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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編

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15/87

15.1層突破

 レミリアを鍛えるために森でダイアーウルフを狩った俺たちは、彼女の驚異的な戦闘力を目の当たりにした。

 まだ双剣を習い始めたばかりで剣技自体は荒いものの、彼女は的確に動いてやすやすと狼を屠ってしまう。


 彼女の背は俺より拳ひとつ低いぐらいで、体つきもたおやかだが、見た目以上に力が強くて瞬発力もある。

 しかもチャッピーによれば、レミリアは伝説の銀狼種かもしれず、さらに強くなる可能性があるらしいのだ。

 魔物屋で彼女を買い取った時、ただのお荷物としか考えられなかった自分を、殴りたくなるな。


 こうして大幅な戦力アップを果たした俺たちは、改めて1層守護者の大影狼ビッグシャドーに挑戦することにした。



 翌日はギルドでの訓練とレミリア用の装備調達に当てた。

 彼女にはポーションなどの身の回り品を入れたショルダーバッグと、毛皮などの素材を載せる背負子しょいこを持たせる。

 見目麗しい女の子に大荷物を持たせるのはどうかとも思ったのだが、奴隷なら当たり前だと彼女は全く気にしていない。

 まあ、大変そうだったら交替すればいいだろう。




 そしてさらに翌日、いよいよレミリアを連れて迷宮探索に出掛けた。

 彼女の実力は確認済みなので、一気に深部へ向かう。

 2刻ほどで深部に到着すると、シルヴァに影狼シャドーウルフを探してもらった。


 しばらくすると、前方の部屋に4匹のシャドーウルフが見つかった。

 こういう場合はチャッピーが先に突撃して目眩ましで混乱させ、俺たちが一気に制圧する手はずになっている。

 作戦を指示して合図を出すと、まずチャッピーが部屋の中に飛び込んで閃光を放った。

 続いてキョロを乗せたシルヴァが駆けだし、レミリアと俺も少し遅れて部屋に侵入する。


 キョロが手近な狼を電撃で麻痺させると、シルヴァは別の1匹に飛び掛かった。

 そこへ駆けつけたレミリアが麻痺している狼を双剣で仕留めた。

 一方の俺は部屋の入り口付近から矢を放ち、目が眩んで暴れている狼の1匹を黙らせた。

 その頃にはシルヴァの獲物も喉笛を食いちぎられて動かなくなり、最後の1匹も俺が弓でとどめを刺して終わる。


 今回、俺が2匹も倒せたのは、風弓射ウインドショットが進化したおかげだ。

 以前の風弓射ウインドショットは威力こそ強いものの、ただまっすぐ飛ぶ矢に過ぎなかった。

 そこで俺は、射った矢を風魔法で誘導できないかと考えた。


 この魔法を実現するのにいろいろと試行錯誤したが、その努力は報われる。

 おかげでだいたい方向が合っていれば、ほぼ狙った所に当たるようになった。

 これは命中精度のみならず、照準を合わせる時間が短くなって速射性も向上する。

 そのために2匹の狼を瞬殺、なんてことが可能になったわけだ。


 狼の素材を剥ぎ取った後、さらに3匹のシャドーウルフを狩ってから休憩を取った。


「さっきの状況からして、今の俺たちならシャドーウルフも敵じゃないと思うけど、どう?」

「皆の戦力が高まったうえ、レミリアまで参加した今なら、シャドーウルフは敵ではないと思うぞ」

「だよね。それで、予定より少し早いんだけど、このまま守護者に挑むってのはどうかな?」

「儂は良いぞ」

「大丈夫だと思います」

「キュー」

「ウォン」


 よし、本当は明日やる予定だったけど、一気に守護者を倒そう。

 うまく行けば野営の必要がなくなって、ベッドで寝られる。


 休憩後、俺たちはまっすぐに守護者部屋へ向かった。

 部屋の前で準備を整え、皆に作戦を伝える。


「チャッピーには閃光や火魔法を使って、ビッグシャドーの気を惹いてもらいたい。その隙にレミリアは左側の1匹を、残りをキョロとシルヴァで足止めしてくれ。そうなれば、俺が右端から順に風弓射ウインドショットでシャドーウルフを仕留めていく」


 ここまでが作戦の前段階。


「手下を全て倒したら、シルヴァとキョロがビッグシャドーの正面に陣取ってくれ。レミリアとチャッピーはそれを左右から牽制して、俺が後ろから弓で攻撃する。特にレミリアは無理してケガしないようにな」


