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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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19/87

19.妖精の盾

 カインとサンドラのパーティ加入が決まってから、俺たちはまたピクニックに来ていた。

 行き先は、チャッピーと合成魔法を編み出した例の原っぱだ。

 ここは見晴らしがいいし、魔物や冒険者はめったにいないので、思い立ったらいろいろやれるのがいい。


 いつものようにシートを広げてランチを楽しんだが、カインとサンドラは落ち着かない様子だ。

 魔大陸には凶暴な魔物がうろついているから、野外で食事を楽しむなんて経験はないんだろう。

 食事後、お茶を飲みながら今後の話をする。


「そう言えば、カイン達の得意な武器は何だっけ?」

「私は剣を使っていましたが、戦棍メイスのような武器も使えます。サンドラは剣が得意で、魔力の使い方も上手いですね」

「え? 魔力の使い方って、魔法のこと?」

「いいえ、剣に魔力を乗せて斬る技のことです。私は魔力を外に出すのが苦手で、せいぜい身体強化しかできませんが、サンドラは武器に魔力を通して威力を高めるのが上手いんですよ」

「それって、オークを倒した時に使ってたやつかな?」

「そのとおりです。あの時はサンドラが不調で、首の半ばまでしか斬れませんでしたが、普通なら首が胴体から離れていたでしょう」

「そうか。あの時のサンドラは凄かったからな」


 俺がサンドラを褒めても、彼女はコクコクと頷くだけで、話に加わってこない。

 何かまだ、遠慮があるようだ。

 そんな彼女に期待してると思わせるよう、話を進める。


「魔力を通した剣か。俺やレミリアも使いたいから、後で教えてもらいたいな。それからカインは盾が使えるか?」

「はあ、多少は使ったことがありますが、あまり得意ではありません」

「そっか。できればカインには大盾とメイスを装備して、パーティの盾役を務めて欲しいんだけど」

「なるほど、頑丈で力が強い私の役目ですね。できれば、盾を使いこなす技術を学びたいと思うのですが」

「うん、それはギルドに教官がいるから、多少は習えると思うよ」


 彼が盾役をこなしてくれれば、パーティの安定度が大きく増すはずだ。

 念願の盾役が、こんな形で手に入るとは。


「カインはメインの盾役だけど、サンドラにも盾を持って前衛をやってもらいたい。武器は今持ってるバスタードソードだね」


 バスタードソードとは片手半剣とも呼ばれ、片手でも両手でも扱える大剣だ。

 この間のように強力な斬撃を打ち込むのに向いていて、サンドラにはピッタリだと思う。


「それでレミリアとシルヴァは遊撃役な」

「はい、ご主人様」

「ウォン」

「キョロは電撃で、みんなの援護を頼む」

「キュー」

「それで俺は全体の指揮と、弓や魔法で援護をする。チャッピーは俺と一緒に魔法を使ったり、ケガ人が出た時の回復役だね」

「うむ、任せておけい」


 これで皆の役割がはっきりした。

 それぞれが実力を発揮すれば、凄いパーティになるのではなかろうか。

 夢が膨らむな。


「それと今後の訓練方針だけど、カインはみっちり盾の扱いを学んでもらう。サンドラにも盾を習ってもらうけど、こっちは攻撃重視ね」


 その指示に、2人が力強く頷く。


「レミリアはサンドラと一緒に攻撃力を高めてくれ。できれば魔力で斬る技を習得して欲しい」

「はい、頑張ります」

「シルヴァとキョロもそれぞれの攻撃手段を磨いてくれな」

「ウォン」

「キュー」

「うん、そして俺とチャッピーは魔法の攻撃力を高めよう。できれば撃てる回数も増やしたいんだけど……」


 ここでチャッピーに目を向けると、彼が頼もしいことを言いだした。


「それなら当てがあるぞ。実はこの間のオーク戦で儂も成長したんじゃ。おそらく、この間よりもたくさん撃てるようになっておるぞ」

「へー……それって、チャッピーも倒した魔物の生命力を得て、強くなるってこと?」

「うむ、今まで魔物を倒したことがないので気づかんかったが、どうやら冒険者と同じ効果があるようじゃな」

「それは凄い発見だよ! ジャンジャン魔法を使って魔物を倒せば、俺たちの攻撃力も高められるってことか」


 これは思わぬ朗報だ。

 もしそれが本当なら、2層攻略が大きく進展するかもしれない。

 ああそうだ、カインとサンドラも使役リンクに入れないとな。


「カイン、サンドラ。実はこのパーティは、俺の使役スキルを介して連携を強化しているんだ。2人にも加わって欲しいんだけど、いいかな?」

「それは奴隷契約の他にも、デイル様の使役スキルを受け入れる、ということですか?」

「うん、そう。別に制約が増えたりはしないから安心して。でもこれをうまく使えば、念話や空間情報の共有ができるようになるんだ」


 そう言った途端、サンドラが食いついてきた。


「今すぐ契約を! 妾に使役スキルを!」


 ふいに俺の手を掴み、グイグイと迫ってきた。

 ち、近い、顔が近すぎるよ。


「ちょ、落ち着けって、サンドラ…………分かったよ。今から契約するから、そのまま受け入れて」


 すぐに『接触コンタクト』を始めると、あっさりと『契約コントラクト』まで完了した。

 サンドラの表情が恍惚とし、とても幸福そうに見えるのは気のせいか?

