43.4層突破
4層の地図を完成させてから休息を1日挟み、いよいよ4層守護者に挑むべく迷宮に潜った。
3刻弱で守護者部屋の前に着き、休憩を取る。
「これから守護者に挑むけど、退場できるなら1度退場するからな。もし退場できなくても、そのまま討伐するくらいの心構えは持っておけ」
俺たちは昨日1日掛けて、守護者戦の策を練っていた。
例えば鋼針蜘蛛が数匹とか、剣刃甲虫が数匹で出てくる場合などを想定し、作戦を考えてある。
それでも今日は敵を確認してから退場し、さらに作戦を練り直す予定だ。
1度退場すると再入場は丸1日できないので、その間に相談すればいい。
こうして休憩と準備を終え、守護者部屋へ侵入した。
全員が入ると背後の扉が閉まり、奥の暗がりからニードルスパイダーが現れた。
1,2,3,4匹と現れ、さらにその3~4倍はありそうな特大グモが後に続く。
ここまで確認してから扉の横にある水晶に手を当てると、あっさりと入り口の扉が開いたので退散する。
「ニードルスパイダーとその親玉が出てきたか~」
「そうですね。1層のシャドーウルフと同じパターンです」
そんな会話をしながら部屋の外に出て、引き続き対策を話し合う。
「さて、でかスパイダー1匹に手下4匹をどう攻略するか……まず、でかスパイダーは女王蜘蛛と呼ぼう。なんとなく女王っぽいからな」
「いかにもそれらしいですね。それで、クイーンは私が押さえるとして、他はレミリア、サンドラ、リュート、シルヴァが1匹ずつ相手をするのでいかがでしょう?」
カインがそう提案する。
「うーん……クイーンを1人だけで押さえられるかなあ? 手下のスパイダーだってかなり手強いぞ」
「それではまた”暴風雷”で弱らせたらどうでしょう?」
「いや、あの狭い部屋は”暴風雷”に向いてない」
「そうなると、打てる手がないですね」
みんな考え込んでしまった。
「クイーンをカインとサンドラで押さえてるうちに、残りのメンバーで手下を潰すのはどうかな? キョロとシルヴァの魔法で4匹を同時に牽制して、俺とリューナの魔法を端から順にぶち込んでいくんだ。レミリアとリュートは魔法をすり抜けてきた奴を撃退する。壁の一角を使って背後に回りこまれないようにすれば、やれるんじゃないか?」
「なるほど。下手に分散せず、固まって守りながら攻撃するんですね」
「そうそう。どこかが崩れると危険だけど、俺たちは感覚共有で連携が取れる。それとクモの糸はケレスに防いでもらおう」
「ええーっ、あんな気色悪いクモの相手なんか嫌や~!」
するとケレスが強く拒否しやがった。
この駄魔族が、本当に。
「大丈夫だって。前衛の後ろに隠れてて、糸が飛んできた所に障壁出せばいいんだ。お前の手の届く範囲には近寄らせないからさ」
「ううーっ、それは上手くいったらの話でしょ」
「上手くやるためにお前の力が必要なの。それとも、お前だけ留守番するか?」
「それだけは絶対嫌ですぅ!」
「じゃあ、やれるな」
強引にケレスを説得し、さらに細部を詰めてから練習のために移動した。
目的地はスパイダーが10匹もたむろしている宝石部屋だ。
さすがにクイーンスパイダーはいないが、10匹もいれば練習相手に不足は無い。
宝石部屋に到着すると、一気に侵入して壁を背に陣を構えた。
前衛が扇状に並び、その内側に俺とリューナとケレスが陣取る。
すぐにニードルスパイダーが、わらわらと群がってきた。
左側をカインとサンドラが盾で押さえ、右側はキョロとシルヴァの魔法で牽制して寄せ付けないようにする。
たまに粘つく糸が飛んでくるので、これをケレスが魔法障壁で受け止めた。
そしてちょっかいを出してくるスパイダーをレミリアとリュートが跳ね返すが、深追いはしない。
そんな防御的な戦闘をしばらく続けていたのだが、そこからが進まなかった。
俺とリューナが石弾や火球を撃っても、クモの動きが素早くて当たらないからだ。
「なかなか当たらないから、作戦を変更しよう。レミリアとリュートで1匹ずつ引き寄せて足止めしてくれ」
「分かりました。リュート、手伝って」
それからはターゲットを誘い込んで足止めし、俺とリューナの魔法で始末する作戦に切り替えた。
最初はぎこちなかったが、徐々に連携が取れるようになって魔法が当たるようになる。
