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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編

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13.引っ越し

 レミリアが仲間に加わった日の翌朝、ふと気配を感じて目を覚ました。


「ん? 誰?」


 ぼんやりしていた意識と視界がはっきりしてくると、ベッド脇のイスに誰かが座ってこちらを見ていた。

 銀色の髪が朝日を浴びて美しく輝き、優し気な紫の瞳が俺を見つめている。

 まだ幼いが整ったその面立ちは、まるで天使のようだ。


「おはようございます、ご主人様」

「え? 君、誰?」

「レミリアです。あなたの奴隷になったレミリアです」

「は?」


 たしかに俺は昨日、レミリアを買った。

 買ったけど、こんな美少女ではなかった。

 昨日のレミリアはもっとガリガリで、カサカサだったはずだ。


「え? レミリア? なんか見た目がずいぶん変わったような」

「あ、変わったように見えますか? 実は私もさっき目が覚めてから、もの凄く体調がいいんです。まるで生まれ変わったみたいに」


 そう言う彼女の笑顔は、本当に輝いていた。


「なんじゃ、朝っぱらから騒々しい」


 騒ぎを聞きつけて、チャッピーも起きてきた。


「チャッピー、なんかレミリアの見た目が変わってるんだけど、どういうこと?」

「はぁ? 何をわけの分からんことを…………むう、昨夜よりもふっくらツヤツヤして、体がひと回り大きくなっておるではないか。これはおそらく、おぬしの魔力供給を受けた体が、本来の美しさを取り戻したのではないか?」

「美しいだなんて、そんな……」


 頬に手を当てて恥じらう彼女の仕草が、またとてもかわいかった。

 ちょっと胸がドキドキしてきたぞ。


「いや、うん。たしかに昨日と見違えるくらい綺麗になっているよ」

「ご主人様……私、そんなこと言われたの初めてです」


 とうとう感極まって泣き始めた彼女の頭を、抱き寄せて撫でてやった。

 今までいろいろ辛かったんだろうなあ。


「それにしても、獣人だからってこんなに変わるものかな?」

「う~む、よほど栄養と魔力が不足していたんじゃろう。そこへ十分に食事と魔力を与えられたので、肉体が適応したとしか思えん」

「じゃあ、充分な食事と魔力を与え続けたら、歳相応の身体になるかもしれないね。それだったら、しばらく人目にはさらさない方がいいかな?」

「うむ、その方がよいじゃろうな」


 ちょうどいいから、前から考えていたことを実行しよう。


「それじゃあさ、仲間が増えて手狭になったのもあるから、家を借りようよ。それとレミリアにはフード付きのローブを着せて、顔を隠しておけばいい」

「家を借りるか。それは良い案じゃな」

「よし、じゃあ飯を食ったら、ギルドで貸家を扱ってる所を教えてもらおう。その前にレミリアのローブも買ってね」


 その後、朝飯を手早く済ませてから古着屋へ行った。

 そこで大きめのフード付きローブを買い、レミリアに羽織らせる。


 次はギルドだ。

 いつも親切にしてくれるアリスさんに、家のことを聞いてみた。


「おはようございます、アリスさん。実は家を借りたいんですが、貸家を扱っている所を教えてもらえませんか?」

「あら、おはよう、デイル君。貸家だったらいくつかの商会で扱ってるけど、このギルドでもやってるわよ」

「へー、そうなんですか。何かいい物件てあったりします?」

「それはデイル君の条件次第ね」


 そう言ってアリスさんは書類を取ってきて見せてくれた。


「今空いてるのはこの3軒だけど、どんなのがいいの?」

「俺はそんなにメンバーを増やすつもりがないので、小さめのがいいですね」

「小さめの家なら、この物件ね。だけどこれ、ちょっといわく付きなのよねえ」

「いわく付きと言うと?」

「うーん、大したことじゃないんだけど、家の中の小物が無くなったり、物の位置が変わってたりするんだって。前の住人が気味悪がって引っ越してから、そのままなのよ。おかげでその分、格安なんだけど」


 俺はその話を聞いて、なんとなく理由が思い当たった。

 隠れて話を聞いているチャッピーからも、似たような反応が返ってくる。


「格安と言うと、どれくらいですか?」

「ギルド近くの好立地だから、普通は月に1万5千ゴルのところを1万ゴルポッキリよ」


 その条件で月に金貨1枚はたしかに安い。


「たしかに安いですね。一度、下見させてもらっていいですか?」

「え、本当にいいの? 最低でも半年は契約してもらわなきゃいけないけど」

「実際に借りるかどうかは家を見て判断します」

「分かったわ。ちょっと準備してくるから待ってて」


 その後、アリスさんの案内で貸家を見にいく。

 その家は2階建てで、1階には広いリビングとトイレ、シャワールーム、そして2階にはベッド付きの部屋が2つあった。

 さらにちょっとした庭と地下倉庫まであり、これで金貨1枚は破格の安さだ。

 問題は怪現象の原因だが……


(チャッピー、何か感じる?)

