表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第3層編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/87

30.第3層の試練

 練習中にバルカンの火球が想像以上の威力を見せたことに、カインたちが浮かれている。

 たしかに岩に穴を開け、草原を火事にしてしまうバルカンの火力には凄まじいものがある。

 すると、それを見ていたチャッピーが、冗談ぽく呟いた。


「これなら儂の火球など、もういらんのう、デイル」

「何言ってんだい、チャッピー。たしかにバルカンの火球は強力だけど、それだけで進めるほど迷宮は甘くないだろ」

「そうか? あれほどの威力があれば、オークも恐れるに足らんじゃろう」

「そんなに焚き付けるなって。ただ熱いだけの火球なんて、高い魔法防御には効かないでしょ」

「フヒヒッ、意外に慎重じゃのう。しかし儂もそう思うぞ。強い魔物を倒すには、また何か工夫が必要じゃろう」


 やはりチャッピーも同じことを考えていたか。

 ちょっと強い力が手に入ったからって、浮かれていられるほど迷宮は甘くないのだ。

 いずれにしろ、バルカンの使い方は良く考えなければいけない。

 その力に大きな可能性は感じるけど、今のままではまだまだ力不足だ。


「とりあえずバルカンの火球がどれぐらい通じるか、明日はオークと戦ってみようか」

「うむ、それがよかろう」





 翌日は3層に転移してから2層の守護者部屋を通り、深部に入った。

 部屋を通り抜けながら、もし裏口から入って守護者と再戦できたら楽なのにと考える。

 そうすれば転移水晶を使って、お手軽にオークの皮と肉を大量に持ち帰って大儲けできるからだ。

 しかしさすがにそんなうまい話にはならず、1度倒すと守護者は現れなくなる。


 一応、2層を攻略していないメンバーを連れてくれば、守護者と再戦はできるらしい。

 しかし2層を攻略していなければ3層には跳べないわけで、2層の入り口から歩いてくるしかない。

 そんなことをするぐらいなら、3層を攻略している方がマシだろう。

 もっとも、3層で行き詰まって2層を主な狩場にしているパーティも、けっこういるらしいのだが。



 2層深部に入ると、宝石を見つけた部屋へ直行した。

 あの部屋には5匹のオークがいるはずなので、いろいろ試せると考えてのことだ。

 その思惑どおり、宝石部屋には5匹のオークが待ち受けていた。

 前回同様に前衛がそれぞれ向かい合い、俺がリュートを、リューナはシルヴァをサポートする。


 まずバルカンの火球をオークに撃ってみたのだが、やはり大して効かなかった。

 もちろん火傷ぐらいはするものの、高い魔力防御に阻まれて中までダメージが入らない。


 思っていたとおり、このクラスの防御力にバルカンの火球では、力不足なのだ。

 しかしそれはバルカンのせいではない。

 何か魔法防御を壊す方法を見つければ、きっと強力な戦力になるはずだ。


 仕方ないので魔力弾でオークを仕留めると、リューナの方も数発の魔法弾でオークを倒していた。

 続いてサンドラとレミリアも、危なげなくオークを倒してみせる。

 最後はカインだったが、彼もやがてオークを転倒させると、メイスで仕留めてしまった。


 レベルアップのおかげか、前衛はまた強くなっている。

 素材の剥ぎ取りをしながら、状況を確認した。


「やはりバルカンの火球はオークに効かんかったのう」

「まあ、今のところはね。でも表面の魔力防御を破れば、凄い威力になるのは間違いないよ。その方法は今後考えるとして、当面は使える範囲で活用していこう」

「面目ない、主よ」

「バルカンのせいじゃないって。今のところは撃てる数も少ないから、使い方を工夫しようよ」


 まだ生後5日目のバルカンには、せいぜい3,4発の火球しか撃てない。

 少々体が大きくなったとはいえ、彼はまだ成長途上なのだ。


 ちなみに精霊であるバルカンは、その外見を成長過程の範囲内で変えることができるそうだ。

