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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第5層編

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50.対ゴリラ戦法

 セイスでリュートのために塊剣かいけんを購入してすぐ、俺たちはガルドへ戻ってきた。

 そして対ゴリラ戦を想定して、いつもの原っぱで訓練を始める。

 今もカインが付きっきりで、リュートの面倒を見ていた。

 カインが手にしているのは、以前買った威力増幅魔法付きの戦槌バトルハンマーだ。


 このハンマー、単純に使うと威力を倍増するだけだが、魔力の込め方で威力が調整できることが分かっている。

 これを上手く使うと、爆拳猩猩バーンナックルゴリラのパンチに似た攻撃が出せるので、訓練にちょうどよいのだ。

 このハンマーの強烈な攻撃を、リュートは時には躱し、時には塊剣で受け止める訓練を続けていた。


 いかな塊剣でも壊れるんじゃないかと思うほどの攻撃にさらされつつも、リュートは上手いこと両手を使い、衝撃に耐えていた。

 まあ、塊剣が魔鉄製だってのも大きいだろう。

 魔鉄は鋼鉄よりも固く、靭性も併せ持つ高級素材だ。


 その高価な魔鉄をふんだんに使い、さらに重量軽減魔法が掛けられた剣が金貨100枚だなんて、とんでもなく安い。

 ゴトリーの親父さん、本当に良かったのかな?



 リュートが塊剣での戦闘法を身に着けている間、他のメンバーも新たな戦法を模索していた。


「この間のゴリラとの戦闘だけど、あの弾けるパンチを目にしてから前衛の動きが悪くなった。ひと言で言えば、ビビッてたな」

「そ、そうは言うが我が君、あれを食らったら妾でもただでは済まんぞ」

「そりゃそうさ。俺やレミリアが食らったら骨折どころじゃない。だけど、それは魔物の爪や牙だって同じだろ。なのにあのゴリラが恐ろしく見えるのは、あいつらの動きが素早いのと、あの大きな音のせいだろうな」

「言われてみれば、そのとおりですね。あの大きな音を聞くと、思わず身がすくんでしまいますから」

「だろ? だから今度戦う時は、前衛は耳栓をしてみたらどうだろ?」

「耳栓などしたら、味方の声も聞こえなくなってまずいだろうに……いや、我らは念話が使えるから関係ないのか?」


 反対しようとしたサンドラも、俺たちの優位性に気づく。


「そう、使役リンクでつながった俺たちなら、前衛が耳栓をするデメリットはほぼ無い。あとはいかにゴリラを捕まえるかなんだけど、あいつらチョコマカと動いて厄介なんだよな。何か動きを止める手が無いものか……」


 そうやってみんなで悩んでいたら、キョロがヒョコヒョコっとやってきて、提案をする。


(ご主人、ご主人。僕の雷撃を当てれば、少しは動きが鈍ると思うよ)

「なるほど……キョロの雷撃を食らえば、ゴリラもただじゃ済みそうにないな。だけどうまく当てられるのか?」

(上位形態ですれ違いざまに雷撃をばら撒けば、いけると思うよ。僕も成長してるからね~)


 ちなみに今のキョロはリスのようなカーバンクルだが、戦闘時は上位形態の雷玉栗鼠サンダーカーバンクルに変化する。


「うーん、奴らの動きを鈍らせるぐらいなら、それでやれるかもしれないな」


 そんな話をしていたら、今度はシルヴァがのそのそ歩いてきて加わった。


(多少、動きが鈍れば我にもゴリラを倒せるだろう。我も成長しているからな)


 上位形態のシルヴァは牛並みにでかい暴風狼テンペストウルフだから、ゴリラにも対抗できるらしい。


「そいつはいい。あいつらはピンチになると仲間を呼ぶから、早めに倒せばそれだけ楽になる。今度は戦闘開始時にキョロが雷撃で弱らせて、1匹はキョロとシルヴァが、残りは俺達たちで片付けることにしよう。よし、この戦法を煮詰めるぞ」


