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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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17.カインとサンドラ

 2層序盤でシルヴァが、粘解蟲スライムらしき魔物を探知した。

 その部屋へ近づいて入り口から覗き込むと、なんと10匹以上のスライムがうごめいていた。

 それを見たシルヴァが今にも飛び出そうとするが、俺は何か違和感を感じて引き留める。


「この部屋、なんか変じゃないか?」

「そうじゃのう。たしかに今までにないスライムの数じゃ」


 チャッピーがそう指摘するも、それだけではないような気がする。


「大きな石がたくさん転がっていて、戦いにくそうです」

「それだっ!」


 レミリアにそう言われ、感じていた違和感の正体に思い当たった。

 彼女が言うように、部屋の中には人頭大の石がゴロゴロ転がっている。

 迷宮の中に石があること自体は不思議でないが、こんなにたくさんあるのは初めてだ。

 俺は何気なく足元の石ころを拾い、手近な石にぶつけてみた。


 コツンと音を立てて跳ね返ったが、特に何も起こらない。

 しかし俺の中の何かが警鐘を鳴らし続けていた。

 それでそのまま石を観察していると、やがて固そうだった石がドロリと崩れ、黒灰色のゼリー状の物体となって動きだした。


「石がスライムになった?」

「いいや、スライムが石に化けていたんじゃ。石粘解蟲ストーンスライムという奴か」

「そんな魔物がいるんだ? それにしても、あのまま中央を攻撃してたら、退路を塞がれてたかもしれないぞ」


 もしそんな風に退路を断たれれば、2層に入ったばかりの冒険者ではまず生き残れないだろう。

 1匹が擬態を解くと、周りの石も次々に正体を現し始めた。

 その数、10匹以上だ。


 俺は右手を突き出しながらチャッピーに合成魔法を頼む。


「火炎弾をくれ、チャッピー」


 出てきた火炎弾をまずは中央のスライム溜まりに叩き込んだ。

 その炎が数匹のスライムを燃やし、残りは火から逃れようと外周に移動し始めた。


 さらに入り口付近のストーンスライムにも2発撃ち込み、しばらく様子を見る。

 やはりストーンスライムも火に弱く、俺たちの方に何匹か逃げてきた。

 この程度であれば大した脅威にはならないので、後はシルヴァに任せておく。


 昔からスライムを重要な魔力源にしてきたシルヴァからすれば、むしろごちそうの山だ。

 嬉々としてスライムを狩り始めた。

 仲良しのキョロも、それに参加している。


 スライムの処分はシルヴァたちに任せておき、炎が治まってから俺とレミリアは部屋の中を調べた。

 この部屋は出口の無い行き止まり部屋で、奥の方に数人分の装備が残っていた。


 残っていたのは長剣が3本、短槍が2本、短剣が5本、カイトシールドが2枚、バックラーが1枚、そして鉄の胸当てが2つだった。

 金属製品以外はスライムに食われていて全容は掴めないが、5人程度の冒険者が犠牲になったのだろう。

 とりあえずギルドカードも4枚見つかっている。

 これだけでもけっこうな荷物になるので、今回は引き上げることにした。


 帰還後、装備を売却したらなんと金貨2枚になった。

 さすが、2層に来る冒険者の装備だけはある。

 しかしそんな冒険者でも油断すれば、簡単に死んでしまうのが迷宮の怖いところだ。





 その後も慎重に2層序盤の探索を進めていた。

 探索してみて改めて分かったのは、1層に比べると部屋数や分岐が多く、それに比例してモンスターの発生頻度も高いことだ。

 しかもホブゴブリンに率いられたゴブリンの群れが複数うろついていて、10匹前後の魔物を相手にする可能性が高かった。

 おまけに部屋の外で、冒険者を待ち伏せしている奴らまでいるのだ。


 幸い俺たちはシルヴァが察知してくれるので待ち伏せを食らうことはなかったが、多数の魔物を突破する戦力が無いのでその先には進めない。

 思うように探索が進まないため、次第に俺たちの苛立ちは募っていった。


 2層を突破するには戦力が足りない。

 そんな想いに駆られて魔物屋や奴隷商を見て回るものの、状況は改善しなかった。

