表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/87

24.港湾都市セイス

 犯罪パーティ”嵐の戦斧”の襲撃を退けた日の夜、俺たちは珍しく酒場で飲んでいた。

 厳しい戦いを最低限の被害で切り抜け、大金を手に入れてのお祝いだ。


「いやー、本当に今日は危なかった。レミリアとシルヴァのケガは大丈夫か?」

「大丈夫です。チャッピーに治してもらったので、ほとんど痛みもありません」

「ワフン」

「そっか、でも無理はするなよ。それにしてもあいつら強かったな~」

「さすがは3層探索者といったところでしょうか。しかしデイル様の魔法はさすがですね。あれで敵の機先を制することができました」

「それもチャッピーの補助あってのものさ。追跡を察知してくれたのも大きかった」

「フヒヒッ、お役に立てて何よりじゃ」


 チャッピーが仲間で、本当に良かったと思う。

 しかし、相変わらず問題は残っている。


「でも今後のことを考えると、マジで戦力アップを考えないとなあ」

「それは、新メンバーを加えるということですか?」

「うん、それと同時に武器もグレードアップしたいね。ほら、あの剣士が使ってた魔鉄製のバスタードソードあるだろ? あれはサンドラが使うとして、俺たちにも魔鉄製の武器が欲しいな。それから、カインにはもっと大きな盾を持たせたい」

「たしかに魔鉄製の武器は有効じゃ。しかし、この町ではほとんど売っておらんじゃろう?」

「そうなんだよ。だから他の町で武器と奴隷を探そうと思うんだけど、やっぱ王都に行くしかないかな?」


 そんな話をしていたら、横から声が掛かった。


「やあ、デイル君。元気そうだね」

「あっ、クインさん。お久しぶりです」


 クインさんは俺がこの町へ来た時の護衛隊長で、Cランクのベテラン冒険者だ。

 せっかくなので椅子を勧めて話をした。


「クインさんは、また護衛でこちらに来たんですか?」

「ああ、そうだよ。デイル君は迷宮に潜ってるのかい?」

「ええ、今はこのメンバーで2層を探索してます」

「4ヶ月で2層に入るとは、なかなかやるね。もう序盤は切り抜けたのかい?」

「ええ、今は深部に入って2週間くらいですね」


 そう答えたら、彼のあごが落ちた。


「ハア? もう深部を探索してるって、冗談だろ? 俺たちだって、あそこはオークが怖くて立ち入れないのに」

「あ、クインさんもオーク経験者ですか。あいつら硬すぎですよね?」

「そうそう、魔法でも使わないと倒せないから、オークに遭ったら逃げるんだよ。あいつら足遅いから」

「やっぱ普通は逃げるんですか。でもそれだと、探索進まないですよね?」

「普通はって、まさか君は違うのかい?」


 クインさんがいぶかしそうに聞いてくる。


「ええ、うちは優秀なメンバーが揃っているので、オークに遭遇しても倒しますよ」


 仲間自慢をしてやったら、また彼の顎が落ちた。


「ちょっと待って……獣人の女の子に鬼人の男女、そして魔物が2匹……ひょっとして君らがオーク狩りで有名な、”妖精の盾”だったの?」

「はあ、よく知ってますね?」

「よく知るも何も、最近噂になってるパーティだよ。”オークバスターズ”とか、”皆殺しの盾”なんて別名まであるぜ」

「ひどっ! ”オークバスターズ”は分かるけど、”皆殺しの盾”ってなんすか?」

「いや、持ち帰る魔石が異常に多いから、迷宮内で出会った魔物は、片っ端から倒してるんだろうって話でさ」


 ぐふっ、自業自得だった。


「……いや、俺らもヤバイと思ったら逃げますよ。地図を埋めるついでに、ちょっと普通より多く倒してるだけですって」

「本当にほとんど倒してるのかよ? はあ、まあそれだけ強いってことだよなぁ」

「別に、それほどでもないですよ」

「でもデイル君、いくら強いからって、浮かれてるとひどい目に遭うよ。目立つ新人を襲う奴らだっているんだから」


 実は今日、返り討ちにしたばかりだなんて、言える雰囲気じゃないな。


「そ、そうなんですよ。実はそんなことにならないよう、戦力を底上げしたいんだけど、何かいい手は無いですかね? 増員とか武器とか」

「増員って、ギルドで募集してみたのかい?」

「何度かメンバーを募ってはいるんですけど、ろくなのがいないんですよ。俺たちのおこぼれにあずかろうって感じの奴らばかりで、信頼できないですね。かと言って奴隷を買おうにも、この町にはいいのがいないし」

「この町の商業はイマイチだからしょうがないよ……そう言えばもうじき、港湾都市セイスで奴隷市が立つんじゃなかったかな」


 神情報キター!