 まるでヤバい薬をキメた人のようだ。


 その後、カインとも契約を結び、全員が使役リンクでつながった。

 最初はキョロやシルヴァと意思疎通できることに驚いていたが、じきに慣れるだろう。


 こうして新たなパーティ編成が完了したところで、レミリアから提案があった。


「ご主人様、そろそろパーティ名を決めてはいかがでしょうか?」

「ああ、そう言えばまだパーティ名付けてなかったっけ。そうだな、何がいいかなぁ?」


 今まではメンバーが少なかったので、ギルドにパーティ名を届け出てはいない。

 今回、2人増えてパーティらしくなったので、名前を付けてもいい頃合いだ。


「俺がパーティを組むきっかけになったのは、チャッピーとの出会いなんだよな。チャッピーにはいろいろと世話になってるし、逆に困った人を助けていきたいと思うから……”妖精の盾” なんてどうだろう」

「素晴らしいです。とても良い名前だと思います」

「賛成です」

「もちろん賛成なのじゃ」

「フヒヒッ、儂がパーティの主役じゃな」


 1人、勝手に主役を気取ってる奴がいるが、それは放っておこう。

 俺たちはこれから”妖精の盾”を名乗っていこう。



 その後は昼寝をしたり、軽く剣を振ったりしてから町に戻った。


 家に帰る途中、カインの大盾を買おうと武具屋へ立ち寄ったのだが、大きな盾は冒険者には需要がなく、品数が少なかった。

 それでも騎士団払い下げという頑丈そうな盾があったので、それを買い求めた。

 しゃがむとカインの体もすっぽり隠れるくらいの盾が、銀貨60枚。

 俺の考える盾役としてはまだ不足だが、初心者にはこんなものだろう。


 合わせて手頃なメイスも、銀貨40枚で買った。

 打撃部が少し太くなっていて、ゴツい突起がついているやつだ。

 メイスは使い方が単純なわりに破壊力があるので、カインに向いてるだろう。


 ちなみにサンドラには、会った時に持っていた盾と剣をそのまま使ってもらう。


 それからギルドに寄ってカインたちの冒険者登録と、パーティ名の届け出もした。

 ついでに盾術を教えてくれる教官がいないか聞いてみると、元騎士団員のトッドさんが担当だそうだ。

 翌日から訓練をつけてもらえるようお願いして、ギルドを後にした。



 帰宅して夕食を済ませた後、サンドラに魔力を込める技を教えてもらうことにした。


「剣に魔力を込めるとひと口に言っても、魔力を剣に乗せて切れ味を鋭くする魔力斬まりょくざんと、属性魔法をまとわせて属性攻撃をする属性剣がある、いや、あります」

「サンドラ、無理に敬語を使わなくていいよ。普通に喋って」


 無理に敬語を使おうと苦労していたので、気楽にしゃべるよう促した。


「そ、そうか、さすがは我が君なのじゃ。わらわは敬語に慣れておらんからの。それで話の続きじゃが、妾も属性剣はできん」

「属性剣ってのは、火とか風を剣にまとわせる感じなのかな?」

「そうじゃ。と言っても、よほど魔力の扱いにけた者が、魔力伝達に優れた剣を使わねば実現できんのじゃ。なので、ほぼ幻の技になっておるの」


 とりあえずサンドラが使えるのは、剣に魔力をまとわせて切れ味を高める魔力斬のみ。

 これだと普通の剣でも使えて、昨日のオークみたいな硬い敵に有効だ。


 なぜ魔力で切れ味が増すのかと聞いてみたが、サンドラは知らなかった。

 チャッピーの推測では、オークなどは魔力で皮膚を硬化させているので、それを剣の魔力で打ち消すのではないかとのこと。

 もしそうなら、ただの岩とか金属には効果がないことになる。

 しかし、ほとんどの魔物は魔力で体を強化しているので、迷宮探索にはとても有用だろう。


 そして属性剣だが、こっちは普通の剣では無理っぽい。

 魔力伝達に優れた剣というと、魔鉄とかアダマンタイト製になる。

 そんな貴重な武器を使ううえに精密な魔力操作が必要とか、めちゃくちゃハードル高いのでこれは考えないことにした。

 そうなると切れ味を増す魔力斬一択だが、とりあえず見本を見せてもらおう。


「サンドラ、その剣に魔力をまとわせてみてくれないか?」

「了解じゃ。ほれ、このように…………ヌォッ、なんじゃ、これは?」

「なんかあった?」

「軽く流しただけなのに、かつてないほど魔力が流れたのじゃ」


 サンドラがバスタードソードを掲げながら、信じられない物を見るように呟く。


「たしかに大きな魔力が、剣にまとわりついておるな」

