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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第3層編

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32/87

31.ドラゴ

 風精霊シルフの協力で”竜巻の卵”を使えるようになった俺たちは、対ソルジャーアント戦の特訓を積み重ねた。

 おかげである程度、攻略の目処が立ってきたので、再び迷宮3層に潜る。

 とりあえず3層序盤の地図を埋めながら、ソルジャーアントを探していると、15匹ほどの群れに遭遇した。


「それじゃ、あいつらが見え次第、リューナは竜巻弾を撃ってくれ。うまくいったら、俺とチャッピーが散弾で追い討ちを掛ける」

「はいです、兄様」


 アントに気づかれないよう部屋の入り口まで忍び寄り、そっと中を覗き込むとウジャウジャうごめいていた。

 ここでリューナに合図を出すと、彼女が”竜巻の卵”を射出した。

 これぞ、対アント用に開発した”竜巻弾”だ。


 ポンッという音と共に撃ち込まれた卵が、アントの群れに当たって竜巻に変化する。

 狭い迷宮内で使うために威力は調整してあるが、アントが何匹も巻き上げられた。

 ダメージはほとんど入っていないが、群れが混乱して何匹か腹を見せている。

 すかさずそこに散弾を撃ち込んでやったら、何匹かのアントが負傷した。


 もちろん敵も反撃してきたが、混乱してダメージを負っているせいか勢いが弱い。

 そんなアントをカインたちが迎撃し、次々と始末していく。

 俺も弓矢で支援していたが、わりと簡単に片が付いてしまった。


「みんな、ケガは無いな。どうやら竜巻弾を使えば、大量のアントにも対応できそうだ」

「はい、かなりやりやすくなりましたね」


 その後も2回ほどアントとの戦闘を繰り返し、探索を続ける。

 やがてシルヴァから、新たな魔物の報告が入った。


 部屋の入り口から覗き込むと、馬鹿でかい緑色のイモムシが5匹いた。

 どれくらいでかいかというと、全長は俺より頭ふたつ分は大きく、胴回りは俺の倍以上もあるほどだ。

 あれがスライムと並ぶ迷宮の掃除屋スカベンジャー 洞窟芋虫ケイブキャタピラーだろう。

 皮はそれほど硬くないらしいが、意外に動きが素早くて、強烈な突進が厄介って話だ。


 そんな注意事項を仲間に伝え、石弾を準備した。

 リューナにも準備させて同時に撃つと、近くのやつに2発とも命中する。

 しかし、2発も突き刺さったというのに、そいつは少しも弱っていなかった。


 それどころか猛然とこちらに突進してきたところを、カインに救われる。

 とっさに盾で防いだのだが、カインが少し押されるほどの勢いだ。


 残りの4匹も攻めてきたので、前衛が総出で迎え撃つ。

 しかし、奴らはちょっとやそっとの斬撃や噛みつきには怯まず、異常なタフさを見せつける。

 俺も石弾をで援護していたら、ふいにバルカンが話しかけてきた。


「主よ、あの魔物には我の火球が効きそうだ」

「ん? そういえばそうだな。決して皮は硬くないから、火が効くかもしれない。よしバルカン、火球を頼む」


 右手を前にかざすとバルカンが前腕部に移動し、手のひらの前に火球が発生した。

 相変わらず、もの凄く熱い。

 すぐに魔力で包み込んで、近くのキャタピラーに撃ち込んだ。


