表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編
14/87

14.銀狼伝説?

 2週間の魔力供給でレミリアの成長が止まったので、パーティ登録と双剣の訓練をしようとギルドへやってきた。


「こんにちは、アリスさん。今日はパーティに奴隷を加えたいんですけど」

「え、デイル君、奴隷買ったの? この間、家を借りたばかりなのに、やるわねぇ?」

「ええ、先のことを考えると必要だと思って」

「うん、自分の安全を高めるのはいいことよ。ところでその奴隷さんの冒険者登録はどうする? パーティ登録だけにしとく?」

「奴隷も冒険者登録ってできるんですか?」

「もちろんよ。カードも作れるし、肉体強化スキルも付与されるわ。ただし大銀貨1枚が必要よ」


 それぐらいなら絶対に冒険者登録した方が得だ。


「それなら冒険者登録もお願いします」

「はい、それではこの用紙に必要事項を記入して、あなたのカードと一緒に出してちょうだい」


 俺は用紙に必要事項を書き、大銀貨とカードを付けて出した。


「はい、それではレミリアさん? このクリスタルに手を当ててください。それとフードは下ろしてもらえますか」


 レミリアは言われたようにフードを下ろし、クリスタルに手を当てる。

 これで彼女のデータがカードに記入され、俺のカードにも奴隷として登録される。

 ちなみにキョロやシルヴァも、使役獣として登録済みである。

 チャッピーだけは秘密のままだけどな。


「ちょっとちょっと、デイル君。凄い美人さんじゃない? 私という者がありながら、どういうこと?」

「わわっ、何言ってるんですか、アリスさん。そういう冗談はやめてくださいって」


 その冗談はシャレにならない。

 美人受付嬢と二股掛けてるなんて噂が立ったら、どうしてくれるんだ。

 あれ、アリスさんの顔がマジで怒ってるみたいなんだけど、冗談だよね?