「チャッピー、見えるのか?」

「もちろんじゃ。皆にも見せてやろう」


 すると視界が少し変化して、サンドラの剣に青っぽいモヤが重なった。

 たぶんあのモヤが魔力なんだろう。

 その視覚情報を、チャッピーが使役リンクで共有してくれたようだ。


「この青いモヤが魔力、なんだよね? たしかにサンドラの剣から、盛大に吹き出してる」

「そうなのじゃ。以前はうっすらと剣を覆う程度だったのに、なぜであろうか?」

「おそらく昨日の治療でデイルの魔力を流しこんだのと、儂が魔力を誘導したせいではないか? 体内の魔力経路が拡がったんじゃろう」

「おおっ、命を救ってもらったばかりか、魔力制御の能力まで上げていただいたとは…………我が君に百万の感謝を!」

「別に狙ったわけじゃないけど、良かったな。でもそうすると、カインにも同じことができる?」

「私には今までできなかったので無理――おおっ、できる、私にもできるぞ!」


 カインもメイスで試したら、できちゃったらしい。

 これは昨日の治療が原因と見て間違いないな。


 そんなやり取りを見ていたレミリアが、思いついたように言う。


「ご主人様とチャッピーの治療で2人の魔力制御が向上したのであれば、私にも同じことをお願いできないでしょうか?」

「え? でもレミリアは魔力を使ったことないんだよね? カインたちと同じことしても、大丈夫かなぁ?」

「いや、デイル。レミリアは無意識に魔力を肉体強化に使っておるぞ。だから魔力経路を拡げてやる意味はあるはずじゃ」


 へー、そうだったんだ。

 たしかにレミリアは見た目よりも力持ちだからね。


「そっか。それならレミリアにも試してみよう。せっかくだから、チャッピーは魔力の誘導を頼むよ」

「了解じゃ」


 俺はレミリアの背後に回ると魔力を注ぎ始め、そしてチャッピーが前側でそれを誘導した。

 今までも散々、魔力注入はやってきたけど、誘導してやると違うのだろうか?

 しばらく施術を続け、適当なところで様子を聞いてみた。


「とりあえずこれぐらいでどうだろ。武器に魔力を通せるようになった?」


 レミリアが剣を握って魔力を流そうとしているものの、簡単にはいかないようだ。


「……以前より魔力を感じられるようにはなっていますが、剣に流す感覚が分かりません。サンドラはどうやっているのですか?」

「むう、口で伝えるのは難しいのじゃ。ほれ、こんな感じじゃ」

「それでは分かりません!」


 サンドラはいわゆる天才肌だな。

 致命的に説明が下手だ。


「サンドラ。自分がやっていることを頭に描いてみて。そしてみんなと共有するんだ」

「何? 我が君は無茶を言うのう…………ほれ、こんな感じでどうじゃ?」


 すると、サンドラの描いたイメージがぼんやりと浮かんできた。

 なるほど、そういう感覚か。


 俺も自分の短剣を握って魔力を流してみると、意外に簡単に魔力が通った。


「できました。これで私もオークにダメージを与えられますね」

「俺もできたよ。やっぱりイメージって大切だな。サンドラ、ありがとう」

「我が君もできたのか? むふっ、やはり教え方が良いと違うのう」


 勘違いでドヤ顔してるサンドラが、ちょっとうざい。

 本当は使役リンクのおかげなんだけど、まあいいか。


「よし、これでみんな武器に魔力を通せるようになったから、後は使い方の練習だね。いきなりオークはキツイから、わりと硬いシャドーウルフで試してみよう」

「そうじゃな、まずは1層深部で練習するのが無難じゃろう」


 そうやって明日からの方針を話し合っていたら、キョロとシルヴァが俺の横に来て催促を始めた。

 え、何? 自分たちも魔力経路を拡げて欲しいって?


「チャッピー、キョロ達が魔力経路を拡げろってせがむんだけど、できるのかな?」

「それは分からんのう。まあ、魔力を誘導してやると流れが良くなって、多少は魔法の威力が上がったりするかもしれんが」

「なるほど。それじゃダメ元でやってみるか」


 結局、キョロとシルヴァにも治療させられた。

 シルヴァの方はまだしも、こんなに小さなキョロの体に効果があるのだろうか?

 ま、いいや、強くなったら儲けものだ。


 最後にカインとサンドラにも治療を施して、その日はお開きになった。

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