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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第5層編

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48.チーム力の進化

 翌朝、朝食を済ませてすぐにブラッドパンサーを探して歩いた。

 さっそく見つけたパンサーを前衛が囲み、昨晩打ち合わせた戦法を試してみる。


 パンサーの動きは素早いが、何人かで囲むとその動きはけっこう制約できる。

 そこで後衛が魔法で攻撃すると、やはり今までよりもよく当たった。

 これは使役リンクで魔法の射線が認識できるのが大きい。

 そのうえで前衛が攻撃ではなく動きの抑止に重点を置くと、ずいぶんと連携がしやすくなっていた。


 一方、バルカンの火球も、想定どおりの威力を示している。

 ブラッドパンサーもそこそこ防御力が高いのに、2連発の火球はいとも簡単にそれを食い破った。

 当たり所によっては、魔力弾よりも強力なほどだ。


 何回かブラッドパンサーで練習すると、サーベルタイガーへの対処にも自信が出てきた。

 そこで実際にサーベルタイガーに通じるか試すべく、中盤へ戻ることにした。

 やがて獲物が見つかったので、シルヴァに案内してもらう。


 この遠距離探知、シルヴァはなんでもないようにやってのけるが、実は凄いことなのだ。

 彼のおかげで俺たちがどれだけ助かっているか。

 いつもありがとうな、シルヴァ。


 やがて前方に2匹のサーベルタイガーを確認したので、ドラゴを通路に残して部屋になだれ込んだ。

 またシルヴァとキョロが片方を誘引し、残りでもう1匹を囲む。

 俺、リューナ、バルカンは魔法攻撃の態勢に入り、ケレスがその周囲に障壁を張った。


 全てを障壁で囲むと攻撃ができないので、魔法を撃つ部分だけ穴を開けてある。

 これも使役リンクでつながっているからこそできる特殊なやり方だ。


 まずはカインたちがサーベルタイガーの動きを止めようと、攻撃を仕掛けた。

 ただしダメージを与えることが目的ではないので、動きに無理がなくてスムーズだ。

 そして敵の動きが止まったのを見計らって、俺たちが魔法を放つ。


 俺とリューナの魔力弾と、バルカンの火球が撃ち出されると、その射線上にいた仲間がさっと身をかわした。

 死角から放たれた魔法に気がついたサーベルタイガーが身を翻したものの、避けられたのは1発だけ。

 1発の魔力弾が命中して動きが止まり、そこに火球2連発が炸裂した。


「グオォォォーーーッ!」


 思ったとおり、1発目の火球が魔力防御を食い破り、2発目が体に食い込んだ。

 そいつの腹には拳よりも大きな穴が開き、肉の焼ける香ばしい臭いが周囲に立ち込めた。


 いきなり相棒が瀕死に追い込まれると、早くももう1匹が増援を呼ぶ。


「グアララララ! グアララララ!」


 しかし俺たちは慌てず、瀕死状態のサーベルタイガーにとどめを刺した。

 少し時間を掛けて剣に魔力を込めていたサンドラが、そいつの首を斬り飛ばしたのだ。


 すぐにもう1匹のサーベルタイガーを前衛が囲むと同時に、シヴァとキョロが増援の押さえに回る。

 増援が駆けつけてきた通路前に陣取り、雷撃と風刃で敵の侵入を防いでいる。

 彼らが時間を稼いでいる間に、もう1匹を始末してしまう。


 また前衛が、サーベルタイガーの動きを封じ込める。

 頃合いを見計らって魔法を放つと、今度は魔力弾と火球がすべて命中した。

 敵が瀕死になったところで、またまたサンドラが首を斬り落とす。


 サンドラの段取りが、さっきよりも凄く良くなっている。

 おそらく、あらかじめ剣に魔力を込めていたのだろう。


「サンドラ、よくやった。シルヴァ、キョロ、部屋に入れてもいいぞ」


 シルヴァたちが身を翻すと、2匹のサーベルタイガーが踊り込んできた。

 部屋に入るのを邪魔されていたせいか、のっけからお怒りモードだ。

 しかしそれぐらいでひるむような俺たちではない。


「シルヴァ、キョロ、また1匹拘束してくれ。残りはもう1匹を囲め」


 しかし最初はサーベルタイガーが暴れ回って、上手く囲めなかった。

 ようやくカインが盾でプレッシャーを掛けて動きを抑えると、皆でそいつを取り囲む。

 もう1匹はすでにシルヴァたちにおちょくられ、走り回っている。


 やがて取り囲んだサーベルタイガーが暴れ疲れた隙に、魔法を斉射した。

 前衛がするっと射線上から逃げると、魔力弾1発と火球が敵に命中する。

 しかし怒り狂っているせいか、そいつはまだまだ元気だった。