 パーティの前衛を支える盾役が欲しかったのだが、そんな都合のいい魔物や奴隷がそうそういるはずもない。


 一応、ギルドで参加メンバーの募集もしてみた。

 しかし若い男女2人と使役獣2匹だけの弱小パーティに、わざわざ参加する物好きは出てこなかった。

 俺たちの使役リンクによるコミュニケーション能力とか、チャッピーの合成魔法や回復魔法を知ればまた話は違うのだろう。

 しかし、信頼関係を築く前にそんな情報を明かせるはずもなく、俺たちは大きな壁に突き当たっていた。





 そんな悩みを抱えたまま探索を続けていたある日、進行方向から魔物と争うような音が聞こえてきた。

 そこへ駆け寄って中を覗き込むと、ゴブリンの群れと争う冒険者たちがいる。

 魔物の方は、ホブゴブリン2匹に率いられた10匹ほどのゴブリンだ。


 冒険者は4人いたが、2人はすでに倒れており、残りもかなりやばそうだ。

 どう見ても助けが必要だと思い、声を掛けた。


「おーい、加勢は必要かぁ?」

「ぜひ頼むっ! ハアッ、ハアッ……これ以上はもたない」


 冒険者の1人が苦しそうに助けを求めてきた。

 ちょっと魔物の数が多いが、彼らと協力すれば倒せるだろう。


「よし、助けるぞ。最初に散弾を2連発だ」


 ゴブリンたちに近づきながら、散弾を2回続けてぶっ放した。

 鋭く尖った石くれが奴らの肉をえぐり、動きを鈍らせる。


「ホブゴブリンは俺がやるから、残りを倒してくれ」


 そう仲間に指示しつつ、ホブゴブリン2匹を風弓射ウインドショットで攻撃する。

 その周りではレミリアの双剣でゴブリンに斬りかかり、シルヴァも暴れ回っていた。

 さらにキョロの電撃もほとばしると、ゴブリンがバタバタと倒れていく。


 しばらくすると、部屋の中で息をしているのは俺たちと、襲われていた2人だけになっていた。

 生き残った2人は精根尽き果てたのか、その場に座り込んでいる。


「大丈夫ですか?」


 彼らに近づきながら改めて見ると、2人とも肌の色が青白い亜人だった。

 片方は赤い短髪の男で、もう片方は長い青髪を持つ女だ。

 どちらも紅い目と額に突き出た2本の角を持つことから、鬼人族だと知れる。


 2人とも大柄な体格で、迷宮内だと言うのに男は毛皮の短パンと革サンダルのみだ。

 女もそれに毛皮の胸当てが加わっただけで、どちらも異常なほどの軽装だ。


「ハア、ハア……助けてもらって感謝する。私はカイン」

「困った時はお互い様ですよ。俺の名はデイル。これを使って」


 男の方が名乗ってきたので、俺も名乗った。

 2人とも体中に傷を負っていたので、ヒールポーションを渡す。

 飲めば全身の治癒力を高め、塗ればすぐに血が止まるという代物だ。


「助かる。この礼は後ほどさせてもらいます」


 そう言って受け取ったポーションを女性の傷に塗り始めた。


「そっちの人は?」

「私の妹で、サンドラです」


 兄妹なのか。

 しかし妹の方は命を救われたというのに、なぜか俺を睨んでいる。

 初めて会ったのに、何だってのかね。


 そんなサンドラは、ちょっとキツそうだが、目鼻立ちのくっきりとした美人だった。

 腰まである青い髪も整えれば綺麗だろうし、スタイルも悪くない。

 ただし少々やせ細っていて、本来の美しさを損なっているようにも見えた。


 すでに倒れていた2人の獣人に近寄って脈を確認すると、どちらもすでに事切れていた。

 よく見ると、4人とも奴隷の首輪を付けている。


 状況から察するに、彼らは主人と共に迷宮に入り、ゴブリン集団に遭遇して苦戦したのだろう。

 そして主人を逃がすために時間を稼ぐよう、命じられたってところか。

 俺たちが来た方向から見て左側の通路を背にしていたので、主人はそっちへ逃げたんだろう。


「あんたらの主人はそっちへ逃げたんだろ? 確認しなくてもいいのか?」


 そう問いかけると、カインが無念そうに答えた。


「いや、すでに主の反応はありません。この首輪がそれを教えています」


 隷属の首輪には、主人が死ぬとそれが分かる機能があるらしい。


「そうですか、それは気の毒に。必要であれば地上で状況説明に協力しますよ」

「それはありがたいですが、この先どうなるか分かりません」


 彼らのような奴隷が迷宮の中で主を失った場合、どうなるのか?