 つまり最大で犬くらいの大きさまで成長したとしても、産まれたばかりのチビトカゲに戻れることになる。

 なんとも常識外れな存在だが、そもそも俺の魔力で受肉してるんだから、チャッピーみたいな妖精に近いのかもしれない。

 とりあえずバルカンには、今後も連れ歩くのに便利な、チビトカゲの姿でいてもらうことにした。



 オークの素材を剥ぎ取ると、売却のため一旦地上へ戻った。

 その素材は金貨11枚と破格の値段で売れたので、金策に困ったらこれを繰り返すのもよさそうだ。


 今日はまだ日も高かったので、3層を下見するべく再び迷宮へ潜った。

 3層の水晶部屋から左側の通路へ進むと、やがてソルジャーアントが10匹現れた。

 シルヴァによれば、こんな群れがあちこちにいるらしい。

 大きな犬ほどもある蟻の魔物が、牙を鳴らして俺たちに迫る。


 その甲殻は硬く、通常の剣では弾かれるが、魔鉄製の武器を使う俺たちの敵ではない。

 前衛は苦もなくアントを仕留めているし、それをかいくぐってきた奴はリューナやキョロが返り討ちにしていた。

 さして経たないうちにアントが殲滅されたので、魔石を取りながら皆の様子を確認する。


「特に問題はなかったみたいたけど、何か気になることはある?」

「はあ、1匹ずつなら問題ありませんが、やはり数の多さが気になりますね」

「10匹だけでも、もう前衛だけではさばききれませんでした」


 カインとレミリアがそんな懸念を口にした。

 たしかに、あっさりと後衛が攻められてたのは事実だ。


「そうだな、もっと数が増えたら対処できないか。何か先に1発当てて、数を減らせるといいんだけどなぁ」

「それなら、私が竜人魔法で風をぶつけるのっ!」


 するとリューナが竜人魔法による先制攻撃を提案した。


「ええっ、大丈夫か? いくら精霊と話せるようになっても、竜人魔法はまだ加減が難しいんじゃなかったっけ?」

「大丈夫なの、上手くやってみせるの!」


 彼女は自信満々だったので、とりあえずやらせてみることにした。


 シルヴァに案内してもらい、ソルジャーアントが15匹もいる部屋を見つけた。

 俺がリューナに目配せすると、即座に魔法を行使する。


風精霊シルフさ~ん、アリさんを吹き飛ばしてっ!」


 次の瞬間、迷宮内に強い風が吹き荒れ、アントと一緒に俺たちも吹き飛ばされた。

 とんでもない風に翻弄ほんろうされ、洞窟の中をゴロゴロと転げ回る。

 さらに周囲には大量の土埃が舞い上がり、しばらく周囲の把握ができなかった。


「ゲホ、ゲホッ……みんな、大丈夫か? 返事しろ!」


 そう呼びかけると、何人かが弱々しく返事を返してきた。

 しかし次の瞬間。


「キャーッ、兄様、助けて!」

「ウォンッウォンッ、ガルルルー」


 リューナがアントに襲われ、助けを呼んでいる。

 幸いなことに、シルヴァが彼女を守ってくれているようだ。


「リューナ、大丈夫か?」


 慌てて声の方に駆け寄ると、尻もちを付いたリューナの周辺に、数匹のソルジャーアントが群がっていた。

 そして彼女の前でシルヴァが体を張り、辛うじて攻撃を阻止している。

 俺は両手に短剣を持ち、魔力を通しながらリューナの前まで走った。


 まさにリューナに襲いかからんとするアントの頭に、短剣を突き込む。

 魔鉄製の短剣はサクッと甲殻を破り、アントの息の根を止める。

 続いて迫ったアントも同様に始末すると、ようやく他のメンバーも駆け付けてきた。


 あっという間に安全を確保し、リューナを助け起こしてやると、彼女がしがみ付いてくる。


「大丈夫か? リューナ」

「グスッ、凄く怖かったの、兄様。失敗してごめんなさ~い……ウェーン」


 泣いて謝る彼女を抱きしめ、慰めてやった。

 よほど怖かったのか、まだ体が震えている。


「みんな無事だったからいいよ。でもこれからは、竜人魔法はもっと慎重に使おうな」


 そうやってリューナをあやしていると、アントを掃討したメンバーが集まってきた。

 皆、汚れてはいるが、特にケガは無いようだ。


