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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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25/87

25.リュートとリューナ

 昨日はこだわり派の武具屋に出会い、良い武器と防具を買うことができた。


 まだ奴隷市までは1日あるため、今日は魔物屋を回ってみる。

 やはりギルドで教えてもらった店を何軒か回ったものの、残念ながら良い商品は見つからなかった。

 改めてキョロとの出会いが運命的なものだったと、しみじみ思う。


 結局、使役獣については早々に諦め、セイスの観光に切り替えた。

 俺は海を見るのは初めてだったので、砂浜でリゾート気分を堪能たんのうする。

 レミリアとサンドラのビキニ姿が眩しいぜ。





 そしていよいよ奴隷市当日、俺たちは朝から会場を歩いていた。

 会場には色とりどりのテントが立ち並び、なかなかにぎわっている。


 この奴隷市では、値段帯ごとにオークションが開催されている。

 あらかじめ公開されている競売リストを見て、興味があれば参加する形だ。

 とりあえず、金貨20枚から50枚のオークションに顔を出してみた。

 この価格帯はそれほど高級ではないが、昨日の大盤振る舞いで資金が減ってたのもあり、様子見で入ってみた。


 しかし、あいにくと気に入るような奴隷はいない。

 昼前には飽きてしまい、金貨50枚以上のオークションも覗いてみた。

 しかしこちらも値段のわりにはろくなのがおらず、結局その日は空振りに終わった。





 翌日はオークションではなく、低価格帯の店売りを回ってみる。

 こちらは金貨20枚未満の低級奴隷で、戦闘用などはまずいない。

 なのであまり期待せずにぶらついていたら、チャッピーがある子供たちに目を留める。


 俺も気になったので近づいてみると、黒髪に緑の瞳を持った子供が2人、檻の中で寄り添っていた。

 額に生える2本の角から鬼人族と思われる彼らは、5歳か6歳程度に見えた。

 その整った顔立ちが良く似ていたので、おそらく双子なのだろう。


「こんな所に竜人族とは珍しいのう。魔大陸の山奥に住む種族で、めったに見つからないはずなんじゃが」


 物知りなチャッピーが教えてくれた。


「へえ、竜人族なんて初めて聞いたよ。でもこの売り札には鬼人族って書いてあるよ」

「無知な奴隷業者が勘違いしておるだけじゃ。鬼人族はバリエーションに富んでおるから、間違われやすいんじゃよ。カインに比べると、角の先端が丸いじゃろ?」


 たしかに彼らの角は先端が丸っこかった。

 しかし鬼人族は眼や髪の色が多彩だから、その1種と見られてもおかしくはない。

 そんな彼らを眺めていたら、レミリアが話しかけてきた。


「ご主人様、この子たち凄く弱ってます。まるで、私がご主人様に買われた時みたいに……」

「ん? たしかに彼らはガリガリだけど、そんなの周りにもいっぱいいるじゃん」

「私には分かるんです。今にも命が尽きそうな絶望感……あの子たちの目は、まるで死にゆく者のそれです」

「ふむ、たしかにこいつらの魔力は、尽きかけておるようじゃな」


 レミリアにチャッピーが賛同すると、彼女は目の前の子供たちを救えないかと、懇願の目を向けてきた。


「……それって、俺にこの子たちを買い上げて、魔力を注げって言ってるんだよね? なんで俺がそんな、慈善事業みたいなことしなきゃいけないの?」


 ちょっと納得がいかないので抵抗したら、レミリアが涙目になる。

 その目はズルいっす。


 そしたら、チャッピーまで発破を掛けてきた。


「デイル、小さいことを言うな。おぬしはそうやって仲間を増やしてきたんじゃろうが。竜人族は独自の魔法に長けると聞くから、決して損にはならんと思うぞ」


 そうは言っても、俺はもっと強そうな奴隷が欲しいのだ。

 今でさえ舐められてるのに、この子たちを連れて帰ったら、託児所とか言われてもおかしくない。


「この子たちに魔力注いだら、レミリアみたいに急成長するの?」

「いや、竜人族は成長が遅いらしいから、それは無いじゃろう」


 やっぱり託児所じゃねーかよと愚痴っていたら、奴隷商人が話しかけてきた。


