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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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27.守りの要

「俺より、よほど強いですよ……」


 カインにリュートの出来を聞いたら、何か引っかかる答えが返ってきた。


「そうか、それは今後が楽しみだな…………でもなぜカインは、そんな自分を卑下ひげするようなことを言うんだ?」

「っ! いえ、そんなことは。しっかりと剣を使いこなすリュートが、有望だと言いたかっただけです」


 たしかにリュートは見た目より力もあるし、有望なのだろう。

 しかし俺はそこに、必要以上にカインが自身を卑下する響きを感じた。


「たしかにリュートは有望なんだろうさ。でもカイン、俺がどれだけお前を頼りにしてるか、分からないかな?」

「過分なお言葉をありがとうございます。しかし俺にはサンドラのような力もありませんし……」

「うん、たしかにサンドラの攻撃力は大したもんだ。一撃でオークの首を断つなんて、俺にはできないからな。だけど俺はそれ以上に、カインの守りも頼りにしているんだけどな」

「俺など……ただ耐えるだけで、武器を使いこなせない不器用な男です」

「馬鹿言え。たった1人でオークや犯罪パーティの親玉の攻撃を受けるなんて、お前にしかできないぞ。カインのその勇気こそが、何よりの強さだと思うけどな」


 彼が悩んでることには、薄々気がついてた。

 俺が盾職を押し付けたために、どうしても彼の攻撃力は犠牲になっている。

 その横でオークの首を、一撃で叩き落とすサンドラの活躍が眩しいのも、分からないではない。

 しかしそんなサンドラの活躍も、カインあってのものだ。


「兄者、そんなことを気にしていたのか? 兄者の守りが無くば、妾の攻撃も生まれぬのじゃぞ」

「そうです、カインさん。あなたが皆を守ってくれるから、私たちは敵に立ち向かえるのですよ」


 サンドラやレミリアがカインの必要性を訴えるが、それでも彼は納得できていない。


「カイン、お前から剣を奪ってしまったことは、申し訳ないと思っている。しかしお前の盾って、そんなもんなのか? お前の忠誠ってのは、その程度なのか?」

「それはどういう意味でしょうか? 俺の忠誠心は、すでにデイル様に捧げられています」

「じゃあ、俺が何を望み、何を期待しているのかを考えてくれ。俺はその期待にふさわしい装備を、お前に与えたつもりだ」

「しかし俺は……」

「俺はお前にパーティの前面を守り、支えることを期待している。そしてお前はその期待に応えているよ。何も恥じることは無い」

「そう、なのですか?」


 カインはようやく自らの思い違いに気づき、認識を改めることができたようだ。

 体のでかい鬼人が涙なんか浮かべやがって、まったくセンチな野郎だ。


「お前は俺たちの守りの要だ、今後も頼むぞ」

「はい、精一杯、頑張ります」


 ようやく納得できたカインの目に、新たな意志の光が宿る。

 彼の方はこれでいいだろう。


 俺は今度は、リュートに質問を投げかけた。


「ところでリュート、そんなカインを助けたいとは思わないか?」


 急に話を振られたリュートが、きまずそうな顔で答える。


「それは……一緒に迷宮に潜れということですよね。すでに装備も与えてもらいましたから、迷宮には潜りますよ」

「いや、ただ言われたから潜るなんて奴はいらないんだ。しかしお前が本気になって支えれば、カインは楽になるんじゃないかな?」

「それは……なんか卑怯です。カインにいをだしに使うなんて」

「別に俺は、お前に迷宮探索を強制してるんじゃないんだ。でも目的をしっかり持っておかないと、いずれ命を落とすぞ。迷宮ってのはそういう所だ」

「分かりました、もっと真剣にやります。でもそれはデイル様のためじゃなくて、カイン兄のためです。それでいいですか?」