「みんなケガは無いか? 今回は済まなかった。俺の指示ミスだ。今度はもっと慎重にやるよ」

「やはり竜人魔法は強力すぎて、使いどころが難しいのう」

「当面は妖精魔法を改良して使った方が、いいだろうな。とりあえず今日はこのまま外に出よう」


 アントの魔石を回収すると、すぐに地上へ戻った。

 ソルジャーアントの魔石は1匹銀貨2枚なので、合計で50枚になった。

 しかしいくら様子見だったとはいえ、その危険度からして少し安すぎる感じがする。



 そのまま帰宅して汗と埃を洗い流すと、今日の反省会をした。


「今日は悪かったな、みんな」

「悪いのは私なの。兄様は悪くないの」

「いや、今日のあれは、俺の判断ミスだ。安易に竜人魔法に頼ったのがいけなかった」

「誰の責任かは、大した問題ではないじゃろう。問題は今後、どう攻略するかじゃ」

「まあ、そうだな。あの大量に出てくる虫どもを、どう始末したものか?」

「やはり、広範囲に攻撃する手段が欲しいか? 今日のように風で吹っ飛ばすとか、火で焼く手段が欲しいのう」

「うん、あとは風魔法で空気を圧縮した弾とか、小さな渦みたいなモノを作れないかな? それを虫たちの中に放り込んでやれば、奴らを崩せると思うんだ」

「風魔法弾か。バルカンの火球はどうじゃ?」

「今はまだ撃てる数も少ないし、多数への攻撃も難しいかな。とりあえずそれも含めて明日、外で練習してみよう」


 ここでカインが提案してきた。


「デイル様、俺たちも多数と戦う手を考えてみます。連携を工夫すれば、隙を減らせるでしょう」

「そうだね、それはぜひ頼む。明日は例の原っぱで、いろいろ実験してみよう」





 翌日はいつもの原っぱで、訓練をした。

 俺とチャッピー、リューナは風魔法で空気を圧縮したり、渦を作れないか試してみる。

 しかし、なかなか思うような威力の攻撃は実現できない。


 行き詰まった俺は、ふと精霊に聞いてみたらどうかと思いついた。


「なあリューナ、ソルジャーアントの群れを吹き飛ばすような魔法を作れないか、シルフに聞いてみてくれないか?」

「はいです、兄様…………あのね、シルフさんは竜巻の卵が作れるんだけど、これをアントの群れに放り込めば、竜巻で吹き飛ばせるかもしれないって」

「竜巻の卵? 試しにひとつ作ってもらえるか?」

「うん、お願いしてみるの……」


 リューナがゴニョゴニョ言ってたと思ったら、ふいにすぐ近くでポンッと空気が弾け、小さな竜巻が発生して土や草を巻き上げた。


「へー、これがシルフの生み出した竜巻か。威力的にはちょっと弱いかな。もう少し強いのって頼めるか?」


 それから威力を調整したり、実際に飛ばしてみた結果、けっこう使えそうなことが分かってきた。

 手近な丸太を加工してソルジャーアントの模型を作り、どれぐらいの威力があるかも試してみる。


 この竜巻の卵ってのは、シルフにとってはいたずらの道具であり、しばしば人間や動物の近くで作っては遊んでいるそうだ。

 いたずらの延長のせいか、彼女たちは積極的に卵作りに協力してくれる。

 この卵をリューナが魔力で包み込んで撃ち出すと、何かに当たった瞬間に竜巻が発生し、周辺の物を巻き上げる仕組みだ。


 いたずらの道具だけあって大した威力は無いのだが、空間が限られた迷宮内ではむしろ都合が良い。

 昨日みたいにこっちが吹き飛ばされないレベルで、ソルジャーアントをひっくり返せるよう調整してみた。

 そのうえで、装甲の弱い腹に散弾をぶち込んでやれば、多少はダメージを与えられるだろう。

 弱って混乱したアントなら、俺たちも余裕を持って殲滅できるかもしれない。


 安全に戦う戦法についても、カインたちと相談をした。

 彼らも大量のソルジャーアントに遭遇した場合の立ち回りを考えており、前衛に立つ者の間隔とか、後ろに回られた時の対処法などを見直していた。

 これでだいぶ安全性が高まったと思うが、後は実地で試すしかない。


 待ってろよ、ソルジャーアント。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