 よく分からないが、もし必要なら地上で状況説明くらいはしてやってもよい。


 そう言えば、彼らの主人が死んだ理由はなんなのかと考えた矢先、左側の通路から重い足音が響いてきた。

 それは、絶対に人間が立てられるような足音ではない。


「ブギィィィィーッ!」


 俺たちの前に現れたのは、2匹の巨大な大豚鬼オークだった。

 俺より頭ふたつは背が高く、体重は4倍以上もあろうかという巨体だ。

 その顔は豚そっくりで粗末な腰布を身に着け、ぶっとい棍棒を右手に持っている。


 それは2層序盤では決して出会うはずのない、あまりにも危険な魔物だった。

 普通なら見た瞬間に逃げているが、助けたばかりのカインたちを置いていけず、思いとどまった。


「迎撃しよう。ここを乗り切れば2層の攻略も見えてくる。火炎弾2連発だ」


 すぐにチャッピーが作ってくれた火炎弾を、立て続けにオークへ放つ。

 火炎弾はオークに当たるとその体を火に包み、しばし足止めするのに役立った。


「レミリア、カイン、左側の奴を押さえてくれ。シルヴァとキョロは右側を足止めだ。石弾を撃つぞ」


 すると右手の前に円錐状の石弾が形成され始めた。

 それと同時に魔力で砲身を形成し、オークの頭部までの経路の空気を薄くするイメージを描く。


 精一杯の威力で撃ち出した石弾は、しかしオークの表面で弾かれた。

 今までの魔物とは比べ物にならないくらい、皮膚が硬い。

 りずにもう1発撃ち込んでやったら、奇跡的に左目を貫いてそいつを仕留めることができた。


「やったぞ、続けて石弾だ」


 しかし、次弾が形成されてこないのでチャッピーを見ると、彼がすっかりへばっているのに気がついた。

 続けて何発も撃ったため、魔力が枯渇してしまったのだ。


「ごめん、チャッピー。少し休んで」

「面目ないのう……」


 俺は石弾を諦め、弓を構えて風弓射ウインドショットを放った。

 とりあえず顔に向けて2連射したが、2発とも弾かれた。

 目を狙っても、激しく動いてるので当たらない。


 レミリアたちも攻撃を続けているが、硬い皮に阻まれてほとんど有効なダメージを与えられていなかった。

 このままではカインたちを、見捨てるしかなくなる。


 俺は最後の切り札である土捕縛アースバインドを仕掛けるため、地面に手を当ててチャンスを窺った。

 やがてオークがこん棒を大振りするのに合わせ、魔法を発動する。


土捕縛アースバインド!」


 オークが踏み出した右足の下が陥没して足を包み込み、そのままバランスを崩して転倒した。


「よし、レミリア、カイン、奴の頭を――」


 レミリアたちへ指示する矢先、青い影がオークに向かって突進した。


「ハアアアーッ!!」


 それまで動けないと思っていたサンドラがオークへ駆け寄り、裂帛れっぱくの気合いと共に剣を首に叩き付けた。

 おそらく彼女は、体力を回復しながらオークの隙を窺っていたのだろう。

 そして並みの斬撃では表面しか傷付かないオークの首が、サンドラの剣に半ばまで断たれた。

 そのオークはしばらく痙攣しながら首から血を流し続け、やがて動かなくなった。


 静かになったその部屋に、サンドラの激しい息づかいが響く。

 こうして俺たちは予想外のオーク戦にも、なんとか生き残った。


 そしてそれは、俺の人生を左右する重大な出会いの始まりでもあった。

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