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迷宮探索は妖精と共に  作者: 青雲あゆむ
ガルド迷宮第1層編

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10.シャドーウルフ

 迷宮でスライムを殲滅したと思ったら、その犠牲者らしき冒険者の装備を発見した。

 大した物ではないが、町で売ればいくらかの金になるだろう。

 ギルドカードもいくつか見つかり、後で冒険者ギルドへ届けるために持ち帰った。


 その部屋はそこで行き止まりだったので、入り口近くまで引き返して探索を再開する。

 まだ下層へ向かうつもりはないので、出てきた枝道を片っ端から探索して魔物を倒していった。


 そのうち腹が減ってきたので、昼飯を食うことにした。

 まず木製のカップを取り出し、魔法でお湯を注いでからお茶っ葉を入れる。

 お湯の作り方はチャッピーに教えてもらったもので、あまり量は出せないし大して熱くもないけどお茶には使えた。

 おかげで水筒も火も要らないんだから、魔法が使えるってのは本当に便利だ。


 お茶をすすりながら、宿で作ってもらったサンドイッチをほおばる。

 キョロとシルヴァにも、水と木の実や干し肉を与えている。

 最初、シルヴァのエサが嵩張かさばるかと心配していたのだが、探索中は大して食わないので助かっている。

 考えてみれば、野生の時は数日間の絶食も当たり前だったのだから、食い溜めができるんだろう。


 ちなみにチャッピーもほとんど食わないので、俺の分をちょっとつまむぐらいだ。

 飯を食いながらチャッピーと話す。


「今のとこ危なげなく来れてるけど、こんなもんかなあ?」

わしらの実力ならこんなもんじゃろ。もっとも、シルヴァが先に魔物を見つけてくれるから、ずいぶん楽に進めておるがな」

「うん、それは俺も感じる。奇襲される心配がないから、それほど緊張しなくても済むよね。本当にありがとな、シルヴァ」


 そう言ってシルヴァの頭を撫でてやると、ブンブンと尻尾が振り回される。

 キョロも物欲しそうにしてたので撫でてやると、耳と鼻がヒクヒク動いて、すげーかわいかった。

 迷宮の中だというのに、ずいぶんと心が癒される。

 俺の眷属は、実に有能だ。



 その後も夕暮れ時まで探索を続けたが、特に危険もなく地上へ戻ることができた。

 今日の成果はゴブリン10匹、スライム8匹、それと拾った装備だ。

 ゴブリンの魔石が銅貨5枚、スライムの魔石は銀貨2枚なので合計で銀貨21枚だ。

 スライム1匹がゴブリン4匹分ってところに、スライムの怖さが現れている。


 ちなみに拾った装備は安物だったせいか、銀貨20枚にしかならなかった。

 まあ、初日に無事戻れただけでも良しとしよう。



 拾ったカードを届けにギルドへ行ったら、アリスさんがいた。


「アリスさん、迷宮の中で拾ったギルドカードを持ってきました」

「ええっ、ちょっとデイル君、迷宮に潜ったの?」

「はい、ようやく準備が整ったので、今日初めて」

「準備が整ったって、あなたソロじゃない。危険過ぎるわ!」

「ええっ、でもキョロとシルヴァがいるから――」

「キョロちゃんも連れてったの? 動物虐待よ!」


 なぜか動物虐待まで咎められる始末だ。

 そういえばこの人、動物好きだったな。


「虐待だなんてとんでもない。こう見えてけっこう役に立つんですよ。そんなこと言うアリスさんには、もう撫でられたくないだろうなあ」


 俺が肩の上のキョロを撫でながら指示を送ると、キョロがアリスさんの視線から逃れるように動く。

 さすがにこう言われては、アリスさんも引き下がらざるを得ない。


「あー、うそうそ、冗談よキョロちゃん。ごめんねえ、また撫でさせて~」

「とりあえず今日はダメです。それで、これが拾ったカードです」


 そう言ってカードを出したら、恨めしそうな顔でカードを確認する。


「もう、意地悪…………ああ、この子やっぱり死んでたんだ。届けてくれてありがとう。でもあなただけはこんな風にならないでね」

「保証なんかできないですけど、頑張りますよ」


 そう言って俺は宿へ戻った。

 暗い気分を振り払うため、今日はちょっと贅沢なステーキを頼んで祝杯を挙げる。


「とりあえず迷宮からの初生還に乾杯!」

「うむ、初めての迷宮はどうじゃった?」

「うーん、思ってたほど怖くはなかったかな。でもそれはシルヴァの索敵能力のおかげなんだけどね」

