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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第4層編

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37.ケレス

 修理に出した鎧を、翌朝早くに引き取ってきた。

 親父に礼を言い、また数カ月後に来ることをほのめかしたら、適当な物を準備しておくと言っていた。

 今度はどんな品物が出てくるだろうか?


 それから馬車で迷宮都市に向かっていたのだが、昼過ぎにシルヴァから警報が発せられた。

 どうやらこの先に、大勢の人間が待ち構えているらしい。


「なんか、この先に人がいるらしいんだ。山賊かもしれないから、準備しといて。レミリア、弓を取ってくれ」


 俺は弓を装備し、仲間も武器を持った状態で、しばらく馬車を進めた。

 すると少し先で、20人近い人間に道を塞がれた。


 そいつらはてんでに革鎧や剣などを身に着けているが、装備はばらばらで小汚いのばかりだ。

 この辺に巣食う、山賊ってとこだろうか。

 真ん中に俺より頭ひとつでかい大男がいて、大きな斧と金属鎧を装備していた。

 たぶんあれが親玉だろう。


 そのままドラゴに突破させようかとも思ったが、馬車を傷付けられるのも嫌だったので、おとなしく馬車を止めて話しかける。


「何か御用ですか? そこ通して欲しいんですけど」

「ああ、通してやるよ。有り金と装備を全て寄越せばな。ついでに女も置いてけっ! グヘヘヘヘヘ」


 その言葉と同時に後方からも10人ほど現れて、退路を塞がれた。

 もちろんシルヴァの報告で、いるのは知ってたんだけどな。


「いわゆる山賊ってやつね。でもこう見えて俺たち、トップクラスの迷宮探索者だから、おとなしく通した方が身のためだよ」

「ギャハハハハッ、こいつは傑作だ。こんなヒョロそうなガキが、トップ探索者だってよ。だったら俺たちでも迷宮攻略なんて、簡単にできらあ、ギャハハハハッ」

「やっぱ信じないか? ま、あの世で自身の愚かさを悔やむんだな。みんな、容赦せずにっていいよ。カインは1人だけ生かして、連れてきてくれ」


 そう指示すると仲間が馬車から降り、山賊に襲いかかった。

 レミリア、カイン、サンドラ、リュートの剣やメイスが振られるたびに、バタバタと山賊が倒れていく。

 リューナは後方の敵に対して魔法で攻撃している。

 キョロも走り回りながら電撃を放ち、仲間を援護していた。


 俺は弓を構えて全体を監視していたが、親玉が後の方で余裕かましてたので、矢を撃ってやった。

 おりょ、生意気にも矢を打ち落としやがった。

 意外にやるな、あいつ。


 しかし、その後の2連射の内1発がスコーンと額に命中し、あっさり死んでしまった。


 俺たちが想像以上に強いうえ、親玉までやられて山賊どもが逃げ始めた。

 しかしそんな奴らを逃がすはずもなく、前衛陣が生き残りを駆逐していく。

 たまたま逃げられそうな奴も、俺が風弓射ウインドショットで始末してやった。

 やがて全ての山賊が駆逐され、カインが1人だけ捕虜を引きずってきてくれた。


「ありがとう、カイン。手間を掛けたね」

「いえ、こいつらなど迷宮の魔物に比べれば、ゴミみたいなものです」


 そう言いながら、気を失っていた山賊を蹴り起こした。


「グハッ……ヒッ、た、助けてくれ」

「おい山賊、俺たちの強さが分かったか? お前なんて一瞬で殺れるんだから、素直に質問に答えるようにな」

「答えるっ! 答えるから命だけは助けてくれえ!」


 それからしばし生き残りを尋問した。

 残りの仲間はいるのか?

 拠点はあるのか?

 それはどこか?


