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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第3層編

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29.バルカン

 2層攻略を成し遂げた翌日、俺たちはいつもの原っぱに来ていた。

 シートの上でみんなが思い思いにくつろいでいる。

 俺はレミリアの膝枕で寝転がり、さらにリューナが俺の腕を枕にしていた。


「ああ~、迷宮を攻略した後の休日は気持ちがいいな~」

「はいです、兄様。昨日は頑張ったの」


 昨日は2層守護者のオークリーダーを倒したばかりだ。

 その後すぐに転移水晶で地上に戻ったので疲れはそれほどでもないが、かつてない激戦だったのは間違いない。


「そういえばご主人様、昨日の戦闘の後、また体が軽くなった気がするんですけど」

「それ、私もなの。なんか前より力が強くなったっていうか、力がみなぎる感じがするの」

「ああ、2人とも強化レベルが上がったんだな。俺もレベルが5になってる。ギルドカードに魔力を通すと見れるから、確認してみな」


 レミリアとリューナの強化レベルが上がったようなので、皆にカードで確認させてみた。


「あっ、4に上がってます」

「私は3なの~」

「俺は4ですね」

わらわも4じゃ」

「俺は3です」

「順当にひとつずつ上がってるな。これでまたリュートとリューナは背が伸びそうだ」


 そう、実はリュートとリューナは強化レベルが上がるたびに、体がひと回り成長するのだ。

 最初、冒険者に登録してから1週間くらいで体がひと回り大きくなった。

 そしてオークを狩っているうちにレベル2になり、また1週間くらい掛けて大きくなった。

 おそらくこの1週間で、またひと回り大きくなるのだろう。


「これなら3層でも十分戦えそうですね」

「でも強化レベルの恩恵って1レベルで5%くらいって話だから、そんなに変わらないだろ?」


 どうやって計ったのかは知らないが、強化レベルがひとつ上がると身体能力が5%ほど上がると言われている。

 もちろん無いよりはマシだが、劇的な効果ってほどでもない。


「そういえば、3層はどんな魔物が出るんじゃ? 虫系だとは聞いておるが」

「ギルドの情報によると序盤は兵士蟻ソルジャーアント洞窟芋虫ケイブキャタピラー。中盤は殺人蜂キラービー暗殺蟷螂アサシンマンティスが出てきて、深部には剣刃甲虫ソードビートルっていうでかいカブトムシが出るらしいよ」

「名前を聞くだけでも強そうですね」

「ああ、その強さもさることながら、問題は出てくる数の多さらしい。下手すると30匹くらいの魔物に囲まれるもんだから、”嵐の戦斧”みたいに半端なパーティは、探索意欲を失って2層に戻るんだ」