 これは早々に話題を逸らすのが賢いだろう。


「えーと、それからこの娘に双剣を使わせる予定なんですが、稽古けいこをつけてもらうなら誰がいいですかね?」

「……えっ? そ、そうね、剣術だったらアーロックさんに相談してみて」


 俺は何かを呟いているアリスさんを残し、訓練場へ向かった。

 アーロックさんを探すと、手すきのようなので話しかける。


「こんにちは、アーロックさん。デイルと言います。今日はこの娘に双剣の手ほどきをして欲しいんですが、お願いできますか?」

「おう、構わねーぜ。しかし冒険者やらせるには、もったいないくらいのかわいこちゃんだな。本当にいいのか?」

「ええ、獣人なんで体力はあるし、母親も冒険者で双剣を使っていたそうです」

「そうか。よしお嬢ちゃん、こっち来な」


 それからレミリアの稽古が始まった。

 しばらく横で見ていたが大丈夫そうなので、俺も弓の稽古をしに行った。


 その後は適当に休憩をはさんで訓練をしていたら、気づくと夕暮れ前になっていた。

 レミリアの方を見ると、まだアーロックさんと一緒に稽古をしている。


「今日はありがとうございました。レミリアの出来はどうですか?」

「おう、母ちゃんがやってたってだけあって、飲み込みがいいぞ。真面目に稽古を続ければ、強くなりそうだ」

「それは良かった。本当にありがとうございます。もう日が暮れるので今日は帰らせてもらいますね。レミリア、行こう」

「はい。アーロックさん、ありがとうございました」

「おう、また来いや」


 オーガみたいにゴツいおっさんの顔が、デレデレに緩んでる。

 やっぱかわいい女の子の相手は、楽しかったんだろう。

 帰りながら彼女に話しかける。


「アーロックさんはああ言ってくれてたけど、大丈夫そうか?」

「はい、このまま双剣を使いたいと思います」

「よし、それじゃ武具屋に寄っていこう」


 レミリアの武器と防具を買うため、武具屋へ寄った。


「おっちゃん、この娘に双剣を使わせたいんだけど、防具も含めて手頃なの無いかな?」

「おお、かわいい嬢ちゃんだな。ちょっと待ってろ」


 奥でゴソゴソ探して、いくつか持ってきてくれた。

 おっちゃんのアドバイスをもらいながら選んだのは、短剣より大きめの小剣ふた振りだ。

 まずは使ってみて、合わないならまた考えればいいだろう。


 防具は革製で女性用の胸当てと籠手、ブーツ、帽子を買う。

 帽子には耳を出す穴も開けてもらった。


 最初は俺の鎧のお古を使わせようかと思ってたんだが、体型が合わないので諦めた。

 この間までは使えると思ってたんだけど、胸がな……

 剣と防具合わせて銀貨90枚だった。


 家に帰って料理の支度をする。

 今日は家付き妖精ブラウニーのボビンも一緒だ。

 仕事が掃除だけでは物足りないから、料理も覚えたいんだって。

 俺たちの手間が減るから、料理を手伝ってもらうのは大歓迎だ。

 味付けの指導はちゃんとしないといけないけどな。


 夕食の席で明日の予定を告げた。


「レミリアの武器を買ってきたから、明日は町の外で狩りをしよう。とりあえずダイアーウルフの討伐があれば、その依頼を受けてくつもりだ」


 するとレミリアが不安そうに言う。


「いきなりダイアーウルフなんて、大丈夫でしょうか?」

「今まで、レミリア抜きでもさんざん狩ってるから大丈夫だよ。いざというときは俺たちが守るから安心して」


 ここでチャッピーがアドバイスしてくれた。


「デイル、それならばレミリアにも使役スキルを使うとよい」

「え、レミリアには奴隷契約があるから必要ないでしょ? そもそも、人間に使えるもんなんだっけ?」

「使役スキルは魔物や動物だけに使うものと思われがちじゃが、実は人間にも有効なんじゃ。わしらのようなパーティで使えば、一部の感覚を共有できるようになる。ただし、それには深い信頼関係が必要じゃがの」


 チャッピーいわく、俺たちは使役スキルを介して、キョロやシルヴァとある程度の意思疎通を可能にしているらしい。

 たしかに言葉の使えないキョロやシルヴァの考えていることが、なんとなく理解できているのは事実だ。

 これにレミリアを加え、パーティの連携を高めようという提案だ。


「レミリア、チャッピーが言ってること、どう思う? なんだか君を動物みたいに扱うようで、悪いんだけど」

「それならぜひお願いします。実は、私だけこの中で浮いてるように感じることが、たまにあるんです。言葉を交わしていなくても、みんなは分かり合っているようで……だから、私も仲間に入れてください、ご主人様」


 そうか、俺たちが当たり前のように感じてることも、彼女には感じられなくて疎外感を与えていたかもしれないな。

 レミリアさえ良ければ、やってしまおう。


「分かった、レミリア。今から使役スキルを使うからそれを受け入れてくれ。だけど、決して動物のようには扱わないから、安心して欲しい」


 そう言ってレミリアに『接触コンタクト』し、あっさりと『契約コントラクト』まで終わらせた。


「よし、これで俺たちは本当の仲間だ」

「はい、ご主人様。みんなの気持ちが伝わってきます」


 予想外の使役契約を結ぶことになったが、これで俺たちの絆と連携がより深まると信じたい。


 夕食後、シャワーを済ませて少し歓談してから、俺とレミリアは2階へ引き上げた。

 ちょうど2部屋あるから、寝室は別々にしてある。

 ベッドに寝転んで考え事をしていたら、レミリアが部屋を訪ねてきた。


「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」

「うん、別に構わないよ」


 俺はベッドに腰掛け、彼女を隣に座らせる。


「何かあった? あ、ひょっとして使役スキルのせいで気分が悪いとか」

「いえ、そうじゃないんです。別に気分は悪くありません」


 そう言いながらも、レミリアは何かを言いたそうにしている。

 俺の方から適当に話題をふってしばらく話をしていたら、ようやく彼女が覚悟を決めて喋り始めた。


「私……私、ご主人様に拾われなければ、あの魔物屋で死んでいたと思うんです。ご主人様と出会うまでの私は、死に掛けで、何の価値も無くて……そんな私を買って、こうして育てていただいたこと、私、本当に感謝してるんです。心の底から」


 胸に手を当てて必死に訴える彼女から、感謝の念が伝わってくる。

 なんだ、そんなことを言いたかったのか、と思っていたら、とんでもないことを言いだした。


「でも、でも……私は、私はまた売られてしまうんでしょうか?」

「……え、え~っ! ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそんな話になるの?」

「だって、だってご主人様、私に手を付けないじゃありませんか!」


 あちゃー、そんな風に考えてたのか。

 たしかに今の彼女は奴隷として超優良物件だ。

 しかも処女となれば、相当な額で奴隷商に売れるだろう。

 俺があえて手を出さないのは、彼女を売るつもりがあるからだと疑われていたようだ。


 実は俺自身、ちょっと前から彼女のことが気になって仕方なかった。

 俺の奴隷なんだから自由にしちゃっていいよね、エッチなことしても大丈夫だよね?