「そのとおりじゃ。勘違いして突っ込むと、スライム部屋の残骸みたいになるぞ」

「だよね。あんなに浅い部分で死人が出てたのにも驚いたけど」

「どこであろうと、迷宮や魔物を舐めた者には死が訪れる。おぬしもゆめゆめ、油断せぬことじゃ」

「ああ、これからいろいろ、助けてくれよな」

「フヒヒッ、儂の戦闘能力は皆無かいむじゃがな~」


 たとえ戦闘能力が皆無でもチャッピーはいろいろ教えてくれるし、なんてったって幸運の象徴だ。

 キョロやシルヴァがいれば迷宮でもやっていける、俺はそんな手応えを感じていた。





 それからしばらくは、1層序盤を探索する日々が続いた。

 やがて第1層の中盤に差し掛かっていたある日、新たに犬頭鬼コボルドと遭遇する。


 コボルドはゴブリンと同じくらいの人型の魔物で、頭が犬に似ている。

 ゴブリン同様にこん棒を使うが、その強さはゴブリンと似たようなものだ。

 ただし、通常よりひと回り大きな犬頭鬼長コボルドリーダーに率いられ、組織的な攻撃をしてきた場合は厄介だ。


 今も俺たちは、リーダーに率いられたコボルド3匹を相手にしていた。


「ワオーン、ガウガウ」

「ワンワン、ワンワン」


 リーダーの指示で、その配下が俺たちを囲もうと動く。

 しかしこっちはシルヴァの鼻で先に嗅ぎつけ、準備をしていた。


風弓射ウインドショット


 見事にリーダーの脳天を撃ち抜いたら、奴らの連携が乱れ始めた。

 こん棒を振り上げて迫る奴らの一部を、シルヴァが牽制する。

 俺は右手に短剣を、左手にキョロを掴んで手近なコボルドに駆け寄った。


 キョロの電撃で動きを止めてから、短剣で急所を突く必殺コンボで奴らを仕留めていく。

 1対1になった時点でシルヴァも反撃に加わり、最後のコボルドが喉を食い破られて倒れた。


 こうして倒したコボルドの魔石は銀貨1枚、リーダーは2枚だ。

 迷宮の奥に進むほど魔物との遭遇頻度が高まるのもあって、最近は魔石だけでも銀貨40枚以上稼げるようになってきた。

 問題は、中盤を過ぎると1日で入り口に戻るのが大変なことで、こうなると迷宮内で野営しないと効率が悪い。



 この世界で1日は12刻に区切られていて、迷宮では3刻から9刻まで活動するのが一般的だ。

 もっと探索を続けられないでもないのだが、あまり無理をしても疲れるので6刻ぐらいで探索をやめ、残りは休養に充てる。

 もっとも、野営では常に緊張を強いられるし、寝床が硬くてそれほど疲れも取れないから、快適には程遠いのが実状だ。


 どこで野営するかも問題だ。

 普通の部屋や通路では魔物が湧いたり、通り掛かったりするのでとても寝てなんかいられない。

 しかし行き止まりの部屋だけは冒険者がいる間は魔物が湧かず、他所よそから入ってくる可能性も低いと言われている。


 なのでここに野営するのが安全なのだが、それでも無防備で眠るのは危険過ぎる。

 人数の多いパーティなら交替で見張りを立てればいいが、あいにくとウチは話せるのが俺とチャッピーだけ。

 毎回、夜の半分しか眠れないのもしんどいので、魔石を使った警戒手段をチャッピーに教えてもらった。


 これは部屋に入ってくる通路の先に、魔石を置いて結界を張る方法だ。

 これなら何かが入ってきたら感知できるので、シルヴァの探知能力も合わせれば不意打ちは避けられる。

 おかげで迷宮内でも比較的安全に休めるようになった。





 やがて第1層の中盤も探索が進み、いよいよ守護者部屋が存在する深部に入った。

 ここで現れる魔物が影狼シャドーウルフだ。


 名前どおり影のように真っ黒な狼で、鋭い感覚で獲物を察知して待ち伏せ攻撃を仕掛けてくるらしい。

 しかも3匹前後の群れで行動するため、駆け出し冒険者などは恰好のエサだ。

 こいつらを倒せるかどうかが、この深部で行動する冒険者の目安となる。


 しかし俺はそれまでの探索が順調過ぎたため、奴らを甘く見ていたようだ。

 深部に入ってすぐ、いつもどおりにシルヴァの合図を受けた俺は、弓を構えながら通路を進んだ。

 通路に怪しい物は見当たらなかったので、てっきり先の部屋に魔物がいると考え、足を進める。


「ガルッ!」

「ウワアッ!」


 ふいに左手の岩壁から現れたシャドーウルフが、俺の左腕に噛み付いた。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

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