表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/87

28.2層突破

 オークを倒してからも夕刻まで探索を続け、野営に入った。

 夕飯を食いながら、みんなと今後を相談する。


「明日もオークを狩って帰還するけど、この2層深部もだいぶ探索が進んだ。たぶん、あと2回潜れば地図は埋まるから、守護者の攻略を考えようと思う」

「フヒヒッ、いよいよじゃな。守護者は大豚鬼長オークリーダー大豚鬼オーク4匹じゃったか?」

「うん、そうだ。そうなるとオークリーダーはカインに押さえてもらうとして、サンドラ、レミリア、リュート、シルヴァに、オークを1匹ずつ相手してもらいたいんだよな。リュートとシルヴァにはちょっとキツいかもしれないけど、どうかな? もちろん魔法で援護はするけど」


 おそらくシルヴァはやれるだろうが、リュートは微妙なところだ。


「俺は……ちょっと自信ないです」


 案の定、自信なさげに答えるリュートを、カインがさえぎった。


「いいえ、デイル様、少し練習の機会をいただければやれます。このあと2回は潜るんですよね? その間に俺がオークとの戦い方を教えますから。リュート、お前ならできるはずだ」

「カイン兄……分かりました、俺やります」

「よし、頼むぞ。シルヴァにも練習させて、心配な方にはキョロを付けよう」


 とりあえず前衛の役割分担は決まった。


「それで後衛の俺たちだけど、こっちも命中精度とか速射性を上げようと思う。オークリーダー用に、威力の高い弾も準備しておきたいな」

「なるほど。しかし発射時間を短くするには、儂だけではキツイぞ」

「うん、だからリューナにも弾を作ってもらう。チャッピーとリューナが交互に作る弾を俺が撃てば、速くなるだろ」


 しかしリューナはちょっと不安そうだ。


「兄様、私にできるかな?」

「もちろんできるさ。まだ時間はあるから練習しよう」

「うん、頑張るの!」


 ちょっと励ましただけで、リューナが張り切りだした。

 まあ、時間はあるからなんとかなるだろう。

 それぞれに課題はあるが、守護者戦に向けて明日から猛訓練だ。





 翌日から、守護者戦を想定して動き出した。

 まず深部の未踏領域を回りながら、手頃なオークを探す。

 やがて3匹のオークが見つかったので、レミリア、リュート、シルヴァが1匹ずつ相手取って、立ち回りの練習をした。


 他はしばらく手を出さず、アドバイスに徹する。

 見ていると、レミリアはわりと簡単にオークを倒してしまったし、シルヴァも押さえるだけなら余裕がありそうだ。


 しかし、リュートはオークと向き合っているうちにこん棒で殴られ、腕にケガを負ってしまった。

 近くで見守っていたカインがすかさず助けに入り、リュートと入れ替わる。

 リュートは下がってチャッピーの治療を受けつつ、悔しそうにカインの戦いぶりを見つめていた。


 シルヴァはだいぶ慣れたようなので、もう終わりにする。

 チャッピーとリューナの魔力弾を交互に3発撃ち込むと、オークは息絶えた。

 やがてカインの方もオークを転倒させると、そのままメイスで叩き殺してしまった。

 彼もだいぶ強くなったものだ。


 オークの皮と肉を剥ぎ取るともう荷物がいっぱいになったので、今回の探索は終了になった。

 リュートのケガもあるので、今日は早めに帰って休息だ。

 3刻近く掛けて迷宮を抜け、地上で素材を売却して帰宅した。


「リュート、ケガは大丈夫か?」

「はい、もうほとんど治ってますから」

「そうか、でもあまり無理はするなよ。リューナはどうだ、疲れてないか?」

「ちょっと疲れたけど、大丈夫なの。もっと魔法上手くなって、役に立つのっ!」

「ああ、頼むぞ。今夜は俺と一緒に寝ような」


 すると、リューナが凄く喜んでいた。

 まるで妹ができたみたいだが、実際は俺より年上だと思うと少し複雑である。

 ま、予想以上の戦力になってくれてるから、今後も上手くやっていきたいものだ。





 翌朝、ギルドへ訓練をしに行ったら、アリスさんに呼び止められた。


「ちょっとデイル君、ご無沙汰じゃない。どこ行ってたの?」

「アリスさん、こんにちは。ちょっと港湾都市セイスに行ってたんですよ」

「あら、何しに?」

「奴隷市があったんで、仲間を探しにです。ちゃんと見つけてきましたよ」


 そう言って、リュートとリューナを紹介する。


「キャー、かわいい。私はアリス、よろしくね……でもデイル君、こんな子供たち買ってどうするの?」

