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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編

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11.リベンジ

「ウワアッ!」


 ほとんど何も無い所から影狼シャドーウルフが現れ、俺の左腕に食らい付いてきた。

 革の籠手ごしに牙が腕に突き刺さり、その激痛とショックで弓を取り落としてしまう。


「ギュピー!」


 とっさにキョロが電撃を放ってくれたおかげで、シャドーウルフが俺の腕を解放した。

 ちょっと距離を取ったそいつに、シルヴァが猛然と跳びかかる。


「ガルルウッ!」


 シルヴァが相手を押さえ込もうと奮戦する横で、俺はケガのショックでまだ動けずにいた。

 そうしているうちに、向こうの部屋の入り口から新たに2匹が顔を出す。


「これはまずい。ちょっと足止めしてくるわい」


 チャッピーがそう言いながら、新たな2匹へ向かって飛ぶ。

 向かってくるそいつらの眼前で強烈な閃光を放つと、もろに食らったシャドーウルフがギャンギャンと騒ぎ出した。


 この頃になって俺はようやくショックから立ち直り、冷静に考えられるようになってきた。

 まずは目の前のシャドーウルフを始末するために近寄り、短剣で心臓を貫く。

 奴が息絶えるのを確かめるとすぐ、弓を拾って走り出した。


「みんな。一旦、退こう」


 負傷したままでは危険だったので、一時撤退する。

 チャッピー、キョロ、シルヴァもすぐに後に続いた。

 少し走って適当な枝道に入って後方を窺うと、もう追ってくる気配はない。

 ようやく安心した俺は、崩れるように座り込んだ。


「ハア、ハア、ハア……イテテテッ。ちく、しょう」


 籠手を外して見ると、けっこう血が出ていた。

 多少は籠手で守られたとはいえ、傷は決して浅くない。

 そんな俺の左手に、チャッピーが即座に治癒魔法を掛けてくれた。

 ポウッという魔法の淡い光に包まれた左腕から、すぐに痛みが引いていく。


「ありがとう、チャッピー」

「うむ、相変わらずおぬしには良く効くのう。薬師も真っ青じゃ」


 チャッピーの言うとおり、瞬く間に血が止まって傷も塞がった。

 高価なヒールポーションでも似たような効果は得られるけど、こっちの方が効果は高い。

 これ見たら、たしかに薬師もドン引きだろうな。


「動かすとまだ少し痛いけど、もう大丈夫だ。助かったよ」

「それは良かった。それで、これからどうする?」

「まだ動揺してるから、今日はこのまま帰るよ」

「そうじゃな、こんな時はおとなしく帰るのがよいわ」


 せっかく拾った命を危険にさらすことはない。

 また準備を整えて出直せばいいのだ。

 その後しばらく休憩してから、真っ直ぐ入り口へ向かった。


 シルヴァの索敵能力を頼りに早足で進み続けると、2刻ほどで地上へ戻れた。

 普通のパーティなら3刻は掛かる距離だから、シルヴァの存在は本当に助かる。


 そのまま宿に帰って飯を食った後、今日の反省会をした。


「今日は参った。それにしても、あんな小さな窪みにシャドーウルフが隠れているなんて、おかしいよね?」


 洞窟の床面近くはけっこうデコボコしているから、ちょっとした窪みも多少はある。

 しかしあのシャドーウルフは、明らかに自分の身体より小さな窪みから出てきたのだ。


「うーむ、高度な隠蔽能力、と言うよりも幻惑魔法のようなものを使っているんじゃないかのう」

「幻惑魔法か……シルヴァにも感知できないのかな?」

「クーン…………ウォンッ、ウォンッ」


 シルヴァに目を向けたら、面目なさそうな声の後に勇ましい返事が続いた。

 どうやら、次は任せておけと言っているようだ。

 たぶん、相手のやり方が分かれば、対処のしようもあるのだろう。


「そうか、奇襲を避けられるんだったらやりようはある。次はこんな風にすればいいと思うんだけど――」


 俺は帰り道に考えていた作戦をみんなに相談し、次の日に備えた。





 翌日、まだ少し左手が痛んだが、構わずに迷宮に潜った。

 シャドーウルフにリベンジするべく、真っ直ぐに深部を目指す。


 昨日遭遇したポイントに近付くと、ペースを落として慎重に進んだ。

 やがてシルヴァが立ち止まり、少し鼻を上げて前方の臭いを嗅ぎ回る。


「スンスン、スンスン」


 シルヴァの視線が、壁際の一点でピタリと止まった。

