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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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23/87

23.犯罪パーティの襲撃

 魔力弾を編み出した翌日から、また2層深部に潜った。

 いつものように片っ端から地図を埋めつつ、オークが見つかれば積極的に挑戦し、戦法を煮詰める。


 まず新型の魔力弾は、期待どおりの効果が得られた。

 いくつか試した中で最適な組み合わせは、通常の2割増しほどの魔力で作れ、しかもしっかりとオークにダメージを与えられた。

 これなら8発は撃てる計算なので、だいぶ余裕が持てる。


 それから土捕縛アースバインドとサンドラの魔力斬のコンボも練習し、成功率上昇と時間短縮に成功した。

 ちなみにこの技を、俺たちは”サンドラ斬り”と呼んでいる。


 オークとの遭遇頻度は1日1回程度だったので、2日潜るともう素材が持ちきれなくなる。

 なので2日潜って1日休息のサイクルを何回か繰り返した。


 けっこうなハイペースでオークを狩ったため、俺の強化レベルが4に上がった。

 レミリアだけでなくカイン、サンドラもそれぞれ3になっている。

 しかし、それでもまだ2層の守護者戦には早いと思われた。





 そんなオーク狩りも5回目の探索中、チャッピーが異常を伝えてきた。


「デイル、誰かの使い魔に尾行されているようじゃぞ」

「なんだって? でもシルヴァは何も探知してないよ。妖精とか精霊みたいなのにつけられてるのかな?」

「そうじゃな、雰囲気からして儂の同類かもしれん」


 これは不吉な知らせだ。

 最近、オーク素材を大量に持ち帰っているため、俺たちはかなり目立っている。

 そのくせメンバーは4人と使役獣2匹だけと、あまり強そうに見えない。

 こっそり後をつけているからには、獲物の横取りどころか、皆殺しも考えていると見るべきだろう。


「最悪を想定すると、魔物と戦っている時に後ろから攻撃を受けるかもしれない。何かいい対策はないかな?」

「まずは儂が後ろの奴らを確認してこよう。どんなメンバーで、どれくらい離れているか分かれば、対策も立てやすいじゃろう」

「……それもそうだな。チャッピー、頼む」


 すぐさまチャッピーが、ふよふよと飛びながら偵察に向かった。


 その後は若干ペースを落として進んでいると、やがてチャッピーが偵察から戻る。


「後ろから10人のパーティがつけてきとったわい。戦斧せんぷを持った大男に、剣士と斥候スカウトが1人ずつ、魔術師が2人、そして剣やメイスで武装した獣人の奴隷が5人じゃな」

「ずいぶんな戦力だな。もっとも、それくらいじゃなきゃ、オークを狩り続けてる俺たちを襲おうなんて、思わないか。これは3層に潜る実力があると見るべきだよね?」

「奴らの装備からしても、それぐらいの実力はありそうじゃな」


 さて、困った。

 奴らをいて逃げるか、それとも迎撃するか?

 俺はしばし歩きながら悩んだ末、みんなに相談した。


「相手の実力が分からない状況で危険だとは思うけど、俺は奴らと戦いたい。なぜならこっちは奴らを先に見つけ、陣容も知っているからだ。もし奴らを撒いて逃げてもまた狙われるかも知れないし、その時は奴らに警戒させてしまう。だからここで決着を付けたいんだ」


 俺の決断にみんなが賛成してくれたので、方針は決まった。


「チャッピー、敵はどれくらい離れてる?」

「そうじゃな、歩いて10分の1刻ほどか」

「そうか。それくらい離れていれば、奴らに追いつかれる前にオークだって倒せるな。シルヴァ、オークを見つけたらそこへ案内してくれ」

「ウォン」


 しばらく探すと3匹のオークが見つかったので、そちらへ向かう。


「いいか、魔法はなるべく隠すから、サンドラ斬りで2匹を倒す。最後の1匹は少し手こずってるふりをしておいて、奴らの到着直前に倒そう。その後、奴らが攻撃してきたら、魔術師を真っ先に潰して、残りも殲滅だ」