「ただの幼児に見えますけど、これでも18歳なんですよ。竜人族なんで能力も高いから、一緒に迷宮へ潜ります」

「えーっ、本気? いくら何でもそれはひどいんじゃない?」

「いえ、大丈夫ですって。もう2層の深部まで行きましたし」


 本当のことを言ったら、ドン引きされた。

 リュートたちは見た目以上に強いと言っても、なかなか分かってもらえない。

 まあ当然か。


 その後、訓練場でアーロックさんを見つけてリュートの稽古けいこをお願いした。


「こんにちは、アーロックさん。今日はこの子を見てもらえませんか?」

「おう、デイルか。って何だ、このちびっ子は?」

「幼児みたいですけど18歳です。竜人なんで、けっこう力もありますよ」

「そ、そうか……お前さんのとこは、変わったのが多いな。まあいい、坊主、こっち来い」


 やっぱ変に見えるんだろうなあ、うちのパーティ。

 お子ちゃまパーティとか、託児所とか言われなきゃいいんだが。


 その後、俺はリューナに短剣の使い方を教えていた。

 他のメンバーも、てんでに型の練習や組手をしている。

 俺は弓の練習も交え、昼まで汗を流した。


 昼食後はいつもの原っぱに行って、魔法を含めた訓練だ。

 久しぶりに訓練漬けで、良い汗をかいた。





 リュートのケガを考慮してもう1日を訓練に費やした後、また迷宮に潜った。

 一気に2層深部へ進み、探索を始める。


 オークに遭遇すると、前衛メンバーが1対1で戦う訓練を繰り返した。

 まだ少しぎこちなさの残るリュートも、キョロをサポートに付けると安定してきた。

 2日間で3回のオーク戦をこなし、地図も9割以上が埋まった。

 すでに守護者部屋も見つけてあるので、あと1回で地図を完成させる予定だ。





 地上に戻って訓練日を一日挟んでから、守護者戦前で最後の探索に出た。

 おそらく地図の残りは全体の1割も無いはずで、その区画は誰も立ち入っていない領域だ。

 いつも以上に注意して探索していると、多数のオークを探知した。

 シルヴァの感覚によれば、5匹もいるらしい。


 いつになく数が多いが、守護者戦の良い練習になると考えた。

 俺たちは対守護者戦のフォーメーションを組み、部屋に突入する。

 守護者を想定して訓練を積んだ俺たちにとって、すでにオーク5匹など大した敵ではなかった。

 カイン、サンドラ、レミリアはそれぞれ単独でオークを倒してしまったし、残り2匹は俺とリューナの魔力弾で仕留めた。


 驚いたのは、この部屋のお宝だ。

 さすがはオーク5匹が守る部屋だけあり、小指の先大の宝石が5個、奥の壁に埋もれていたのだ。


「おいおい、これって宝石じゃないか? チャッピー」

「なんじゃと?……うーむ、おそらくルビーとサファイアの原石じゃな」

「本当かよ。だったら凄い価値があるよな?」

「これひとつで金貨10枚にはなるじゃろう。やはり未踏部分には、お宝が眠っておるんじゃのう」


 チャッピーが言うように、ここは守護者部屋から離れた未踏区域だ。

 しかもこの部屋には通路がひとつしか無く、どうやらここが最奥らしい。

 つまり俺たちは、完全には踏破されていなかった2層を、とうとう探索し尽くしたことになる。


 なぜ今まで未踏区域が残っていたかといえば、それは探索目的の違いだ。

 通常のパーティは先に進むことを優先するから、守護者部屋の位置が判明すると、その周辺しか寄りつかない。

 そして守護者を倒せるパーティはさっさと次の層へ行ってしまうし、それができないパーティは中盤と深部の境界をうろつくだけ。

 たまに3層は儲からないと言って戻ってくるパーティでさえ、あえて守護者部屋から外れた区域に深入りはしないのだ。


 しかしシルヴァの探知でわりと楽に探索できる俺たちは、地図の空白部分を埋めて回っている。

 その結果、こうして見事にお宝に巡り会えたって寸法だ。

 これだけの宝石が得られるのなら、オーク5匹を相手にする価値は、十分にあったというものだ。


 その晩は宝石部屋で野営をし、翌日早々に地上へ戻った。

 さっそく原石を宝石商へ売りに行くと、やはり金貨50枚の値が付いた。

 守護者戦を控えた俺たちにとって、良い景気づけとなったのは言うまでもない。





 翌日を休息に充てて翌々日、いよいよ2層守護者の攻略に出発した。

 出発から3刻近く歩くと、守護者部屋の前に到着する。


「いよいよ2層の守護者に挑戦だ。これを想定してさんざん訓練を積んだから、大丈夫だとは思う。しかしオークリーダーの強さは未知数だ。ヤバイと思ったら逃げるから遅れるなよ。いいな!」

