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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第4層編

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38.魔盾イージス

 予想外の山賊討伐の後、俺たちはケレスと名乗る夢魔サキュバスを仲間に加えることになった。

 正直、ちょっと頼りない奴だが、何か役に立つと思ってのことだ。

 現状は山賊から回収した物品の買い取りに応じるため、しばらく港湾都市セイスに足止めされていた。

 仕方ないので冒険者ギルドの依頼をこなしつつ、衛兵詰所からの連絡を待っていた。





 そして5日目になってようやく買い取り希望品のリストが届き、翌日に希望者と面談することになった。

 今回は11件の買い取り希望があり、それらは全て回収品の中から見つかっている。

 念のため、近くの故買屋である程度の価値は確認してある。



 翌日、指定された場所に赴くと、そこには年配のご婦人と若者が待っていた。

 彼女たちは、例の山賊に殺された商家の遺族だった。

 商家の主人は殺されたが、彼の持っていた商売の許可証を買い取りたいとの申し出だ。


 彼女たちが生活するためにも、許可証を取り戻して商売を続けたいらしい。

 本来、金貨数枚にも値する許可証だったが、こちらには価値が無いし、平民をいじめたくもなかったので大銀貨1枚で売った。

 とても安く売ってくれたことに驚きつつも、深く感謝して彼女たちは帰っていった。


 その後も山賊に襲われた商家や騎士の家族の人たちが、奪われた形見の品を求めてやってきた。

 どれも宝飾品とか短剣の類だったが、全て本来の価値の10分の1程度で譲ってやった。

 当然、遺族には深く感謝され、逆にケレスには呆れられたが、家族を失った人たちには優しくしてやりたい。



 多くの人に感謝され、そのまま終わっていればさぞ良い気分で帰れたのだが、最後にひと悶着あった。

 面会用の部屋で待っていると、妙に偉そうなおっさんが執事を連れて入ってきた。


「吾輩はベッケン子爵家が嫡男 トーラスである。子爵家の家宝を、山賊から取り返したというのはその方らか?」

「はい、山賊”雷鳴団”を討伐したのは我々になりますが」


 雷鳴団ってのは先日の山賊どもだ。

 山賊のくせに大層な名前を付けていたもんだ。


「ふむ、討伐ご苦労であった。それで盗品の中に、青銅色の小盾は無かったか?」

「ええ、おそらくこれではないかと思いますが」


 準備しておいた品を卓上に出すと、おっさんの目の色が変わった。


「おお、これよこれよ。これで我が家の面目も立つ」


 するとおっさんは盾を取り上げると、そのまま出ていこうとしやがった。

 慌てておっさんを引き留める。


「あの、お譲りする価格がまだ決まっておりませんが」

「あ? 元々我らのものだったのに、金を求めるのか? 全くこれだから下賤な輩は」

「おっしゃるとおり、我らは下賤な冒険者なので報酬が無ければ動きません。報酬を求めること自体は問題ないとうかがっておりますが」

「ふむ、多少は仕方ないか。おい、払ってやれ。金貨1枚でよかろう」


 控えていた執事にそう指示したが、執事の方も戸惑っている。


「ご冗談はおやめください。その盾は金貨100枚は下らない魔道具とお見受けします。それに対して金貨1枚しか払わないなど、子爵家の沽券こけんに関わるのではありませんか?」

