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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第5層編

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45.草原都市ナジブ

 伯爵邸を訪れた翌日は、初めて5層を探索した。

 まずはどんな魔物が出るかを確認し、今後必要なものを考えるつもりだ。

 しばらく歩くと、シルヴァの探知に何かが引っかかった。

 その何かがいる方向に進み、部屋の外から確認すると、2匹の巨大な猪が見えた。


 灰色がかった茶色の巨体は牛より少しでかいくらいで、口の横から短剣のような鋭い牙がはみ出している。

 あれに引っかけられたら、大ケガは免れまい。


 俺は仲間に作戦を伝えてから、近くの猪に魔力弾をぶっ放した。

 それはバッチリ首筋に当たったのに、猪はほとんどダメージを受けていないように見える。

 これでも無属性魔法のおかげで強化されてるってのに、さすが5層の魔物だけはある。


 しかし俺とリューナが2発ずつ撃ち込むと、さすがの猪もたまらない。

 そいつが息絶えると同時に、もう1匹がこちらに突進してきたので、カインが盾で受け止めた。


 ドカンという派手な音がしたが、ソードビートルの突進にも耐えるカインを倒せはしない。

 動きの止まった猪に、レミリア、サンドラ、リュートが左右から斬り掛かった。

 分厚い毛皮と皮下脂肪に苦労していたようだが、やがてサンドラの魔力斬で首を切り裂かれると、2匹目も息絶えた。


「ご苦労さん。どうやら5層は獣系の魔物が出るみたいだね。ずいぶんタフみたいだから、効率的な攻撃を考える必要があるかな。とりあえず素材を回収しよう」


 巨大な猪の遺骸から、魔石と毛皮、肉、牙などを剥ぎ取った。

 こいつの牙はまるで短剣のように鋭く尖っていたので以後、短剣猪ナイフボアと呼ぶことにした。



 その後も探索していると、今度は大きな豹が2匹現れる。

 こいつらは仔牛ほどの大きさもさることながら、毛皮が血のように赤く、ひどく禍々しい外見だった。


 そして赤豹はひと声上げると、一斉に飛び掛かってきた。

 カインとサンドラが盾で防ぐ横で、レミリアとリュートが剣で斬りつける。

 一見しなやかそうに見えるその毛皮は、剣を跳ね返すほどに強靭で、簡単には倒せそうになかった。


「こいつら相当硬いぞ。魔力弾を撃ち込むから、そいつらの動きを止めてくれ」

「「了解です」」


 俺とリューナは魔力弾を準備して、奴らの隙を窺っていた。

 すると、その横で周囲を警戒していたシルヴァがふいに顔を上げた。

 その瞬間、ガツンという音と共に、衝撃が走る。


「ドヒィーッ!」


 どうやらたまたまケレスが展開していた障壁に、背後から何かがぶつかってきたようだ。

 そちらを見ると、2匹の黒豹が身を翻している。


「伏兵だ! レミリアとリュートは黒豹の相手を頼む。シルヴァは他にもいないか、調べてくれ」


 驚いたことに、どこかに黒豹が潜んでいたらしい。

 シルヴァにも感知できないとは、相当に厄介な敵だ。


 レミリアとリュートが急いで戻ってきて、黒豹を相手取る。

 幸い黒豹は赤豹ほど強くはないようで、彼女たちの攻撃が通じた。


 その間に俺とリューナは、赤豹に魔力弾を何発か叩き込んだ。

 さすがの赤豹でも魔力弾は効いたらしく、動きの鈍ったところにカインとサンドラの攻撃を受け、じきに息絶えた。

 レミリアたちに目をやると、黒豹もすでに倒されている。


「みんな、ケガは無いか?」

「大丈夫です。それにしても伏兵とは、厄介な敵がいたものですね」

「ああ、オーク以上に硬い赤豹と、シルヴァにも見抜けない隠密スキル持ちの黒豹とは恐れ入るよ。ケレスの障壁が無ければヤバかったな」

