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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第2層編

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16/87

16.合成魔法

 迷宮第1層の守護者討伐に成功した俺たちは翌日、町の外へピクニックに来ていた。

 しばらく訓練と迷宮探索に明け暮れていたので気分転換だ。

 見晴らしのいい原っぱにシートを広げ、ランチを楽しんだ。

 その後、レミリアに膝枕してもらって横になる。


「あ~っ、天気が良くて気持ちいいな~」

「はい、こんなに安らかな気分になるのは久しぶりです」

「昨日まではけっこう無理させてたからな。体調は大丈夫か?」

「もちろん。ご主人様とお会いしてからはずっと快調です」

「そっか。でも知らずに疲れが溜まることもあるから、無理はするなよ」


 近くではキョロとシルヴァが遊び回っている。

 見た目は全然違うのに、あいつらはけっこう仲が良い。

 今も虫を追い回して楽しんでるようだ。


「でもご主人様。私、もっと強くなりたいんです。昨日はあまりお役に立てませんでしたから」

「そんなことないよ。レミリアの経験からすれば充分な仕事だ」

「でも、私1人ではシャドーウルフを倒せなかったし……」


 やっぱり昨日のことを気にしてたか。

 たしかに守護者部屋では苦戦してたからなぁ。


「うーん、そうだな。たしかに今のレミリアでは斬撃が軽くて、ダメージを与えられてないかな。それなら武器を少し重いのに変えて、ギルドで訓練してみる?  俺も短剣術を鍛えるから、一緒にやろうよ」

