53.深部攻略
ようやくバーンナックルゴリラを1匹仕留めたと思ったものの、もう1匹のゴリラがけたたましい雄たけびを上げた。
おそらく増援を呼ぶ声に違いない。
「シルヴァ、増援がどっちから来るか分かるか?」
(あちらから魔物の足音が聞こえる)
彼がすぐに増援が来る方向を教えてくれた。
「カインたちはあそこの通路を押さえてくれ。もう1匹を片付けるまで耐えればいい」
「了解です」
カインたちが移動するのを確認しつつ、もう1匹のゴリラに目を移すと、こちらもだいぶ弱っていた。
度重なる雷撃とシルヴァの攻撃で、すでに傷だらけだ。
しかし、それでもまだ元気に動き回っている。
「シルヴァ、なんとかそいつを押さえ込んでくれ。魔法で片付ける」
(了解した)
それからしばらくシルヴァとゴリラが揉み合っていたが、キョロの助けを借りてシルヴァが押さえ込んだ。
そこに俺たちの魔力弾と火球が殺到し、ゴリラの右腕を潰すことに成功する。
片腕の利かないゴリラの首筋にシルヴァが食らいつき、大きく振り回す。
強靭な防御力でしばらく耐えていたゴリラも、とうとうシルヴァの牙で喉を切り裂かれた。
そいつは断末魔の声を上げることもできず、静かに息絶えた。
「フウッ。カイン、こっちは片付けたから入れていいぞ」
「了解です」
カインの返事と共に、2匹のゴリラが飛び込んできた。
あっちもほとんど限界だったみたいだ。
2体の遺骸を見つけたゴリラが怒りの咆哮を上げる。
こいつらも同族が死んで悲しいのかね?
すぐに襲い掛かってきたゴリラを、1匹はカインたちが取り囲んだ。
しかしもう1匹の方は、シルヴァがまだ疲れていて対応できない。
そこで俺たちが魔法で援護していたら、ゴリラの注意がこちらへ向いてしまった。
凄い勢いでこっちへすっとんできた。
「なんとか耐えろよっ! ケレス」
「マジでーっ? 勘弁してよ、ご主人!」
ケレスが悲鳴を上げながら、俺たちの前面に全力で障壁を張った。
目前まで迫ったゴリラがその障壁に拳を叩き付けると、凄まじい爆発が発生する。
凄まじい威力に何歩か押し戻されたものの、なんとか初撃を耐えきった。
「リューナは奴の頭を狙え。バルカンは腹に連発!」
そう指示しつつ、俺も魔力弾を目の前のゴリラの胸板にぶち込んだ。
さらにバルカンの火球2連弾が腹に命中すると、ジュウジュウと肉を焼きながら食い込んでいく。
最後はリューナの魔力弾が駄目押しとなり、ゴリラは後ろにぶっ倒れて2度と動かなくなった。
(済まぬ、主よ。押さえきれなかった)
「シルヴァは疲れてたんだし、結果的に素早く倒せたから気にするな。むしろ敵を引き付けて、至近弾で倒した方がいいかもな、ケレス」
「絶対にイヤっ!」
あいにくと全力で拒否されてしまった。
いい手だと思うんだがな。
そうこうするうちに、カインたちが最後のゴリラを追い詰めつつあった。
カインとリュートがゴリラの注意を引く横で、サンドラとレミリアが魔力斬を次々に叩き込んでいく。
やがて後脚を斬られて動きの鈍ったゴリラの脳天に、リュート渾身の塊剣が炸裂し、戦闘が終わった。
「よくやったな、みんな。少し休憩してから剥ぎ取りをしよう」
さすがに激しい戦闘だったので、前衛陣に疲労の色が濃い。
部屋の中央で車座になって休憩を取った。
「苦戦はしたけど、増援も含めて対処できた。やっぱりリュートの強化は正解だったな」
「はい、この間は凄く怖かったのに、今日はそれほどでもなかったです」
「リュートが安定した分、俺たちにも余裕ができました。想像以上の成果ですよ」
カインも手応えを感じているようだ。
「そういえばご主人様も攻撃を受けてましたけど、おケガはありませんか?」
「ああ、ケレスがなんとか耐えてくれたからな。逆にゴリラを返り討ちにできてよかったくらいだ」
「あたいは死ぬかと思ったよ~!」
必死で恐怖を語るケレスを見て、みんなが笑う。
「それよりもシルヴァの方が攻撃食らってたけど大丈夫か?」
(うむ、風の鎧でほとんど躱したのだが、少しキツイので治療してもらえるだろうか)
「いいぞ。どの辺が痛いんじゃ?」
最近のシルヴァは風魔法で攻撃を緩和できるようになったらしく、それを”風の鎧”と呼んでいる。
しかしどうしてもダメージは受けるので、チャッピーの治癒魔法が役に立つ。
ついでに魔力を消耗したキョロとチャッピーには、俺から魔力を補充しておいた。
十分休養が取れたので、ゴリラから剥ぎ取りをして探索を再開する。
結局、その日はもう1回だけゴリラとの戦闘をこなし、早めに野営に入った。
増援を含めると4匹ものバーンナックルゴリラを相手にするのは、心身ともに堪えるのだ。
早めに体を休めて、翌日に備えた。
翌日、翌々日と似たような探索を繰り返し、4日目に地上へ帰還した。
今回の探索では実に26匹ものゴリラを倒し、他にパンサーやサーベルタイガーも狩っている。
その素材たるや凄い量だったが、ドラゴがいるのでほとんど持ち帰れた。