 超高熱の火球がキャタピラーに接触すると、肉を焼きながらめり込んでいく。

 ジュウジュウと肉が焼ける音がして、香ばしい匂いが立ち込めた。

 体を内から焼かれたキャタピラーが、ギャーギャー言ってもがき苦しみ、やがて動かなくなった。

 やはり火球は有効だ。


 続いてサンドラの相手にも火球を撃ち込み、彼女を解放して指示する。


「サンドラ、左のやつに魔力斬を頼む!」

「了解じゃ」


 さらに残りの2匹にも火球を撃ち込むと、やがてそいつらも動かなくなった。

 その頃になると、サンドラも最後の奴を倒していた。

 想像以上に苦戦したが、バルカンの機転で助かった。


 しかし、静かになった部屋に、リューナの悲鳴が響き渡る。


「リュート! ケガしたの? 大丈夫?」


 苦しそうに顔を歪めてうずくまるリュートに、リューナが駆け寄っていた。

 俺も慌てて彼の所へ行く。


「大丈夫か? リュート」

「だ、大丈夫です。ちょっと引っかけられただけだから、クッ!」


 かなり痛そうなので鎧とズボンを脱がせると、左太ももが青黒く変色して腫れていた。

 すぐにチャッピーに治療してもらうことで、ようやくリュートの表情が和らぐ。


「カインの次に頑丈なはずのリュートに、これだけのダメージを与えるとはな。凄い馬鹿力だ」

「ええ、あの巨体に似合わぬ突進力は脅威ですね」

「しかも相当打たれ強いぞ、あいつら。バルカンがいなかったら、もっと被害が出てたかもしれない。助かったよ、バルカン」

「当然のことをしたまでだ。ようやく役に立てて嬉しいぞ、主よ」


 やはりいろいろな攻撃手段があるというのは、心強いものだ。

 次々と現れる新たな魔物に対抗するため、手札が多いに越したことはない。


 魔石を回収して部屋の中を調べると、あいにくと宝石や残された装備などは無かった。

 キャタピラーの手強さからすると、何かあってもおかしくないと思ったのだが、無いものは仕方ない。

 まだ時間的には早かったが、リュートが負傷したので地上へ戻ることにした。


 ちなみにキャタピラーの魔石は、1匹でたった銀貨3枚。

 あの強さでパラライズバットと同じ価値だなんて、詐欺だな。

 俺たちを襲った犯罪パーティ”嵐の戦斧”が、3層は苦労のわりに儲からないと言って犯罪に走った気持ちが、少しだけ分かった。


 地上へ帰還して自宅へ戻ると、今日の反省会をした。


「とりあえずリュートのケガの様子を見るから、2,3日は訓練だな。それと、今日のキャタピラーを見て、何か気づいたことはある?」

「そうですね。奴らは火に弱そうなので、火で奴らを分断できないですかね?」

「うーん、火炎弾で炎の壁を作って、奴らを分断するとか? チャッピー、できる?」

「火炎弾でそんなに大きな炎は、作り出せんぞ」

「うーん、それじゃ嫌がらせぐらいにしか使えないか……」


 一旦諦めかけたら、レミリアが改善案を出した。


「それなら、油を撒けばいいのではありませんか? 油を詰めた壷を投げて割るとかすれば……」

「オッ、それはいい手だな。あとで雑貨屋に行って、使えそうな道具を探してみよう」


 ひとつ対策案が出たところで、カインからも提案があった。


「現状で有効な攻撃を与えられるのは、デイル様とサンドラだけです。なので残りの者は、そのサポートに徹しましょう。俺は盾で突進を受け止めますが、他は回避に専念して敵を分散させてはどうでしょう?」