 その結果、ここから半刻ほど歩いた所に拠点があり、まだ10人ほど仲間が残っていることが判明した。

 さらに捕まってる人もいるらしいので、そこも片付けることにした。


 とりあえず倒した山賊の首を全て回収し、遺体は森の中に捨てる。

 それから適当な所に馬車を置き、カインに留守番を頼んだ。

 残りのメンバーで拠点を目指して歩くと、半刻ほどでそれらしい洞窟が見えてきた。

 入り口周辺に見張りが2人見える。


 チャッピーに洞窟内を偵察してもらうと、中には山賊が7人と捕虜の女性3人が確認できた。

 山賊に強そうなのはいないらしいので、さっさと始末することに決めた。


 まず見張りを矢で撃ち倒してから、静かに忍び込んだ。

 中に入ってすぐの部屋に4人いたので、そこにキョロを放り込んだ。

 彼の電撃で麻痺ってるところに俺たちも乱入し、1人だけ気絶させて残りは始末する。

 さらに奥の部屋にも3人いたので、同様に始末してから捕虜を解放した。


 捕らえられていた3人の女性は、誰も衣服はボロボロで、暴行を受けた形跡が窺えた。

 可哀想だが、山賊に捕まっていたからには避けようのない話だ。


 レミリアとサンドラに捕虜の介抱を頼んでいたら、ふと女性の1人と目が合った。

 そいつは緑色のショートヘアに黒目の地味な女だったが、他の2人より元気そうだった。

 というより、俺のことを興味津々な表情で見るその様は、余裕を感じるほどだ。

 しかし、とりあえず危険は無さそうだったので放っておいた。


 その後、生かしておいた山賊を尋問して拠点内を捜索すると、大量の金銭と宝物が出てきた。

 あいつら、相当荒稼ぎをしていたみたいだな。

 拠点で飼われていたロバにそれらのお宝を積み込み、虜囚の女性と共に馬車の所まで持ち帰った。


 一応、尋問した山賊は2人とも生かしてある。

 山賊なんてのは即処刑でもいいんだが、命を助けると言って情報を聞き出した手前、殺すわけにもいかない。

 衛兵に突き出せば奴隷として売られ、いくらかの金にはなるだろう。


 お宝を運んでいたらけっこう時間が掛かってしまい、その晩はそこで野営となった。





 翌朝早くから来た道を逆戻りし、昼前にはセイスに到着した。

 衛兵詰所で山賊の首と生き残り2人を突き出して事情を説明すると、もの凄く感謝された。

 奴らはここ1年ほど周辺の街道で商隊を襲いまくっていたらしく、衛兵もほとほと手を焼いていたからだ。

 何回か出された討伐隊からも全て逃げ切っていたため、今回はけっこうな報奨金が出るらしい。


 拠点から回収した金銭や物品は、俺たちの物にしてよいことになった。

 ただし、略奪品の中には買い取りを希望される物があるかもしれないということで、状況を確認するまでしばしの逗留とうりゅうを要請される。

 正直、面倒臭かったのだが、これも人助けと思って了承しておいた。


 ひととおり手続きを終えて衛兵詰所を出ると、もう夕暮れだった。

 とりあえず宿に向かおうとしたら、1人の女性に呼び止められた。

 その人は山賊の捕虜になっていた、例の緑髪の女だった。


「あの、今日は助けていただいて、ありがとうございました。ぜひお礼をさせていただきたいのですが」


 救出された人たちはどこかで治療を受けているはずなので、この人だけお礼のために抜け出してきたことになる。


「別に救出したのはただの成り行きですから、気を遣わなくてもいいですよ。それよりも体を休めた方がいいのでは?」

「いいえ、それでは私の気が済みません。せめて夕食だけでもごちそうさせてください」


 そう言われると断りにくいので、これから宿まる予定の宿屋で、食事をおごってもらうことになった。

 正直言って、胡散臭うさんくさい女だが、逆に何を言い出すのか興味が無いでもない。


 宿屋の食堂で食事を注文し、まずは乾杯した。

 そしてケレスと名乗るその女性と、いろいろ話をする。


「ケレスさんはどういった立場の方なのですか?」

「はい、私はこの町のとある商家で働いておりました。そして4日前に仕事で迷宮都市ガルドへ赴こうとしたのですが途中、あの山賊に襲われまして……ウウッ」

「そうですか、それは大変でしたね」

「いえ、こうして自由の身になれただけでも、とても幸運だったと思います」


 彼女が同行していた商隊にはかなりの護衛が付いていたにもかかわらず、山賊に全滅させられたらしい。

 その時に勤め先の主人も殺され、今は仕事も無いと言う。


「仕事をくした人にごちそうになっちゃっていいんですか?」

「え……も、もちろんです。命の恩人にはこれくらいさせてもらわないと」


