぞ」

「たしか、兄貴が初めてオークを倒したのは、レミリアさんにキョロ、シルヴァ、チャッピー、それと衰弱したカインさん、サンドラさんと一緒でしたよね?」

「ああ、そうだ。あの時は貧弱な魔力弾とサンドラ斬りで、なんとか倒したんだぞ。すでにそれ以上の武器を持っているお前らに、倒せないはずがないんだ。もっと頭を使え」

「……分かりました。シュウ、後でみんなと相談しようぜ」


 とりあえずケンツがまとめ役になって考えるらしい。

 少なくとも前向きになるのはいいことだ。


 その日は新人たちが遅くまで相談したり訓練をしたりしていた。





 翌日、ケンツたちが提案してきたのは、新人8人とベテラン2人でパーティを組み、1匹だけオークを残して新人に狩らせて欲しい、というものだった。

 少々甘いとも思ったが、彼らのやる気を評価してやらせてみた。


 やがて3匹のオークが見つかったので、カインとシルヴァに新人の子守を任せる。

 新人はガル、ガム、シュウを除く8人だ。

 とりあえず足の遅いドワーフを外して、回避と攻撃に集中するってところだろうか?


 戦闘開始後、あっという間にカインとシルヴァがオークを1匹ずつ片付けると、残った1匹を新人が囲む。

 予想したとおり、レーネ以外の獣人が動き回ってオークを翻弄している。


 ここでレーネが魔力弾を2発撃ったものの、相変わらず致命傷には程遠い。

 やがてケンツから指示が飛び、アレス、ジード、アイラが距離を置いて魔力斬の準備を始めた。

 たぶん昨日見せた、サンドラ斬りを狙っているのだろう。


 やがてケンツたちの挑発に乗って、オークがこん棒を大きく振り回した。


土捕縛アースバインド!」


 レーネの掛け声と共にオークが足を取られ、バランスを崩した。

 さすが、彼女は土精霊ノームと契約してるだけあって、この魔法はしっかりできている。

 オークがこらえきれずに転倒すると、アレスが雄たけびを上げながら斬りかかった。


 しかし彼の剣はオークの首に命中したものの、あっさり跳ね返される。

 その後もジードとアイラが同様に斬りかかったが、やはり表面しか切れていない。

 いや、表面が切れてるだけでもマシなんだろうか。


 そうこうするうちにオークが立ち上がり、再び振り出しに戻る。

 するとケンツが俺の方を窺っていたが、あえて無視した。

 まだやれるはずだ。


 助けが得られないと知ったケンツが、再び号令を掛ける。

 またサンドラ斬りに持っていくんだろうが、彼らの表情が硬い。

 どうやら今ので自信を無くしてしまったようだ。

 しょうがないので、少し手を貸してやることにした。


「ジード、こっちに来い。リュート、お前が使ってた剣を貸してやれ」


 獅子人族のジードがこちらに走ってきた。

 10人ルールで俺たちは部屋に入れないため、近寄ってきたジードにリュートが剣を投げる。

 この剣はリュートがこの間まで使っていた魔鉄製の剣で、こんなこともあろうかとドラゴに積んで持ってきたものだ。

 これを新人の中で最も力の強いジードに使わせれば、なんとかオークを倒せるだろう。


 剣を受け取ったジードが配置に付き、準備が完了する。


土捕縛アースバインド!」


 レーネの掛け声と共に、オークが再び転倒した。

 それまで魔力を剣に込めていたジードが駆け寄って剣を振り下ろすと、それまでの苦労が嘘のように剣が深く食い込んだ。

 首の半ばまで断たれて血が噴き出すと、しばらくもがいていたオークが動かなくなる。


 それを見た新人たちから歓声が上がった。

 やれやれ、ようやく倒したか。

 しかし魔鉄製の武器を使わなきゃならないようじゃ、まだまだ及第点には程遠いな。


 その後、オークを解体してから、車座になって話をした。


「みんなご苦労だった。しかし、まだまだ及第点には程遠いな。ケンツはどうすればいいと思う?」

「はい、まずはレーネの魔力弾の威力を高めるのがひとつ。それと前衛はオークの動きに慣れて、魔力斬を繰り出す隙を作れるようにします。あと、オーク戦の時だけでも、魔鉄製の武器を貸してもらえないですかね?」

「うーん、訓練方針はいいけど、魔鉄武器はなあ……最初から武器の性能に頼って欲しくないんだよな」

「でも1軍の武器は全部魔鉄製だし、サンドラさんのなんか魔剣じゃないですか」


 ここでシュウが噛み付いてきた。


「シュウ、それは違うぞ。我々が魔鉄製の武器を手に入れたのは、オークを安定的に狩れるようになってからだ」

「そうそう、”嵐の戦斧”を返り討ちにしてからだな」

「でもサンドラさんは大人で力が強いから……」

「最初にオークを斬った時の妾は死にかけで、今のシュウよりも弱かったぞ。ちょうど今、ジードに持たせているバスタードソードを使っていたのじゃ」

「うぐっ……」

「ま、そういうことで、しばらくは普通の武器で苦労してみろ。ちゃんと技術が身に着いたら、魔鉄製の武器を買ってやるから」



 休憩を終えてからまたオークを探した。

 やがて見つかったオークに、また新人たちが挑む。

 今度はケンツ、ザムド、ナムドが見学だ。


 子守役のサンドラとレミリアが2匹のオークを仕留めると、残りの1匹を新人が囲んで攻撃し始めた。

 相変わらずレーネの魔力弾は致命傷を与えられないので、サンドラ斬りに切り替える。

 土捕縛アースバインドで転倒したオークに、アレス、ジード、アイラが斬りかかった。

 彼らも多少は慣れてきたのか、前回より刃が通るようになっている。


 それでも致命傷には至らず、オークが起き上がった。

 再び新人とオークのダンスが始まると、彼らもだいぶ敵の動きに慣れたのか、いくらか余裕が出てきたようだ。


 そして再び転倒させて首筋に攻撃を叩き込み、またオークが立ち上がる。

 結局、これを4回繰り返すことで、ようやくオークを倒すことができた。

 新人たちはもう、ヘトヘトである。


「お疲れお疲れ。今日はこれぐらいにして地上へ帰ろう。見学組はオークを解体してくれ」


 解体を終えてから、2刻ちょっと歩いて地上へ帰還した。

 今回は合計で12匹もオークを狩ったため、戦利品も多い。

 地上に出て精算すると、魔石だけで金貨1枚と銀貨20枚、オークの皮で金貨12枚、肉が1万2千オズで金貨9枚と銀貨20枚にもなった。


 しめて金貨22枚以上とは、やっぱりオーク狩りは効率がいい。

 新人の訓練をしながら金儲けができるなんて、俺たちも強くなったものだ。

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