 指示を伝えてからオーク部屋に突入した。

 オークはカインが1匹を、サンドラ、レミリアがもう1匹を押さえ、残りはシルヴァとキョロが連れ回す。

 まずはサンドラに魔力を溜めさせてから、土捕縛アースバインドでオークを転ばせた。

 すかさずサンドラがその首に魔力斬を叩き込み、1匹を仕留める。


 次はカインが押さえていた奴を、少し手こずるふりをしながら、またサンドラ斬りで屠った。

 とりあえずここで疲れたふりをして、時間を稼ぐ。

 少し休んでからキョロとシルヴァを下がらせ、最後の1匹を皆で囲んだ。


 適当に相手をしつつシルヴァに後方を探らせていると、やがて敵接近の報告が入ったので芝居を終わりにする。


「サンドラ、やれ! 土捕縛アースバインド!」


 最後のオークがサンドラに倒されると間もなく、部屋の入り口に敵パーティが現れた。


「あれ、もう終わってるじゃねーか。思ってたよりもやるなぁ」


 後方中央にいる大男が、そんな舐めたセリフを吐く。

 奴らはそのままニヤニヤしながら近づいてきた。


「いやー、てっきりオークに苦戦してると思って駆けつけたんだけど、君ら強いねー」

「それはどうも。これでもけっこう鍛えてますから」


 とりあえず軽口に応えていると、やがて敵パーティは20歩ほど先で、俺たちと対峙した。


「なあ、お前ら、オーク狩りで有名な”妖精の盾”だろ?」

「ええ、そうですが、そちらは?」

「俺たちは、”嵐の戦斧”ってんだ。これでも3層探索者だぜ」

「それは凄い。それで、そんな方々が2層で何を?」


 やっぱり3層探索者か。

 どうせろくなこと考えてねえんだろうなぁ。


「それがさ、3層に行ったはいいけど、あそこの魔物強いわりに儲からないんだわ。それで2層で稼ごうと思ってな。例えば、新人を教育して素材をもらったりとかね」

「なるほど、しかし俺たちは間に合ってるので、他を当たってください」

「バーカ! こんなに美味しい獲物を見逃すわきゃねーだろ。いい女も連れてるしな、グヒヒヒッ」


 はい、略奪者に決定。

 しかもレミリアとサンドラを奪うとか言ってるし。

 素材も女も、お前らには絶対やらねーよ。


 敵の親玉の宣言で、魔術師が魔法の詠唱に入った。

 同時にスカウトも弓を出し、射撃態勢に入っている。


「させるかってーのっ!」


 即座に魔術師へ向け、散弾をぶっ放した。

 魔術師の長ったらしい詠唱と違い、こっちは1呼吸ほどの間で撃てる。

 軽装の魔術師に複数の散弾が当たり、奴らの詠唱が止まった。


「キャインッ!」


 しかし敵もさるもの、スカウトがシルヴァに矢を当てやがった。

 致命傷ではないが、シルヴァの右足に矢が刺さっている。

 さすが3層探索者を相手に、無傷では済まないか。

 お返しとばかりにスカウトにも散弾を叩き込み、さらに2発撃って敵の動きを止める。


「この野郎、いてーじゃねーか! 野郎ども、女以外は殺せ!」

「「オオーッ!」」


 さすがに重装の戦士や剣士は散弾をものともせず、剣を抜いて襲いかかってきた。


「カインは親玉を、サンドラはその横の剣士を押さえてくれ。他は奴隷の相手を頼む」


 そう言いながら弓を構え、まだ動いている魔術師とスカウトに矢を撃ち込んでいった。

 ここまでやれば生きてても、動けないだろう。


 次はレミリア、キョロ、シルヴァが相手をしている奴隷たちだ。

 奴隷とはいえ人数が多いうえ、シルヴァが負傷しているので苦戦している。

 しかし俺は奴らの隙を狙い、1人ずつ風弓射ウインドショットで仕留めていった。


 3人倒した時点で残りをレミリアに任せ、次はサンドラと戦う剣士に矢を放った。

 げっ、飛んでる矢を叩き落としやがった。

 あの剣士、かなりやるな。


 しかし俺の風弓射ウインドショットだって負けてはいない。

 俺は矢を3連射で、しかも軌道をカーブさせながら放った。

 また2発は落とされたものの、1発が命中して動きが止まったところを、サンドラが斬り捨てた。


 次々に倒れていく仲間を見たせいか、親玉の動きも怪しくなっている。

 その隙に、風弓射ウインドショットの3連射を叩き込んだ。

 親玉もなかなかの腕らしく、1発は落としたが胸と腕に1発ずつ矢が突き刺さる。

 痛みで動きが止まったところを、カインにメイスでぶん殴られ、親玉の体が崩れ落ちた。


 レミリアの方を確認するとそっちも決着していたが、彼女が右脚から血を流してうずくまっていた。

 くそぅ、俺の女レミリアになんてことしやがる。


「レミリア、大丈夫か? サンドラ、レミリアとシルヴァを診てやってくれ」


 そう言いながら、仲間以外には見えていないチャッピーに、念話で治療をお願いする。


(チャッピー、2人を診てやってくれ。サンドラはポーションを使うふりして、それを誤魔化ごまかすんだ)

((了解))