 ”嵐の戦斧”とは、3層で探索に行き詰まり、2層で冒険者を襲っていた犯罪パーティである。

 俺たちが返り討ちにしたが、それなりに強いパーティだった。


「数が増えるなら、魔法の強化は必須じゃな」

「うん、それはそうなんだけど、いい手を思いつかないんだよな。虫は皮が硬いから、散弾はあまり効かないだろうし」


 悩んでることを白状したら、リューナが話しかけてきた。


「兄様、兄様。私のレベルが上がったせいか、精霊さんとお話できるようになったのです」

「へえ、凄いじゃないかリューナ。それで精霊さんとお話できると、どうなるんだ?」

「えっとね、今までより少ない魔力で大きな魔法が撃てたり、複数の魔法が1度に使えたりするの」

「へー、ちょっと試しにやってみてくれないか?」

「うん、やってみせるの。まずは大きいのからいくね」


 リューナが目を閉じて集中する。


風精霊シルフさん、風精霊シルフさん、風を吹かせてくださーいっ!」


 リューナが腕を振り下ろした瞬間、轟音と共にとんでもない突風が吹き荒れた。

 ようやく風がやんだと思ったら、近くにあった木が丸裸になっていて、みんなの目が点になる。


「……す、凄いな、リューナ。この前みたいにフラフラになったりしないのか?」

「うん、精霊さんが力を貸してくれたから大丈夫なの」

「そ、そうか。凄いぞ、リューナ。それじゃあ複数の魔法ってのはどんなのだ?」

「うん、それはいつも2人でやってる合成魔法なの」


 そう言って突き出されたリューナの手から石弾が飛び出し、近くの岩に命中した。


「ななななな、何ーっ! 今のどうやったんだ?」

「うん、土精霊ノームさんに弾を作ってもらって、それを私が飛ばしたの」

「なる、ほど……精霊がチャッピーと同じ役目をしてるのか。でもリューナが1人で撃てるなら、火力がこれまでの2倍になるな」

「これは想像以上の進化じゃのう。おそらくわしらとやっていた魔法の修行で世界のことわりに触れたうえ、レベルアップで精霊との会話が容易になったのではないか?」

「うん、チャッピーにいろいろ教えてもらったら、精霊さんへのお願いが簡単になったの。私のお願いは、他の人より分かりやすいんだって」


 思わぬ妖精魔法の副次効果である。

 おそらくリューナは妖精魔法を学ぶことで、竜人魔法の修行の数十年分をすっ飛ばした形になるんだろう。


「いずれにしろ、これは3層の攻略に役立ちそうだな。キラービーみたいな飛ぶ魔物には散弾が有効だし、魔力弾も2倍撃てるのは心強い」

「うむ、実際に攻略をしつつ、やり方を考えればいいじゃろう」


 3層の攻略に対して、急に光が差し込んだようだ。

 それにしても、精霊と会話できるってのは羨ましいな。


「ところでリューナ、俺にも精霊さんを紹介してもらえたりしないのか?」

「うーん、普通は私みたいに加護を受けてないと無理なんだけどー、ちょっと聞いてみるね」


 リューナがしばらく虚空に向き合い、何かブツブツ言っていた。


「あのね、精霊さんに相談したら、兄様とならお話ししてもいいって子がいるの。今からその子たちを紹介するね」


 リューナがそう言った途端、俺の視界が変わった。

 以前、チャッピーが魔力を見せてくれた時のように、彼女が感覚を共有してくれているのだろう。

 すると、今まで見えなかった存在が見え始めた。


 薄水色の衣をまとい、フワフワと宙を飛ぶ美少女。

 黄土色の服を着たヒゲモジャの小人。

 青い衣をまとった、少し体の透けている妖艶な美女。

 そして体の周りに陽炎をまとった真っ赤なトカゲだ。


 おそらくそれぞれが風精霊シルフ地精霊ノーム水精霊ウンディーネ火精霊サラマンダーの4精霊なのだろう。

 周りに豊富に素材があるシルフとノームの数は多くて、サラマンダーは1匹しかいない。

 むしろ火元が無いのになぜここにいると突っ込みたくなるが、それは措いておこう。


「ありがとう、リューナ。地水火風の4精霊が見えるよ」

「さすが兄様なの。それで上手く気に入られたら、その中の誰かと契約できるって言ってるのです」

「それは、使役スキルが使えるってことか?」

「うーん、よく分かんないけど、契約はできるって」

「ふーん、そうか。それならリューナが使ってない火属性が欲しいな」


 俺は近くにいたサラマンダーに、使役スキルを行使してみた。


「『接触コンタクト』……『結合リンケージ』」


 ここまではあっさりできた。

 さすがに『契約コントラクト』の段階でサラマンダーは少し戸惑っていたようだが、やがて契約が成立する。

 その瞬間、サラマンダーが光に包まれて姿を消した。


(グルルルゥー、これからよろしく頼むぞ、あるじ。我に名前をくれ)