地上でバーンナックルゴリラの素材と魔石を鑑定してもらうと、魔石は銀貨28枚と今までで最高だった。
素材の方は、派手なオレンジ色の毛皮が平均で銀貨40枚、不思議な爆発を産み出す拳が銀貨20枚で売れた。
拳の方は今はまだ使い道が分からないので、今後の研究次第で値段は変わるかもしれない。
いずれにしろ俺たちは今回の探索でゴリラの攻略法を確立し、金貨30枚ほどの儲けを手に入れた。
苦労しただけの甲斐はあったというものだ。
それから休息を1日ずつ挟んで4日間の深部探索を2回繰り返し、3回目で5層の宝石部屋らしき場所に行き当たった。
「ゴリラが6匹か……1度に相手するには厳しい数だな」
「いかに慣れたとはいえ、同時に戦えるのは3匹がいいとこですからね」
入り口からこっそり覗き込むと、そこにはゴリラが6匹もたむろっていた。
最初から6匹の相手はかなりキツイ、というか勝てる気がしない。
「やっぱ、ケレスの障壁でおびき寄せてから逆撃するか?」
「むむむ、無理無理無理っ! 1発だけならまだしも、何発もくらったら耐えられないって、ご主人!」
ケレスに相談したら、全力で拒否された。
たしかに複数同時はキツイかと思っていたら、キョロから提案があった。
(それなら僕らの”暴風雷”で弱らせたらどう? ご主人)
「うーん、”暴風雷”かあ……ちょっと発動までに時間が掛かり過ぎないか? たぶん障壁がもたないぞ」
(それならこの通路から魔法を発動すればよかろう。それならば攻撃も限定されるし、カインやサンドラの盾でも防げるであろう)
発動するまでの時間を気にしたら、シルヴァが解決策を提案した。
たしかに狭い通路から”暴風雷”が使えるのなら、守りやすいかもしれない。
「なるほど、その手があったか。通路だけ守るんなら、ケレスはどれぐらい耐えられそうだ?」
「えーっ……やってみないと分かんないけど、障壁の面積が減るから2発ぐらいは耐えられる、かなあ」
「よし、障壁で耐えられるだけ耐えて、壊れたらカインたちに替われ。”暴風雷”が発動したら、近場の奴から集中攻撃で倒していこう」
「そうですね。場合によっては、俺とリュートは押さえに回ります」
「うん、それで頼む。まずはケレス、ここに障壁を張ってくれ。魔法を通す隙間を開けてな」
「本気でやるの?……もう、また美味いもの食わせてよ~」
障壁を張ると、俺たちのいる通路と宝石部屋の間がへだてられた。
ほとんど透明でガラスみたいな障壁なので、中は見える。
続いてキョロとシルヴァが”暴風雷”の発動準備に入った。
この魔法は大量の魔物を殲滅できる、キョロとシルヴァの合成魔法だ。
彼らが寄り添って意識を集中すると、やがてシルヴァの口から細く切ない遠吠えが漏れ始めた。
「アオォォォォーーーン…………」
彼の遠吠えによって宝石部屋の中に雷雲が発生し、空気がざわめき出す。
ここでゴリラも異変に気が付いてこちらへ向かってきたが、何が起きてるか分からず、しばらく攻撃をためらっていた。
やがて俺たちを敵と認識したらしく、奴らの拳が障壁に叩きつけられる。
その凄まじい攻撃を受け止めるケレスの額に、汗が浮かんでいた。
そして膨大なエネルギーを蓄積した雷雲にキョロから魔法が飛ぶと、とんでもない風と雷が周囲に吹き荒れた。
雷の閃光と轟音が炸裂し、しばらくは何も見えない。
そしてようやく風と雷が過ぎ去ると、部屋の中に残っていたのは、息も絶え絶えな6匹のゴリラだった。
「良くやった。前衛は1人1匹ずつ倒せ。残りは俺たちが始末するぞ」
俺の指示と共に前衛が通路から飛び出し、1匹ずつゴリラを相手取った。
そして残る2匹には、俺とリューナ、バルカンから魔法が撃ち込まれる。
すでに瀕死だったゴリラは魔力弾と火球攻撃の前に、あっけなく息絶えた。
カインたちもやり合っていたが、1匹、また1匹とゴリラを打ち倒していく。
やがて最後のゴリラがカインに倒され、5層の宝石部屋はあっけなく陥落した。
「フウッ、わりと簡単にケリが付いたな。これもキョロとシルヴァのおかげだ。ありがとうな」
(でしょ、でしょ、でしょ? 撫でて撫でて~、ご主人~)
キョロが嬉しそうにすり寄ってきたので、抱き寄せて体中撫で回してやった。
(これ、キョロ。主の役に立つのは当然のことではないか。は、はしたないぞ……)
羨ましそうにしていたシルヴァもたっぷり撫でてやり、ついでに魔力も分け与えた。
剥ぎ取りをしてから部屋の中を探索すると、4層以上に大量の宝石が見つかる。
今までのルビーやサファイアに加えてエメラルドという宝石も入っていた。
その質と大きさから破格の値段が付いたので、売却は一部のみとする。
それでも金貨40枚になったのだから、凄い儲けだ。
ちなみにゴリラの毛皮は雷で焼け焦げていたので、普通の半値以下だった。
しかしそれでも俺たちは5層を探索し尽した。
残るは守護者との決戦のみ。