「うん、それは良さそうだな。明日からその方向で訓練をしよう」


 カインもいろいろ考えてくれて助かる。

 一時は攻撃の役に立てずに腐っていたが、最近はパーティが強くなるための献策を、積極的にしてくれるようになった。

 守りの要として、そして俺の副官として、ひと皮むけた感じだ。





 翌日は例の原っぱで訓練をした。

 俺とリューナは魔法を工夫して威力や精度を上げ、前衛はアントやキャタピラーを想定して連携を高めている。


 そして休憩がてら昼食を取っていた時に、何やら騒がしいお客が現れた。


「ヴモーッ、ヴモーッ!」

「ウォンウォンッ、ウォンウォンッ!」


 騒がしくなった方向を見ると、向こうの森から土色の魔物と、それを追う数匹の恐暴狼ダイアーウルフが現れた。

 土色の奴は小ぶりな牛くらいの大きさで、短い首と四肢を持つずんぐりした魔物だ。

 その体表は鱗で覆われていて、毛は生えていない。


「なんだ、あれ?」

「あれは偽竜フェイクドラゴンじゃな。この辺に野生のフェイクドラゴンがおるとは珍しい」

「フェイクドラゴンって、たまに馬車を牽いてるあれ?」

「そうじゃ、手が掛からないわりに力が強くて、持久力もある。多少扱いが難しいが、上手く使えば最高の牽引獣になる魔物よ」

「へー、けっこう便利な奴なんだな」


 そんなことを話しながら飯を食っていたら、なぜかフェイクドラゴンがこっちに逃げてきた。

 普通は人間のいる方になんて、逃げてこないと思うんだがな。


「ヴモーッ、ヴモーッ!」


 よく見ると、そいつは右後脚にケガをしているらしく、足を引きずりながら必死に逃げていた。


「兄様、可哀想なの」

「しかしダイアーウルフにも餌が必要だからなあ。あいつらが襲ってでもこない限り助けないぞ」

「でも……」


 リューナにねだられたが、俺は自然の営みに手を出すつもりはない。


 と思ってたんだが、フェイクドラゴンがまんまと俺たちの近くに逃げ込んできやがった。

 おかげで7匹のダイアーウルフが、俺たちを囲んで威嚇し始める。

 しかしここには、場を支配し得る強者がいた。


「アオォォォォーーーン!」


 シルヴァが1歩前に出てひと声吼えると、ダイアーウルフが急におとなしくなった。

 さっきまでの威勢はどこへやら、尻尾を丸めてブルブル震え始める。

 そりゃあ、ダイアーウルフの上位種である風狼ウインドウルフで、かつ迷宮で鍛えられたシルヴァに敵うわけないわな。


 さすがにダイアーウルフが可哀想になったので手持ちの食料を与えると、すっげえ喜んでいた。

 しかも俺がシルヴァの主人だってのが伝わると、全ての狼が腹を見せて完全服従だ。

 最後は嬉しそうに尻尾を振り、森の中へ帰っていった。


 さて、騒ぎを持ち込んだフェイクドラゴンだが、最初は少し距離を置いてこっちを窺っていた。


「こいつ、あまり人間を恐れないんだな」

「うむ、どこかで飼われていたのかもしれんな。まだ角が短いから若い個体じゃ」


 たしかに、鼻の上の角はまだ親指ぐらいしかない。


「へー、これがもっと伸びるのか。それにしてもこいつ、どうしようかな?」

「いかにもおぬしを頼りたそうにしておるから、助けてやればよいではないか?」

「でも俺、馬車持ってないし」

「そのままでも荷物持ちに使えるから、迷宮に連れていけばよいではないか」

「うーん、そうするか。よし、契約するから治療してやってくれ。『接触コンタクト』……『結合リンケージ』……『契約コントラクト』」


 使役術を行使したらあっさり契約が完了し、チャッピーに後脚を治療してもらう。

 俺と契約している者には、なぜかチャッピーの治癒魔法が良く効くのだ。


「ヴモー」


 傷の治ったフェイクドラゴンが、俺に鼻を擦り付けてきた。

 軽く撫でてやると、嬉しそうに声を上げる。

 それを見ていたリューナやリュートも、おそるおそる撫でてから、急激に仲良くなった。

 そのうち、リュートが聞いてきた


「こいつの名前、なんにするんですか?」

「んー、そうだな……”ドラゴ”でどうだ? フェイクドラゴンなんて呼ばれて可哀想だから、せめて俺たちは竜として扱うんだ」

「いいですね、それ」

「ヴモー」


 俺の命名が気に入ったのか、満足そうにリュートがドラゴの首筋を撫でている。

 ドラゴもまんざらではなさそうだ。


「本当にこれを迷宮に連れていくんですか? デイル様」

「ああ、戦闘には向かないけど、荷物持ちにはピッタリだ。これで移動が楽になるぞ」

「それはそうかもしれませんが、かえって邪魔にならないでしょうか? 急に混乱して暴れられたら厄介です」

「大丈夫だって。そのための使役スキルだ。俺にはこいつの考えてることが分かるし、指示も伝えられる。きっと役に立ってくれるさ、な?」

「ヴモー」


 ポンポンと肩を叩いてやったら、ドラゴが嬉しそうに鳴いた。


 その後、早めに訓練を切り上げて、ドラゴの装備を買いにいった。

 町の商業地区を見て回ると、馬用の積載カゴが見つかった。

 これは2つの大きなカゴを体の左右に振り分けるもので、背中の上に荷物を載せられるようにもなっている。


 シルヴァも似たようなカバンを使っているが、それより何倍も積載能力が高い。

 サイズを調整してもらって、銀貨40枚で買った。

 これで俺たちの運搬能力が、飛躍的に向上した。


 そして荷物がたくさん持てるとなると、あれを試したくなるな。

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