1.白猫を探せ
”妖精付きの迷宮探索”のリメイク開始します。
前作で気に入らなかった所を直しつつ大幅に加筆していく予定なので、新旧の読者さんに楽しんで貰えれば幸いです。
2017/8/10 王都編を改稿しました。ストーリーや設定はいじらず、表現や会話文を修正しています。
『接触……結合』
俺独自の使役スキルを目の前の黒猫に行使すると、ぼんやりと意識がつながった。
猫の方はちょっと驚いていたが、すぐに落ち着く。
そこでお目当ての猫のイメージを送り込むと、ようやく手掛かりになりそうな反応が返ってきた。
実に30匹目にして、初めての手掛かりだ。
俺の名はデイル。
つい半年前に15歳の成人となり、冒険者ギルドに登録したばかりの駆け出し冒険者だ。
それまではこのリーランド王国王都の、孤児院で暮らしていた。
俺は赤ん坊の時に孤児院の前に捨てられていた、孤児だからだ。
身に付けていた布にデイルと書かれていたらしく、それが俺の名前になっている。
幸い、孤児院がまともに運営されていたおかげで、貧しいなりに幸せな子供時代を過ごすことができた。
問題は成人した後にどんな仕事をするかだったんだが、幸い俺はあるスキルを持っていた。
魔物や動物と契約を交わして、従属させることのできる使役スキルだ。
昔からなぜか動物に好かれた俺は、使役師になれるんじゃないかとは言われていた。
それで10歳の時、近所の馬車屋にいたテイマーのおっちゃんに、どうやってスキルを身に着けたか聞いてみたのだ。
馬車屋では馬以外の魔物も扱うため、テイマーが常駐してたりするんだな。
聞けば、そのおっちゃんはテイマーの師匠に10年も弟子入りしてたそうだ。
そこでいろいろと動物や魔物の扱い方を覚え、契約の仕方も教えてもらったらしい。
そんな話をしてたら、自慢げに契約の呪文も教えてくれた。
それが『接触』、『結合』、『契約』だ。
この呪文は古代エルフ語ってやつで、精霊術や魔術にも使われる言語らしい。
もちろん、唱えれば誰でも使えるって代物じゃあない。
だけど知ったら、とりあえず使いたくなるじゃん。
だから帰り道に出会った猫に唱えてみたんだよね。
そしたら『接触』と『結合』だけで、俺の言うことを聞いてくれるようになった。
しかもなぜか、『契約』は必要無し。
普通は『結合』まで成功してから、信頼関係を深める必要がある。
その上で契約を結ぶと、ようやく使役獣として動かせるようになるんだそうな。
いずれにしろ俺は、この日から使役スキル持ちになった。
その後、ちょっとした小遣い稼ぎに役立ってくれたのは、言うまでもない。
そして俺はこのスキルと、勝手知ったる王都の土地勘を武器に、冒険者になることにした。
あいにくと俺は身体が貧弱で戦闘力には乏しいが、王都には害獣退治や探し物など、俺向きの仕事はいくらでもある。
この手の仕事には使役スキルがけっこう重宝するもので、少なくとも食うに困ることはなかった。
そして今日の俺は、貴族のペットの猫探しを引き受けており、冒頭に至るわけだ。
お探しの猫ちゃんは真っ白なメスで、鈴付きの赤い革の首輪を身に着けているらしい。
その白猫ちゃんが1週間前から行方不明なんだと。
報酬が大銀貨5枚と破格なこともあって、先輩方が速攻で依頼受けてたんだが、いまだに成果が出ていない。
ちなみに大銀貨ってのは銀貨10枚分。
銀貨3枚も出せばそこそこの宿の個室に泊まれるんだから、なかなかの報酬でしょ?
なお、他の貨幣との関係は金貨=大銀貨10枚=銀貨100枚=銅貨1000枚=鉄貨1万枚となってて、鉄貨1枚を1ゴルと呼ぶ。
俺は見たことないけど、金貨100枚に相当する白金貨ってのもあるそうだ。
そんなお金、一度は持ってみたいもんだね。
それはさておき、俺は白猫を探そうと、街中で見つけた猫に片っ端から『結合』してみた。
そして白猫ちゃんのイメージを送り、どっかで見てないか聞き回ったんだ。
で、苦節半日、ようやく目の前の黒猫で当たりにたどり着いた。
黒猫に案内してもらったら、見つけましたよ、白猫ちゃん。
繁華街にある食堂の裏でゴミを漁っていた。
ちょっと汚れてるけど、それなりに元気そうだ。
このまま逃げられては敵わないので、とりあえず『結合』してみる。
そして、”家に帰ろうよ”と思念を送ったら、彼女は悲し気にニャーンと鳴いた。
はて、何か問題があるのだろうか?