「本当ですか? それってけっこう大きいんですよね?」

「ああ、あそこは王都よりも商業が盛んだから、奴隷も武器もいいのが集まるんだ。しかも半年に一度の奴隷市だから、けっこうな規模だよ」

「クインさん、耳よりな情報ありがとうございます。おごるから飲んでくださいよ」


 その後、彼に飲ませながら、いろいろ聞いた。

 ここから港湾都市セイスまでは馬車で4日ほどで、ちょうど1週間後にそこで奴隷市が立つらしい。

 だいぶ金も貯まってきてるので、いい奴隷や武器が見つかれば、奮発してもいいだろう。





 翌日の朝に、港湾都市行きの商隊を探したところ、次の日出発の隊が見つかったうえ、護衛も募集中だったのでさっそく申し込んだ。


 そして当日、4の刻少し前に待ち合わせ場所へ赴き、準備が整うと最後尾の馬車に乗り込んで出発した。

 商隊は6両の馬車を有し、護衛は俺たち以外に2パーティで10人もいた。

 けっこう魔物が多く出るらしいが、俺たちは護衛の中でもオマケみたいなものだから、本命パーティに任しとけばいい。


 そういえば、町の外に出るのも久しぶりだから気分がいい。

 いざセイスへ、いざ奴隷市へ。



 道中は前情報どおりに魔物が多かった。

 ホブゴブリン率いるゴブリン20匹が現れた時は、少し騒ぎになったがしょせんゴブリン。

 シルヴァの能力で事前に察知していたのもあって、大して苦労しなかった。

 その後もちょろちょろ出てきたが、ほとんど俺たちの出番は無かったくらいだ。


 こうして4日目の夕刻には港湾都市セイスに到着した。

 俺は護衛料の金貨1枚を受け取り、その晩は護衛仲間に教えてもらった宿に泊まった。


 少し物価が高いのか、4人と2匹で1部屋が銀貨12枚だった。

 まあ、奴隷市が近いので人も多いのだろう。

 部屋の内装は悪くなかったので、2日後の奴隷市に向けてくつろいだ。





 翌日は武器と防具を見て回るため、冒険者ギルドでめぼしい店を何軒か教えてもらった。

 それから2軒ほど回ったのだが、どうも性能のわりに高すぎるようで良いものが無かった。


 そして3軒目に、ゴトリー武具店という店を訪れる。

 あまり人気の感じられない店のドアを開けると、眼鏡めがねを掛けたドワーフの娘さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ~」