「お客さん、この鬼人に興味あるのかい?」

「あ、いや、あんまりガリガリなんで心配になって見てただけだよ。ちゃんと飯は食わせてるの?」

「もちろんだ。売れる前に死なせちゃ困るから、ちゃんと食事は与えてる」

「それにしちゃあ、今にも死にそうに見えるけどね」

「そ、それは気候とか合わないんだろうよ。魔大陸から着いたばかりだからな」


 やっぱり魔大陸で奴隷業者にとっ捕まって、こっちに送られたのか。

 ひでー話だな。


「ふーん、じゃあ、この子たち、このまま死んじゃうのかぁ? 俺だったら、助けてあげられるかもしれないんだけどなぁ」

「助けるって、どうやって?」

「それは俺も鬼人の奴隷持ってるから、経験あるのさ」

「へー、そうかい。それで、こいつらを安く売れってのか?」

「まあ、折り合いが付けばね」


 奴隷商人は俺を値踏みしながら、交渉を始める。


「そうだな、こいつらは競売に掛けようと思ってたんだが……そこまで言うなら、1人金貨20枚で売ってやってもいいぞ」

「冗談でしょ、おっちゃん。ここは金貨20枚未満の低価格ゾーンじゃない。しかも死にかけの幼児じゃあ、金貨5枚でも高いな」

「馬鹿野郎、それじゃ大損じゃねーか。なら金貨15枚だ」

「俺が買わなかったらこの子たち、確実に死ぬよ。可哀想に、1週間もたないだろうな……金貨8枚」

「こいつらは顔立ちが整ってるから、まだ売れる可能性はある。金貨13枚」

「こっちが人助けするのに金貨13枚はないでしょ~……2人合わせて金貨20枚。それでダメなら帰るよ」


 俺はいかにも平気そうな顔で、ハッタリをかました。

 奴隷商の目が凄い勢いで動き、いろいろ計算しているのがよく分かる。

 そんなに分かりやすくていいのか? 商人よ。


「チッ、分かった。俺もこいつらの体調は気になってたんだ。せっかく助けてくれるっていうなら、俺が涙をもうじゃねえか」

「素晴らしい。あんたが漢気おとこぎのある人でよかったよ」


 俺と商人はにこやかに握手を交わした。

 恩着せがましいことを言ってるが、金貨20枚がギリギリの原価回収ラインだったのだろう。


 その後、金貨20枚を払い、2人の奴隷契約を済ませて連れ出した。

 2人は歩けないほどに衰弱していたので、俺とカインが1人ずつ肩車をしてやる。

 最初は息も絶え絶えだったのが、少し元気になってきた。

 それにしても、見た目より重いな、この子。


 2人の話を聞くついでに飯を食おうと思い、手近な飯屋に入る。

 適当な食い物を頼んでから、2人に話しかけた。


「俺の名はデイル。冒険者をやってる。こっちから順にレミリア、カイン、サンドラ、シルヴァ、キョロだ。それで、君たちの名前は?」

「俺はリュート。こっちは妹のリューナです」


 ほとんど差がないので気が付かなかったが、片方は女の子だったらしい。


「そうか、リュート、リューナ。今日から俺がお前たちの主人になる。本当は迷宮に潜るための戦力を探しているんだけど、さすがに幼児に無理をさせるつもりはない。怖がらなくていいぞ」

「すみません。俺たち幼く見えるかもしれないけど、これでも18歳なんです。ちょっと訳ありで……どの道、迷宮探索なんて無理ですけど」


 驚愕の事実!

 目の前の幼児は俺よりも年上だった。


「なんとまあ、俺より年上だったか。竜人は成長が遅いって話だけど、そこまでとは思わなかったよ」

「っ! なぜ俺たちが竜人だと?」


 リュートの顔に警戒の色が浮かぶ。


「心配しなくていいよ。竜人だからどうこうしようなんて思ってないから。仲間に物知りがいて、最初から竜人だって分かってたんだ。そしてこっちのお姉ちゃんが、君たちを助けてくれって言うから買った」

「俺たちを助けるって、どういう意味ですか? しょせん奴隷でしょ」

「君たちがとても弱っていることは分かっている。魔素の濃い魔大陸から未成熟な子供を連れてくると、魔力不足で死ぬ場合があるんだ。そして俺はその治し方を知っているし、それができる」


 リュートが怪しそうに俺を見返してくる。

 すると、それまで黙っていたリューナが喋り始めた。


「リュート、デイル兄様の言うことは本当だよ。私もさっきまで魔力が尽き掛けて動けなかったのに、肩車してもらったら少し魔力が流れてきて元気になったの。兄様は凄い魔力の持ち主よ」