俺は白猫ちゃんの背中を撫でながら、何が嫌なのか聞いてみた。
すると白猫ちゃんは、漁っていたゴミの中から魚の骨を取り出して、前足で遠ざけてみせた。
なんとなく伝わってくる雰囲気で、彼女は魚が嫌いなのだと推測できた。
家に帰ると、魚を食わせられるってことなのかね?
そこで俺が、”ご主人に魚は嫌いだって伝えてやるから”と思念を送ったら、嬉しそうに擦り寄ってきた。
たぶん了解ってことだろう。
俺はそのまま白猫ちゃんを抱き上げると、依頼を出した貴族の屋敷に赴いた。
でっかい屋敷の入り口でギルドの依頼票を出すと、中に通される。
そこでしばらく待っていたら、ドタドタと騒々しい足音が聞こえてきた。
「ミーシャ、儂のミーシャが見つかったのか?」
ちょっと太めで白髪の爺さんが、髪を振り乱して走ってきた。
上等な服を着ているから、たぶんこの人が依頼主の貴族なんだろうな。
「はい、この白猫でよろしかったでしょうか?」
「おおっ、ミーシャではないか。どこへ行っておったのだ。心配したのだぞ」
爺さんが涙を浮かべながら、猫をひったくる。
そのまま猫に頬ずりを始めたのだが、白猫ちゃんが嫌そうにしているのは、見間違いではないだろう。
問題は、魚だけではないんじゃない?
ひとしきり白猫ちゃんの感触を味わって落ち着いた爺さんが、ようやく俺に注意を向けた。
「なんだ、まだおったのか? ところで、この子はどこにいたんだ?」
「はい、繁華街の路地裏でゴミを漁ってました」
「なんだと? なぜそんなところへ……いずれにしろ、もう2度と外へは出さんぞ」
爺さんが鼻息も荒く今後の決意を口にしているが、それは悪手だ。
「あのー、私は使役術が使える関係で、少し動物の気持ちが分かるんです。それで家出の理由を聞いてみました」
「なんだと? 貴様はミーシャが家出したと言うのか。馬鹿を言え! あんなに大切に育てていたのに!」
「いや、ですがミーシャは魚が嫌いらしいんです。お心当たりがありませんか?」
「なんだと? 猫は魚が好きに決まっておるではないか! そんなことも知らんのかっ、この愚民が!」
爺さんがドヤ顔で自分の常識を押し付けてきた。
愚民とまで言われて帰りたくなったが、ここはミーシャのために耐える。
「そういう猫もいるのかもしれませんが、普通は鳥とか鼠のようなものを好むものですよ。お疑いなら、試しに魚と鶏肉を持ってきてください」
「よーし、無知なお前に現実を教えてやろう。おい、魚と鳥肉を持ってこい。いや、儂らが厨房へ行けばよいのか」
そう言って厨房へ向かったので、俺も後に続く。
そしてその場で魚と鶏肉を取り出して、ミーシャの反応を見た。
ミーシャは魚には見向きもせず、鶏肉の臭いを嗅いでからパクリと食いついた。
そして嬉しそうに肉を咀嚼しているのを見て、爺さんはミーシャの目の前に魚をぶら下げる。
「ミーシャや、魚はどうじゃ? 魚は?」
しかしミーシャが反応するはずもなく、最後には背を向けらえる始末だ。
爺さんはそれを見て大きな衝撃を受け、ようやく納得してくれたようだ。
「なんと、そんなに魚が嫌いだったのか……昔は良く食ったんじゃがのう」
「たぶん、あまりに魚ばかりで飽きたんでしょう。たまには変化を付けた方が、よいのではありませんか」
「なるほど、勝手に決めつけんでいろいろ考えてやった方がよいか。世話になったな。おぬし、名前は?」
「デイルと言います」
「デイルか、今日は良くやってくれた。これが報酬じゃ」
そう言って、爺さんに金貨を1枚渡された。
「あれ、大銀貨5枚だったんじゃ……」
「ミーシャの気持ちを教えてくれた褒美じゃ。ボーナスじゃよ」
「うわ、ありがとうございます。助かります。それじゃ、ここにサインもらえますか」
こうして白猫ちゃん捜索依頼は無事、完了した。
しかも倍額もらえるなんて、ラッキーだったな。