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魔物≠勇者?いえいえ魔物∩勇者です!  作者: 紫閃
1章 力を手に入れし者たち
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7 赤髪の少女

 完全アウェイ―。ホームは家でありそれ以外は全てアウェイと言っても過言ではないほどに外界が苦手な俺からしても、いやそんな俺だからこそ、その教室の静けさが何よりも怖かった。これは、引きこもりだった俺の壮絶な一分間の死闘の記録である。  

 

 先生の後について教室の中に入る。途端に視線の圧力が俺を襲い思わず下を向きたくなるが、こんなところで負ける訳にはいかないのだ。そもそもこれは俺の行いのせいなのだから、文句を言ってはいられないだろう。ミラ先生の心安らぐお膳立てもあったことだし(余計な一言への精一杯のプラス思考)、やるしかない。

 そして、やると決めた時の俺はすごいのだ。そのすごさを見せてやろう。


 恐らくだが、生徒たちはさっきの俺とミラ先生の会話を聞いていたはずだ。つまり俺が風邪気味であると伝わっていると考えられる。ならばそれを利用しない手はない!


 さっきから俺に降り注いでいる視線の嵐。それに耐えつつわずかにうつむきながら歩みを進めていく。これによって、俺ちょっと具合悪いんだよなあ...という雰囲気を醸し出して遅れた正当性をアピールするのだ。視線に耐えれてねえじゃんとか言ってはいけない。

 アピール兼顔を上げずにすむという便利な技だが、しかしそんな技にも使用限界がある。丁度黒板の中間辺り、教卓のすぐ横にたどり着いてしまったのだ。


 ここから先は生徒の方を向かなければならない。これ以上この技を多用すると「アイツ暗くね?」というイメージを持たれてしまう。いや実際暗い奴なんだがイメージは大切だ。ここでつまずくと後々の人間関係に支障をきたす可能性がある。...ああ分かっているとは思うが「もう支障きたしてる」とか言うなよ?

 なのでやむなくここで顔を上げる。だがここで重要なのはその角度だ。あまり上げすぎると馬鹿っぽくなるし、逆に下げすぎたままだと暗いイメージを払拭できない。

 従って最適解は、中間―つまりごく普通に水平にすることとなる。

 ただし視線だけは上に上げることがポイントだ。ここを守らないと、無遠慮に他人の顔見る奴と視線が合い、爆死する危険がある。


 無論歴戦の俺がそんなミスをするはずがない。自信を持って堂々と正面を向いている―ように見えているはずだ。

 「今日からこのクラスの一員となるイサミ君だ。さっきも言った通り実力は相当なものなので、切磋琢磨していけるようにしたまえ」

 ミラ先生の説明中も俺は生徒たちと視線を合わせることなく前を見続ける。少し上を向いているため見えるのは髪ぐらいだが、さすがに視線を一点に固定し続けるのも変なので少しずつ横に廻らせる。


 「では、自己紹介を頼む」

 説明が終わりいよいよ俺の自己紹介。息を深く吐きつつ、最後まで視線を廻らせたら話し始めようと決めた。そこに意味などなく、なんてことのない動作。

 だからそれを見つけた時、その動きは止まる。


 赤い髪―。


 視界の中で一人だけ、明らかに異質な色があった。 

 「......ぁ」


 記憶が、甦る。


 七年前のあの時の記憶。うろ覚えだと思っていた記憶。けれど全く、一秒たりとも欠けていない記憶。

 ずっと忘れていたのに。そう思っていたのに。それなのにまるで昨日のことのように思い出せるその記憶―。

 意識せずに止めていた視線を無理矢理に下に動かした。そこにいたのは。


 「......っ」


 ―美しい少女だった。長い睫毛と髪と同じように赤い瞳は、興味無さげにすぐ横の窓、その奥の空に向けられていた。まるで過去の何かを探しているような寂しげな瞳で、どこまでも空を見ているように見えた。

 頬を左手に乗せて空を見ている姿はどんな画家でも描けないだろう。そう思ってしまうほどに、その光景は美しかった。髪は思った通り―ゴムではなくリボンだったが―ツインテールにまとめられている。あの頃と何も変わらない。...不覚にも、見とれてしまった。


 「どうした、早く自己紹介しろイサミ君」

 どれほどそうしていただろうか。

 多分そんなに長い時間ではなかっただろう。けれど俺にとっては時が止まったかのように長い時間が過ぎていた。緊張とか混乱ではなく、ただただ純粋な驚きに硬直していた。ミラ先生に促されても動くことができない。

 しかしその少女は―。


 「...イ...サミ......?」


 初めて瞳が動く。赤い神秘的な瞳が俺を確かに捉える。

 そしてその目を丸くした。

 同時に、俺もやっと声が出せた。


 「アリア!?」

 「イサミ!?」


 ほぼ七年ぶりに、俺と彼女―アリアは再会したのだった。 

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