 俺もすぐに駆け付けたかったが、まずは安全の確保が先だ。

 敵の生き残りを確認すると、魔術師が1人、奴隷が2人、そして憎たらしい親玉が生きていた。

 4人とも重傷だったが、ポーションを与えれば歩くことはできるだろう。

 とりあえず親玉以外は治療して、事情を聞いてみた。


 奴らは親玉が言っていたように、3層に進んだはいいが、思うように儲けられずに苛立っていたそうだ。

 それである日、2層をうろついていたら、オークと戦闘中のパーティに出くわした。

 そのパーティは助けを断ったそうだが、奴らは強引に助けに入って分け前を要求した。

 当然、相手とは揉めたが、親玉が逆ギレしてぶっ殺しちまったそうだ。


 迷宮内に限らず、冒険者が殺人をすればギルドカードに記録が残るのだが、ギルドに提出しなければバレない。

 奴らはそのままオークの素材と相手の装備を奪って売りさばき、味を占めた。

 頻繁にやるとバレるので1ヶ月に1度程度、オークを狩れるわりに人数の少ないパーティの後をつけ、戦闘中に乱入しては皆殺しにしていたって話だ。

 とりあえず白状しただけでも、5件はやってるらしい。


 それから俺たちの後をつけていたのはスカウトの使い魔で、奴らの犯行を容易にしていた。

 やはりチンケな妖精を使役していたようだが、そいつはスカウトが死んで逃げたようだ。


 最後に親玉に話を聞いてみたが、こいつが実に見苦しい奴だった。


「だ、だずげでぐれ。おではごんなどごろでじにだぐない」

「お前はそうやって命乞いをする相手を、助けてやったことがあるのか?」

「も、もぢろんだ、何度もだずげだ」

「だったらお前らがのうのうと出歩けるわけねーだろうが? お前の部下も皆殺しにしたって言ってたぞ」

「ま、まっでぐれ、ぐえっ、ヒュー……」


 俺はこいつだけは許せなかったので、嘘をついた時点で首をかっ切った。

 地上へ連れて帰れば犯罪奴隷として売れ、その金額の9割が手に入るが、こいつは危険すぎる。

 こいつのギルドカードは明らかに犯罪者表示になってるから、俺が罪を問われることもない。


 全ての死体から装備とカードを剥ぎ取り、犯罪者たちに担がせた。

 その間にレミリアとシルヴァの治療も終わり、最後にオークの素材を回収して帰路に就く。

 あいにくとケガ人がいたのでいつもよりペースは遅かったが、それでも3刻ほどで地上へ戻った。


 魔石を売却してからギルドへ向かい、受付でアリスさんに話しかける。


「アリスさん、迷宮内でよそのパーティに襲撃されたので、話を聞いてください」


 途端に彼女の顔が厳しいものに変わった。


「分かりました。ギルドマスターを呼びますので、あちらの部屋でお待ち下さい」


 指示された部屋でしばらく待っていると、鼻の下にチョビ髭を生やしたごついおっさんがアリスさんと共に現れる。


「俺がギルドマスターのコルドバだ。”嵐の戦斧”に襲われたというのは本当か?」

「もちろん、こんなことで嘘はつきませんよ」


 それから襲撃の経緯を説明した。

 証拠としてギルドカードを提出し、連れ帰った奴らも突き出す。


「奴らは最低でも5回は同じことをやったそうです。カードを調べてもらえれば、俺たちの正当性が証明されるでしょう」

「うむ、それはすぐにやらせよう。しかし、”嵐の戦斧”は3層探索者だぞ。しかもフルメンバーをそのメンツで倒すとは……」

「事前に奴らの意図を察知して、油断を突いたに過ぎません。それでも無傷では済みませんでした」

「そうか。さすがは大量にオークを狩る新人パーティだけあるな。いずれにしろ、今回の件はギルドを代表して礼を言う。討伐報酬も出すから、あとで受け取ってくれ」

「ありがとうございます」


 それ以上、話すことも無かったので、さっさと帰らせてもらった。

 ちなみに後で受け取った討伐報酬は金貨5枚だった。


 この他に連れ帰った犯罪者たちが奴隷として売られた。

 今回のような凶悪犯罪を犯したものは犯罪奴隷に落とされ、その代金の9割は逮捕者に払われるのだ。

 その結果、魔術師で金貨9枚、獣人2人で金貨1枚ずつの収入になった。


 さらに奴らの装備が金貨30枚にもなった上、魔鉄製のバスタードソードを手に入れた。

 これは例の剣士が使っていたものだが、鋼鉄よりも硬く粘りがあり、魔力の流れもいい高級品だ。

 普通に買えば金貨10枚は下らないので、ありがたくサンドラ用に使わせてもらう。

 これにオークなどの素材代金を加えると、最終的に金貨50枚以上の大収穫となった。


 しかしレミリアとシルヴァがケガを負わされたので、喜んでばかりもいられない。

 チャッピーの治癒魔法でほぼ治ってはいるものの、レミリアの傷は残るのだ。


 俺はもっと真剣に戦力増強を考えようと、決心していた。

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