「「はいっ!」」


 勇んで守護者部屋へ侵入すると、オークリーダーとオーク4匹がゆっくりと現れた。

 作戦どおり、前衛が展開すると同時に、俺とチャッピー、リューナは魔力弾の発射態勢に入った。


 オークリーダーは通常よりふた回りはでかく、その攻撃も強力だった。

 奴を担当するカインが、その強烈な攻撃に苦労しているが、盾でいなしつつなんとか耐えている。

 早く周りの雑魚を片付け、加勢してやらなければならない。


「チャッピー、魔力弾準備」


 まずシルヴァが対峙するオークに向け、チャッピーの魔力弾を撃ち出す。

 先端に魔力塊を仕込まれたその弾が、易々と表面の防御を打ち破る。

 運良くオークの心臓を貫いたその弾は、1発でオークを仕留めてみせた。


 次はリューナに弾を準備させ、リュートとキョロが戦うオークに発射する。

 今度はさすがに1発では片が付かず、2発の魔力弾を要した。

 しかし、かなりのハイペースでオークを倒せているのも事実だ。


 サンドラとレミリアは危なげなくオークと戦っていたので、俺たちはカインの加勢に回る。


「チャッピー、特大の魔力弾をくれ。リューナも次のを準備しておけ」


 通常よりも時間を掛けて作られた特大魔力弾を、オークリーダーに撃ち込んだ。

 しかし驚いたことに、リーダーはそれをこん棒で叩き落してしまう。

 それならばと、通常の弾を2発続けて撃てば、どちらも外皮で跳ね返された。


 奴がこちらを見てニヤリと笑う。

 どうやらオークリーダーは、ただでかいだけのオークではないらしい。


「リュート、シルヴァ、キョロはカインと一緒にリーダーを囲め。無理せずに奴の注意を逸らすんだ。チャッピーとリューナは通常の魔力弾をどんどん作ってくれ」


 その後は速射性を優先して、通常の魔力弾を交互にバンバン叩き込んでやった。

 カインたちもそれぞれ攻撃しているので、やがてリーダーの手が疎かになってくる。


「チャッピー、特大のをもう1発!」

「そろそろ打ち止めじゃぞ……」


 チャッピーがなんとか作り出した特大弾の発射タイミングを、慎重に測る。

 やがてカインのシールドバッシュで、リーダーがよろめいた。

 ドンッという腹に響く音と共に、特大魔力弾が突き進む。


 今度は撃ち落とされることなく命中した特大弾が外皮を食い破り、心臓近くに突き立った。

 一瞬動きの止まったリーダーをカインが盾で押し倒し、その頭にメイスを振り下ろす。

 何度も、何度も打擲ちょうちゃくを加えると、とうとうオークリーダーが動かなくなった。


 その頃にはサンドラとレミリアの方も決着がついており、2匹のオークが地に伏している。

 2層攻略の完了だ。


「……やったの、やったのです、兄様!」


 感激して飛びついてきたリューナを、俺が受け止める。

 続いて寄ってきたレミリアとサンドラも、一緒に抱き締めてやった。

 リュートもカインと肩を叩き合いながら喜んでいた。

 そしてキョロとシルヴァも、嬉しそうに走り回っている。


 しばらく勝利の余韻よいんに浸った後、素材を剥ぎ取った。

 それから3層侵入資格を手に入れ、3層へ降りてから地上へ戻る。


 衛兵に2層の攻略を伝えると、また事情聴取を受けた。

 ここで地図の完成度合いを聞かれたので全て埋めたと答えると、未探索部の情報買い取りを打診された。

 国に逆らってもしょうがないので、もちろん了承だ


 そして今回の未探索エリアは全体の2割と認定され、金貨20枚の臨時収入を得た。

 不完全な地図が金貨1枚だったことからすれば安過ぎる気がしないでもないが、この情報が後続の役に立つことを祈ろう。


 その後、素材の売却と報告のためギルドへ向かう。


「アリスさん、こんにちは。ようやく2層を攻略しましたよ」

「ええっ? またまた~、冗談でしょ? デイル君って、1層攻略からまだ2ヶ月しか経ってないじゃな~い」

「いえ、ホントですって。カード確認してください」


 カードを渡すと、専用の機械で確認したアリスさんが呆れ顔になる。


「呆れた、本当に攻略しちゃったのね。これで冒険者ランクもCになったから、すっかり一人前ね。おまけに強化レベルも5になってるし。2層だと、普通は3ぐらいなのよ」

「ああ、そうなんですか? オークいっぱい狩りましたからね、僕ら。ちなみに3層探索者の割合は?」

「そうねー、全体の2割足らずってとこかしら。ちなみに4層は3%しかいないわよ」

「なるほど、俺もとうとう上位2割の仲間入りですね」

「なんか、近いうちに3%に入りそうで怖いわ~」

「それはやってみないと分かりませんが、がんばります」


 俺の謙虚なコメントに、アリスさんが疲れた笑いを返す。


 さて、今日もオーク肉で打ち上げをしよう。

 そして2、3日ゆっくり休んでから、3層に挑もうかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