 行くか? 今日こそ押し倒すか?

 なんて思いつつも、きっかけが掴めないまま、今日まで来てしまった。


「ごめん、俺の考えが足りなかった。でもレミリアは、この間までちっちゃな子供だっただろ? それが短期間で大人になったもんだから、手を出すタイミングを見失ってたっていうか……本当は君のことが気になって仕方なかったんだ。だから信じてくれ。俺は君を絶対に手放さない」

「はい。ずっとお側にいさせてください」


 そして俺たちは抱き合い、どちらからともなく唇を重ねた。

 俺はその晩、彼女とひとつになり、愛を確かめ合った。

 本当に好きな人と肌を重ねるのは、とてもいいもんだったんだな。





 翌朝、レミリアと一緒にリビングへ降りていくと、俺たちを祝福する気配がそこはかとなく漂っていた。

 昨夜のことはしっかりばれてるようで、ちょっと気恥ずかしかったが、ここはあえてスルーした。


「さあ、今日は飯を食ったらダイアーウルフ狩りだぞ」


 朝食を済ませてからギルドで依頼を受け、森へ向かった。

 ダイアーウルフは森の深い所に住むので、最低でも1刻ほど歩く必要がある。


 ちなみに途中で出遭ったゴブリンには、レミリアの練習台になってもらった。

 多少は抵抗があるかと思ったが、彼女は何の躊躇ちゅうちょもなくゴブリンを屠ってみせた。

 その後の動揺もなかったので、予定どおりにダイアーウルフを探す。 


 やがてシルヴァの感覚に獲物が引っ掛かった。

 5頭ほどの群れのようだ。

 最近、シルヴァは風魔法で気流を操作することを覚えたため、以前より広範囲の探知が可能となっている。

 彼の誘導で獲物に接近すると、向こうも気づいてこちらへ向かってきた。


 俺たちはレミリアの左右後背を守りつつ、彼女が1匹の狼に集中できるよう誘導した。

 俺とシルヴァがレミリアの左右を守りつつ、他の狼を牽制する。

 そしてキョロは背後を守り、チャッピーが上空で万一に備える形だ。


 この陣形を使ってみると、改めて使役スキルの恩恵が理解できた。

 おぼろげにだが、見えない範囲にいる敵が感じられ、自分がどう動けばいいのかが分かるのだ。

 おかげでレミリアは目の前の敵に集中でき、冷静に双剣を振ることができた。

 それはとても初心者の動きとは思えないもので、狼達を次々と仕留めていく。


 あれよあれよという間に4匹が倒れ、最後の1匹も逃げ腰になったところを斬り伏せられた。

 レミリアは少し息を切らせているが、全くの無傷だ。


「よくやったぞ、レミリア。初めての狩りとは思えない出来だな」

「ありがとうございます、ご主人様。なんて言うか、自然に身体が動く感じで上手くやれました。使役スキルでみんなとつながっているから、不安も無かったです」

「そっか、それは良かった。それにしても、獣人ってみんなこんなに強いのかな?」

「いや、レミリアは狼人族と呼ばれる強種族じゃが、誰もが強いわけではないぞ。しかし、狼人の中でも特に強い個体は、銀色の髪と尻尾を持つという伝説がある。レミリアの成長が遅かったのは、ひょっとしたらそのせいだったのかもしれんぞ」


 いきなりの銀狼伝説ですか、チャッピーさん?


「そ、そうなんだ? もしそれが本当なら、レミリアには凄い潜在能力があるってことだよね。それは将来が楽しみだよね。でも無理はしなくていいからな」

「はい、命を掛けてご主人様をお守りします」


 別に命は掛けなくていいから。

 しかしまあ、やる気になってるなら水は差さないでおくか。


 俺たちはダイアーウルフの魔石を回収し、無事帰路に就いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