「今はそれでいい。いずれ俺もリュートの忠誠を得られるよう、努力するさ」


 こうやってリュートの目的をはっきりさせておけば、彼のためにもなるだろう。


「私は兄様のために迷宮に潜るのっ!」


 その横でリューナが脳天気に宣言する。


「嬉しいけど、リューナはもっと魔法使えるようになってからな~。しばらくは修行だ」

「フヒヒッ、いつまで掛かるかのう」

「大丈夫、兄様の使役スキルでつながってるから、すぐなの」


 リューナをいじってたら、その言葉にリュートが反応した。


「その使役スキルって、なんのことですか?」

「ああ、リュートには説明してなかったっけ。俺の使役スキルで契約すると、仲間とイメージを共有できるんだ。魔法の練習とか、戦闘時の連携とかに役立つ」

「それ、俺にもやってください」

「いいのか? 奴隷契約を2重にするようなもんだから、無理にしなくてもいいぞ」

「俺だけ仲間外れは寂しいし、カイン兄ともつながるならそれでいいです」

「そうか。なら今から使役契約を始めるから、受け入れてくれ。『接触コンタクト』……『結合リンケージ』……『契約コントラクト』」


 無事に契約が完了し、これでリュートも正式なメンバーになった。

 その後は使役リンクの不思議な効果を説明して、お開きになる。





 翌日はまた訓練を兼ね、虫系魔物の討伐だ。

 今回は金属蟻メタルアントの討伐で、10匹以上の触覚を持ち帰るのがノルマだ。


 1刻ほど掛けてメタルアントの巣に着くと、奴らがうじゃうじゃいた。

 あまり増えすぎると街道に被害が出るため、定期的に間引いてるらしい。

 メタルアントってのは名前のとおり金属質の装甲を持つアリで、中型犬ほどの大きさがある。

 ただし関節部はそれほど硬くないので、素早く正確に攻撃できれば誰でも倒せる魔物だ。


 攻撃を指示してから、俺は弓を構えて後ろから観察していた。

 とりあえずリューナも俺の横で見学だ。

 見ていると、やはりサンドラやレミリアは苦もなくアントを倒せた。

 カインのメイスも、わりと効果的だ。


 それに比べて、リュートはまだおっかなびっくりといった感じだ。

 腰が引けていて急所を攻撃できないから、なかなかアントが倒せない。

 まあ、そのうち慣れるだろう。


 ちなみに、キョロとシルヴァはほとんど遊び気分だった。

 電撃と牙でアントを仕留めると触覚と魔石を回収し、嬉しそうに持ってきてくれる。


 しばらくそうやって狩りを続けていたら、ふた回りほど大きなアントが5匹も現れた。

 こいつらはメタルアントの中でも戦闘に特化している兵士蟻ソルジャーアントだ。

 俺はリュートを下がらせ、残りのメンバーに1匹ずつ対応させる。


 レミリア、サンドラ、カインは危なげなく倒していたが、キョロとシルヴァは少し手こずっていた。

 そこで援護に石弾を1発ずつぶち込んでやったら、あとは自分で倒していた。


 こうして狩りを始めて1刻ほどで、50匹以上のアントを仕留めた。

 内訳はレミリアとサンドラが15匹ずつ、カインが10匹、シルヴァが8匹、キョロが5匹、そしてリュートが3匹だ。

 これとは別にソルジャーアントも5匹倒してある。

 キョロにすら負けたリュートが、悔しそうだった。


 狩りの後はまた適当な場所で昼食を取り、訓練をした。

 カイン、サンドラ、レミリアにリュートを任せ、俺とチャッピーはリューナの魔法訓練に付き合う。


「兄様、さっきの蟻さんに撃っていた魔法は何なのです?」

「ああ、あれは俺とチャッピーの合成魔法だよ。チャッピーが土魔法で石弾を作って、俺が風魔法で飛ばすんだ」

「そんな魔法、初めて聞くのです。人族はそのような魔法を良く使うの?」

「いや、普通は長ったらしい呪文で定式化された魔法を使うんだ。俺とチャッピーは1人では大した魔法が撃てないから、協力してるんだよ。おかげで魔法歴4ヶ月の俺でも、戦えるようになったんだぜ」