「はい、ぜひお願いします」


 レミリアが輝くような笑顔で返事をする。

 ほんと、まじめというか、なんというか。

 今日ぐらい気楽に楽しめばいいのに。


 そんなことを考えていたら、チャッピーが話しかけてきた。


「そういえば、次の第2層ではどんな敵が出てくるんじゃ?」

「えーと、1層の魔物に加えて緑頭鬼ホブゴブリン大豚鬼オーク麻痺蝙蝠パラライズバットが出るみたい。しかも出てくる数が多くて、10匹以上の群れとかもあるんだって」

「それは手ごわくなりそうじゃのう。何か対策は考えておるのか?」

「いや、1度潜ってから考えるつもりだった。使役リンクを使えば囲まれる可能性も低いと思うし」

「しかし10匹も出てきたら、対応が間に合わんかもしれんぞ」


 痛いところを突かれた。

 たしかにチャッピーを入れても5体のパーティじゃ、追いつかない可能性は大いにある。

 ホブゴブリンとかオークって強そうだし。


「そりゃあそうだけど、都合のいい対策なんてないよ。さっき言ったように、俺とレミリアの近接戦能力を上げればいいじゃん」

「ふむ…………実はわしにひとつ、考えがある」

「マジで? さっすがチャッピー先生。どんな考えか教えてよ」


 思わぬチャッピーの提案に期待が高まる。


「魔法じゃ」

「え?……魔法って、俺もチャッピーも大したの使えないじゃん。風魔法で弓矢の威力と命中率を上げるくらいはやってるけど」

「たしかに単独では大した魔法が使えん。しかし、2人で協力したらどうなる?」

「協力って、どんな?」

「実はおぬしと契約してから儂の魔力も上がっておってな、攻撃は別として強力な弾が作れるようになったんじゃ」


 妖精独特の知識と感覚で多彩な魔法を操るチャッピーだが、火球や石弾などを飛ばす攻撃魔法は大の苦手だった。

 だから戦闘時は閃光魔法で、目潰しや足止めをするくらいしかしていない。

 あれはあれでけっこう助かってるんだけどね。


「でも多少、強力な弾を作れるようになったって、それを敵に当てられなきゃ意味ないよね?」

「そう、そこでおぬしの出番じゃ。おぬし最近、風魔法で矢を操っておるじゃろ? だったら儂の作った弾を、同じように飛ばせばよい」

「……そうか、その手があったか。チャッピーが火魔法や土魔法で弾を作り出して、俺がそれを飛ばせばいいんだ」


 今までは火や岩の弾を作っても、それを投げつけるくらいしか思いつかなかった。

 でもそれだと威力が低いうえに命中率も悪い。

 熟練の魔法使いになると、1人で強力な弾を作って飛ばすこともできるらしいが、今の俺たちには到底無理。

 だったら役割を分担すればいいのだ。


「そうじゃ、1人で全てやらずに分担すればよい」

「天才だよ、チャッピー。さっそく試してみよう」


 立ち上がって目標になりそうな物を探すと、20歩ほど先に手頃な岩があった。


「よし、あの岩に魔法をぶつけてみよう。チャッピーは、俺の手の前に石の弾を作り出してみて」


 そう言いながら右手を岩の方に突き出すと、手の前にチャッピーが拳大の石を作り出した。

 俺はその石から目標までの経路の空気を薄くするイメージを思い描き、手のひらから石に風をぶつけてみた。


 ポンッという音を立てて飛んだ石が、岩に直撃した。

 当たり所もほぼイメージどおりだ。


「やった、チャッピー。今までとは比べ物にならない威力と命中精度だ」


 期待どおりの成果に、思わずガッツポーズが出る。


「うむ、初めてにしては上出来じゃ。いろいろ工夫すれば2層攻略に役立つじゃろう」

「わ~、さすがです、ご主人様」


 レミリアも合成魔法の成功に、手を叩いて喜んでくれる。


「よし、じゃあさ、チャッピー。火の玉も作ってみて」

「よかろう。大抵の魔物は火に弱いから、必要な弾じゃな」


 再び突き出した手の前に、今度は拳大こぶしだいの火球が生まれた。

 ちょっと熱いが、さっきと同じように風で飛ばすイメージを描いて実行した。

 しかし残念ながら、火球が飛ぶ前にポシュンといって消え失せる。


「あれっ、火が消えちゃった」

「バカモン! ただ風を吹き付けたら、消えるに決まっとろうが」

「えー、そこはチャッピーが、消えない火球を作るとかさぁ?」

「そんな都合よくいくか、あほう!」


 あほうってお前、全部俺のせいかよ?