「でしょでしょ? 今日はご褒美にごちそうを……」

「どうせ、たまたまだろ? ま、ナジブに行ったら美味いもの食わせてやるさ」


 普段は必要な時にしか障壁を張らないのに、今回は未知の階層だったので最初から展開してたらしい。

 ケレスのビビリが、思わぬところで役だった。

 それにしても、俺はともかくリューナは紙装甲なので、障壁の使い方も考え直す必要がありそうだ。


 その後、毛皮や牙などを回収すると、荷物が一杯になったので地上へ帰還した。


 魔石はボアが銀貨12枚、赤豹が10枚、黒豹が12枚だった。

 ちなみに豹の名前はそれぞれ、赤血豹ブラッドパンサー黒影豹シャドーパンサーと呼ぶことにした。

 魔石以外の素材はボア、パンサー共に1匹当たり銀貨50枚となかなかだ。

 特にボアは肉が、パンサーは毛皮が高く売れた。


 とりあえず5層は巨大な獣系の魔物が出ると分かったので、今後は獣系に有効な戦法を考えよう。





 そして下見を終えると、馬車で草原都市ナジブに向けて出発した。

 ナジブまでは通常、4日ほど掛かるらしいが、俺たちの馬車なら2日で済む。

 途中、大したトラブルも無く、翌日の夕刻にはナジブに到着した。


 この町は広大な草原の一角に存在する都市で、王都と港湾都市セイスの中間に位置している。

 農業が盛んで近くに大きな湖もあるので、いろいろとおいしい物が食べられそうだ。




 到着の翌日は、湖畔で釣りや水浴びを楽しんだ。

 普段、見たことのない魚を釣ったり、泳いだりするのは楽しかった。

 ついでにビキニで泳ぐレミリアとサンドラの肢体も、たっぷり堪能した。

 いつも見慣れているはずなのに、こういう状況だとまた違うもんだね。


 ちなみにリューナも最近は、いくらか大人びてきた。

 出会った時は俺の腹くらいまでの背丈だったのに、今は胸に届くまでになり、体が丸みを帯びてきている。

 ショートだった髪の毛も肩まで伸ばしていて、ぐっと女の子らしくなった。

 さすがにまだ手を出してないけど、遠い話じゃなくなってきたかな。


 湖畔で楽しんだ帰り、冒険者ギルドで依頼を確認してみた。

 別にお金が欲しかったのではなく、何か目的があった方がいいだろうぐらいの考えだ。

 薬草採集でもしようかと依頼票を見ていると、面白そうな依頼が目についた。

 極大野牛ギガントバイソンの狩猟だ。


 ギガントバイソンはナジブ周辺に棲む巨大な牛形の魔物で、そのお肉はナジブの特産品として有名だ。

 今回はとある貴族から注文が出ているらしく、金貨10枚の緊急依頼だった。


「この依頼、5層攻略のいい練習にならないかな?」

「しかしデイル様、バイソン解体のために業者が同行するとあります。それでは行動が制約されて、やりにくいと思うのですが……」

「むしろそれくらいのハンデがあって、ちょうどいいんじゃない? まずはバイソンの情報を聞いてみようよ」


 そう言って依頼票を手に取り、カウンターに持っていった。

 バイソンについて聞くと、体高が人間の倍にもなる巨獣らしい。

 その巨体と凄まじい突進力で、過去何人もの冒険者が犠牲になったとか。


 これを狩るには普通、Bクラス以上の冒険者を中心に据え、何十人も集めてやるそうだ。

 しかも大勢で囲んでチマチマ体力を削るので、ほとんど1日仕事になるらしい。

 体は硬い毛皮に包まれていて攻撃が通りにくいので、鼻が一番の弱点になるが、突進を避けて攻撃を入れるのは至難の業って話だ。


 俺にとっては5層攻略の良い練習だと思い、この依頼を受けようとした。

 ところが、使役獣込みで10人程度のパーティでは自殺行為だと言われ、断られかけた。

 しかし俺たちはガルド迷宮の4層突破者であることを示し、なんとか受注に成功する。




 翌朝、依頼元の業者に赴いて、俺たちがバイソンを狩ると言ったら案の定、ひどく反対された。

