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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第5層編

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52.ゴリラとの再戦

 2層で助けた女性パーティ”女神の盾”に食事をご馳走になっていたら、彼女らの身の上話が始まった。


「あたしとヒルダはこう見えても3層に行けるパーティに入ってたんだ。キャラやアニー、そして死んじまったリサとキラも2層に潜ってた。だけどみんな、パーティ内でいざこざがあって辞めちまったのさ。男の冒険者の考えることなんて似たようなもんでね。ゲス野郎ばっかりで困っちまうよ……あ、いや、もちろんデイルさんは違うよ」


 チェインさんが手を振って言い直す。


「別にいいさ。俺だってそういう欲望は無いでもない。それで、パーティを出てどうなった?」

「新しいパーティを探したんだけど、どこも似たようなもんでね。それならいっそ女だけのパーティを作ろうって話になったのさ。その時はたまたま経験者が6人揃ったから、残りはこの貧民街で食いっぱぐれてるのを誘って、パーティを作ったんだ」

「”女神の盾”ってのは、ウチの名前にあやかってるのか?」

「そうさ。凄いペースで3層を攻略した新人パーティがいて、そのうち2人は凄腕の美女だっていうじゃないかい。あたしらも強くなって、女性を守る盾になるんだって、ヒルダがはしゃいでさ」


 そう言われたヒルダが、少し照れている。


「そういえばこの間、レミリアとサンドラが、ガルドで最も美しい冒険者と呼ばれてる、とか言ってたっけ?」

「ああ、知らなかったかい? ただ綺麗なだけじゃなく、教官とも互角に戦う凄腕冒険者として有名だよ。装備もいいし、あたしら女冒険者の憧れの的さ」

「それは知らなかったな。まあ、4層攻略した時点でそうなってもおかしくはないか」


 ふと見ると、隣に座ったリューナが不満そうにしていたので、彼女の頭を撫でながら慰める。


「もちろんリューナだって、かわいさでは2人に劣ってないぞ。魔法使いは実力を見せないから目立たないだけだって」

「ウフフ、ありがとうなの、兄様」


 彼女が嬉しそうに体を摺り寄せてくる。

 ちなみにここにはケレスも来ているが、彼女は何も気にせずに料理を食っていた。


「やっぱりその子は魔法使いなのかい? さすがトップパーティは違うねえ。2層の深部になると物理攻撃だけじゃ厳しいから、ウチも探してるんだけど、女の魔法使いなんてほとんどいやしない」

「そうだな、オークは物理だけだと厳しいからな。だけど3層まで行ってたんなら、魔力を応用した攻撃もできるんだろ?」

「それは武器に魔力を込めて攻撃するやつかい? あたしとヒルダは一応使えるけど、溜めに時間が掛かるからせいぜい2匹しか相手ができないんだ。この間は運悪く後から2匹出てきやがって」

「そこに俺たちが出くわしたのか。ま、今後はそういう時の対処も考えて探索しないとな」


 そう言ったら、みんな黙ってしまった。

 ヒルダがまた責任を感じて落ち込んでいる。


「あ、あの時のリュートさんとカインさんは凄くカッコ良かったです。オークがまるでゴブリンみたいに蹴散らされて」


 料理の上手いリズからフォローが入った。


「ああ、本当に凄かったね、あれは。リュートさんの剣のでかさときたら、冗談みたいだよ。鬼人ってのはみんなあんなに力が強いのかい?」

「いや、リュートは竜人だぞ。あの剣にはちょっと仕掛けがあるしな」

「竜人だって? おまけに仕掛け付きの武器なんて、つくづく常識外れなんだね」

「本当。カインさんだってオークの攻撃にビクともしなくて、凄く頼もしかったです」


 褒められた2人は満更でもなさそうだ。

 女の子に酒を注がれて、グイグイ飲んでる。


「そういやあ、デイルさんは弓と使役獣を使うんだろ?」

「ああ、俺は使役師テイマーだからな」

「使役獣と言っても、その狼以外はただのペットにしか見えないね」


 ヒルダがキョロとバルカンを見ながら呟く。

 2匹ともミニサイズになってるので、とても彼らが戦ってるとは思えないだろう。


「魔物の強さは見た目だけじゃ計れないからな。使いようによっては数人力にもなる」

「その使い方ってのが気になるけど、それがトップパーティの秘密なんだろうね。ところで、あんたたちは妖精を味方に付けてるから妖精の盾なんだって噂があるけど、どうなんだい?」