 その後、キョロの電撃麻痺作戦や、前衛に耳栓をさせて連携を取る練習を繰り返した。

 元々、実力のあるメンバーばかりだから、やることが決まれば習熟も早い。

 その日のうちに新戦法は形となり、あとはリュートの仕上がり待ちとなった。


「カイン、リュート。塊剣での戦闘はどうだ? 5層序盤に潜れるぐらいにはなったか?」

「いきなり5層は厳しいと思います。まず動きの鈍いオークで様子を見るべきかと」

「俺もそれくらいがいいです」

「それもそうか。よし、明日は2層深部でオーク狩りをしよう」

「フハハハハッ、それでは、明日の晩は焼肉じゃな!」

「うひー、今から楽しみだよ~」


 オーク狩りをした日の晩は大抵、焼き肉パーティになるので、食いしん坊のサンドラとケレスが喜んでいた。





 翌日、迷宮に入ってまず3層へ跳び、そこから2層深部へ侵入する。

 さらに宝石部屋へおもむくと、そこには5匹のオークが待ち受けていた。

 ちなみに宝石はまた出てくるのに時間が掛かるのか、最初の時以外は見つかっていない。


「それじゃあ、前衛4人とシルヴァで1匹ずつ相手してくれ。リュートの練習だから、まだ殺すんじゃないぞ」


 そう指示すると、前衛がオークに向かっていく。

 リュートはそのうちの1匹に狙いを定め、向かい合った。

 おもむろにリュートが塊剣を振るい、オークに斬り付ける。


 小手調べの一手だったが、それはオークの頑強な肉体に跳ね返された。

 代わりにオークがこん棒を振るい、リュートがそれを塊剣で受け止める。

 ガーンと派手な音がしたが、リュートにダメージはない。


 その後もしばらく攻撃と防御が繰り返され、リュートが塊剣の使い勝手を確かめる。

 20回ほど打ちあってようやく納得がいったのか、彼がラッシュを掛けた。

 塊剣が踊るように連続して叩き付けられ、みるみるうちにオークが傷ついていく。

 やがて首に致命傷を受けたオークが力尽き、地面に崩れ落ちた。


「まだいけるか? リュート」

「ハアッ、ハアッ……大丈夫です。次お願いします」


 少々、息を切らせてはいるが大丈夫そうだったので、横でカインが押さえていたオークを任せる。

 今回もリュートは何十回か打ち合った後、最後は魔力斬で斬り伏せた。


「まだやるか? リュート」

「フウッ、フウッ……も、もう1回やらせてください」

「よ~し、それじゃあ少し休んでからシルヴァの相手と戦え。レミリアとサンドラは倒していいぞ」


 オークの始末を許可すると、彼女たちは速攻でそれを倒してしまった。

 すでに5層の深部を攻略している俺たちにとって、オークなど雑魚でしかないのだ。


 しばらくリュートを休ませると、最後に残ったオークと戦わせた。

 休んで動きの戻った彼が、今度はしょっぱなから積極的に攻める。

 何発か塊剣の攻撃を食らって怯んだオークに、リュートの魔力斬が炸裂した。

 ほとんど何も抵抗もできないまま、最後のオークが息絶えたる。


「よし、みんなご苦労さん。リュートが休んでるうちに、剥ぎ取りをしてくれるか?」


 そう指示しながらリュートに歩み寄る。

 彼は息を切らせていたが、まだ体力はありそうだった。


「どうだ、塊剣での戦い方は身に着いたか?」

「ハアッ、ハアッ……実際に戦ってみて、だいぶイメージは固まりました。しょせんオークなんで、もっと速い奴だと、勝手が違うとは思いますけど」

「それだけ分かってりゃ十分だ。ところで、ちょっと塊剣を貸してみて」


 リュートから塊剣を受け取り、ちょっと振ってみる。

 さすが鉄の塊だけあって、かなり重い。

 重量軽減魔法で半分くらいの重さになっているようだが、それでも子供1人分くらいはあるだろう。

 普通に考えれば、これをビュンビュン振り回すリュートの方がおかしいのだ。


 しかし俺はある考えから、塊剣に魔力を込めてまた振ってみた。

 するとビュンビュンと音を立て、塊剣が舞い踊る。