 またもやガルド迷宮の実績を示すことで了承させたが、解体班の準備には1日掛かると言われてしまう。

 仕方無いので、その日は適当に町をぶらついて過ごした。




 そしてバイソン狩りの当日、約束の場所へ赴くと、想像以上の人だかりがあった。

 10台もの荷車の周りに、30人以上の解体業者がたむろっている。

 その人出の多さに驚きつつも、挨拶をしてゾロゾロと狩りに向かった。


 狩場まで移動しながら手近なおっさんと話したら、バイソンは町の特産なので町を挙げて支援しているそうだ。

 上手いこと狩れれば、町は一気にお祭り状態になるが、失敗した場合の損失もでかい。

 かと言って、莫大な違約料を請求すれば仕事を受ける冒険者がいなくなるので、金貨2枚に抑えているんだそうな。

 たしかにこれだけの人間を集めておいて、金貨2枚は安いかもしれない。


 1刻ほどで狩場に着くと、遠くに10匹のバイソンが見えた。

 さっそく解体班を残して群れに接近してみたのだが、改めてバイソンのでかさを実感する。

 馬車なんか目じゃないくらいでかくて、ちょっとした家と同じくらいの大きさだ。


 その大きさにしばし圧倒されつつも、気を取り直して作戦に取りかかる。

 まずシルヴァが適当なバイソンを挑発して群れから引き離し、その1匹を攻め始めた。

 前衛陣の誰かが挑発するとバイソンが突進してくるので、ギリギリまで引き付けてから鼻面に攻撃して離脱する。


 これによりメンバーを突進に慣れさせるのと、バイソンの疲れを誘う2つの効果が期待できた。

 そして少し疲れてきたところで俺も加わり、バイソンの眼を弓で狙い撃つ。

 風弓射ウインドショットで両目を潰してやったら、バイソンがメチャクチャ暴れ始めた。


 巨体を振り回して寄せつけまいとするのを、しばらく遠巻きに囲んで疲れを待った。

 やがて動きが鈍ってきた頃に、鼻面と後ろ足に攻撃を集中させると、とうとうバイソンが転倒した。


 なおも暴れようとするバイソンを前衛陣がよってたかって押さえ込み、一瞬だけ頭の動きを止めた。

 その隙に俺が奴の目ん玉に炎の短剣を突き込んで魔力を通すと、頭蓋の中に炎が荒れ狂う。

 さしもの巨獣も頭の中を焼かれては堪らずに、とうとう動かなくなった。


 人目があったので少し遠慮して時間が掛かったが、それでも1刻ぐらいしか経っていない。

 バイソンが動かなくなるのを見た業者たちが、近寄ってきて話し掛ける。


「あんたら、本当に強かったんだな? こんなに早く倒したの初めて見たよ」

「絶対に失敗すると思って賭けてたのに、負けちまったじゃねーか。しかしバイソンを仕留めたから許す。野郎ども、今夜はお祭りだぜ!」

「「「オオーッ!」」」


 みんなして失礼な物言いだが、動きだした業者の働きは凄まじかった。

 倒したばかりのバイソンが見る見る内に解体され、荷車で町へ送られていく。

 小山のようなバイソンを手際よく解体する様は、なかなかに壮観だった。


 こうして日暮れ前にナジブに帰り着くと、町も凄いことになっていた。

 年に2回狩れるかどうかというギガントバイソンの狩猟が成功し、大量の素材が運び込まれたのだ。

 肉だけでなく骨や毛皮も立派な素材になるらしく、前祝いでお祭り騒ぎになっていた。


 俺たちも業者の親父に引っ張っていかれ、大宴会に参加した。

 少人数でバイソンを狩った英雄として、さんざん飲まされたのには参ったが。





 翌日、二日酔いをこらえて報酬を受け取りに行くと、金貨11枚が支払われた。

 ほとんど毛皮が傷ついていなかったのと、いつもより早く倒したせいで肉の質が良かったんだそうだ。

 俺たちは巨大獣との戦闘経験が積めたし、町は大賑わいで万々歳かな。

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