 一見すると小さな窪みにしか見えないが、そこにあれが潜んでいるのだろう。

 キョロをシルヴァの背中に乗せてから肩を軽く叩くと、シルヴァが目標地点に駆け寄りざま、風魔法を放った。


「ウォンッ!」


 すると、ただの窪みに見えていた所から、シャドーウルフが浮かび上がる。

 本当に幻惑魔法を使っていたんだ。


 続いてキョロが電撃を放つと、キャインと鳴いて硬直したそいつの首筋にシルヴァが食い付いた。

 ここまでは作戦通りだ。


 すると案の定、向こうの部屋から2匹のシャドーウルフが現れる。

 これも想定通りなので、俺は落ち着いて弓を構えた。

 こちらに走り寄るシャドーウルフをチャッピーが空中で待ち受け、残り10歩ほどの距離に迫った瞬間、閃光を放った。


「キャン、キャン、キャン、キャン」

風弓射ウインドショット!」


 閃光に目をやられて苦しむシャドーウルフを、2匹とも風弓射ウインドショットで片付けた。

 シルヴァに押さえ込まれた奴がまだもがいていたので、こちらは短剣でとどめを刺す。


「想像以上に上手くいったのう」

「まあ、存在が分かってればこんなもんだよ。シルヴァの鼻に感謝だ」

「シルヴァだけか?」

「もちろん、キョロとチャッピーもいてこその作戦さ。みんなありがとうな」

「フヒヒッ、儂は目潰しだけじゃがのう」

「ウォンッ!」

「キューッ!」


 これでシャドーウルフへのリベンジは完了した。

 今の段取りでやれば、たぶん4匹ぐらいまでは対処できるだろう。


 倒した獲物から魔石と素材を剥ぎ取ると、その後も何回かシャドーウルフを狩った。

 その結果、シャドーウルフは少々毛皮が硬いものの、待ち伏せさえ躱せばさほど怖くない存在であることが確認できた。


 シャドーウルフを狩れるようになったんだから、もう俺たちも一人前と言って良いだろう。

 俺は地上へ戻ると、ギルドの美人受付嬢 アリスさんに報告しにいった。


「アリスさん、見てください。シャドーウルフを狩れるようになりましたよ」


 シャドーウルフの素材を見せながら話し掛けたら、凄く驚かれた。


「ええーっ! ちょっと待ってよ。シャドーウルフって、大人のパーティでも手こずるのよ。本当に1人で倒してきたの?」

「いや、だからキョロとシルヴァが一緒ですって」

「それってはたから見たら、ほとんどソロと一緒よ……うーん、でもシャドーウルフを狩れるってことは、やっぱりキョロちゃんも強いのねえ」

「そうですよ。なので、ギルドカード更新してください」


 カードを渡すと、彼女が専用の機械にカードを読み込ませる。


「はいはいっと……早くも冒険者ランクがDに上がったわね。それから……あっ、おめでとう。強化レベルが2になってるわよ。これじゃもう、デイル君を新人扱いできないわね」

「あ、やっぱり上がってました? なんか今日は体が軽いと思ってたんですよ。やっぱり迷宮は違いますね」

「ええ、たしかに迷宮での強化レベルの上がりやすさは段違いよ。でもデイル君の場合は、ソロだから生命力を独り占めできるのが大きいと思うわ。こんなに早くレベルアップする人なんて、見たことないもの。何よ、この冗談みたいな討伐数」


 俺のデータを見ながら呆れられた。


「アハハハハッ、敵を倒さないとられちゃいますから」

「だからもっと慎重にしなさい、って言いたいところだけど、Dランク冒険者にそれは失礼よね……でも気を付けるのよ」

「は~い、気を付けます」



 こうして冒険者ランクも強化レベルも上昇した俺は、その後しばらくシャドーウルフ狩りを続けた。

 深部まで直行し、素材を持てる分だけ奴らを狩り、地上へ帰還して1日休養を取る。

 そんな探索パターンを繰り返した。

 時間配分は行きに2刻、狩りに3刻、帰りに2刻という感じだ。


 シャドーウルフの魔石は銀貨3枚に加え、毛皮や牙、爪も高く売れる。

 素材は武具などで需要があるので、1匹当たり銀貨7枚の追加収入だ。

 1回の探索で10匹くらいは持ち帰れるので、収入は銀貨100枚、つまり金貨1枚が稼げるのだ。

 ソロのDランク冒険者としては破格の収入である。



 懐が暖かくなったので、武器と防具を新調した。

 ふんだんにあるシャドーウルフの毛皮を使い、肩もカバーする胸当てに腰当て、籠手、帽子を作ってもらう。

 短剣も店売りの高級品に替えてある。


 こうなると、そろそろ守護者戦もいけるかな?

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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