「やかましい。元々我らの物だったのだから、タダでもいいくらいだ。お前らも子爵家の役に立てたことを栄誉に思うのだな」


 その後、おっさんがべらべらと今回の事情を話してくれた。


 なんでもこの盾は、魔盾まじゅんイージスと呼ばれる子爵家の家宝だそうだ。

 これは魔力で見えない障壁を作り出す魔道具で、大昔に王家から下賜されたんだと。

 その貴重な魔道具を、ろくに扱えもしない長男に持たせて山賊討伐に送り出したのが半年前。

 しかし見事に返り討ちに遭い、魔盾も取られてしまったそうだ。


 山賊の討伐に失敗したうえ、王家から下賜された家宝も無くした子爵家の権威は地に落ちた。

 日々欝々としていたところに、山賊の討伐と盗品買取りの話が届いたので、このおっさんが駆けつけたわけだ。

 ちなみに目の前のおっさんは子爵家の次男で、長男が死んだので次期子爵になるらしい。


「お話は分かりましたが、こちらも慈善事業でやっているのではありません。相場の半分は出してもらわないとお譲りできませんね」

「な、本来の持ち物に金貨50枚も出せるかっ!」


 実際の価値は金貨100枚を下らないというのに、その半分ですら出し渋るとはせこい貴族だ。

 隣の執事も50枚なら払おうと言うのだが、次男の方が意地になってしまった。


「下賤な冒険者ふぜいが、高貴な我らにたかろうとするのが気に食わん。何だったら不敬罪で捕らえてもよいのだぞ!」


 あーあ、言っちゃったよ。

 金貨50枚くらい、貴族にとってはどうということもないのに。


「分かりました。これはお譲りしません」

「なな、な、な~んだとっ! 貴様、我が家の家宝を持ち去ろうと言うのか……衛兵、この者を捕らえよ!」


 偉そうに立ち会いの衛兵に命令しているが、捕らえられるわけがない。


「トーラス様、現状の盾の所有者はこちらのデイル殿になりますので、盗難ではありません。それなりの礼金を払って買い戻すことを、お勧めします」

「ふざけるなっ! ええい、もうよい、儂が捕らえてくれるわ。おとなしくそこにひざまずけ!」


 とうとう剣を抜いて俺に突きつけてきた。

 とんでもないアホだな、こいつは。


「これってありですか?」


 念のため衛兵に聞くと、彼は首を横に振っている。

 そしたらトーラスの野郎、剣を振り上げて斬りかかってきやがった。

 さすがに頭にきたので、左手の籠手で剣を払いつつ、右のパンチを腹に入れてやった。


「ぐぼぅっ!」


 情けない声を上げて膝を着いたので、右手をじりあげながら床に這わせて押さえ込む。

 状況についてこれていない衛兵に問いかけた。


「この状況って、明らかに正当防衛ですよね? これが表沙汰になったら、ベッケン子爵家にとって、非常にまずいことになるのでは?」

「そ、それはそのとおりです。我々にトーラス様を捕らえる権限はありませんが、王宮へ報告すればしかるべき処罰が与えられると思われます」


 衛兵の説明を聞いて、今度は執事に話しかける。


「と言ってますが、どうします?」


 俺の下ではトーラスがギャアギャア騒いでるが、こいつは無視だ。

 執事は戸惑っていたが、やがて口を開いた。


「王宮への報告はご勘弁ください。盾については然るべき金額をお支払いして引き取りたいと考えます。我が主と相談させてください」

「そうですか。それでは金貨120枚でお譲りすると、子爵に伝えてください」

「ひ、120枚? それはあまりに無体な」

「200枚の方が良かったですか?」

「……分かりました。金貨120枚と主に伝えます」


 こうして最後に揉めたものの、おおむね平和に買い取りは終了した。

 残った宝石や宝物類、山賊の装備なども売り払うと、なんと金貨70枚近くにもなった。

 さらに山賊討伐の報酬が金貨10枚で、合計で金貨80枚を手に入れたことになる。

 この町には新しい装備を買いにきたのに、逆に資産が増えてしまった。


 魔盾については迷宮都市へ連絡をもらうことにして、俺たちは帰路に就いた。

 もちろん魔盾は俺の手元にある。

 はたして子爵は大金を払って取り戻そうとするのか、それともまた暴力に訴えるのか?





 ようやく自宅に帰った翌日から、ケレスを連れて迷宮へ潜った。

 もちろんケレスは嫌がったが、タダ飯を食わせてやるほど俺たちはお人好しではない。

 荷物持ち兼、俺とリューナの護衛をやらせることにした。


 彼女とは使役契約を結んだうえで、例の魔盾を持たせてある。

 この魔盾イージスから生まれる障壁が、ケレスの使う無属性魔法と同じ系統だったため、誰よりも相性が良かったからだ。

 障壁の発動速度、強度ともに、最高の性能を引き出している。

 ただし本人は戦いが嫌いなので、攻撃はしなくてもいいと言ってある。


 一応、ケレスにも冒険者登録をさせ、1,2,3層の守護者戦を経験させた。

 ただし魔物との戦闘経験は圧倒的に少ないので、彼女の強化レベルは最低の4だ。

 レミリア、カイン、サンドラが6、リュート、リューナが5なのに比べるとやはり低い。


 それから幸いなことに、迷宮の10人ルールにも引っかからなかった。

 ウチのパーティは俺、レミリア、カイン、サンドラ、リュート、リューナ、キョロ、シルヴァ、チャッピー、バルカン、ドラゴですでに11人体制だったが、ケレスを入れても普通に魔物と戦えた。

 おそらく、直接戦闘をしないチャッピーとバルカン、ドラゴは、人数に入っていないのだろう。


 こうしてケレスを入れて4層の序盤を探索していたある日、事件が発生した。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

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