 やむを得ず前衛が同じポジションに戻り、次の隙をうかがう。

 さすがにダメージが入っているのですぐに動きが止まり、次の魔法を斉射。

 今度は全弾命中し、火球がサーベルタイガーの腹部をえぐった。

 この攻撃でようやく3匹目が息絶える。


 残るは最後の1匹だけだが、すでに脅威ではなかった。

 キョロとシルヴァを加えた前衛陣が奴を取り囲むと、俺はひと言だけ指示をする。


「カイン、前衛だけで討ち取ってみろ」

「了解しました!」


 魔法を使えば簡単に済むだろうが、前衛にも経験を積ませておきたい。

 そう思って見ていたら、彼らの動きに変化があった。


 最初はサンドラの動きが鈍いなぐらいに思っていたのが、いきなり強烈な斬撃でサーベルタイガーに傷を与えた。

 入れ替わるように今度はレミリアの動作がおとなしくなり、またまた敵に手傷を与えてみせる。

 サンドラの攻撃ほど深手ではないが、それなりに刃が通っている。


 その一方でカインとリュートは牽制気味に攻撃し、サーベルタイガーを休ませない。

 シルヴァとキョロも上手く連携し、サンドラとレミリアが攻撃に集中できる場を作っていた。


 やがて右前脚を痛めて動きの鈍った敵に一斉攻撃が加えられ、最後はサンドラが仕留めていた。

 とうとう魔法なしでも、サーベルタイガーを倒せるようになったのだ。

 俺はドラゴを呼び寄せ、カインたちに近づきながら声を掛けた。


「ご苦労さん。昨日とは見違えるほどに強くなったな。特にサンドラは凄かった」

「フハハハハハッ。そうであろう、そうであろう。我が君のためにいろいろ考えたのじゃ」

「あれは防御しながら、剣に魔力を注いでいたのか?」

「そのとおり。今まではけっこう集中しないとできなかったが、ふいにできるような気がしての」

「へー、いろいろと進歩してるんだな。そういえば、レミリアも似たようなことしてたな?」

「はい、サンドラを見ていたら、私にもできるような気がしたので」

「そうか、いずれにしろよくやった。とりあえず解体してから休憩にしよう」


 その後、サーベルタイガーの毛皮や牙、爪などを剥ぎ取ってから、休憩に入る。


「それにしても、このサーベルタイガー戦でいろいろと進歩したな。バルカンも戦力に加わったし」

「そうですね、やはり敵が強いと、得られるものも大きいんでしょう」

「さすがにカインは守りながらの魔力斬は無理?」

「敵の相手をしながら集中できるほど器用ではないので、今は無理です。しかしサンドラやレミリアにも隙ができるので、俺はサポートに徹します。リュートも手伝ってくれるな?」

「分かりました……だけど、俺も魔力斬を出せるようになります」

「全員が同じことをする必要はないぞ。それぞれにスタイルも違うんだし」


 リュートはちょっと悔しそうにしているが、カインは落ち着いたものだ。

 自分の役目を理解し、裏方に徹するのもいとわない彼の存在が頼もしい。


 その後も適当に探索をし、パンサーを何匹か狩ってから帰路に就いた。


 しかし、サーベルタイガーを倒していい気分で歩いていたら、嫌な奴に出くわした。


「また新しい魔物を狩ったのかい?」


 エルザが話しかけてきやがった。

 おそらく一緒にいる数人の野郎どもが、狼牙団なんだろう。

 みんな、薄汚れて疲れたような顔をしている。


「ああ、サーベルタイガーって奴だ。魔大陸にもいるらしいぞ」

「へえー、そうかい。しかし、そんな綺麗ななりをしてるとこを見ると、5層序盤の魔物なんだろ?」

「さあ、どうかな。自分で確かめてこいよ」

「ハッ、トップパーティのくせにケチだねえ。こっちは3層に5日も潜ってたんだ。少しぐらい教えてくれてもいいじゃないか?」


 道理で汚れてると思った。

 普通のパーティは5、6日とか平気で潜るらしいからな。

 俺たちはシルヴァのおかげで進行速度が速いから、3,4日の探索で済んでるのだ。


「わざわざ弟のかたき宣言しておいて、図々しいぞ」

「チッ、早まったかねえ。まあいい、あたしらもじきに追いついてやるさ。その時までせいぜい栄華を楽しむんだね」


 そう言って狼牙団が去っていった。

 野郎どもがニヤニヤしてたから、なんか良くないことでも考えてるんだろう。

 せいぜい用心するとしよう。


 その後、素材類を換金すると、サーベルタイガーの魔石は銀貨25枚となり、素材が1匹当たり金貨2枚で売れた。

 しめて金貨15枚の収入だ。


 5層の魔物は強いが、俺たちも強くなっている。

 3、4層と違ってもうけもいいから、今後もバリバリ探索してやるぜ。

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