「……デイル様って、そんな力も出せるんですか? 今までは見たことなかったですけど……」

「いや、俺の力なんてリュートの半分も無いよ。けどこいつは、魔力でもっと軽くできるんだ」


 そう言って塊剣を軽々と振り回してみせると、他の仲間も驚いていた。


「ご主人様、それは魔力を込めると重量軽減の程度が変わる、ということですか?」

「うん、そうなんだ。カインのハンマーも魔力で威力が変わったから、ひょっとしてと思ってね」

「でも、俺が魔力を込めても何も起きませんでしたよ……」

「それは魔力斬のイメージしか持ってないからだよ。剣が軽くなるイメージを込めなきゃ、変わるはずがない……待てよ、ひょっとして逆もありか?」


 ふと思いついて、重くなるイメージを描いたら、急に塊剣が重くなった。

 ズドンと音を立て、塊剣が地に落ちる。


「やっぱりだ、リュート。この剣、重くもできるぞ」

「えっ、重くなったら駄目じゃないですか?」

「何を言ってるんだ、リュート。攻撃時に重さを加えれば、より高いダメージを与えられるだろう……デイル様、この塊剣、思った以上に凄い武器でしたね」

「そのとおり。リュートの成長も加えれば、もの凄い可能性を秘めた武器になる。こいつは安い買い物だったな」


 そう言いながらリュートに塊剣を渡すと、彼の顔が期待に輝いていた。

 防御力だけでなく、より強い攻撃力を手に入れる未来を、思い描いているのだろう。

 カインもリュートの肩を叩きながら、一緒に喜んでいる。

 相変わらず仲のいい奴らだ。


 その後、まだ戦い足りないというリュートの意見を入れて、新たなオークを探し回った。

 やがてシルヴァの探知網に何かが引っかかり、念話が入る。


(主よ、この先で他の冒険者がオークと戦っている。オークが4匹もいて、冒険者が劣勢のようだ)

「分かった。みんな、この先で冒険者がオーク4匹にやられてるらしい。場合によっては助けに入るから急げ」


 俺たちは急いで戦闘中の部屋へ向かった。

 そこにたどり着いて中を覗くと、たしかに4匹のオークが暴れている。


「”妖精の盾”だ! 助けが必要なら言ってくれ」

「妖精の盾だって? 助けてくれ、こっちは2人やられて壊滅寸前なんだよ!」


 ダークエルフらしき女の言うとおり、すでに2人が地に倒れ、8人で戦っていた。

 しかもこのパーティは女性だけのようだ。


「8人か。2人しか入れないから、リュートとカインで行ってくれるか?」

「「もちろんです」」


 俺が指示する前に、2人は走り出していた。


「カインは彼女たちを守ってやれよー!」

「了解です」


 まずリュートが暴風のようにオークの群れに突っ込み、塊剣を叩き付けた。

 オークの敵意を一身に集めたリュートが、1歩も退かずに暴れはじめる。

 そこに盾を持ったカインが割り込み、女たちからオークを引き離す。


 その後は女にちょっかいを出そうとするオークをカインがはねのけ、リュートが1匹ずつオークを片付けていった。

 2人の息はピッタリで、もう女性たちには一切攻撃が及んでいない。

 やがて最後のオークが打ち倒されると、さすがのリュートも疲労困憊ひろうこんぱいでへたり込んだ。


「カイン、リュート、ご苦労さん。ケガは無いか?」

「リュートが頑張ってくれたので、余裕ですよ」


 魔物が駆逐されたのを確認して、俺たちも部屋に入って彼らをねぎらった。

 そんな俺たちを見た女性陣が黄色い声を上げる。


「見て、妖精の盾だって。サンドラさんだよ」

「レミリアさんもいるよ!」


 さすが女しかいないだけあって、サンドラとレミリアが人気のようだ。

 リーダーらしき人を探すと、さっきのダークエルフと共に、遺体を胸に抱いて泣いている女性が目に入った。


「あんたがリーダーか?」

「なぜだよっ、なんでもっと早く来てくれなかったんだよっ? リサと、キラが死んじまったじゃないかっ!」

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