「凄いのです! 私にもぜひ教えて欲しいのです」


 リューナが興奮して迫ってくる。

 魔法の使い手は多いに越したことはないので、もちろんOKだ。


「もちろん教えるさ。ところで今は、どれくらい妖精魔法が使えるようになってる?」

「石や水の塊は作れるの。それと、風もけっこう扱えるようになったの」

「そっか。けっこう風魔法が得意みたいだから、チャッピーに弾を作ってもらって、飛ばす練習から始めよう」


 その後、リューナに合成魔法を伝授する。

 まずはチャッピーが作った弾を、風魔法で飛ばさせる。

 すでに風魔法の基礎は身に着けているので、俺たちが蓄積してきたノウハウを教えると、メキメキ上達した。

 まだ俺には及ばないが、そこそこ強力な弾が撃てるようになっている。


 試しに弾を作らせる方もやらせてみたが、こっちはイマイチだ。

 まだチャッピーほど大きく複雑な弾は作り出せないので、今後も鍛える必要があるな。


 リュートの方も3人に厳しく鍛えられていた。

 一見、幼児虐待に見えなくもないが、リュートは18歳だ。

 耐え抜いてくれるだろう。





 そんな虫系魔物の討伐と訓練を1週間ほど続けると、彼らもそこそこ戦えるようになった。

 リューナは俺の8割くらいの威力で弾が撃てるようになり、弾作りもチャッピーの7割くらいはいけるだろう。

 あいにくと火炎弾だけは作れないが、これは仕方ない。


 思わぬ副産物だったのが、彼女が精霊が見えるようになったことだ。

 元々、精霊の加護を持っていたから、才能はあったんだろう。

 その彼女が魔法の熟練度を上げたため、精霊を認識できるようになったらしい。

 まだ大した影響は無いが、このまま経験を積めばさらなる魔法の上達だけでなく、竜人魔法の開花も期待できそうだ。


 リュートの方も毎日ボコボコにされてだいぶ逞しくなり、今ならホブゴブリンとも戦えるぐらいになった。

 ついでにメタルアントの皮をゴトリー武具店に持ち込み、リュートの防具を補強してもらった。

 適当な革だけの鎧よりだいぶ防御力が向上したので、これで迷宮に連れて行っても大丈夫だろう。





 こうして新たなメンバーと強力な武具を手に入れた俺たちは、ようやく迷宮都市へ戻ってきた。

 来た時と同じように商隊の護衛として参加したが、たまに魔物が襲ってくる以外は大きなトラブルも無く、3週間ぶりに我が家へ帰宅する。

 初めて俺たちの家を見たリューナが、興奮してはしゃぎ回る。


「1軒家に住んでるなんて兄様は凄いの。私たちのお家なの~」

「ただの貸家だけどな。それとこいつが家付き妖精ブラウニーのボビンだ。いろいろと家事をやってくれる仲間だから、失礼のないようにな」

「よろしくやで、お嬢ちゃん」

「よろしくなの~」



 その晩は久しぶりにボビンの料理を食べながら、土産話で盛り上がった。


「ま、こんな感じでリュートとリューナが仲間になったんだ…………さて、明日はどうしようかな。迷宮の2層は、2人にはまだ早いよな?」

「今のリュートたちなら、足手まといにはならんと思うぞ。もう実地で経験を積ませてもよいじゃろう」

「まあ、そうだな。よーし、それじゃあ明日は早速、2層まで行ってみるか。その前に冒険者登録して、1層を突破させないとな」

「頑張ります」

「頑張るの~」


 その後、適当に歓談して寝室に引き上げる時に、少し揉めた。

 リューナが俺と一緒に寝たいと言って、ゴネたのだ。

 俺は久しぶりにレミリア、サンドラとするつもりだったんだけどな~。


 妥協案として、迷宮から帰ってきたら一緒に寝るという約束になった。

 もちろんリューナとナニする気もないが、たまに一緒に寝てやることで納得した。

