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魔物≠勇者?いえいえ魔物∩勇者です!  作者: 紫閃
1章 力を手に入れし者たち
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5 瞬間移動したいって一度は思ったことあるよね?

 案内された学園の中は凄かった。とても凄かった。思わず小学生並みの感想が漏れてしまう程には凄かった。

 国を挙げて造られた施設―。まさにその通りなのだろう。普通なら考えられないような充実した設備が整えられていた。


 「ほえー...」


 例えば移動一つをとってみてもそうだ。こんなに馬鹿でかくて広大な校舎内をどう移動するのかと思いきや、校舎内のところどころに丁度いい均等な間隔で、瞬間転移装置(シフター)が置かれていた。直径五十センチくらいの円盤状の装置で、円盤の上に立って目的地を念じるだけでその目的地に一番近い瞬間転移装置へと一瞬で移動できるのだ。

 言葉にすると簡単だがその利便性は筆舌に尽くしがたい。これさえあれば移動にかかる時間を大幅に短縮できるのだから。


 街とかにも設置すればいいのに...とも思ったが、ミラ先生曰く設置するのに膨大な金額が必要になるらしい。考えてみればそれも当然だろう。詳しい仕組みは分からないが、こんなハイテク装置、作るのにいくらかかるのか想像もつかない。コスト度外視の装置なのだ。


 これらの装置の研究は、主に〈世界改革〉以降に急成長を遂げた。何故かというと、まるで魔法のような現象を再現できる勇者が現れたからだ。彼らの魔力を科学の力で解明し、機械を使って再現している訳だ。

 まあそんな理屈はどうでもいいが単純に―。


 ―すげえ楽しい!何これ瞬間移動とか夢だったんだけど!へーいへーい今俺シフっちゃってるんだけど!

 「遊ぶな。子供じゃあるまいし」

 「何を言ってるんですか!」

 シュイン!

 「...俺はまだ未成年!」

 シュイン!

 「...つまり子供ですよ!」

 呆れたようなミラ先生の言葉に瞬間移動を繰り返しつつ俺は伝家の宝刀、「まだ子供じゃないもん!」を抜く。

 限られた期間、だいたい中学生から高校生ぐらいしか使用できない武器だ。未成年という法的に見てまだ子供として扱われることを絶対的な盾として、自分が子供であることを証明する。


 「......」


 さしものミラ先生もこれには何も言うことができない。当たり前だ。なにしろ法で決まっているのだから。

 「ヒャッハー!」 

 シュインシュインシュイン!

 「...そうか君はまだ子供か」

 シュインシュインシュイン!

 「なら心が少し痛むが躾が必要だな...」

 シュインシュイン...シュイン?

 何度目かの転移を終えミラ先生の前に立った時、ミラ先生は伝家の宝刀(文字通り)を抜いていた。

 「仕方ないな」

 「何言ってるんですか俺大人ですよ高校生なんてもう大人でしょ!?」


 

 「全く、だから君は問題児だと言われるんだ」

 「申し訳ないです...」

 一通りの説教を拝聴した俺は、ぐったりしながら廊下を歩いていた。

 既に学園の案内はほとんど終わっている。残すは教室での俺のお披露目だけだ。

 と、俺の一歩先を行くミラ先生は顔を前に向けたまま聞いてきた。

 「イサミ君。君はこの学園で何をしたい?」

 唐突な問いに驚きつつも俺は答える。

 「んー、特にしたいことと言っても...。俺、こういう戦闘の技術とか教わったこと無いんで、そういうのを教わって強くなりたいですね」

 「何のために?」


 「―魔王を、討つために」


 「......」

 俺の言葉に、ミラ先生が黙った。

 魔王を討つ。そんな俺の答えは笑われてもおかしくないものだっただろう。恐らく勇者であれば全員が一度は願って―そして諦める目標だ。

 魔王ティリスの正体は未だに全く分かっていない。どんな姿でどんな力を持ち、どこにいるのか、それらは一切分かっていない。唯一分かっているとすれば、ただとてつもなく強大な敵であるということだけだ。もちろんそれも推測ではあるが、少なくとも間違いではないだろう。

 そんな敵を討つなど夢物語に等しい。実現性など皆無なまさに子供の夢だ。

 けれどミラ先生は笑わなかった。

 「...そうか。なら、その目標に向かって全力で進め。我々教師は君を助ける為の努力は惜しまないよ。」

 「はい」

 ミラ先生の言葉に、見えていないと知りつつ俺は大きく頷いた。自分自身に言い聞かせるように、それをしっかり確認するように。

 ―魔王を倒せば、少しは「答え」に近づけるのではないかと思ったことを。

 一度は諦めてしまったその願いを今度こそ忘れないように、俺は大きく息を吐いた。


 「さてそろそろ案内は終わろう。直に一時限目が終わる。二時限目は丁度私が受け持つ時間だから、そこで君の紹介だ。いいな?」

 「え、あ、はい」


 二度目の肯定は何故かすんなりいかなかった...というか挙動不審になっていた。

 だって紹介ってことは自己紹介もしなきゃないでしょ?いやそれ以前に知らない奴らと顔合わせなきゃないでしょ?そんなの無理ですよ...?

 引きこもりの一番苦手なもの、それは人付き合いである。むしろ人付き合いが苦手だから引きこもるといっても過言ではない。普段人と話さないから引きこもり、引きこもるから人と話さないというスパイラルに俺たちは生きているのだ。なんなら俺たちのことを“永久(とわ)の循環に縛られし者”とか呼んじゃってくれてもいい。何かカッコいいし。


 はあ...自己紹介とか苦手なんだよなあ。誰か代わりにやってくれないかなあ。無理か。

 先のことを考え憂鬱になりながら、俺は教室へ向かって歩いた。


 しかしそんな俺の願いは、思わぬ形で実現することになる―。

 

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