もちろん俺の使役リンクが大活躍しているのは言うまでもない。
やがて1匹ずつスパイダーを討ち取り、最後の1匹になった。
最後はカインとサンドラがそいつを押さえ込んだところを、全員でとどめを刺す。
けっこう時間は掛かったものの、良い練習になったと思う。
その後スパイダーの素材を剥ぎ取って、守護者部屋の前に戻った。
守護者部屋の前の空間はそれほど広くないが、行き止まり部屋と一緒でめったに魔物がやって来ない安全空間なのだ。
ここなら見張りさえ立てておけば安心なので、翌日の守護者戦に備えて野営をした。
その後も練習結果を踏まえて作戦を練り直し、交替で眠りに就いた。
そしていよいよ守護者戦の本番だ。
準備を整えて部屋に入ると、昨日と同じようにスパイダー4匹とクイーンが現れた。
まず作戦どおりにカインとサンドラがクイーンを惹きつける。
ニードルスパイダーの数倍もあるクイーンの脚と牙が叩きつけられるが、カインは大盾でその攻撃をいなしていた。
さらに魔鉄の槍でチクチク攻撃し、その横でサンドラも大剣を振るっている。
しかしクイーンにその攻撃は効いていないようで、ほとんど嫌がらせにしかなっていなかった。
そんなカインたちを横目に俺たちは、4匹のスパイダーを相手取る。
シルヴァとキョロが全体を牽制してる間に、レミリアとリュートが最初の獲物を引き込んだ。
動きを止められたスパイダーに、俺の火球とリューナの石弾が炸裂する。
さすがにこれだけの攻撃には耐えられず、やがてそいつは力尽きた。
こうして1匹、また1匹と配下のスパイダーを潰していくと、残るはクイーンのみ。
俺が声を掛けると、今まで耐えていたカインとサンドラが攻勢に出た。
カインが押さえてる間に、サンドラが魔力斬でクイーンの脚を切り落とす。
半分の脚を失って動きの鈍ったところに俺とリューナの魔法が炸裂し、さらにキョロの雷撃を受けたクイーンの体がとうとう地に落ちた。
それはガルド迷宮の4層が初めて攻略された瞬間であり、攻略階層が40年ぶりに更新された瞬間でもあった。
「兄様、やったのです!」
「ああ、やってやったぞ、リューナ」
真っ先に飛び着いてきたリューナを抱きとめ、その場でグルグル振り回した。
その後もてんでに集まってきた仲間たちと、肩を抱いて喜びを分かち合う。
ようやく興奮が収まると、みんなで素材を剥ぎ取ってから奥の水晶前に集まった。
5層への侵入資格を得るべく、水晶に手を乗せると、いつになく強く水晶が光る。
続いてゴトンッと音がして水晶の奥の壁の一部が開き、そこに小さな空間が現れた。
空間の中を覗くと、ひと振りの短剣が見つかる。
「これって、何かの罠かな? 短剣が出てくるなんて聞いたことないんだけど……」
「ひょっとしてこれは、守護者討伐の報酬ではないか? おそらく、初めて討伐した者だけが得られるんじゃろう」
「そういうことか……でもやっぱり罠みたいで、ちょっと怖いな」
「まあ、警戒は必要じゃが、大丈夫じゃろう。少なくとも魔力的な仕掛けは無いぞ」
チャッピーのアドバイスに背中を押され、おそるおそる短剣に手を伸ばした。
緊張しながら短剣を取ると、奥の壁が閉じて元に戻る。
その短剣は黒っぽい鞘に収まっていて、所々に金の装飾が施されていた。
その装飾はなんとなく炎を連想させる絵柄だ。
みんなが見つめる中で短剣を鞘から抜き放つと、手のひらほどの長さの刃が現れた。
片刃で反りのある銀色の刀身が妖しげに輝き、そこから目が離せなくなりそうだ。
透明感のある美しい刀身からは、何か湯気のようなものが立ち昇っている。
「主よ、その短剣から炎の魔力を感じるぞ」
「分かるのか? バルカン」
「我と同じ属性なればこそ。試しに魔力を通してみるがよい」
「魔力って、こうか?」
魔力斬の要領で魔力を通してみると、刀身から炎が浮き出た。
急に現れた炎からはけっこうな熱量を感じるというのに、不思議と柄は熱くない。
「なるほど、炎の短剣か。階層初突破に対する褒美とはいえ、相当に値打ちのある魔道具じゃぞ」
「すげーっ……なんかまだ信じられないや」
思わぬところで強力な魔道具を手に入れてしまったため、まだ実感が湧いてこない。
そんな俺をメンバーが口々に祝ってくれる。
しかしその時、ふいに頭の上から声が掛けられた。
「おやおや、ようやく4層が突破されたんだね」