(ご同輩の気配をビンビン感じるぞ。悪さをやめさせるぐらい簡単じゃろう、フヒヒッ)


 やっぱりそうか。

 妖精、たぶん家付き妖精ブラウニーか何かが悪さをしていたんだろう。

 それはチャッピーに任せればいいから、この家は買いだな。


「アリスさん、案内ありがとうございました。ぜひこの家を契約したいと思います」

「あらあら、大胆ね~。ま、長期空き物件に借り手がつくなら、私は大助かりだけど。もし何かあったら相談してね」

「はい、その時はよろしくお願いします」


 それからすぐにギルドに戻って契約を済ませた。

 保証金も含めて金貨2枚をその場で払い、貸家の鍵を受け取る。

 ついでにギルドで荷物運び用に荷車を借りて、宿へ戻った。

 宿の主人には家を借りると言って部屋を引き払い、当面の生活に必要そうな雑貨や料理道具、寝具などを買い込む。


 昼過ぎには新居に荷物を運び込めたので、とりあえずリビングでお茶にした。

 しばらくのんびりと話をしていたら、ふいにチャッピーがリビングの隅へ飛んでいった。

 そしておもむろに右手を振り上げ、何かを殴った。


 ポカッという音と共に、茶色い何かがチャッピーの前に姿を現した。

 それは身長が俺の腰くらいまでで、茶色の服と帽子を身に着けた髭面の小人だった。

 キーキー騒ぐそいつの耳をチャッピーが掴み、俺の前まで引っ張ってきた。


「ねえ、君はブラウニーだよね?」


 優しく話しかけたら、そいつが驚いて喋り始めた。


「なんや、人間。お前にはワイが見えるんか? そうか、このフェアリーのせいやな。せやからて、ワイは人間の言いなりにはならへんぞ」

「いやいや、君を言いなりにしようなんて思ってないよ。ただ俺はこの家の住人同志、仲良くしたいだけなんだ」

「な、何のことや?」

「フフン。前の住人に悪さをして追い出したのは君だろ?」


 俺はさも分かっているという風に問い詰めた。


「ぐうう。ああ、そうや。前の住人はワイが世話をしても、何の感謝もせんかったんや。ちいと意地悪してやったら、すぐに出てったわい」

「なるほど、なるほど。ブラウニーにはそっとお供え物をするのが礼儀だからね」

「そうや、それを前の住人ときたら」

「ふむふむ。よし、それじゃあこうしよう。君がこの家の家事を手伝ったり留守中に家を守ってくれるなら、俺は君に食事を提供しよう」

「なんやと?」


 ブラウニーはあまりに予想外だったのか、目をひんむいて驚く。


「そんなに意外か? せっかく同じ家に住むのなら、一緒にご飯を食べたっていいだろ?」

「なんちゅう非常識な人間や……けど、こうやって正体が知られとるんなら、それもありか」

「よし、商談成立だ。俺の名はデイル。こっちの娘はレミリア。その妖精がチャッピーで、狼がシルヴァ、そしてこれがキョロだ」

「わいの名はボビンや。とりあえず手伝ったるけど、あまり馴れ馴れしくするんやないぞ」


 引っ越し早々、ツンデレ系の仲間が増えた。

 ま、せいぜい家事手伝い兼ガードマンってところだが、イタズラが無くなるだけでも大成功だ。


 その後はボビンの助けも借りて、掃除や荷物の整理をした。

 さすがブラウニー、掃除はお手のものだ。

 おかげで夕食までにおおまかな片付けを終わらせることができた。


 夕食は俺とレミリアで準備する。

 今日はあまり時間もないので、肉入りシチューとパンにした。

 ちなみにレミリアにもっと食事の量が必要かと聞いたら、魔力供給があるならそれほどいらない、と言われる。


 そして約束どおり、ボビンも交えて夕食を取った。

 チャッピーとボビンは俺と同じ物を食べ、キョロには木の実、シルヴァには肉を出している。

 つい一昨日まで喋れるのは俺とチャッピーだけだったのに、一気ににぎやかになった。

 凄く変わったメンバーだけど、なんか家族らしくていいな。





 それからしばらくの間は迷宮に潜らず、レミリアの育成と俺たちの訓練に明け暮れた。

 毎晩の魔力供給でレミリアはグングンと成長を続け、2週間で歳相応の美しい娘に変身した。


 今の彼女は、わずかに子供らしさを残す美貌に紫の瞳が輝く美少女だ。

 左のサイドテールにまとめられた銀髪は光を放つように美しく、それでいて落ち着いた印象を醸し出している。

 体の方もしっかりメリハリがついてきて、すいぶん色っぽくなった。

 ついこの間までぺったんこだった胸が立派な双丘に成長し、少し目のやり場に困るぐらいだ。


 一応、彼女には迷宮探索への参加意思と戦闘スタイルについて確認した。

 返事はもちろんOKであり、戦闘スタイルは双剣だ。

 なんでも彼女のお母さんが双剣使いで、その姿を見て育ったかららしい。

 とりあえず2本の短剣を持たせて自由に振らせているが、そろそろギルドの訓練も受けさせてやるつもりだ。


 レミリアより先に俺の魔力供給を受けていたキョロとシルヴァも、ようやく成長が止まった。

 キョロは普通の猫と同じぐらいの大きさになり、威力倍増の電撃でゴブリンぐらいなら単独で狩れる。


 シルヴァは通常のダイアーウルフよりもひと回り大きくなり、牙と爪に魔力をまとえるようになった。

 以前は手こずっていたシャドーウルフも、今では瞬殺できるんじゃなかろうか。


 これでレミリアさえモノになれば、1層の守護者攻略も夢じゃない。

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新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

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