 くっそー、それなら俺の方で工夫してみるか。


「じゃあ、もう一度火球出して」


 チャッピーが再び火球を作り出すと、今度は手のひらから魔力を出して火球を覆うイメージを描いた。

 それから飛ばす経路の空気を薄くして、魔力ごと火球を風で送り出す。

 石弾よりやんわりと飛ばす感じだ。


 今度は間の抜けた音に乗って火球が岩に向かって飛び、当たると弾けて岩を炎に包み込んだ。


「やった! 火球を魔力で包めば飛ばせるよ」

「……おぬし、器用じゃのう。しかしこれなら、いろいろと工夫して使えそうじゃ」

「……凄い、です、ご主人様」

「ワウワウ~」

「キュー」


 なんかチャッピーの反応は微妙だったが、他のみんなも一緒に喜んでくれている。

 その後もいろいろな弾や風の当て方を試そうとしたら、やがてチャッピーの魔力が切れてお預けとなった。

 ちょっと物足りなかったが、その後はゆっくりとくつろぐことにした。

 そもそも今日は休養日なのだから、あくせくするのが間違っている。





 翌日から、午前中は森や迷宮1層で狩りと魔法の練習をし、午後はギルドの訓練場で剣術を習う日々が続いた。

 レミリアには今までよりも大ぶりな双剣を持たせ、剣に振り回されないような体捌きを練習させている。


 ついでに俺も短剣術を強化しようと、練習に参加した。

 俺は昔から短剣だけはそこそこ使ってきたが、あくまで我流でしかない。

 なので今回は短剣を両手に持ち、双剣風の使い方を教えてもらった。

 これならギルドに来れない時でもレミリアと練習できるし、お互いにアドバイスなんかもできるだろう。


 鍛錬を続ける一方で、レミリアの鎧を新調した。

 守護者討伐で持ち帰ったビッグシャドーの毛皮で、新たな革鎧セットを彼女用に仕立てたのだ。

 俺の鎧より高級品なので最初は遠慮していたが、俺のも新調したばかりで作り直すのはもったいない。

 見た目はよく似た黒い鎧だから、ペアルックだと言ったら喜んでいた。





 こうして10日ほどで剣術や魔法を鍛錬し、装備も揃ったので、いよいよ迷宮2層に挑むことにした。

 まず迷宮入り口近くの水晶部屋から、2層入り口へ転移。

 1層から降りてきた階段を背にすると、この部屋からは前方と左右の3方向に通路が伸びていた。

 どうやら1層よりもだいぶ複雑な造りになっているようだ。


 ちなみに2層の地図は、不完全なくせに金貨1枚と高いので買っていない。

 そんなに払うぐらいなら、自分たちのペースで探索しながら地図を作ったほうがマシに思えたからだ。


 まずは肩慣らしに、左側の通路から探索を始める。

 シルヴァを先頭にレミリアとキョロが続き(最近はキョロも自分で歩く)、俺が最後尾でチャッピーは右肩の上で後方警戒だ。

 2つほど何もいない部屋を超えて進むと、シルヴァが立ち止まって敵の存在を告げた。

 前方の部屋に5匹ほどいるそうだ。


「チャッピー、ちょうどいいから散弾を使ってみよう」

「うむ、了解じゃ」


 俺とチャッピーで合成魔法を使うことにしてから、さらに前進する。

 やがて前方にゴブリンが4匹と、それより頭ひとつ以上でかいのが1匹見えてきた。

 あのでかいのが噂の緑頭鬼ホブゴブリンだろう。


 俺たちが部屋の入り口に姿を現すと、ゴブリンもこちらに気がついた。

 しかしホブゴブリンの統制が効いているのか、すぐには向かってこない。


「チャッピー、散弾装填」


 俺がかざした右手の前に、チャッピーが散弾を作り出す。

 それは小指の先ほどの石が数十個も集まったものだ。

 俺はその散弾を包むような魔力の筒をイメージし、その後端に風魔法をぶち込んだ。


 ドンッという音を立てて撃ち出されたそれはすぐにばらけ、今にも突撃寸前だったゴブリンに叩き付けられる。

 これが俺とチャッピーで編み出した合成魔法のひとつ、”散弾”だ。

 集団戦を想定して多数の石ころを撃ち出すのだが、使えるようになるまではけっこう苦労した。


 まず散弾は単発の石弾のように経路が思い描けないため、思った方向に飛ばない。

 しかも風をぶつけた途端にバラけるので、距離も伸びない。

 それならということで、風魔法の力を逃がさない”砲身”を魔力で作ってみた。


 これはチャッピーが異国で見たことのある”大砲”というものを参考にしている。

 魔力で砲身を作れと言われた時には理解に苦労したが、そこは以心伝心の仲。

 なんとか砲身を作り出すと、それは実に便利なモノだった。


 砲身を使うと散弾がばらけにくいし、より遠くへ飛ばせる。

 しかも風の力が効率良く弾に伝わるので、弾速が桁違いに速くなった。

 これは通常の石弾や火弾にも応用できる。

 さらにチャッピーが石を鋭く尖らせることを思いついてからは、実に凶悪な攻撃手段になっている。


 かくして俺たちの眼前でのたうち回るゴブリンのでき上がりだ。

 すぐさまレミリアがホブゴブリンを始末し、残りはキョロとシルヴァが片付けた。


 魔石を取り出してから、休憩を取りながら合成魔法の話をする。


「思った以上に散弾は威力があるね」

「うむ、今回はうまくいったのう。しかし5匹しかおらんかったし、防御力の弱いゴブリンじゃ。もっと経験を積んで、威力を高めるべきじゃろう」

「そうだね。状況によって弾の大きさとか砲身の長さを変えれば、いろいろできそうだ」


 その後はたまに出てくるゴブリンを始末しながら探索を続けた。

 まだ序盤のためか、それほど魔物の密度は濃くない。


 そうこうするうちに、シルヴァがまたもや魔物の存在を告げた。

 しかも尻尾をぶんぶん振っていて、なんだか嬉しそうだ。

 こいつが喜ぶ魔物って、スライムだよな?


 はたして2層のスライムはどれぐらい強いのか?

 俺は気を引き締めて、前方の部屋へ近付いていった。

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