「へえ、それが分かるんだ? それなら話は早い。ところで、なんで兄様?」


 なぜかリューナが、俺を兄様呼ばわりする。


「あ、すみません。さっき肩車された時に故郷の兄を思い出して……兄様って呼んじゃ、ダメですか?」

「いや、いいよ。ご主人様よりもそっちの方がしっくり来る。ところで、ひょっとしてリューナは魔力の流れが分かるんじゃないのか?」

「はい、意識すれば魔力の流れが見えます。そこに何かがいるのも分かってます」

「おっと。隠密状態のチャッピーを見破ったか。たぶん、リューナの魔力も相当なものだな」


 これは驚いた。

 チャッピーが見えるほどなら、リューナはかなり魔法が使えるのかもしれない。

 一方、リュートはきょとんとしている。


「実は俺は妖精と契約してるんだが、普通の人間には見えない。ここで人前に出すわけにもいかないから、リュートには後で紹介するよ。さて、飯が来たから食べよう」


 頼んだ食事が出てきたので、少し早い昼飯にした。

 リュートとリューナは美味しそうに食べているが、それほどがっついてはいない。

 レミリアに初めて食わせた時なんか、凄い勢いだったんだがな。

 まだ彼らは余裕があるのだろうか。


 ひととおり食事が終わったのでお茶を飲みながら2人の話を聞いた。

 やはりリュートたちは、魔大陸の山奥に住んでいたらしい。

 あまり他種族とは接触せず質素に暮らしていたのだが、20年ぶりに現れた叔父さんがその平穏を破った。


 この叔父さんは、人族の社会で一端いっぱしの冒険者となってそれなりに稼いでいたが、ふと故郷が懐かしくなって帰ってきたそうだ。

 そして叔父さんは親切心からリュートたちを村の外に誘った。


 結局、少しは見聞を広めるのもいいという話になり、叔父さんと一緒に近くの鬼人族の集落へ遊びにいったそうだ。

 しばらくはその村を拠点に周辺の森で探索などをしていたところ、運悪く人族の奴隷狩りに捕まってしまった。

 他の鬼人と一緒だったので竜人とはバレなかったものの、そのままこの大陸に送られて売られていたという状況だ。


 もし竜人とバレてたら何十倍もの値段が付いていて、俺には手が出なかっただろう。

 それにしても、魔大陸の奴隷狩りはかなり派手にやられているようだ。

 異種族を一方的に奴隷にする人族の業は、深いと思う。



 その後はリュートたちの着るものを買いに行き、とりあえず下着と大きめのローブを買い与えた。

 魔力を与えるとまた成長するかもしれないので、これで様子を見るつもりだ。


 その後も奴隷市を見て回ったが、食指の動く商品は無かった。

 リュートたちを買ったこともあるので、よほどの出物が無い限り、今回の買い物は終わりになりそうだ。


 夕飯を食ってから宿に戻ると、チャッピーをリュートたちに紹介した。


「リュート、リューナ、この妖精がチャッピーだ。こう見えても100歳オーバーの大御所で、物知りなんだぞ。お前たちに気付いたのもチャッピーだ」

「最初、誰かに見られるような感覚があったが、あれはリューナが儂を見ておったのじゃろう?」

「うん、なんか変わった魔力が見えたの」

「そうか。そういう意味では必然の出会いだったのかもな。さて、2人に魔力を与えよう。ついでにチャッピーは魔力の流れを診てくれ」

「了解じゃ」


 リュートを椅子に座らせ、彼の心臓辺りに後ろから手を当てて魔力を流す。

 チャッピーは前方から胸に手を当て、魔力を導いている。

 最初はカインたちの毒を消すための治療だったが、体内の魔力経路を整えて魔力を増やしたり、魔力制御を容易にするなどの効果が判明している。

 レミリアやシルヴァでも効果があったので、リュートたちにも効果があるだろう。


「それにしても、魔力がどんどん吸い込まれる感じがするな」

「やはりそうか? 竜人は身体の割に、魔力の貯蔵量が多いと言われておるからな」

「こんな小さな体のどこに入るんだろうな?」

「一説には、魔力を体組織に換えると言われておる。たぶん明日は、体重が増えとるんじゃないかのう」


 その辺の話は、リュートも今まで知らなかったそうだ。

 チャッピーってホント物知りだな。

 しばらく施術して、今度はリューナに代わる。


「おお、リューナにもどんどん入るな」

「はい、兄様の魔力が体に満ちて気持ちいいの。チャッピーがそれを整理してくれるのも気持ちいいよ」

「さすがにリューナはそういうのが分かるんだな。魔法は何か使えるのか?」

「うん、私は竜神の御子だから、竜人魔法が使えるの」


 えっ、竜人魔法って何?

 それって、美味しいの?

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