2 “魔物”と“勇者”
21世紀初頭、地球にある隕石が衝突した。いや衝突したというより着地した、という方が適切だろう。何故ならその隕石には意識があり、高度な知能と高い身体能力を持っていたからだ。その隕石改め生物は、周りに一切の衝撃を与えることなく地球に降り立った。
―魔王ティリス。地球の歴史上初めてとなる、“魔物”という存在だった。
魔物ティリスは地球を検分した後、その権能を使い、地球にある魔法を行使した。
『〈魔物跋扈〉』
魔王の力を最大に高めて行使された魔法は、瞬く間に地球を変えていった。
文字通り、地球を魔物が跋扈する環境へと変えてしまったのだ。
地から湧き、空から降り、海から押し寄せる魔物は、あっという間に地球を絶望で埋め尽くした。ティリスが魔法を行使してからの一週間で日本はその人口の1/3、約四千万人ほどが犠牲になったという。
魔物の力は強大で、何人たりともその力には抗えなかった。人と魔物にはそれほどまでの戦力差があったのだ。
しかしその戦力差はある存在によって覆される。
魔物に立ち向かう力を持った者たち、正確には魔物に立ち向かう力を得た人間が現れたのだ。
彼らは人間でありながら人間離れした身体能力を持っていた。それだけではない。魔物にも通用する武器と、異能の力“魔力”すらも彼らは持っていた。
人間の身でありながら魔物と対峙出来る力を持つ者。人々は彼らをこう呼ぶことにした。それは使い古された言葉ではあったものの、これ以上の名はないと言うほどに人々を元気づけたのだ。
―“勇者”―。
本の中でしか存在しなかったその名は後に広まり、そう呼ばれる者に少しの恥ずかしさと誇らしさを抱かせるようになった。