 チェインが何気なく探りを入れてきたが、俺は顔色ひとつ変えずに答えてやった。


「ただ幸運の象徴としてそう名づけたんだが、実際に成功してるからには何かが付いてるのかもしれないな」

「なるほど、妖精は努力するものに微笑むってことかい。あたしらも不運を嘆いているだけじゃ駄目だよね」


 実はこんな風に詮索されることは今までに何度もあった。

 しかしチャッピーはその存在を巧妙に隠蔽いんぺいしてるから、存在がばれることはまずない。

 以前、リューナに魔力の乱れを見破られてから、さらに工夫してより見えにくくなってるそうだ。


「そのとおりだよ。まあ、弱い女性冒険者を守ろうって考えは立派だから、俺たちも応援するぜ。ギルドで会ったら、稽古ぐらいつけてやってもいい」

「そいつは助かるね。”妖精の盾”に目を掛けられてるってだけで、助平どものちょっかいが減りそうだ」

「ああ、だけどあまり調子に乗って、変なこと言わないように気を付けろよ、ヒ・ル・ダ」

「変なことって、なんだよ?」

「あー、たしかにヒルダだったら、あたしらが舎弟になったとか言いそうだね。虎の威を借るようなこと、言うんじゃないよ」

「分かったよ、信用ねーな」


 こうしてたっぷりとご馳走になってから、おいとまをした。

 命を救った礼にしては安いものだが、こんなつながりを持つのも悪くないと思っている。

 彼女たちには今後も頑張ってもらいたいしね。





 翌日は5層中盤でサーベルタイガーを相手にした。

 まず1匹目を速攻で倒すと案の定、増援を呼ばれる。


 そこでまたシルヴァたちが入り口を押さえてる間に2匹目も倒し、増援を部屋に引き込んだ。

 今度は1匹を前衛に任せ、残りをキョロ、シルヴァと連携して後衛が攻撃する。

 彼らだけで敵の動きを誘導できるか少し心配だったが、キョロの雷撃が役立っていた。


 サーベルタイガーが動こうとする先にバリバリバリッ。

 怯んだところにバリバリバリッと雷撃を放つと、面白いように敵の動きが止まる。

 そこに俺たちの魔力弾とバルカンの火球が撃ち込まれると、大ダメージが入る。


 だいぶ弱ったところを、シルヴァがとどめを刺して終わりだ。

 キョロの雷撃は想像以上に有効だ。


 その横で、前衛の動きにも変化が生じていた。

 最初は4人で囲んで様子を見ていたが、リュートがやれると見て攻勢に転じる。

 カインが盾で逃げ道を塞ぎ、リュートが塊剣でガンガン攻撃すると、サーベルタイガーが一気に守勢に追い込まれた。


 守りに入った獲物に、今度はサンドラとレミリアの魔力斬が降り注ぐ。

 やがて致命傷を負った敵にリュートの塊剣が打ち込まれ、あっさりと息の根を止めてしまった。


「戦い方がずいぶん安定したな、リュート」

「はい、いざという時に防御ができるし、重量制御にも慣れてきたので、やりやすいです」


 リュートの塊剣には重量軽減の魔法が掛かっているのだが、魔力で加減できることが分かっていた。

 元の重量に対して、1割から10割の間で変えられるイメージだ。

 最後の1撃は剣本来の重量で叩き斬った感じだな。


「この調子なら、サーベルタイガーも2人で倒せるようになりそうだな」

「ええ、現状でもいけるでしょう。そちらもキョロが活躍していたようですね」

「ああ、あれなら爆拳猩猩バーンナックルゴリラの動きも止められるんじゃないかな」