 彼女が年齢相応の体だったら、こんなことで悩まずに済むのにね。


 ちなみにリューナとリュートの体だが、1週間ほど魔力を注入しても見た目は変わらなかった。

 しかし体重は当初の2倍ほどになり、身体能力や魔力もそれなりに強くなっているようだ。

 もうこれ以上は重くなりそうにないので、他のメンバー同様に週1ペースで魔力を注ぐ予定である。





 いろいろな意味でリフレッシュした翌日、リュートたちを冒険者登録してから迷宮へ潜った。

 まず1層に降りると、さっさと守護者部屋を目指す。

 途中、4匹のゴブリンに出会ったので戦わせてみたが、すでにリュートたちの敵ではなかった。


「リュート、リューナ、初めての迷宮戦闘はどうだった?」

「これぐらいだったら全然問題ありません」

「私も2匹倒したの~、兄様」

「よしよし、良くやった。でも異常を感じたら言うんだぞ」


 その後、コボルドやシャドーウルフも薙ぎ倒しながら守護者部屋にたどり着き、ビッグシャドーもあっさりと降して2層侵入資格を取らせた。


「これでお前たちも2層探索者だ。ここまでの感想はどうだ?」

「皆に守られてるから、全然怖くなかったです。俺は大して戦ってないし」

「まあ、大変なのは2層からだから気にすんな」

「これから頑張るの~」


 こうして半日で2層に入ると、深部を目指しながら、コボルドやパラライズバットとの戦闘も経験させる。

 そして、深部に入って間もない所でオークを発見した。


「いいか、今からオークのいる部屋に入る。奴らはメタルアント以上に硬いから、リュートの攻撃は通じないと思え。まずはカインと協力して足止めしろ。サンドラとレミリアは武器を換えてるから、そのままれるようなら殺っていいぞ」


 ひとしきり指示を与えてから、3匹のオークが待ち受ける部屋に侵入した。

 1匹はカインとリュート、2匹目はサンドラとレミリアが受け持ち、3匹目はシルヴァとキョロが俺の前に誘導する手はずだ。


 見ていると、カインは盾の取り回しがしやすくなったせいか、正面からガシガシとメイスを叩き込んでいた。

 リュートの攻撃はやはり通じていないが、それなりに体はよく動いているようだ。


 そしてサンドラとレミリアは、見違えるほど攻撃が通じるようになっていた。

 サンドラが盾と剣で牽制する横で、レミリアがオークの左足を切り刻む。

 やがて耐え切れずに片膝を付いたオークの首に、サンドラが剣を叩きつけると、あっさりと決着が付いてしまった。

 やはり魔鉄製の武器は強力だ。


 3匹目のオークには、リューナが弾を放っている。

 弾はチャッピー謹製の魔力弾なので、やすやすとオークの防御を食い破り致命傷を与えていた。

 3発も食らわせると、早々とオークが地に伏した。


 最後に残ったオークも、弱ったところをカインの盾で転倒させられ、サンドラがとどめを刺して終わる。


「カイン、盾でオークを転ばせるなんてやるじゃないか」

「はい、私なりにできることを考えてみました。リュートも手伝ってくれましたし」

「ああ、リュートも良くやったぞ。怖くなかったか?」

「いえ、カイン兄が一緒だったから。でもやっぱり、俺の攻撃は通じなかった」


 悔しそうに唇を噛むリュート。


「すぐに通じるようになるさ。それとリューナもよくやったぞ~」

「えへへー、リューナも兄様の役に立てたの~」


 ちょっと前まであれほど苦労していたオークが、余裕で倒せるようになっている。

 わざわざ港湾都市まで出向いた甲斐は、十分にあったと言えそうだ。

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