 全員が理解したことを確認し、俺たちは守護者部屋へ侵入した。

 入り口の扉が閉まると奥の暗がりからシャドーウルフが現れ、さらにその巨大種であるビッグシャドーが後に続いた。

 牛をも上回るほどの巨体が、俺たちを威圧する。


 するとチャッピーがビッグシャドーの鼻先まで飛び、閃光を放った。

 それで目が眩んでくれるほどかわいくはないが、とりあえず奴の関心はチャッピーに向いた。


 続いてレミリアが向かって左の狼に斬り掛かり、キョロを背中に乗せたシルヴァは中央に陣取って残りを威嚇する。

 近寄る狼にはキョロが電撃を放って近寄らせない。


 その隙に俺が右端からシャドーウルフを風弓射ウインドショットで仕留めていった。

 右の2匹を倒すとシルヴァが残り1匹に襲いかかり、喉笛を食いちぎる。

 この時点でレミリアはまだ左の奴と戦っていたが、硬い毛皮に阻まれて致命傷を与えられてない。


「レミリア、左に回避!」


 苦戦するレミリアを射線から遠避けさせ、風弓射ウインドショットでとどめを刺した。

 これで残るはビッグシャドーのみ。


 チャッピーが足止めしていたビッグシャドーの周りに包囲網を作る。

 正面に陣取ったシルヴァの背中からキョロが電撃を放つと、ようやく奴の関心がこちらに向いた。

 しかし左側からはレミリアが、右側からはチャッピーがそれぞれ牽制をして的を絞らせない。


 俺はそんな仲間の後ろで弓を引き絞り、チャンスを窺っていた。

 やがて嫌がらせに焦れてきたビッグシャドーがシルヴァに向かって大きく踏み込んだ瞬間、その鼻先にキョロが渾身の電撃を叩き込んだ。


「キャインッ!」


 ビッグシャドーが鼻を抑えながらしゃがみ込み、絶好のチャンスが訪れた。

 すかさず風弓射ウインドショットを2連射すると、矢は2本ともビッグシャドーの眉間に命中し、奴はそのまま息絶えた。


 俺たちにとって初めての、守護者戦勝利の瞬間だ。


「やりましたねっ、ご主人様!」


 顔を上気させて駆け寄ってきたレミリアを、抱き止める。


「ああ、やったな。レミリアは怖くなかったか?」

「少し怖かったけど、みんなに守ってもらえたから大丈夫でした」

「そうか。シルヴァとキョロもよくやってくれたな」

「ウォンッ、ウォンッ」

「キューッ、キューッ」


 キョロがシルヴァの背中の上で宙返りをして喜んでいる。

 チャッピーも側に寄ってきた。


「見事にデイルの作戦がハマったのう」

「出来過ぎで怖いくらいだよ。チャッピーも足止めしてくれて、ありがとうな」

「フヒヒッ、妖精はいたずらが得意じゃからな」

「アハハ、そうだね。だけどここまで来れたのは、チャッピーが教えてくれた魔法と、妖精の幸運のおかげだと思うんだ」

「おぬしの努力の結果でもあるぞ」

「それもそうかな。ま、何にしろ今晩は派手に祝おうぜ」


 ようやく気分が落ち着いてきたので、獲物の剥ぎ取りに掛かる。

 シャドーウルフの素材は魔石込みで銀貨10枚だが、ビッグシャドーはさらに倍の銀貨20枚だ。

 その前に7匹倒していたから、今日の稼ぎは銀貨130枚にもなる。


 剥ぎ取りを終えてから、守護者部屋の奥の扉の周りに集まった。

 扉の右側に石の台座と水晶があり、討伐者がこれに触れると1層守護者討伐の印がギルドカードに刻まれる。

 これで迷宮入り口から、2層入り口までのショートカットが可能になる。


 カードを持つ俺とレミリアが順に水晶に触れると、扉が開いて下に降りる階段が現れた。

 その階段を降りきると1層の入り口と同じような部屋があり、真ん中に水晶台が置かれている。

 この水晶に手を当てて台座に書かれている呪文を唱えれば、1層入り口へ跳べる仕組みだ。


 ちなみに、ここから1層深部に戻ることもできる。

 わざわざ序盤、中盤を歩く必要がないので手軽にシャドーウルフを狩るには便利だが、守護者部屋には何も出ない。

 新たなメンバーを伴っていれば守護者への再挑戦もできるらしいが、その場合はまた1層入り口から歩くそうだ。


「よし、今日はこのまま帰ろう。2層の攻略はまた準備を整えてからだ」


 特に異論も出なかったので、皆を水晶の周りに集めて呪文を唱えた。

 一瞬のめまいと共に1層入り口の部屋に跳び、全員揃っていることを確認して地上へ出ると、まだ外は明るかった。


 近くにいた衛兵に1層を突破したことを告げると、詰め所で簡単な事情聴取をされた。

 魔石を買い取っている国が冒険者の状況を把握するため、この申告は義務となっているそうだ。

 もし未申告で下層に潜ってるのがばれたら立ち入り禁止になるらしいから、しっかり申告しておかないといけない。


 事情聴取の後、魔石を売却してから、素材売却と1層突破報告のためギルドへ向かう。

 ギルドへの報告は義務ではないが、ランク上げのためのポイントがもらえる。


「こんにちは、アリスさん。ついさっき、迷宮の1層攻略に成功しましたよ」


 ギルドカードを出しながら、アリスさんに話しかけた。


「えーっ! デイル君、もう1層攻略したの? たしかまだ3ヶ月も経ってないんじゃ……」

「ええ、レミリアが加入したので、なんとか守護者も攻略できました」

「それにしたって使役獣2匹と2人だけでよくもまあ……シルヴァちゃん以外は、あまり強そうに見えないのにねえ」


 本当はチャッピーもいるんだが、それは絶対秘密だ。

 たとえチャッピーが見えようが、強いとは思われないだろうけどね。

 いや、幸運効果のおかげだと思われるのか?


「まあ、見た目よりは強いってことですよ」

「そうみたいね。まあ、この町の冒険者の7割は2層以下に潜ってるんだから、それほど特別でもないんだけど」


 そう言いながら、アリスさんが実績ポイントをカードに加算してくれた。

 俺もようやくこの町の冒険者の上位7割に入ったのか。

 もっとも、パーティ上限の10人を揃えれば1層攻略はさほど難しくないので、俺たちの実力はもっと上のはずだ。


 ちなみにビッグシャドーから得られる生命力が大きかったのか、俺の強化レベルは早くも3に上がり、レミリアも2になっていた。


 素材売却後、家に帰る途中で打ち上げ用の食材を買い込む。

 今夜はボビンも混ぜて1層突破を祝って宴会だ。

 今日明日は疲れを癒し、また新たな探索を始めよう。

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