「それでは明日辺り、再挑戦しますか?」

「そうしよう。今日中に深部の近くまで行って野営して、明日リベンジだな」


 その後もパンサーやタイガーを狩りながら深部近くまで移動し、野営した。

 いつもどおりに美味い物を食い、そこそこ快適な寝床で体を休め、翌日に備える。





 そして翌日、いよいよバーンナックルゴリラとの再戦に出発した。

 深部に入ってしばらくすると、シルヴァからゴリラ発見の報告が入る。

 そのまま彼に先導してもらうと、2匹のゴリラが待ち受けていた。


「まずシルヴァにキョロを乗せて突っ込ませる。1匹を雷撃で弱らせたら前衛で囲んでボコれ。残りも雷撃で弱らせてから、シルヴァが相手をしてくれ。それから前衛は耳栓を忘れるなよ」

「「了解」」


 カインたちが布で作った耳栓を取り出して耳に詰める。

 その横でキョロがシルヴァの上に飛び乗って首の後ろにしがみついた。

 こちらを見たシルヴァに合図すると、猛然と飛び出していった。


 たちまちのうちに手近なゴリラと距離を詰めたシルヴァが急に立ち止まり、キョロから雷撃が迸った。

 昔の電撃と違って、光が目に見えるほど強力なやつだ。


「ウゴッ!」


 強烈な雷撃を食らったゴリラが、そのショックによろめいた。

 さらに駄目押しでもう1発雷撃を放つと、ゴリラが膝を着く。


「前衛、行け!」


 声を掛けながら俺たちも部屋に侵入し、攻撃態勢に入る。

 その先を前衛がゴリラに駆け寄っていく。


 異変に気が付いたもう1匹のゴリラにも、シルヴァが近寄って攻撃を始める。

 殴り掛かってきたゴリラに、雷撃が迸る。

 ゴリラがビクンッと痙攣して一瞬動きを止めたが、すぐにまた拳が振り回される。


 唸りを上げるパンチをシルヴァが軽々と躱し、距離を取っていた。

 こっちは彼らに任せておけば大丈夫そうだ。


 もう1匹のゴリラを囲むカインたちに目をやると、こっちは絶賛バトル中だ。

 雷撃でブチ切れたゴリラが、両腕をメチャクチャに振り回して暴れている。

 それでも、以前より前衛の動きに安定感があるように見えるのは、気のせいではないだろう。


 ゴリラの拳が盾に当たると、大きな音と反動が発生するが、カインやサンドラはそれを落ち着いてさばいている。

 レミリアの動きも滑らかで、ゴリラの拳を華麗に避けては双剣で斬り付ける。

 耳栓の効果は絶大だ。


 しかし、最も変わったのはリュートだ。

 ゴリラのパンチを塊剣で防げるようになった彼は、恐れることなくゴリラに近づく。

 腰の引けた攻撃しかできなかった以前とは大違いだ。


 ゴリラのキチガイじみたパンチを塊剣で受け止め、その反動を利用して回転しながら剣を叩きつける。

 切れ味の悪い塊剣がまるでハンマーのようにゴリラを打ち据え、よろめかせていた。

 そこにサンドラとレミリアの魔力斬が叩き込まれ、徐々にゴリラの動きが鈍っていく。


 ここでようやく俺たちの出番だ。

 俺たちの魔力弾とバルカンの火球が放たれると、全弾が命中した。


「ウオォー……」


 悲し気な断末魔の声を上げながら、ゴリラが崩れ落ちた。


 するとその直後、残ったゴリラが上を向いて雄たけびを上げ始めた。


「ウオッオッオッオッオッ、ウオッオッオッオッオッ!」

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