「こんにちは。魔鉄製の武器を探してるんですが、置いてますか?」

「も~ちろんです、お客様~! 当店の品揃えは、この町でも屈指でございま~す!」


 ちょっとテンション高くて引いた。


「あ……そ、そうですか。実は彼女の双剣と、俺の短剣を魔鉄製にしたいんですけど」

「なんと、短剣まで魔鉄製とはこだわりますねえ。ちょっとお待ち下さい。お父さーん、お客さんよ~」


 そう言って眼鏡っこが奥に消えると、やがてゴツいドワーフ親父が現れた。

 親父が俺たちを睨みつけながら、質問を投げかける。


「おい、坊主。魔鉄の武器を欲しがってるそうだが、おめーらにそれを使う資格があるのか?」

「資格って、剣術とか魔力制御能力のことですか?」

「そうだ。魔鉄の武器ってのは、普通では倒せない魔物を狩るために作り出された高級品だ。それなりの技倆を持つ人間にしか売らんぞ」

「ちょっとお父さん! 何言ってんのよ。そんなこと言ってるから、お客さんを他所よそに取られちゃうのよ~!」


 後ろから現れた眼鏡っこが、親父にポカポカパンチをしながら説教する。

 しかし、親父は全く気に掛けた素振りを見せない。

 どうやらこの店は、ガンコ親父が客を選ぶようだ。

 しかし、それこそ望むところだ。


「なるほど。親父さんの言う資格がどれほどのモノか、俺には分かりませんが、ガルド迷宮に潜るうえでどうしても必要なんです」

「ガルド迷宮か。今、何層だ?」

「2層の深部でオークを相手にしてますよ」

「オークだと? たった4人と2匹で、オークを狩ってるのか?」

「そうです。しかし守護者討伐まで考えると、どうにも戦力不足なんでこの都市に来ました」

「なるほど、奴隷市か?」

「ええ、それと強力な武器もね」


 俺がニヤリと笑って言い放つと、ガンコ親父は改めて俺たちを値踏みする。


「ふん、それなら、ちょっと裏庭で剣を振ってみせろ」


 そう言って奥に誘われたので、そのまま裏庭へ出て俺とレミリアが剣を振ってみせた。


「ふむ、坊主はイマイチだが、2人ともそれなりに使えるようだな。武器に魔力は通せるのか?」

「4人とも通せますよ。ちなみに俺は、弓が主力の後衛職ですからね」

「まあ、おめえは後衛だろうな。ところでそっちの鬼人の2人にはいらねえのか?」

「ああ、彼女はすでに魔鉄製の剣を持ってます。彼の方は盾職なので、いい大盾と魔鉄の戦棍メイスがあれば欲しいですね」

「ふむ、防具はいいのか?」

「うーん、俺用に軽量で防御力の高い鎧があれば、欲しいですかね」


 親父はふむと言いながら、店の奥に下がった。

 俺たちが店の中で待っていると、いくつか候補の商品を持った親父が現れた。


「双剣の嬢ちゃんにはこれがいいだろう。坊主の短剣はこれな。それから大盾と軽鎧とメイスだ」


 双剣は肩幅ぐらいの刃渡りに、片刃で反りが入ったもの。

 短剣はその半分くらいの長さで、反りの無い両刃だった。

 どちらも魔鉄独特の鈍い輝きを放ち、かなりの斬れ味を予想させる品だ。

 ちなみに短剣も2本準備してもらった。


「これはなかなかの業物わざもののようですね。レミリアはどう?」

「はい、ちょうどいい重さで使いやすそうです」

「そうか。それではこの剣を買わせてもらいます。そちらの大盾と鎧はどんなものですか?」

「この大盾は鉄のフレームに、オークの革を硬化処理して貼り付けたものだ。鉄以上の強度があるわりに軽い。鎧の方もオークの革だが、処理方法が違うので、柔軟性があって動きやすいぞ。防御力は、今使ってる毛皮の倍くらいはあるはずだ」


 両方ともオーク革製か。

 こげ茶色の大盾カインの胸ほどの高さがあり、横も肩幅ほどとかなり大きい。

 内側の取っ手が大きくて、両手で支えることもできそうだ。


 鎧は薄茶色で、肩当て付きの胴鎧、籠手、腰当て、脛当て、兜のセットだ。

 重量は今のウルフ革とあまり変わらないので、防御力が倍増なら十分買いだろう。


「カイン、そっちの盾とメイスはどう?」

「はい、見た目ほど重くないですし、しっかりしてるので振り回せそうです。メイスも魔力の通りがいいですね」

「それじゃあ全部買いだね。親父さん、これ全部でいくらになりますか?」


 親父がしばらく考える顔になる。


「全部で金貨40枚だな」

「キャー! お父さん、それじゃ赤字ぃ!……すみませんっ、計算し直させてくださいぃ」


 眼鏡っこ的には安すぎたらしい。

 俺も安いと思ったからな。


 しばし親子でやり取りした後、眼鏡っこから値段が再提示された。


「お客様、まとめ買いを考慮しても、金貨50枚は頂きたいのですが?」

「いいですよ。親父さんは信頼できそうですから」


 迷わず金貨50枚を払ったら、眼鏡っこが半年分の売上げだと言って騒いでいた。

 大丈夫か、この店?


「今日はいい買い物ができました。今後もひいきにしたいと思うので、またお願いします」


 そう言って店を出た俺たちを、眼鏡っこがにこやかに見送ってくれた。

 武器については、想像以上に良いものが手に入った。

 あとは良い仲間が見つかるといいのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