 そう答える彼女の目は泳いでいて、明らかに何か隠しているようだ。

 そんな女に、ふいにチャッピーが呼びかけた。


「そろそろ正体を現してはどうだ? 魔族の女よ」

「っ!」


 他の仲間たちが、チャッピーの発言に驚愕していた。

 一方、正体をばらされたケレスはニヤリと笑いながら何かを呟くと、彼女の人相がガラリと変わる。

 顔の形自体は変わっていないのだが、陰影に乏しかった顔の作りが急にくっきりして、妖艶な女のそれに変わっている。

 瞳の色も、黒から金色に変わっていた。


「さすがに妖精の目は誤魔化せないか~。そっちの坊やも最初から疑ってたみたいだしね」

「まあな、あんたは最初から不自然だったし、チャッピーにも警告されてたからな。それで、何が狙いで俺たちに近づいたんだ?」


 不思議と悪意は感じないので、そのまま話を続ける。


「そんな凄まないでよ。珍しい妖精持ちがいるから、ちょっと見てやろうと思っただけ。ついでにあたい一文無しだから、飯もごちそうになろうかと思ってな」

「なっ、ここの食事代はお前が出すはずだろうが!」

「そんなの払えるわけないじゃ~ん。山賊にぜ~んぶ取られて、しかも仕事までなくしたんだから。哀れな女性にご馳走してね~、キャハハハハッ」


 図々しいたかり宣言にカインが激昂げっこうするが、ケレスはそれを平気で笑い飛ばした。

 俺は殴りかかりそうなカインを押し留め、話を続ける。


「別に飯くらいならおごってやってもいいが、他にも何かあるんだろ?」

「うーん、それはあんたら次第だったんだけど、まあいいか。実はさあ……あたいを雇ってくんない?」

「「ハアッ?」」


 またまた仲間たちが呆れ、言葉を失くしていた。


「いやー、あたい最近、魔大陸からこっちに来たばかりなんだけどさあ、やっぱ1人だといろいろ辛いのよ。あ、あたいは夢魔サキュバスなんだけど、大して力が無いから山賊なんかに捕まっちゃって。もう、あいつら臭くて汚いから嫌だったんだよね~」


 酒を飲みながら、ケレスが自らの境遇を語る。

 彼女は珍しい物見たさで魔大陸からの船に密航し、2ヶ月前にこの町に着いたそうだ。


 一応、簡単な変身と精神干渉の魔法が使えるため、ある商家の旦那に取り入ってそこで働き始めた。

 しかしたまたま付いていった商隊が、不幸にも山賊に襲われてしまう。

 おかげで男は皆殺しにされ、女はさらわれて慰み者にされた。


 その後は山賊の意識に干渉してあまり犯されないように立ち回りつつ、脱出の機会を窺っていたところを、ようやく俺たちに救出された。

 しかも俺たちは妖精や精霊を連れているうえ、虜囚をていねいに扱うお人好しだったので、仲間に加えてもらおうと考えた、という次第だ。


「仲間に加えるんだったら、俺たちにもメリットがないとな。ケレスには何ができるんだ?」

「うーん、得意なのは男をたぶらかして精を吸い取ることかなあ。こう、男好みの姿に変化したり、思考を誘導したりするのよ。そうは言っても力が弱いから、何でもできるわけじゃないよ」

「戦闘の方はどうだ?」

「あーっ、ダメダメ。あたいは戦いが嫌いなんだよ。魔法も無属性で軽い物を動かすくらいしかできないし」

「「ダメじゃねーかよっ!」」


 ケレスの話を聞いた仲間たちが、みんなでダメ出しをする。

 こんな駄魔族、普通に考えたら雇う意味は全くない。


「本当に魔族の力ってのは、そんなもんなのか?」

「そんなもんって、仕方ねーだろ。あたいは魔族の中でも若いし、低級だし……」

「それでも、ここまで生き残ってきたんだろ?」

「あたいだって必死だったんだよ。精神干渉系の魔法と無属性魔法だけで、なんとか身を守ってきたんだ……」


 まあ、とりあえず飼っておいて、しばらく様子を見るか?

 いずれ良い使い道が、見つかるかも知れない。


「分かった。まあいいだろう。しかし雇うからには俺と使役契約を結んでもらうぞ」

「ご主人様、こんな得体の知れない存在と契約するなんて、本気ですか?」

「大丈夫だって、レミリア。俺にも考えがあってのことだ。それとケレス。下手に俺の精を絞ろうとするなよ。俺の女たちが黙ってないからな」

「や、やだなあー。あたいはそんなに不埒ふらちじゃないって。アハ、アハハハハハ……」


 とりあえず釘を刺したので、当面はこれでいいだろう。

 一見、役に立ちそうにない奴だが、そのうち何かに使える気がする。

 魔族という存在についても、おいおい教えてもらおう。

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