 次の瞬間、サラマンダーが俺の左腕の上に現れ、念話を送ってきた。

 しかも名前を要求している。

 やはりただの魔物より、高次の存在なのだろうか。


「名前か……それならお前の名はバルカンだ。俺はデイル、よろしくな」


 そう命名した途端、バルカンが光に包まれ、なぜか俺の魔力がごっそりと奪われた。

 以前、キョロの卵に魔力を吸われた時以上の感覚に襲われ、激しい眩暈めまいを覚える。


 眩暈が治まると、俺の左腕に鮮紅色のトカゲがくっついていた。

 手のひらに乗るくらいの、小さなトカゲだ。


「もしかしてお前がバルカンなのか?」

「そのとおりだ、主。命名されたことで受肉した」


 まさか実体化までするとは、想像のはるか上を行く事態だ。


「俺の魔力を使って肉体を構成したってことか……それで、バルカンには何ができるんだ?」

「今はまだ体がこの世界に定着していないので、ほとんど何もできぬ。しかし体が馴染んで成長すれば、強力な火炎を操ってみせよう」

「そうか。それじゃあ、準備が整ったら教えてくれ」


 残念ながらまだバルカンの力は見れないらしい。


 ここで何が起きたか理解できていないレミリアから、質問をされる。


「ご主人様、そのトカゲは一体、何なのですか? 急に現れたようですが」

「ん? ああ、リューナ以外には分からないのか。これが今、俺と契約したサラマンダーのバルカンだ。今はまだ無力だけど、そのうち一緒に戦ってくれるってさ」

「サラマンダーって、火の精霊ですよね? ご主人様は精霊術師だったのですか?」


 一般に、精霊と契約できるのはエルフなど、精霊術を使う者だけだと言われている。

 なので彼女の質問も当然だ。


「いや、そうじゃないんだけど…………たぶんリューナの精霊の加護のおかげだと思う。使役契約を結んで名前を付けたら、実体化したんだ」

「そんなことって普通、あり得るんですか?」


 それに答えたのはチャッピーだった。


「精霊と契約を結ぶ者はたまにおるが、命名して実体化なぞ聞いたこともないぞ。つくづく非常識な奴じゃのう」


 なぜか俺が責められている不思議。


「いや、これも全てリューナのおかげだよ。ありがとうな、リューナ」

「お役に立てて光栄なの、兄様」


 リューナの頭を撫でたら、嬉しそうにすり寄ってきた。

 予想外の事態だったが、たぶんバルカンは新たな戦力になってくれるだろう。

 これまた3層の攻略に、希望が持てるというものだ。


 その後は何事も無く、軽い運動などをしつつピクニックを楽しんだ。



 帰宅して夕食を済ませた後、バルカンに魔力をせがまれた。

 なんでも魔力を多くもらうほど、早く成長するらしい。

 断る理由もないので、俺はバルカンに手を当てて魔力を注入する。

 そうしていると、バルカンの前足の後ろに皮膜があることに気がついた。


「バルカン、この前足の後ろにあるのって、翼?」

「そのとおりだ、主よ。今はただの飾りだが、成長すれば空も飛べるようになるであろう」

「へー、凄いな。ついでに火を吐いたりもするのか?」

「もちろんだ、主よ。いずれは強力な戦力として、期待してくれていい」

「戦力って言っても、どれくらい大きくなるんだ?」

「今の状態では、犬程度の大きさだろう。しかし進化すれば、飛竜ワイバーンになれるとも聞く」

「ふーん、どうすれば進化できるんだ?」

「それは分からぬ。戦闘を重ねた上で、さらに何かが必要らしい」


 なんと、バルカンがワイバーンに進化する可能性があると言う。

 ワイバーンといえば、魔境の奥にしかいないAクラスの魔物だ。


「チャッピー、精霊の進化って知ってるか?」

「精霊については知らんが、魔物は何らかの条件を満たすと、進化するという話は聞いたことがあるぞ」

「魔物はって言うことは、キョロやシルヴァにも進化の可能性がある?」

「そのようじゃ。条件については見当も付かんがな」


 進化するための何か、か。

 これは今考えても仕方がないな。

 しかしその可能性があるなら、いろいろ試してみるのも良さそうだ。





 翌日から3日間は、訓練に明け暮れた。

 バルカンの体が定着するまで、魔物との戦闘を控えたからだ。

 午前中はギルドで教官に教えてもらい、午後は野外で魔法の練習や鍛錬をした。


 そんな訓練の3日目、俺とチャッピーが火炎弾の練習をしていると、バルカンが口を挟んできた。


「主よ、そろそろ我にも火球が作れるようになったぞ」

「へー、ようやく体が馴染んできたんだな。それじゃあ、ひとつ作ってみてくれ」

「了解だ。右手を前に出してくれ、主」


 そう言われてかざした右腕の前腕部に、バルカンが移動した。

 すると手のひらの前に、鶏の卵大の火の玉が発生する。


 その火の玉は小さいが、もの凄く熱かった。

 とっさに火の玉を自分の魔力でくるみ、熱を遮断する。

 そしてその火の玉を、20歩ほど先の岩に撃ち出した。


 驚いたことに、その火の玉は岩に当たっても弾けず、ズブズブと入り込んでいった。

 その後には、拳大の穴が残される。

 それは今までの表面を焼く程度の火炎弾とは、明らかに質が違うものだ。


「すっげー威力……これは火と言うよりも、熱そのもののような感じだな」

「そのとおりだ、主よ。チャッピーは魔力で燃料を作りそれを燃やしているが、我は火そのものを作り出すため、熱の密度が高いのだ」

「へーっ、さすがサラマンダーってとこだな。その火球はもっと密度を低くして、広範囲を焼いたりもできるのかな?」

「やればできるだろう……これでどうだ?」


 すると、さっきよりも大きな火球が出てきた。

 さっきと同じようにそれを岩に撃ち込むと、今度は火球が弾けて周囲に散らばった。

 しかも温度が高いためか、岩の周りが火事になってしまった。


 慌ててリューナを呼び、水魔法で消し止めてもらった。

 レミリアとリューナに怒られたよ。

 でも仕方ないだろ、俺も初めてだったんだから。


 一方、カインやサンドラは、バルカンの火球の威力に大騒ぎだ。


「サラマンダーの火とはかくも凄まじいものですね、デイル様」

「本当に凄いものじゃ。これで我が君の迷宮攻略もはかどるじゃろう」


 なんて気楽なことを言っているが、そんなに甘いもんじゃないと思うよ。

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